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第30話 開店準備始めた。突貫で。

投稿ペース上げてみました。

どれくらいこのペースが維持できるかわかりませんが、がんばっていきたいと思います。

応援よろしくお願いします。

 店舗用の建物を購入してからの毎日は、怒涛のように過ぎていった。


 なんせ、開店準備期間は一ヶ月しかない。

 寝る間も惜しんで動かないととてもじゃないが間に合わない。


 建物の清掃。家具の調達。提供するメニューの決定。食材の仕入れ。屋敷のメイドたちの接客教育。等々。


 建物の清掃と改装は屋敷のメイド達と協力して一日で終わらせた。


 時間がないので購入時のレイアウトからほとんど変更なしだ。お客さん用の椅子とテーブルを置いたくらい。

 家具は安物の椅子とテーブルを購入。座った時に多少余裕があるように少し少なめに。

 ちょっと作りが粗いけど、がたつかないからOK。とりあえず数を揃えたかったからデザインが統一できなかったけど。

 お客さんが増えてきたら少しづつ追加&統一予定。


 メニューは目玉商品としてクロケット。定番の野菜炒めとスープ。あとは日替わりとした。

 考える時間がなかったから最初はこんなもんで。これも後々増やしていかなければ。


 食材については、じゃがいもは買えるだけ買って、あとはその時に安い物を買っていくことにする。


 まず八百屋でじゃがいもとキャベツと人参、後玉ねぎを購入。

 じゃがいもが安くて助かった。お店の在庫を買い占める勢いで購入。

 クロケットは屋敷でも結構作るから、じゃがいもはいくらあっても困らない。


 次は肉屋で豚肉と牛肉を塊肉で購入。

 豚肉は小さめにカットして野菜炒めに投入する予定。これでテンプレートみたいな野菜炒めが作れる。

 牛肉っぽいのは……勢いで買っちゃったどうしよう。今日の日替わりをステーキにでもすればいいか。


 最後にパンだ。パン屋ではメニューに付ける物以外に、パン粉用に硬くなって店先に並べられなくなった物を安く仕入れた。

 普通は絶対買わないようなパンを買い取ろうとする俺達に、店員さんは怪訝そうな顔をしていたけど、お店を出す事、硬くなったパンは料理に使う事、今後も売れ残りが出たら買い取る事を伝えたら喜んで売ってくれた。普段は売れ残った分は、なんとか自分たちで消費しているらしい。

 ついでに普通のパンも毎日一定数購入する事を伝え、ざっくりと契約を交わす。

 売れ残りも俺達が買い取るから、毎日作った分を売り切る事ができるって事で、とても喜ばれた。

 Win-Winの関係って奴かな?


 どのお店でも結構な量を購入していったが、購入するたびに荷物を持った状態で物陰に移動。周囲を見回して、誰にも見られていない事を確認してから〈拡張保管庫〉に放り込む。

 いやー、ほんと便利だわ〈拡張保管庫〉。もう手放せない。

 今はまだ〈拡張保管庫〉を持ってる人間が少ないから人目を憚る必要があるけど、ある程度浸透したらそれも必要なくなるだろう。目途が付いたらどんどん売っていこう。


 メイド達の接客教育については……うん。立ち振舞いとかは特に問題ないんだ。でも……。


「ほら顔!笑顔作って!そんな顔で接客されたらお客さん怖がるから!笑顔で接客!これ大事!」


「抗議します。我々は最大級の笑顔を浮かべています」


「いやいや!全く表情筋動いてないからね!?」


 メイド達は表情を変えるのがすこぶる苦手だった。今現在、頑張って最大級の笑顔を浮かべているらしいが、頑張りすぎて目つきがヤバイ。あんな顔で接客されたらお客さんが怖がってしまう。むしろ俺ならあんな顔で接客された瞬間に店を出る。


「あーもー時間がない!とりあえず口だけでも笑顔っぽくできない!?」


「質問します。口だけ……とはどのようにすればよろしいですか?」


 頭をガシガシと掻きながらそう言うと、メイド達は揃って首を傾げた。さすが、内面が繋がってるだけあってぴったりシンクロしている。でも今求めているのは完璧に統率された動きじゃない。笑顔だ。


