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第22話 メリアさんがメイドの主人になったので名前を付けた。

ぎりぎり一か月以内に投稿できました。お待たせしてしまい申し訳ありません。


※2020/11/22 名札の文字について追加しました。

「俺が……ホムンクルス?」


「肯定します。髪色と瞳の色が本来の色彩と異なりますが、特殊個体故だと思われます」


「レンちゃんが人工的に作られた?そんな訳ないわよ!レンちゃんがその、ホムなんたらだって証拠はあるの!?」


 メリアさんが声を荒げた。突然の俺が人間じゃない宣言にそうとうお冠のようだ。

 あとメリアさん。ホムンクルスね?ホムなんたらって……。


「訂正します。ホムンクルスです。一番の特徴としては頭髪と瞳の色です。通常の個体は髪色が白、瞳の色は赤となります。ですが、そちらの個体は特殊個体のようなので、それは当てはまりませんね」


 そう言いながら、メイドさんは自分の頭と目を順に指さして言った。

 確かに、俺は髪の色は銀色っていうか鉄色?だし、瞳の色も金色だ。全然違うな。

 じゃあなんで俺がホムンクルスだと思ったんだろう。


「じゃあ、レンちゃんが、その、ホムン、クロス?とは限らないじゃない!」


 惜しい。ホムンクルスだよメリアさん。


「訂正します。ホムンクルスです。これはホムンクルスの持つ共鳴のようなものなので、説明は困難です。それでは、別の方法で証明致しましょう。手をお借りしてもよろしいですか?」


「ん?俺?はい」


 求められたので右手を前に出すと、メイドさんが俺の手を握った。

 その瞬間、今まで何かが繋がったような感覚がした。

 初めての感覚に疑問を覚えながら、握られた手をなんとなく眺めていると、


(確認します。聞こえますか?)


「ふぁっ!?」


 突然、頭の中に直接メイドさんの声が響いた。

 手に向けていた目をメイドさんに向ける。


(安堵します。成功ですね。久方ぶりに招待しましたので、少々不安でした。)


 メイドさんは口を開いていない。にも関わらず声が聞こえる。頭の中に響く、という経験した事のない形ではあるが。


「……どうしたのレンちゃん?いきなり変な声出したと思ったら、その人の事見つめて?」


 メリアさんが不審そうに俺に声を掛けてくる。

 確かに言われた通り、突拍子もなく変な声を上げた次の瞬間には、メイドさんと見つめあい始めたら不審にも思うわな。


「な――」

「説明します。今、こちらの個体を我々のネットワークに招待しました。ホムンクルスのみが参加できるネットワークです」


 説明しようと口を開こうとした所で、メイドさんが先に説明を始めてしまった。


「な、なにそれ!?そんなものがあるの!?」


「あー、うん。みたい。繋がってるのが分かるわ」


 メリアさんが驚きの声を上げ、俺はそれを肯定した。

 そして俺の言葉にさらに驚きの度合いを上げるメリアさん。


「繋がっ…!?わ、私もそれ入りたい!入れて!私もレンちゃんと繋がりたい!」


「うわぁ……」


 何その台詞……。言っちゃなんだけど、ドン引きだよメリアさん……。


「却下します。先ほども言いましたが、ホムンクルス専用のネットワークですので、ホムンクルス以外が参加する事は不可能です」


「えぇ~、そんなぁ…………」


 要望を一刀両断され、メリアさんはがっくりとうなだれた。

 そんなに入りたかったのか。…………深くは考えまい。


「継続します。ネットワークに参加すると、専用の【能力】が二つ使用できるようになります。まず一つ目が、先ほど使用した【念話】。距離や遮蔽物を無視して、ネットワーク内の任意の相手と意思疎通が可能となります」


「そして二つ目」


 目の前のメイドさんがいきなり消えた。何の前触れもなく、唐突に。


「【いつでも傍に】。ネットワーク内の相手の近くに転移できます」


 メイドさんの声が背後から聞こえてきた。慌てて振り向くと、先ほどと同じ姿勢のまま、メイドさんが立っていた。


「便利だねえ……」


 条件があるとはいえ、転移能力とはまたすごい【能力】を……


「肯定します。転移先にネットワークに参加している個体が存在する必要がありますが、便利な【能力】です」


 そこでメイドさんは、顔をメリアさんに向けた。


「補足します。ちなみに、先ほど、ホムンクルス以外はネットワークに参加できない、と言いましたが、マスターだけは例外です。ネットワークと構成するホムンクルスたちの(マスター)であれば、例外的にネットワークに参加することが可能であり、【能力】も問題なく使用できます」


