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第25話 商売の準備を始めた。その2

「……売ってくれるのか?金額は?」


 今回はちゃんと聞こえたみたいだ、良かった。

 んー、でも、金額ねー……


「それはどれくらいの容量の物が欲しいかによるね」


「指定できるのか!?」


「うん。見た目も指定できるよ」


「見た目も!?」


 普通〈拡張保管庫〉は完成品を購入する形だから、容量や見た目を指定することはできないらしい。

 容量については、冒険時に持ち運べる荷物量に直結するので、根気強く自分たちが必要な容量の物が出回るのを待つが、見た目はあまり考慮しない。ぶっちゃけ多少不格好だろうが、自分たちが要求する容量を満たしていれば問題ないからだ。

 不格好だからと購入を見送ったら、次にいつ同程度の容量の物が出回るか全くの未知数だ。

 だから見た目が悪かろうが買う。

 だが、可能であれば、気に入った見た目の物が欲しいと思うのは誰だって一緒だ。そこに俺は商機を見た。

【魔力固定】で作成すれば、見た目も思うままだし、容量だって好きに決められる。

 作成期間もそこまでかからないので、要望を受けてから作成を開始しても問題ないと考えた。


「だが正直、今の俺達に〈拡張保管庫〉を購入するだけの金はないんだよな……」


「どれくらいの容量のが欲しくて、それの相場はどれくらい?」


「そうだなあ……でかけりゃでかいほどいいのは確かなんだが……一軒家くらいの容量があるといいな。相場は……大金貨三百枚くらいか?」


 そりゃまたでかい。そして高い!さすがに盛りすぎじゃない?


「そんくらいはするだろうなあ」


「とても手が出ませんね……」


 ジャンの提示した金額にレーメスとキースも同意した。

 まじか……相場でそんなにすんのか…………。そりゃ確かにポンと買える金額じゃないな……。

 まあ、さすがにここまでとは思わなかったけど、それに対する解決策も考えてあるから問題はない。


「ふむ…………なら、こういう支払方法はどう?」


 説明したのは分割払い。支払いは半年に一回か一年に一回を選択し、最大十回払いまで。分割による利子はないが、手数料として購入金額に一割上乗せする。今回の場合は相場は大金貨三百枚なので、大金貨三百三十枚として考える。もちろん、繰越返済も可能とした。


「…………なるほど。一回の支払いを大金貨三十三枚まで落とせるのか。その代わり最長で十年間支払い続ける必要があると」


 この世界には存在しないであろう支払い方法だが、思いのほかすんなり理解してくれたみたいだ。


「そういうこと」


「いやいや。最初の一回だけ支払ってトンズラされたらどうすんだよ。信用しすぎだっつーの」


 言われると思った。

 もちろんそれくらいの事は想定している。


「問題ないよ。こっちの手元から離れてても、遠隔操作で破壊できるから。最初に取り決めた期限までに支払いをしなかった場合は問答無用で破壊する。もちろん返金もしない」


「そんな事までできるのかよ…………」


 もちろん最初からできたわけじゃない。

 毎日毎日コツコツと【魔力固定】を使い続け、精度を上げる事でやっとできるようになった。

 テストしてみた所、屋敷からイースの街の反対側の端までの距離は余裕で操作できた。

 それ以上は試せていないが、おそらく問題ないだろう。

 ダメだったらその時はその時だ。〈拡張保管庫〉の販売を取りやめて別の商売を探すさ。


「まあね。あと、転売されるのも嫌だから、使用者を登録して、登録者以外には使用できないようにするよ」


「随分細かく考えてるんだな……。つーか、そんな事ができるなんて初めて聞いたわ…………。なあ、それ、俺達に売る為だけに考えた訳じゃねえだろ」


 ジャンの声が苛立っている。その理由は分かっている。


「ばれた?俺達、商売を始めようと思うんだ。その商品の一つを〈拡張保管庫〉にしようと――――」

「馬鹿野郎!」


 俺の言葉に被せるようにジャンに怒鳴られた。


「前に言っただろうが!お前みたいなガキが、尋常じゃない容量の〈拡張保管庫〉を持ってるってばれただけでも命に関わるんだぞ!?それを売る?しかも商売にできるほどの量を?命がいくつ合っても足りねえぞ!」


