第24話 商売の準備を始めた。その1
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「というわけで、商売を始めてみようと思います」
メイドさん達に大好評(?)だった夕食後、メリアさんと寝室に入り、ベッドに腰掛けた俺はそう宣言した。
ちなみにベッドは無駄にキングサイズだ。でかすぎる。横向きでも寝れるよ。
「いや、何が『というわけで』なのかさっぱりわからないから、一から説明して?」
メリアさんは俺の隣に腰掛け、とても自然に俺を膝の上に乗せてそう言った。
同時に頭の撫で撫でされる。気持ちいい。
「元々構想はあったんだよ。俺、冒険者が性に合ってないみたいだし」
「討伐系?」
足をパタパタさせながら答えると、メリアさんは間髪入れずに聞いてきた。
まあばれるよね。討伐するたびに吐いてたくらいだもん。
「うん。さすがに多少は慣れてきたけど。やっぱきついんだよね」
今までは冒険者レベルを上げる為に我慢してきた。
確かに慣れてきてはいる。事実、討伐した後に吐く事は大分減ったし、悪夢を見て夜中に飛び起きる事も減ってきた。
それが怖い。
『殺し』に慣れてきてしまっている自分が恐ろしくて、気持ち悪い。
これ以上先に進むと戻ってこれない。そんな気がしている。
「そんな気はしてた。討伐するとき、レンちゃん、辛そうだったもん」
「うん。正直結構辛い。そのせいもあってレベルが全然上がらないから、おねーちゃんの体質改善の方法を探すのに時間が掛かりすぎる。俺から冒険者になりたい!って言っといて申し訳ないんだけど……」
冒険者になってそれなりに時間が経ち、そこそこの頻度で依頼も受けていってはいるが、俺もメリアさんも冒険者レベルは全く上がっていない。
受けている依頼がほとんど採集系だからだ。
討伐系依頼は受けたくないけど、一定数は受けないと冒険者レベルが上がらない。
冒険者レベルが上がらないと、依頼で未踏の遺跡やダンジョンに入るなんて不可能。
つまりそういった場所でのメリアさんの体質に関する情報は不可能。
少しづつでも討伐系依頼を受けていけばいつか冒険者レベルは上がるだろう。
だがそれだと、言った通り時間が掛かりすぎる。
「そこは気にしなくてもいいんだけど……レンちゃんに対処してもらえてるから特に問題ない訳だし」
「ヤダ」
「ぇー…………」
なんかメリアさんが言い出したので速攻で否定してやった。
メリアさんには普通の生活をしてもらいたいんだ。
俺の【能力】による補助がないと人の輪に入ることができず、誰も寄り付かないような場所で独りぼっちに暮らす生活に逆戻り、なんて絶対許さない。
メリアさんが許してくれる限り一緒に居たいとは思うけど、それとこれとは話が別。
「そこは譲らないよ。で、商売を始めれば、色んな人から情報を手に入れられると思った訳。前に〈拡張保管庫〉が高値で売れるって聞いて、商売ができるんじゃないかと考えてはいたんだよ。それと……」
「…………それと?」
「ルナたちが思いのほか良く食べるので、食材の減りが想定より早い…………」
「あぁー……」
無表情ながら、美味しそうに食べてくれるのは嬉しいんだけど、まさか一人当たりコロッケを五個も食べるとは思わなかった。シチューと炒め物もお代わりしてたし。
日持ちする物を選んで、かつ予算の許す限り大量に購入したから多少は持つとは思うけど、当初の想定よりかなり早くなくなりそうだ。
「という訳で、早めに金策に走らないといけないんだ。でも問題もあってね?」
「問題?」
高く売れるならいいじゃん、問題なんてあるの?とでも言わんばかりの様子のメリアさんを見て、俺は横に振った。
「価格が高すぎるって事だね。価格が高すぎて、頻繁に売れるタイプの商品じゃない。一個売れればかなりの稼ぎになるけど、次に売れるまでどれだけ期間が開くか不明瞭で、安定性に欠ける。売れない期間が長く続いちゃうと、次が売れる前に干からびちゃうよね」
「あー!なるほどー!」
理解してくれたようで大きく頷いたメリアさんを見ながら、説明を続けていく。
「で、利益が低くても安定して売れる商品がないかって考えてたんだけど、今日の夕食の様子を見てこれだ!って思ったんだ」
「あー、レンちゃんの作った……クロケット、だっけ?あれ美味しかったよねえ」
コロッケの味の思い出したのか、うっとりとしているメリアさんに微笑ましい物を感じる。
