第200話 この国の裏側がちょっと察した。サフィアさんと冒険者組合に行くことになった。
短くてごめんなさい。
ここ数日の行動が全て、実はタダ働きだった、という衝撃の事実を突き付けられ、俺はその場に崩れ落ちた。
まじかよ。あんなに一生懸命働いた、の……に………………?
「あれ? なんか思ったより悲しくないな。なんでだ?」
首を捻ながらすっくと立ち上がると、メリアさんは思い当たる節があるらしく、苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「あー、まあ、ほら。護衛とか言いながら、結局一回も襲われたりしなかったしねえ。ぶっちゃけ私達のやった事って、王女殿下の話し相手くらいでしょ? だからじゃない?」
あ、後、料理も出してたね、と手の平をポンと叩きながら続けるメリアさん。
なるほど。言われてみればその通りだ。睡眠時間が滅茶苦茶短かった事以外は、ぶっちゃけただの旅行だったな。
いや、旅行の時だって、緊張とか興奮で寝付けなくて、睡眠時間が短くなったりするよな。つまり今回の依頼、ほぼ観光旅行……?
だったら――――
「しょうがないかあ」
「「「いやいやいやいや。しょうがなくない。全然しょうがなくないですから」」」
ウンウンと頷きながら俺が言うと、メリアさん以外の三人が揃って手を顔の前でブンブン振って突っ込みを入れてきた。
なんで?
その様子に首を傾げると、代表して王女様が俺の疑問に答えてくれた。
「あのですね。ここでもし、お二人が依頼を放棄してしまいますと、侯爵家と王家が馬車の中で圧力を掛けて、権力でタダ働きさせた、という話が出てきかねないのです」
別に良くね? トップなんてどこもそんなもんでしょ? 一部の上級国民が下の人達を踏みつけにするなんて、いつの時代、どの国だってやってる事だよ?
「…………今あなたから、過去最大級に不敬な雰囲気を感じましたが、気のせいでしょう。そういう事にしておきます。…………フロフィル王国の王家の者として、お金の約束はキッチリしなくてはなりません。具体的に言うと、ちゃんとしないと父上……じゃなくて、王にすごく怒られてしまいます……」
「私もです。近衛を辞めさせられる可能性が高いです」
「もちろん私もです。あの人の顔に泥を塗る行いは避けたいです。私も冒険者組合にご一緒しますから、良い落とし所を探しましょう?」
王女に続き、サーガさん、サフィアさんと言葉を続け、俺達に方向性の違う圧力を掛けてくる。
「いやでも、まず俺達、依頼自体受注出来てないんだけど……」
「「「なんとかします」」」
「ア、ハイ。ソウデスカ」
圧力掛ける気満々じゃないですかー! 相手は俺達じゃなくて冒険者組合だけどー!
王女様。そこ、小さく拳を握ってフンスフンスする場面じゃないから。
サーガさん。小さく抜剣しないで。あなたは冒険者組合にカチコミでも仕掛けるおつもりですか。
サフィアさん。笑顔に凄みありすぎです。俺ちびっちゃう。
おかしい。普通だったら俺達が金払えとごねて、三人から、毅然とした態度で拒否されたり、困ったちゃんを見る目を向けながら諭してきたりする場面だと思うんだが。完全に立場が逆である。意味わからん。
というか、近衛を辞めさせられる可能性すらあるとか、賃金踏み倒しの罰則重すぎない? こう言っちゃなんだが、たかが一庶民で冒険者が相手だよ? 別にどっかの国の重鎮とかじゃないんだよ?
そんな至極当然の疑問を持って王女様に視線を向けると、サッと顔を逸らされた。ちょっと顔が赤い気がする。
…………?
続いてサーガさんに視線を動かすと、これまたサッと、顔ごと視線を逸らされた。身体能力の差もあってか、王女様より動きが素早い。これまたちょっと顔が赤い、気がする。
サフィアさ――――サッ!
早いよ。眼球を動かすか動かさないかって所で顔を逸らされたよ。あなた、本当にただのご婦人なんですか? 色々おかしいでしょ。顔は…………速すぎて見えませんでした。
なにこれ。どういうこと? なんで揃ってそんな反応…………あ、もしかしてこの話、触れちゃいけない系のサムシング?
「勘弁してください……。親の恥部を娘に話させないで…………」
「あ……。あぁー…………」
王女様の恥ずかしそうに言った一言と、三人のなんとも恥ずかしげな様子を見て察した。察しちゃった。
そっかー。そりゃ触れちゃいけない系だわー。これ、王様のやらかし案件だな?
…………王様、まじで何やらかしたん? 国の上層部がこぞって恥ずかしげに口をつぐむって結構な事だと思うよ? 娘には恥部って明言されちゃってるし。
正直な所すっごい気になるが、そこは俺も(外見はともかく、中身は)大人である。無理に聞き出すような野暮はしない。
どんな人だって、話したくない秘密の一つや二つはあるのだ。実際、俺にも山程あるし。むしろ俺の方が多いまである。
という事で、この話題については、これ以上の詮索はしない事にする。
「ゴホンゴホン。……えーっと。じゃあサフィアさん。冒険者組合への同行、よろしくおねがいします」
「ええ。お任せなさいな。………………相変わらず賢くて良い子ですね。ロンズにも見習わせたいくらい」
サフィアさんがごちるが…………ロンズ………………? って誰? 知り合い?
「私の息子ですよ。一緒に食事もしたし、無謀にもあなたに決闘を挑んだとあの人から聞きましたが?」
あ、息子さんなんですね。初めて聞き……え? 一緒に食事をした? さらには決闘挑まれた? そんな事あったっけ…………?
「ほらレンちゃん、忘れたの? いつだったか、お店の中で剣を抜いた子供がいたでしょ? その子だよ。決闘の時、すんごい悪い顔でその子の事虐めてたじゃない」
「…………ああー! 思い出した! そういえばそんなこともあったなあ! いやあ懐かしい!」
後メリアさん。あれ、虐めてたんじゃないよ。強者ムーブで格の違いを分からせてやっただけだよ。悪い顔も演技だから。そこんとこ間違えないでね?
「懐かしがる程昔ではないんですが…………あらいけない。話が逸れてしまったわ。それじゃあ冒険者組合には、殿下と別れたらすぐ向かいましょうか。こういう事は、早めに済ませてしまうに限るわ」
「「はい。分かりました」」
という事で、この後の予定が決まった。王都の冒険者組合かー。どんなんなんだろうなあ。ちょっと楽しみだ。
お読みいただき、ありがとうございます。
作者のモチベーション増加につながりますので、是非評価、感想、ブクマ、いいね! の程、よろしくお願いします。