 怒った理由はやっぱりそれだよな。分かってたさ。でも俺は立ち止まらない。立ち止まりたくない。

 まあ危険なのは違いないし、俺は自殺志願者じゃない。安全策くらい考えてる。


「俺は結界魔法が使えるんだ。それを常時展開してるから、襲撃とかをされても大丈夫だよ。多分」


「それでも!」

「それに――」


 さらに反論をしようとするジャンの言葉を遮るように言葉を重ねる。

 さっきまではヘラヘラと笑っていたが、表情を引き締める。

 俺が伊達や酔狂でこんな事を始めようと考えた訳ではない事を少しでも理解してもらう為に。


「俺には絶対に成し遂げなくちゃいけない目的がある。それの達成には情報が必要なんだ。最初は、高レベルの冒険者になればいいと思ってた。でも高レベル冒険者になるのには時間がかかりすぎるんだ。俺は一日でも早く、成し遂げなくちゃいけないんだ」


「…………」


 俺が本気だということが伝わったのか、ジャンは沈黙した。不本意ながら納得してくれたようだ。

 本当に不本意なようで、顔が怖いけど。


「心配してくれてありがとう。危険だって事は俺も分かってるよ。だから安全策も考えてる。この話をジャン達に最初に持ってきたのもその一つだよ」


「あ?どういうことだ?」


 怖い顔のままジャンが質問してきた。

 俺は安心させる為に笑顔を作り、説明を行う。


「ジャン達には広告塔と選別をしてもらいたいんだ。ジャン達は俺が売った〈拡張保管庫〉を持って冒険者稼業をする。そうしたらほぼ確実に、どこで、どうやって手に入れたのか聞かれるよね?で、ジャン達から見て、『こいつなら大丈夫だ』って人を選別して、俺に教えてほしいんだ」