「なんとなくおねーちゃんは気付いてると思うけど、あれ、前の世界の料理なんだよね。で、他の料理の知識も多少あるから、それを目玉にした食堂を作ればそこそこ売れるんじゃないかと。それ以外は、おねーちゃんの料理でいけそうだと思うんだ」
そこでメリアさんは目を大きく見開いた。俺の言った事が余程予想外だったらしい。
この世界で暮らし始めて分かった事がある。
この世界では『揚げる』という料理法が存在しないか、一般的ではない。
なので、揚げ物料理を出すだけで一定の売り上げは立てる事はできると感じていた。
だが、いくら俺のいた世界の料理を目玉にするとは言っても、プロでもない三十路独身男のレパートリーなんてそう多くない。
調味料や食材の関係で作るのが難しい料理だってあるから、提供できる料理の数はさらに少なくなってしまう。
その穴を埋める為にも、メリアさんに料理を作ってもらう必要があると感じていた。
「わ、私の料理!?あんなのただの家庭料理だよ!?」
「何か所かで食べてみたけど、どこも似たり寄ったりだよ。おねーちゃんの料理でも全然勝負できると思う。ぶっちゃけ俺はおねーちゃんの料理の方が好き」
どのお店も料理よりはお酒がメインで、食事は飲みながらつまむようなメニューが多く、お酒に合わせるためか全体的に味が濃かった。
対してメリアさんは、自分で言っていた通り家庭的な料理を作る。あくまで食事としての料理を作るので、無駄に味が濃い、という事が少ないので、食べやすい。
薄めな味の方が好みの俺としてはメリアさんの料理の方が好きだ。なんか食べてホッとするんだ。
「そ、そう?えへへ……」
自分の料理を褒められて嬉しそうだ。両手を頬に当ててイヤンイヤンクネクネしている。でもそれは上半身だけで、下半身は微塵も動いていない。俺が膝に座っているから動かさないようにしているんだろう。地味にすごい。
「うん。で、食堂である程度安定した収益を確保しつつ、〈拡張保管庫〉販売による大きな利益も得る。もう一つ商売の案はあるんだけど、実現可能かはまだわからないから、他の準備と並行して明日確認する予定」
「うーん…………分かった。レンちゃんがそう言うなら、とりあえずやってみようか!じゃあ明日から行動開始だね!」
メリアさんもやる気になってくれたようだ。幼女一人では商売なんてできないから、乗り気になってくれて良かった。
翌日。
俺とメリアさんは前まで泊まっていた宿である〈土竜亭〉の前に立っている。
「…………なんでここなの?ここで料理するの?」
そんな板前みたいな事はしない。
「ここ、というか、ここに泊まってる人に用があるんだ」
言いながら俺は宿の中に入り、受付のおばちゃんにジャンを呼び出してもらう。
よかった。居るみたいだ。
「用があるのってジャンさんなの?」
「うん。ちょっと物を売りつけようと思って」
「言い方!もうちょっとふんわり言って!?」
怒られた。言い方を多少繕った所で、本質は変わらないのに……。というかそんなにひどい言い方してなくない?
「なんでそんなに不満そうなの……」
そんな感じでじゃれ合っていると階段からジャンが下りてくるのが見えた。
「おう、久しぶりだな!この宿から出ていったって聞いて驚いたぜ!今は別の宿なのか?」
……そういえば、宿から出る時、ジャン達に何も言わずに出てっちゃったな。
自分ではそうでもないと思ってたけど、ホムンクルスだって言われて、無意識に動転してたんだろうか。
「いや、ちょっとした縁で家が手に入ってさ。そっちに住んでるんだ」
「家!?お前達いつの間にそんなに稼いだんだよ!?」
まあそうなるよねー。
冒険者デビュー数か月にして家を手に入れるとか、どんな化け物だって話だね。驚かれるのも無理はないか。
経緯を説明しないと伝わらないよなー。でも提示する情報の取捨選択とか面倒だなー…………。よし。
「あー、えー…………まあそれはいいじゃん」
面倒なので誤魔化す事にしました。
「全然良くねえんだが……」
そうは問屋が卸しませんでした。
でもここは押し通る!幼女の力で!
「まあそれはいいじゃん」
ニコニコ――
「いや全然よくね――――」
「いいじゃん」
ニコニコニコニコ――
「いやだから――――」
「いいじゃん」
ニコニコニコニコニコニコ――
「………………もういいや。で?俺に何の用だ?」
勝った!幼女の笑顔はやっぱ強いね!