 その方向で来るか!一度断っておきながら、でも(マスター)になれば特別に入ることができますよ!と勧誘する。

 ……なんか性質の悪いセールスマンでも見てるみたいだ。

 でもまあ、元々メリアさんはネットワークに入りたがってた訳だし、そんな事言われれば――――


「っ!?なる!私、(マスター)になるよ!」


 ですよねー。


「感謝します。それではこちらを身に着けていただけますか?」


 そこはかとなく、やり手のセールスレディな雰囲気を醸し出しながら、メイドさんがスカートのポケットから銀色の輪を取り出した。


「こちらは〈契約の腕輪〉と言います。これを身に着けていただき、私が承認することで(マスター)従関係が成立致します」


「へぇ~。そんな道具があるんだねえ」


 メリアさんはメイドさんから〈契約の腕輪〉を受け取り、左手の二の腕に装着した。


「装着を確認しました。それでは――」


「〈契約の腕輪〉を身に着けし者、メリアを我らが(マスター)とすることを統括個体が承認し、忠誠を誓う事をここに宣言する」


 メイドさんの言葉に反応して、〈契約の腕輪〉がぼんやりと発光し始めた。


「要求します。メリア様、手を」


「え?あ、はい」


 メリアさんが伸ばした手を、メイドさんが壊れ物を扱うかのようにそっと手に取り、そのまま手の甲に口づけをした。

 その瞬間に、〈契約の腕輪〉から出ていた光が一瞬だけ強くなり、そのまま消えた。


「感謝します。これで契約は完了です。(マスター)


「おおー!確かになんか繋がってる感じがするね!……うへへ。レンちゃんと繋がっちゃった……うふふへへ」


「うわぁ……」


 変な笑い声をあげているメリアさんを見て、頬を引き攣るのを感じる。

 そこでふと思い出したことがあり、メイドさんのいる方へ顔を向けた。


 決して、やばい顔になっているメリアさんから目を離したかったからではない。


「あ、そうそう。聞きたい事ぉわ!」


 顔を向けた先には、もちろんメイドさんがいたのだが、その後ろにいつの間に集まったのか、別のメイドさん達が横一列に並んでいた。

 その数十二人。プロポーションこそ多少の差異はあるが、全員が綺麗な白髪に感情の感じられない赤い瞳を持っていた。

 今まで話していたメイドさんと違い、全員が背中のあたりまで髪を伸ばしているが、全員顔の造形がそっくりだ。

 正直、見分けがつかない。


「び、びっくりした……」


「回答します。稼働中の者を呼び寄せました」


 全員が一切のズレなく同時に頭を下げた。十二人もの同じ顔のメイドさんが、寸分の狂いもなく同じ動きをすると、感嘆を通り越してちょっと怖い。


「そ、そう……。こんなにいたんだ…………」


 若干引きながら答えたが、メイドさんはそんな俺の状態を意に介することなく、質問をぶつけてくる。


「質問します。レン様。先ほど何かを言いかけていたようですが……?」


「あー、うん……うん?レン様?」


 ついさっきまで〈特殊個体〉呼ばわりだったのに、突然の様付けに動揺を隠せない。


「回答します。レン様も我々と同様、ホムンクルスではありますが、(マスター)の寵愛を一身に受けておられます故、我々とは別格でございます。故にレン様とお呼び致しました」


 俺の与り知らぬ所で俺のヒエラルキーが決まっていた。まあ不当に低いわけじゃないからいいけどさ。


「ああ、そういう……」


「はい。それで、先ほど言いかけていたのはどういった?」


 また話が逸れていきそうになるのをメイドさんが修正してくれた。すみません。


「ああ、そうだった。名前聞いてないなって思って。折角集まってくれたんだし、全員で自己紹介とかしたらいいんじゃないかな?」


 こんなにメイドさんがたくさんいたら、〈メイドさん〉という呼び方は適切じゃない。全員メイドさんだもん。

 一応、メリアさんがこの人達と屋敷の(マスター)になった訳だし、名前を聞くのはおかしいことじゃないよね。


「……と言われましても、我々に個体識別名はありませんので、お答えすることができません」


「え……名前ないの?」


 出鼻を挫かれた。名前ないってどういう事?普通生まれた時に親あたりに名付けられるもんじゃないの?