「そこでしっかりと選別してくれれば、危険は大分減るよ。ね?」


 我ながら卑怯なやり方だと思う。遠まわしに『俺達を危険な目に合わせたくなかったら、しっかりと選別しろ』と言っているようなものだ。

 でもおそらく、ジャンにはこの方が効く。


「あーくそ!分かったよ!やりゃあいいんだろやりゃあよ!文句言うんじゃねえぞ!?」


 ほらね。

 ジャン達なら大丈夫。かなり注意深く選定をしてくれるだろう。だからこそ軽い調子で俺は答える。


「だいじょーぶだいじょーぶ。俺、ジャン達の事信じてるから」


「だー!くそったれが!俺達の〈拡張保管庫〉については今日中に決めとくから、また明日来い!」


 ジャンは『シッシッ』と手で追い払うような仕草をして、俺達を部屋から追い出そうとしてきた。

 とりあえず、ここでやるべき事はやった。ジャンが口にした通り、また明日来ることにして、素直に部屋を出よう。


「りょーかい。そんじゃ、明日もこんくらいの時間に来るねー」


 俺は手をヒラヒラと振りながら部屋から出た。メリアさんも俺に続いて部屋を出る。


 予定一つ目完了。次に行こう。





 次に来たのは、エリーさんと親父さんの武器屋。


「……今度はここ?」


「うん。まあ今回は、商売になるかの確認って感じだけどね?」


 話しながら店に入る。相変わらず沢山の武器や防具、服などが並べてある。当たり前だけど。

 今回は買い物が主目的ではないので、真っすぐカウンターに向かう。

 カウンターにはエリーさんが暇そうに頬杖を突いていた。

 ……なんか『物憂げな貴婦人』とかそんな感じの名前の絵画みたいなんだけど。ここ武器屋なのに。

 相変わらず、武器屋らしからぬお人だ……。


「こんにちわー!」


「いらっしゃい……あら!レンちゃんとメリアさんじゃない!久しぶりねぇ!何か入用?ジャンは一緒じゃないの?」


 来店したのが俺達だと気づくと、エリーさんはパッと顔を輝かせた。

 すみません。一応買う予定はあるんだけど、今回はそっちメインじゃないんです。


「今日は俺達だけだよ。ちょっとお話というか、相談したい事があるんだけど、親父さんいる?」


「あら、あの人に用事?ちょっと待ってね。今呼んでくるから」


 エリーさんはそう言って店の奥に消えていった。

 店内を散策しながら待つこと暫し。親父さんが店の奥から姿を現した。


「おう。ジャンと来たガキンチョじゃねえか。なんか用か?」


「うん。まず、これを見てもらえるかな」


 俺は〈拡張保管庫〉からある物を取り出して、カウンターの上に置いた。


「あん?このインゴットがどうし…………はあ!?」


「これ、何か分かる?」


「こりゃあ、〈ゴード鉱〉じゃねえか!なんでインゴットの形に……まさか」


 一目で判断できるのか。さすがは日常的に金属を扱っている鍛冶師だな。

 そう、カウンターに置いたのは〈ゴード鉱〉。しかもきれいに成型した物だ。


「そう。俺、〈ゴード鉱〉を加工できる人とコンタクトが取れるんだ」


 俺が加工した、とは言わない。

 今まで誰一人として実行できなかった〈ゴード鉱〉の加工。それが可能な人物が現れたとなったら大ごとだ。

 お金は欲しいけど、できるだけ危険は犯したくない。それ故の隠蔽。

 どこまで保つからわからないけど。

 驚きの余り固まっている親父さんを放っておいて、〈ゴード鉱〉のインゴットに隣に追加でカウンターにインゴットを二つ並べる。


「これは何かわかる?」


 〈ゴード鉱〉のインゴットの隣に置いた物は、隣の物より、少し銀色がかっており、さらにその隣に置いたものはさらに銀色が強く出ている。


 俺の問いかけで再起動した親父さんは追加で置いたインゴットを持ち上げ、コンコンと軽く叩いたり、さまざまな角度から眺めたりし、見当がついたらしく大きく目を見開いた。


「おいおいおいおい……まじかよ。これ、合金か?」


「さすがだね。そう、〈ゴード鉱〉と鉄の合金だよ。それぞれ〈ゴード鉱〉と鉄の比率が1:0、1:1、1:2だね」


 一応、最初に出したインゴットも含め、指さしながら比率を伝えていく。

 わざわざ比率の違う合金を出したのにはもちろん意味がある。

 ほぼ確実に親父さんは食いつく。というか鍛冶師なら誰でも食いつく。食いつかない方がおかしい。


「親父さんにはこれを使って武器を作ってもらいたいんだ」


 それは、過去誰も成しえなかったであろう〈ゴード鉱〉製の武器の製造。


「それは俺としては願ってもない事だが……正直な話、できるかわからねえぞ?」


 口では慎重な事を言っているが『早くこれで武器を作ってみたい』と顔に書いてある。

 親父さんは依然『いつか〈ゴード鉱〉で武器を作ってみたい』と言っていた。

 合金とはいえ、それを叶える事ができるかもしれない素材が目の前にあるんだ。燃えない方がおかしい。


「大丈夫。可能かどうかの確認も込みでの依頼だから。インゴット一個につき一つ、武器を作ってみて。混ぜないでね?比率毎の製造難易度も確認したいから。まあ、サイズ的にナイフくらいしか作れないと思うから物足りないかもしれないけど。……で、何日でいけるかな?」


「…………三日くれ。それだけあれば最悪、可能かどうかの判断はできる」


 想像よりかなり早いな。一週間くらいはかかると思ってたんだけど。

 早い分には有難いからいいけどね。


「分かった。じゃあ三日後にまた来るね。合金じゃない奴は回収しとくね。……あ、あと」


「なんだ?まだなんかあるのか?」


 親父さんがすごいソワソワしてる。一秒でも早く渡した合金で鍛冶をしたいんだろうな。

 両手で大事そうにインゴットを抱えてるし。

 でもだからと言ってこのまま店を出る訳にはいかない。今から親父さんに依頼する事は、俺にとって割と重要なんだ。


「うん。〈ゴード鉱〉と鉄、売って?」


 ……


 …………


 今回購入した〈ゴード鉱〉製の武器も槌だった。

 まあ、採掘されたままの形でしか使えないんだったら槌くらいしか作れないか。


 何故また〈ゴード鉱〉を購入したかと言うと、単純に在庫がなくなってしまったからだ。

 今回預けたインゴットを作るのに、俺の武器だった棒に使っていた〈ゴード鉱〉を使った。使い切った。

 今回〈ゴード鉱〉を手に入れられなかったら、俺の武器は、回収したインゴットだけでで再作成しなければならず、警棒サイズになってしまう所だった。無事に買えてよかったよ。


 冒険に出る事は大分減ると思うから武器を使う頻度は高くないんだけど、護身用として持っておきたいしね。


 鉄は、打ち損じた剣やら鎧やらを格安で譲ってもらえた。

 鉄も結構大量に使う予定があるから非常に助かる。

 まあ、なんだかんだ言って結構な量を買ったから、懐がかなり寂しくなっちゃったけどね!


 とりあえず、これで予定二つ目完了だ。今日の所は次で最後かな?サクサク行こう!

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