隣にいるメリアさんがすっごい微妙そうな顔してる気がするけど、気にしない。
「うん。いい話を持ってきたんだ。あんまり人に聞かせたくないんだけど、ジャン達の部屋で話せないかな?」
この話は『まだ』広めたくない。順を追う必要がある。
それ故の申し出だったんだけど、それを伝えていないジャンは当たり前だが、怪訝そうな顔をした。
「あん?……レーメスとキースもいるが問題ねえか?」
「うん。パーティメンバーなら問題ないよ。というか、できればセーヌさんとレミイさんにも聞いてもらった方がいいと思う」
「俺個人じゃなく、パーティ全体に対しての話か……分かった。付いてきな」
一応納得してくれたらしく、部屋に入れてくれた。
通されたのは男部屋――ジャン、レーメス、キースが寝泊まりしている部屋のようだ。
本来は四人部屋のようで、ベッドが四つある。
内一つは物置として使っているようで、服やら何やらが適当に投げ置かれている。
…………いいけどさ、そこに見えてるの、下着じゃない?隠したりしなくていいの?一応女性が入るんだよ?俺は中身男だけど。
だが住人である三人は全く慌てる素振りを見せない。
…………冒険者してると羞恥心とかなくなっていくのかな?
あれ?メリアさんの目から光が……。
「おお!レンとメリアさんか!久しぶりだなー!」
俺達が男性冒険者の日常生活のだらしなさに閉口していると、ベッドの上でダラーっとしていたレーメスが俺達に気付いて声を掛けてきた。
俺達の醸し出す空気には一切気付かない。
まあレーメスはなー、だらしなさそうだしなー。しょうがないかなー。
「本当に。お二人とも、お久しぶりです」
「う、うん。二人とも久しぶり……」
キースも気付かない、だと……!?
メリアさんの目から完全に光が消えてしまった……。
あ……青筋…………。
メリアさん、だらしないの嫌いなんだ……知らなかった……。
俺もそんなに几帳面な方じゃないんだけど、ギリギリ許容範囲内だったのかな?
だ、大丈夫かな?いきなり爆発とかしないかな?
…………したら全力で結界張って逃げよう。
「じゃあ、俺はセーヌとレミイを呼んでくるからちょっと待ってろ」
ジャンも、俺達の様子に気付く事無く女性陣を呼びに行ってしまった。レーメス達を咎める事なく。
……やはりこれが男性冒険者の普通なのか?
今、屋敷に女性しかいないし、バランス的にも力仕事を頼む意味でも男手が欲しいんだけど、この調子だと男性冒険者は無理だなー……。
「レーーーーンちゃーーん!あがっ!?」
屋敷への男性雇用について考えていると、勢いよくドアが開かれ、何者かが俺に向かって突進を仕掛けてきた。
まあ、声からしてレミイさんなんだけど。
なので、安心して避ける。ついでに足を引っかける。
レミイさんはものの見事に俺の足に引っかかり、部屋の中央に鎮座していたテーブルに頭から突っ込んだ。
「痛たた……なんで避けるんだよぉ……しかも足まで引っかけてくるし……」
「もう条件反射だから諦めて」
「ひど!?でも可愛いから許す!」
満面の笑みで言い放ってみたが許されてしまった。可愛いって罪だね。
吹っ飛んだレミイさんを追う形でセーヌさんが部屋に入ってきた。
「お久しぶりですわね。レンちゃん、メリアさん」
傍目から見るとなかなかの惨事が発生したのだが、全く意に介していない。
というか部屋に入った途端、俺の頭を撫で始めた。挨拶より先に。
……そういえばこの人も、レミイさんほど強烈ではないけど、俺の事構うんだったな。
自分で言うのもなんだが、女性陣はみんな俺の事好きだよね?美幼女だし。中身おっさんだけど。
「セーヌさん、久しぶりー!」
お、セーヌさんの登場でメリアさんの目に光が戻った。
仲いいんだなあ。服の趣味が合うって言ってたし、それかな?
「おい、全員揃ったぞ?で、いい話ってのはなんなんだよ?」
待ちきれないとばかりにジャンが話を切り出してきた。
俺達の持ってきた話に興味津々みたいだ。
じゃあ、俺ももったいぶらずに話を進めようか。
「うん。前さ、『〈拡張保管庫〉欲しい』って言ってたじゃない?」
「……言ってたかは覚えてないが、欲しいのは確かだ」
「買わない?」
「………………は?」
聞こえなかったかな?声小さかったかな。
「〈拡張保管庫〉、買わない?」