第3話 【能力】を使ってみたら聞いてたのとなんか違った。
夜。メリアさんが寝たのを見計らって、【能力】の確認のため、洞窟の外に出た。
一人で外に出るのはちょっと怖かったが、メリアさんから洞窟近辺は安全だと聞いたので、思い切って出てみた。
わざわざ夜中に外に出たのには一応理由がある。
メリアさんに【能力】を隠すつもりは別にないのだが、一緒にいると落ち着いて確認できないと思ったからだ。
ちょっと【能力】を使用するたびに『すごいすごーい!』とか言って抱きつき→頭ワシャワシャのコンボがさく裂するであろうことが想像に難くない。
褒められる事が嫌な気分はしないし嬉しいのだが、初めて使用するものだし、しっかりと使用感を確認しておきたい。
「さて。それじゃ、まずは【冷却】かな?」
女神様の説明だと、触れた物を冷やすことができるんだっけか。そこらへんの石で試してみるかな。
近場に落ちていた手の平サイズの石を拾って右手に取った。いざ確認! といったところで、いきなり大きな問題に直面した。
「使い方がわかんねえ……」
女神様からは【能力】の効果は聞いたが、使い方は聞いてなかった。
と、とりあえず、思いつく方法を順番やってみるか。まずは……。
「【冷却】」
声に出してみた。これが一番可能性高そうかな? って思ったんだ。
なんとなく変な感じがして眉を顰めた。なにかが流れ込んでくる感じがする。
「ん? ……うわ! 冷た!」
はてなんだろう? と考えていると、石を持った手がいきなり冷たくなったので、慌てて石を捨てた。
落とした石をまじまじと眺めてみる。見た目に変化はない。
おそるおそる触ってみると、
「冷たい……」
いきなり成功してしまった。
「ほんとに冷たくなってる。すげー……。どういう原理なんだろ?」
石はしっかり冷えていた。【能力】は使用できた……んだけどさあ。
「いちいち声に出すのも面倒だし、思ったより冷えないな……」
確かに【冷却】によって石を冷やすことはできたが、冷え方が微妙だ。
長時間持っているのは辛いが、所詮その程度。零度前後くらいだろう。
まあ、触れていないと冷やす事が出来ないのに、これ以上温度が下がってしまったらそれはそれで困る。
手に張りついちゃう。
「さすが、女神様がお情けをくれるくらい微妙な【能力】だなあ……。ま、気を取り直して色々試してみよう」
近くに落ちていた別の石を拾い、また【冷却】を使用する。でも今度は声には出さない。心の中で【能力】名をつぶやいてみた。
「んー? ……お、使えるな。い痛て!」
声に出さなくても【能力】は使えるようだ。これはいいことを知った。冷え具合も声に出した時と変わらなさそうだ。
おかげで軽い霜焼けになった。
「それにしても、【冷却】を使う時、なんか変な感じがするんだよな……。体もちょっとおかしい気がするし……」
【冷却】を使用した時、なんか『モヤッ』とした感じがする。うまく言葉にできなくてすこぶる気持ち悪いが、今のところ、そうとしか言えない。フィーリングってやつだ。違ったかな?
体調もちょっとおかしくなった気がする。なんか熱っぽい。
風邪でも引いたかと思ったが、おそらく違うだろう。
「タイミング的にも、【能力】のせいだよなあ」
もう一回試してみる。先ほどと同じく、【能力】名は心の中で。そして今度は自分の体の変化を見逃さないように、しっかり意識を向けてみる。
「……お? おお? なんか流れ込んできてる……?」
【冷却】を使用し、石が冷えていくにつれ、なにかが俺の体に流れて来る感覚がある。
その【なにか】が流れ込んでくるほど体の熱っぽさは増していくようだ。体の中に【なにか】が溜まっているのを感じる。
「なんだこれ……。いやまてよ……」
元の世界での知識を思い出してみよう。
『冷える』とはどのような過程で起こるか?
色々あった気がするが、基本的には『熱量が奪われる』事が原因じゃなかったか?