「こんな感じで口角を上げるの!」


 俺は指で口角を押し上げて見せる。メイド達も全員一斉に同じ動作をする。

 異様な光景だがそんな事言ってられない。


「じゃあ指外して!口の形は変えないでね!」


 恐る恐るといった様子で指を外すメイド達。…………うん。なんとか維持できているな。なんか頬のあたりがプルプルしてる気がするけど。


「……はい!じゃあこれから開店までその顔を維持!指使っちゃダメだよ?」


「…………レンちゃん」


「ん?」


 俺の隣でメイド達の接客教育を見ていたメリアさんが俺に声を掛けてきた。

 ちなみにメリアさんに対しても接客教育は実施したが、すぐ終わった。

 まあ俺が教えているのは最低限の物だからね。コミュ障じゃなければ問題ないはずなんだ。

 正直、メイド達の教育にここまで時間が掛かるとは思ってなかったよ。


「口だけでも笑顔にするっていうのは苦肉の策だと思うんだけどね?正直…………怖い」


「……あー、確かに」


 十三人の作り物めいたレベルの美人さんが、全員口角だけを不自然に上げた表情でこちらを見ている。

 確かに怖い。マネキン人形に見つめられているようだ。


「…………まあ、無表情よりはマシってことで!」


「えぇー……」


 メリアさんの何か言いたそうな顔を、俺は全力で見ない振りした。


 しょうがないじゃん!俺にはこれ以上は無理だよ!

 とりあえずこのままスタートしてみて、不評なら改めて考える。

 逃げたんじゃないよ。高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に、って奴だよ。


「って事で、みんなは自分の意思でその表情を作れるようにしてね。無理だったらその表情を長時間維持できるようにして」


「畏まりました」


 メイド達の返事に大きく頷く。


「これでよし!」


「えええええぇーー……」


 メリアさんが困惑した声を上げる。

 でもこの方向性でいく。何故かって?これ以上俺の手に負えないからだよ。


「料理が受け入れられれば大丈夫だよ!どうせ給仕の顔なんて大して見てないよ!」


「最初と言ってることが違う……」


 朝令暮改なのは俺だって分かってるさ。

 大丈夫。未来の俺がなんかいい案を提示してくれるよ。多分。


「ほとんどのお客さんは酒飲んで酔っ払って…………あ!?」


「こ、今度は何!?」


「酒の仕入れ忘れてた!行ってくる!」


 会話の流れで思い出した。

 いくら食事がメインの店だからって、酒が全くないのはさすがに駄目だろう。

 ファミレスにだって酒はあったんだ。異世界の、しかもならず者が利用するであろうお店に酒がないとかあり得ない。

 とりあえずなんでもいいから買ってこようと思い、走りだそうとした所で、メリアさんに全力で止められた。


「いやいや!さすがにレンちゃんには売ってくれないよ!?私が行くから!」


 ……自分の姿が幼女だってことをすっかり忘れてたわ。さすがにこんなちっちゃい子供に酒は売ってくれないか。

 メイド達は街の事には詳しくないだろうし、メリアさんが適任だろう。


「じゃあよろしく!なんか適当に買ってきて!」


「指示が雑!?でもわかった。酒場で出るようなお酒を適当に見繕ってくるね!」


「よろしく!あ、そうだ!ジュースもお願い!」


「増えた!?」


 酒屋に向かって走りだしたメリアさんの背中に声を掛ける。さて次は何をしようかと考えながら振り向くと、歪な笑顔を振りまくメイド達の視線を一身に浴びて悲鳴を上げそうになってしまった。


 そんな開店三日前。


 ……


 …………


 ………………


 次の日、俺は屋敷の厨房にいた。用事があると言って呼んだのでメリアさんも一緒だ。


「これから店で出す料理を作ります」


「え?………………試作でもするの?」


「いや、実際にお客さんに提供するための料理を作るよ」


 俺の言葉にメリアさんが目を見開いた。

 そんなに驚く事を言っただろうか?


