第19話 やらかした。
お待たせして申し訳ありません。
今後もスランプから脱出できるまでは、週一投稿は難しいかもしれません。
王女様が思いの丈をぶちまけたのと同時、馬車が徐々に減速していき、そして停まったのを感じる。
このタイミング、もしかして聞こえたんだろうか? だとしたらめちゃくちゃ恥ずかしいな。
……あ、王女様も俺と同じ考えに至ったらしい。顔を真っ赤にしてキョロキョロと辺りを見回している。小動物みたな動きが大変可愛らしい。
だがサーガさんはそんな王女様にちょっと温度低めの視線を送りながら口を開いた。
「殿下、落ち着いてください。確かに先程はかなり大きな声でしたが、この馬車には音を外に漏らさない処理が施されているのはご存知でしょう? 速度を落としたのは王城に到着したからです」
「そ、そうでした。すっかり忘れていました」
外に音が漏れていない事が分かり、王女様はあからさまにホッとした様子を見せた。
ほえー。この馬車、そんな機能まで付いてるのか。なんというハイスペック。
…………ん? おかしくね? 俺達、普通に外からの音とか聞こえてたよな?
「そうだったんですか? でも、料理を持ってくる人が扉を叩く音とか普通に聞こえてますよね?」
だよね。確かに言われてみれば道中はめっちゃ静かだった気がするけど、外からのノック音とかは普通に聞こえてたよね。
どういう事? 実は故障してるとか? いやでも、サーガさんは外から音が聞こえても慌てた様子はなかったよな。
「ああ、それはですね。音を遮断するのには魔道具を使っているのですが、その機能を無効にする魔道具という物もありまして。その魔道具を起動している間だけは、普通に外からの音も聞こえますし、こちらが出した音も外に聞こえるんです」
「へえー。そんな魔道具があるんですねえ。知らなかったなあ」
サーガさんから回答が出され、メリアさんは心底感心した声を上げる。
まじかよ。魔法なんでもありすぎじゃね? どういう仕組みなのかさっぱりわからんのだが?
まあ、気にしたら負けか。自分で言うのもなんだけど、俺の【能力】よりはマシだろ。幻じゃなく本当に姿が変わったり、固い金属を水飴か何かみたいに形を変えたり、瞬間移動したり、触っただけで物の温度を変えたり出来るからな。
…………自分で言ってて意味わからん。ビックリ生物にも程があるだろ。
「さて、と。馬車が停まったって事は、目的地に着いたって事だよね? そろそろ降りる準備しとこっか」
「え? あ、う、うん。そうだね」
自分の存在の意味不明さに軽く引いていた所で、メリアさんから声をかけられ、ちょっとどもってしまった。
まあ、当のメリアさんは俺がちょいちょいこういう状態になる事は良く知っているので、サラッとスルー。ありがとうございます。
「そうですね。正確には城門が開くのを待っている状態ですが、そこまで時間はかかりません。準備を始めておくに越したことはないかと」
サーガさんからのお墨付きもいただいたので、着てこそいたものの、留め金等を緩めていた装備をしっかりと装着しなおす。冒険者装備って割りと息苦しいんだよね。
かと言って、護衛依頼の最中に完全オフの恰好をするわけにもいかないからね。苦肉の策というやつだ。着慣れてないというのもある。
ぶっちゃけ俺達、冒険者というより食堂経営者の方がしっくり来るからね。仕方ないね。
あ、ちゃんとサフィアさんから降りてるよ。さすがに膝の上でやる事じゃないからね。さすがのサフィアさんも、このタイミングで変な事はしないだろう…………と信じる。
なお、サーガさんは全ての装備をキッチリ着ている。なんでもオーダーメイドで身体にしっかりフィットしているので、着ていても疲れないそうな。羨ましい。
王女様は……何もしていない。まあそうだよね。王女様だもんね。細々した準備なんて周りの人達がやってくれるもんね。
そんな感じで、まともに準備が必要なのは俺達だけ、という、ちょっと恥ずかしい状態ではあったが、完全に脱いでいた訳ではないので、準備はすぐ終わった。そして、それを見計らって、サフィアさんが俺をヒョイッと持ち上げ、膝の上に乗せる。
……いや、いいけどさ。俺、お目付け役じゃなくて、やっぱりマスコット枠なのな。ぬいぐるみかもしれない。
そして、俺達の準備が終わり、少しの待機時間の後、停まっていた馬車が再び動き出した。
さて。そろそろこの依頼も終わりか。長いようで短かったなあ。
侯爵様の奥さんであるサフィアさんとは、また会う事はあるだろうけど、王城住みの王女様と、近衛のサーガさんとはこれが最後だろうなあ。結局襲撃もなかったし、ぶっちゃけ護衛というより旅のお供だったからな。別れの寂しさもひとしおだ。
「あら。なんだか少し寂しそうですね。いかがしましたか?」
今日までの旅の思い出を反芻して、ちょっとしんみりした気分に浸っていると、サフィアさんがそんな事を聞いてきた。
俺の座椅子状態になってて顔は見えないはずなのに、なんでそんな事がわかるんだよ。という事は突っ込まない。この人色々おかしいからな。何が出来ても驚かないよ。さっきも、コンパクトサイズとはいえ、フル装備の俺を軽々と持ち上げてたし。
「いやそりゃあ、もう少しで三人とはお別れですし? 短い間で立場も違うとはいえ、一緒に旅をした間柄なんですから、寂しさくらい覚えますよ」
「え? お別れじゃないですよ?」
「「え?」」
「え?」
サフィアさんの『何言ってるのこの子?』と言わんばかりセリフに、俺だけではなく、メリアさんも首を傾げる。
いやいや、何を言ってるんだこの人は。それらしい事はほぼしてないとはいえ、護衛対象の二人を王とまで送り届けたんだ。どう考えてもこれで依頼は終わりだろう。依頼が終わったらこのメンバーも解散。当たり前の事だ。
しかし、サフィアさんの意見は違うらしい。どういう事なのか聞いてみようじゃないか。
「ちょっと勘違いしているようですが……。今回の依頼は、侯爵夫人である私の護衛ですよね?」
「はい。王女様の護衛の隠れ蓑のような立ち位置ではありますが、そういう事になってますね」
身も蓋もない言い方だが、それはサフィアさんも理解しているので特に気を悪くした様子もなく、首を縦に振った。
「とはいえ、私への護衛が全く不要という訳ではありません。依頼は私の護衛ですからね。そして私はイースに住む者。王都へは所用で来ただけです」
まあ、そうだろうね。…………ん? なんか雲行きが怪しくなってきたぞ?
「つまり、私はイースへ帰るという事です。依頼には帰り道の護衛も含まれています。その事も書いてあったはずですよ? 読んでいないのですか?」
…………………………。
読んでねえ…………。というか、冒険者組合から依頼すら受けてなくね?
油の切れたロボットのような動きで首を回し、メリアさんへ視線を向けると、メリアさんも『やらかした!』って顔でブンブンと首を横に振った。そりゃそうだよね。ずっと俺と一緒に料理作ってたんだから、冒険者組合に行く暇なんてなかったよね。
…………うわー、やらかしたー! って事は何? 今回の旅、タダ働きって事? まじかー!?
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