それが正しいなら、俺の体に溜まっている【なにか】は【熱】ってことになる。
確かに、それなら俺の体に起きている変調も説明がつく。そりゃ熱が体に溜まってれば体も熱っぽくなりますよ。
だが、この説が正しいとなると、新たな問題が発生する。
「使用制限があることになるじゃんかよ……」
体に熱が溜まっていいことがあるはずがない。
そこらへんに落ちてた石ころ三個を冷やしただけで体が熱っぽく感じるほどだ。
もっと大きいもの、たとえば人間の体くらいのサイズのものを冷やせば。
「内側からローストってか? 笑えねー」
というか、石ころ三個に俺の体に変調をきたすほどの熱があるとは思えないんだが……。まあ、そこは異世界クオリティってことなんだろう。
さすがに石ころ数個しか冷やせない【能力】とかゴミにもほどがあるので、もうちょっと考えてみよう。
「……溜まった熱って外に出せないかな?」
吸い上げる事ができたんだ、吐き出せてもおかしくない。というか吐き出せないと困る。
さっそく試してみる。
新しい石を拾って、目を閉じる。
【冷却】の時とは逆に、体の中に溜まっているものを石に流していく感じで……。
「……熱っつ!?」
さっきまでとは逆に、あまりの熱さに慌てて石を捨てた。
できた。体に溜まっていた熱を石に流してみたら、石が熱くなった。
体の熱っぽさもなくなった。体の中に意識を向けてみても、なにかが溜まっている感じはしない。
これで一つわかった。それは、
「この【能力】、【冷却】じゃないじゃん……」
ということだ。
あの女神、いや女神様は、人に渡す【能力】を把握すらしてなかったってことか?
いやでも、自分で見れるウィンドウにも【冷却】って書いてあったよな……。
確認のためウィンドウを開いてみた。すると
-----------------------------------------
【名前】 レン
【能力】 熱量操作、魔法適性(無)、金属操作
-----------------------------------------
…………
【能力】、変わってんじゃん。
元々【冷却】だったじゃん、なんだよ【熱量操作】って。
これ、【能力】の効果が名前の通りだとすると、やばくね?
これ多分、触れた物の熱量を自由にできるってことだろ?
ゴミ【能力】が一瞬にしてチート【能力】に早変わりなんだけど。
……。
ま、まあ今日は【能力】の使い勝手の軽い確認ってことで。ハハハ。深く考えるのはやめだやめ!
よし、次行こう次。
「次はー、【魔法適正(無)】か」
今のところ分かってる無属性魔法は【身体強化】と【魔力固定】か。
これもとりあえず使用方法を順番に試していこう。
「【身体強化】」
声に出した瞬間に全身から白っぽいなにかがボワっと出てきた。
「おおー! すげえー! この白っぽいのが魔力なのかな?」
某野菜星人みたいだ。かっこいい。
見た目がかっこいいだけじゃなく、なんか体が軽くなった気がするし、力が漲るな。これが【身体強化】の効果かな?
それじゃ、どんくらい強化されてるか確認してみるとしますか。
「それじゃ、まずはっと」
手ごろなサイズの石を持ってみて、握りしめてみる。
バキャ
手の中の石が粉砕された。
「……は?」
まだ全然力入れてないんだけど。軽く握ってみただけなんだけど。
俺握ったの豆腐かなんかだったの?
「……強化されすぎじゃね?」
強化され具合にどん引きしつつ、他も色々試してみた。結果。
「これ、やばいわ……」
軽くジャンプしただけで五メートルは飛び上がったし、指先で軽く突いただけで木に穴が開いた。
木や岩に衝突するのが怖くて走ることはしなかったけど、尋常じゃない速度が出ることは想像に難くない。
「こんなもんを魔力を操れれば誰でも使えるとか。異世界こわいわー……。」
【身体強化】を使った人同士のバトルとか、目で追う事もできなさそうだ。
戦闘シーンを想像してしまい、俺はブルリと震えた。
なお、【身体強化】も【熱量操作】同様、声に出さないでも発動できることが分かった。
魔法を解除したい時は『解除』と念じればOKらしい。
「持続時間とかも確認したいけど、それはまた今度にしよっと。よし次。じゃんじゃん行こう」
次の【能力】は【魔力固定】だ。
例のごとく、【能力】名を口に出してみた。
すると、体の中からなにかが引き出される感覚があった。【熱量操作】で石を加熱した時も体から引き出される感覚はあったが、今回は別のモノのようだ。なんとなく感じが違う。
引き出されるままにしていると、目の前の空間に白っぽいモノが発生した。
直径四~五十センチほどのそれは、その場でしばらくぐにゃぐにゃ動いていたが、何が起こるでもなく、そのまま地面に落ちた。
べちゃ、というちょっと水っぽい音と共に。
「……なにこれ」
まあ、【魔力固定】を使ったんだし、魔力で生成されたものなんだろう。
でも、なに……こう…………なに?