「いやいやいや!おかしいでしょ!開店は明後日だよ!?今から作るのは早すぎるでしょ!」


 メリアさんが首を横に振りながらそんな事を言った。


「でもさ、お店の厨房、ちっちゃいじゃん?」


 そう、お店の厨房は小さい。

 元々が娼館で大量の料理を作る必要がなかったんだからしょうがないだろう。

 料理を提供するお店で料理を作る厨房のスペースが小さいなんて、常識的に考えてあり得ないと思うが、一応考えがあっての事だ。


「それはレンちゃんが『この大きさで問題ない』って言ったからだよ!?」


「うん。だから今ここで作るんだよ」


「いやだから!確かにここで作ればお店の厨房が小さくも関係ないけど!開店した頃には料理冷めちゃうじゃない!?」


「冷めないよ?」


「………………はい?」


「だから、冷めないよ?」


「………………なんで?」


「あれ?説明してなかったっけ?〈拡張保管庫〉に入れておけば大丈夫なんだよ」


 言いながらコートのポケット――――〈拡張保管庫〉をポンポンと叩く。


「……いやそこに沢山入るのは知ってるけど」


「実は俺も最近気付いたんだけどね?ここの中、時間が止まってるみたいなんだよね」


 気付いたのは偶然だった。なんとなくポケットの中を整理していたら何故か草が出て来た。

 はてこんな物いつ入れたかな?と記憶を遡ってみると、十日ほど前に冒険者組合で受けた薬草採取依頼の余りだと分かった。

 そこでさらに俺は首を傾げた。十日前の薬草の割には瑞々しい。というかまるで採りたてだ。

 もしかして、と思い、【熱量操作】で作ったお湯を適当な入れ物に入れてから、〈拡張保管庫〉に入れた。

 で、次の日に取り出してみると、入れ物の中のお湯は全く冷めた様子がなく、熱々だった。

 念のため、今度は氷を作って同じように〈拡張保管庫〉に突っ込んで、翌日取り出してみた。

 氷は全く溶けた形跡がなかった。


「――――ってことがあって分かったんだ」


 俺の説明を黙って聞いていたメリアさんは、大きくため息をついて、


「なんていうか、レンちゃんおかしいよね」


 直球でディスられた。


「ひどくね!?」


「いやだって、見た目の何倍も物が入って重さも感じない。おまけに中に入れた物の時間が止まるなんて、詐欺だよ」


 確かに〈拡張保管庫〉はすごい。メリアさんの言った通り、大量に物を格納できて、しかも格納した物の重量は影響しない。

 それだけでも十分すごいのに、さらには中に入れた物の時間経過が止まるなんて便利すぎる。


 だが、だからこそ俺は一言モノ申したい。


「それは俺がおかしいんじゃなくて〈拡張保管庫〉がすごいだけじゃん!」


「そんなすごい物を代償なくポンポン作れて、販売までできるレンちゃんがおかしくないと?」


「うぐぅ…………」


 なんだかメリアさんの言葉が刺々しい気がする。いや、呆れてるだけなのか?分からん。

 分からないから…………逃げる事にした。

 話題を変えて逃げるのだ!


「と、とりあえず、そういうわけだから、どんどん作るよ!」


「……………………はあ」


 またため息つかれた。


「レンちゃんが滅茶苦茶なのは今に始まった事じゃないし、しょうがないね」


「そう思われてた事が割りとショックだわ……」


「そう思われてないと思ってた事に私はびっくりだよ……」


 そんな事がありつつも、今料理を作っても問題ない、という事を理解してもらったので、二人でどんどん料理を作っていく。

 特にクロケットは大量に。目玉料理だし。

 最初は俺しか作れなかったクロケットだが、今ではメリアさんも完璧にレシピを覚えている。


 メイド達がクロケットをとても気に入ったらしく、毎日のようにクロケットを要望され、そのたびにかなりの量を作っていた。作る量が多すぎて空いた時間は全てクロケット作りに追われる始末だった。

 だがそんな俺を見かねてメリアさんがクロケット作りを積極的に手伝ってくれるようになり、元々難しい料理でも無かったのもあり、今では一人でも完璧にクロケットを作る事ができるようになっていた。

 というか、俺と合わせてクロケット作りの職人みたくなっていた。


 二人に作ったクロケットを【魔力固定】で作った大皿にどんどん積み上げていく。あっという間にクロケットの山ができた。

 さすが、二人のクロケット職人が作ると早い。

 ……見ているだけで胸やけしそう。


「さっさとしまうか……ほっ!……よっ!」


 ………………皿が重すぎて持ち上がらない。


「………………おねーちゃん、手伝って」


「手伝うのはいいけどさ、レンちゃんが一人で持てる量じゃないと、取り出す時困るんじゃない?」


「………………ソウデスネ」


 仰る通りでございます。

 素直に二周りほど小さい皿を作り、そこにクロケットを乗せ換えてから改めて持ち上げる。……うん、このくらいの重さならなんとか持ちあがるな。

 クロケットの載った皿をコートの〈拡張保管庫〉に近づける。サイズ的には絶対入らないはずなのに、スルッと入る。相変わらず不思議だ。

 最終的に大皿山盛りのクロケットはちょっと小さめの皿五枚に分割され〈拡張保管庫〉に収められた。


「よし、クロケットはこんなもんでいいかな?あとは炒め物とスープだね」


「そっかー。まだクロケットしか作ってないもんねー……。料理だけで一日終わっちゃうんじゃないかなあ……」


「いや、さすがにそれはないんじゃないかな……多分」


 メリアさんの予想は見事に的中し、料理を作り終わった頃には日がとっぷりと暮れていた。

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