 ……あ、この人達、ホムンクルスだった。親とかいないんだ。


「肯定します。特に不便もありませんでしたので」


「そういうもんなの?…………んー、でもやっぱり名前がないと不便だよ。呼ぶとき困るし。ということで、名前を付けようと思います。いいかな?」


「……(マスター)が望むのであれば」


 (マスター)の許可があれば問題ないらしい。なので、(マスター)であるメリアさんに聞いてみる。


「だって。いい?おねーちゃん」


「ん?いーよー」


 すごく軽い返事が返ってきた。じゃあちゃっちゃと決めちゃおう。


「なんか案ある?」


「んー……レンちゃん、任せた!」


「…………はい」


 丸投げされた。まあ、そんな事になるような気はしてたけどさ。

 ……うーん、とは言ったものの、十三人分の名前を考えるのはなかなか難しいな。

 うーむ……十三人…………いや、このメイドさんは〈契約の腕輪〉を使う時、〈統括個体〉とか言ってたし、他の人とはちょっと違うのかな?

 ってことは一人と十二人か?うーん、うーん…………あ。


「…………よし、決めた。あなたの名前は〈ルナ〉ね」


 今まで話していたメイドさんを見ながら言った。


「で、奥の人たちは左から、〈ムツキ〉、〈キサラギ〉、〈ヤヨイ〉、〈ウヅキ〉、〈サツキ〉、〈ミナヅキ〉、〈フミツキ〉、〈ハヅキ〉、〈キクヅキ〉、〈カンナ〉、〈シモツキ〉、〈シハス〉ね」


 本当は花の名前とかがいいかなって思ったんだけど、十三個も思いつかなかった。まあ月の名前だってそうおかしい名前でもない、と思う。


 しかし、名前を付けたはいいけど、全員顔が似すぎてて見分けがつかないな。


「あー、あとこれを目に付く場所、胸あたりにでも身に着けといて」


 俺は〈ゴード鉱〉製の棒を【金属操作】で少し削り、メイドさん全員分の名札を作って一人一人手渡した。

 よし、これで呼び間違いは防げるだろう。

 名札無しでも見分けが付くようになるのが理想だけど、まあそれは追々という事で。

 ちなみに、ちゃんとこっちの世界の文字で書いたよ。元の世界の文字で書いても誰も読めないからね。俺以外読めない名札とか意味ないし。


「感謝します。全員に対して名を付けていただき、ありがとうございます」


 メイドさん――ルナが感謝の言葉と共に頭を下げ、一拍置いて後ろのメイド達も一斉に頭を下げた。相変わらず寸分の狂いもない。


「では、(マスター)の所有物となりました、この屋敷をご案内させていただきます」


 頭を上げたルナの言葉を合図に、他のメイド達がこちらに改めて一礼をした後に散っていった。それぞれの持ち場に戻ったようだ。

 俺達は、案内の為に先導して歩き出したルナの後を追った。





「――――屋敷内の説明は以上となります」


「あ、うん。ありがとう。にしても……でっかいね」


「そうだね……。これが私の持ち物になったとか、ちょっと信じらんないなあ。割と最近まで洞窟暮らしだったのに」


「ほんとだね……」


 ルナに屋敷の中を案内してもらって、改めてこの屋敷の大きさが分かった。

 部屋数もかなり多く、メイド含め全員が個室を持ってもかなり余る。

 そしてその部屋に見合った規模の厨房に食堂。そして何より――


「浴場もあったねえ」


 そう、結構な大きさの浴場まであった。この世界にきてからこっち、お湯に浸かった経験は一度もなかった。大体はお湯で体を拭くくらい。

 久々にお風呂に入りたい。


「あったね~。……久しぶりにお風呂入りたいなー。最後に入ったのいつだろ。……少なくとも十年は入ってないねえ」


 洞窟で暮らしていた時も、毎日お湯で体を拭いて清潔にはしていた。

 でも、お風呂には体を洗う以上のものがあると思うんだ。

 あー、お風呂の事考えてたら入りたくなってきた。


「……よし!これから入ろう!ルナ、お風呂準備して!」


「畏まりました」


「やった!じゃあお風呂の前にご飯にしよう!お腹すいたし!」


 屋敷の説明に思った以上に時間がかかったから、もう結構いい時間のはずだ。

 何よりお腹すいた。


「ご飯………………。ああ、補給の事ですか」


 なんかすごい間があったな。っていうか補給て。


「受諾します。準備させますので、補給室へ参りましょう」


 補給室て。

 ……そこはかとなく不安だ。

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