「想像と全然違うんだけど……」
確かに、何か作ろうと考えた訳でもなく、ただ【能力】を使ってみただけだが、まさかこんな不可思議な物体が生まれるとは。
「あー……。なにか作ろうと考えてなかったからこうなった……のか?」
試しにもう一度【魔力固定】を使用してみよう。今度は何を作るかちゃんとイメージして。
「んー……じゃあ剣でも作ってみるか……。【魔力固定】」
作成のイメージは剣だ。何故か洞窟の中で端っこの方に抜き身のまま転がっているのがある。それを複製する。
長さは1メートルないくらい。剣身はまっすぐで両刃だった。柄には特に細工もなく、とてもシンプルなものだ。
いかにも〈ソード〉って感じ。
さっきと同様、体からなにか、おそらく魔力が引き出される感覚。それと共に、目の前に白い塊が発生した。
さっきはそのまま地面に落ちたが、今回は違った。
不定形だった塊が徐々に形を整えていき、最終的にはイメージした通りの剣がそこにあった。
完成した途端、剣は地面に落ち、カラン、と乾いた音を立てた。
「おおー……ちゃんと硬くなってるんだなあ。どれ……え?」
試しに生成した剣を持ってみて驚いた。
軽い。めっちゃ軽い。というか軽いなんてもんじゃない。
まったく重量を感じない。
手には剣の感触はしっかりとあるのに、重さを感じない。なんとも不思議な感じだ。
ブンブン振ってみる。変わらず何も感じない。空想の剣を振ってるみたいだ。
「へー……あ!」
軽すぎて勢い余って地面にぶつけてしまった。
パキーンという音と共に剣が真っ二つになった。ちなみに地面はただの土だ。
【能力】で作成した剣は、ガラスみたいな強度だった。
「脆すぎだろ……こんなん使えねえよ……」
少なくとも【魔力固定】で剣や鎧を作成して装備する、というのは現実的じゃなさそうだな。
「使い道については今度考えよう……解除っと」
【魔力固定】を解除すると、作成した二つ、白い塊と折れた剣は形を失い、白いもやになった。
もやは俺の体に吸い込まれ、消えた。
「ほえー、解除したら使った魔力?は戻ってくるのか……エコだねえ」
二回の【魔力固定】で体から引き出された分は、今のもやを吸収したことで元に戻ったらしい。
戻ってこなくても大して減った感じはしていなかったが。
「使い道はまた今度考えよう……。最後はー、【金属操作】、だっけ? こんな【能力】もらった記憶ないんだけどなあ」
この世界に来る前、女神様と会った時の事を思い返してみるが、【金属操作】なんて【能力】の話を聞いた覚えはない。
「ってーか、こういう【能力】の前に渡すものがあっただろ絶対……。言葉を理解できるようになる【能力】とかさ……いまさらだけど……」
メリアさんに教わったので、今となってはこの世界の言葉は大体理解できる。いまさら言葉を理解できるようになる【能力】なぞもらっても恩恵は少ないだろう。
「ま、もらったもんにケチ付けるのはお門違いだな。んじゃ、試してみましょうかねーっと」
洞窟の入り口に向かい、中から持ち出していたものを手に取る。横面にぽっかりと穴の開いた小ぶりの鍋だ。
数日前、夕食の準備中にいきなりメリアが『あ!』っと声をあげた事があった。
その時俺は、ちょっと離れた場所で特になにをするでもなくボーっとしていたのだが、声につられて見に行ってみた。そこで目にしたのは、『あちゃー』って顔のメリアと、その手に持ったこの鍋だった、という訳だ。その鍋で夕食用のシチューを作成していたので、その日の夕食は普段よりちょっと少なかったという、ちょっぴり悲しい思い出だ。
「名前からいって金属をいじれる【能力】だよな……、この穴塞げるといいんだけどなー。【金属操作】」
【金属操作】を発動した途端、穴の周囲が蠢いた。
「お? お、お、おぉ~!」
見る間に穴のサイズがどんどん小さくなっていき、最終的には完全に塞がった。
指先で軽くつついてみるが、しっかりと金属の硬い感触が伝わってくる。
「こりゃすげえ……。便利なもんだなあ」
これまた色々な使い方ができそうだ。楽しくなってきた。
「とりあえず、一通り確認は終わったな。あとはそれぞれの【能力】の深堀りだけど……。ふわぁぁ~」
大きなあくびが出てしまった。気づけば結構な時間が経っていたようだ。空が少し明るくなってきている。
「ねむ……。今日はここまでにして、明日からまたがんばろうっと……」
ショボショボする目をこすりつつ、俺は洞窟の中に戻った。
翌日、メリアさんに穴の塞がった鍋について質問責めにあったが、その時俺は寝ぼけていたので『なんかいじってたら直ったの』とか適当な事を言ってしまった。
今度ちゃんと説明しよう……。