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第193話 王女様の食事が終わったので、俺達も食事を摂る事にした。

 俺の脅しを受けた王女様は直後、鬼気迫る表情で何かをサーガさんに何やら耳打ちを始めた。

 耳打ちされたサーガさんが真剣な表情で外で警備をしているらしい人を呼び、何かを言いつけていた。話の内容は聞こえなかったが、タイミング的にもほぼ確実に王女様の食事のメニューについてだろう。


 サーガさんから言いつけされた人は、かなり困惑していたね。

 その人はまずサーガさんの顔を二度見し、続いて王女様へ恐る恐る視線を向けていた。

 それに対し、王女さまは相変わらずの表情で首を縦に振られた事で、これが王女様直々の要望である事が分かったらしく、さらに混乱していた。

 最後はサーガさんにせっつかれ、その人は最後まで困惑したまま馬車から離れていった。可哀想に。これが上司に振り回される部下の宿命か。俺も経験あるよ。


 まあ、そんな事もあったが、とりあえず王女様の食事も終わったので、入れ替わりで俺達とサーガさんが食事を摂る事になった。

 とは言っても三人同時ではなく、まずはサーガさん。続いて俺とメリアさん、という風に、順番に摂っていくらしい。食事中は警戒が疎かになる可能性があるから、だそうな。


 と、いう事で、最初はサーガさんが食事を開始した。

 サーガさんが座席の後ろ辺りをゴソゴソやって取り出したのは、何やら見覚えのある物と水袋。

 それは細長い棒状で、大きさは手のひらに収まるくらい。基本の色は黄土色だが、所々茶色や黄色、赤といった色が見える。


 …………はい。ブロッククッキーですね。いつだか、組合長から依頼されて作った保存食。カ〇リーメ〇トのパチモンだ。


「サーガさん、それ…………」


「ああ、これですか? 最近、商業組合で売られ始めたのですが、全く新しい保存食だそうで。これさえ食べておけば冒険者病に罹らないとかいうお触れでしたね。まあ、それについては眉唾ですが、これは良い物です。硬パンや干し肉と違って柔らかいので、食べる度に歯が欠けていないか心配する必要がありませんし、顎も疲れない。そしてなにより美味しい。これの入れ物も変わっていましてね。鉄のような色合いの物で密閉されているようなのですが、手で簡単に破って開ける事が出来るんですよ。初めて開けた時はかなり驚きました」


「ヘーソーナンデスネー」


 サーガさんはブロッククッキーについてそこそこの熱量を持って語ってくれているが、すみません。全部知ってます。それ、俺が原型を作ったんで。


「私としては、手軽に食べられて味も良いので、ずっとこれだけでも構わないのですが、野菜も食べる必要があるのでしたよね……。確かに任務中、まともな食事が摂れない時は、お腹の調子が悪くなったりしていました。…………しかし、さすがに任務中にゆっくりと食事を摂る時間は取れず……」


 いやさすがに、野菜云々以前に、ブロッククッキーだけ食べてたら体おかしくなるよ。とは言え、仕事中にまともな食事を食べられない、というのは俺もちょいちょい経験がある。忙しすぎてカ〇リーメ〇トとゼリー飲料くらいしか口に出来なかったりね。


「まあそれは仕方ないんじゃないですか? 仕事が終わった後にでも、ちゃんとした食事を食べればいいと思いますよ」


 俺はサーガさんにそう答えた。ぶっちゃけ、ブロッククッキーだけでそれなりに栄養を摂れるようにするのは可能だ。生地に野菜を練りこんだりすればいいだけだからね。

 でも、そんな物を作ってしまえば、本当にそれだけ食べて生活しようとする輩が絶対現れる。それは避けたい。

 食事は栄養が摂れればいいってモンじゃないからね。美味しい物を食べる喜びとか、食事の席でのコミュニケーションとか、そういうのも重要なのだ。

 と、いう事で、ブロッククッキーは改良しない事にしよう。あれはあくまで、冒険者病を予防できる保存食、という立ち位置で作った物で、完全食を作ろうとした訳じゃないしね。


 そんな事を話している内に、サーガさんの食事が終わった。所要時間三分くらい。なお、内二分ほどは俺との会話である。つまり実質の所要時間は一分。ファストフードにも程がある。


 続いて俺達の食事だが、いざ食べようと思った所、問題が発生した。


 普段であれば、俺の〈拡張保管庫〉から適当に料理を出して食べる所だ。

 だが、今回はそれができない。何故か。王女様とサーガさんご目の前にいるからだ。二人に〈拡張保管庫〉の事は教えてないからね。


 さて困った。残念ながら、カモフラージュ用に背負っているリュックに食べ物は入れていない。

 このままじゃ旅の間中、街に入るとかのイベントがない限り、絶食して過ごさなくてはならなくなってしまう。それは嫌だ。


 という事で、俺が取った行動は――――


「すみません。俺達、食べ物を〈拡張保管庫〉に入れたままでして。出してもいいですか?」


「レンちゃん!?」


 カミングアウトである。メリアさんが滅茶苦茶びっくりした顔で俺を見てきている。

 まあそうだよね。〈拡張保管庫〉は希少で高価。簡単に見せていいものではない。ジャンからも言われたね。

 でもまあ、俺の予想が正しければ問題はない。


「あら。〈拡張保管庫〉を持っているんですか? そこそこ高価な物ですし、冒険者の身でそれを持つのは苦労したでしょう?」

「……ん?」

「そうですね。かなり大変でした。一生懸命働いて、やっと手に入れました」

「…………え?」

「それはそれは……。ああ。〈拡張保管庫〉については使用いただいて大丈夫です。ですが念のため、取り出しは見える場所でお願いします」

「…………あれ?」

「それはもちろん。じゃあ失礼して……」

「…………あれれ~?」


 メリアさんとしては、俺のカミングアウトにより修羅場でも起きると思っていたようだが、現実はこんなもんだ。

 想像と現実のギャップに混乱しているらしい。ちょっとアホっぽい顔になってしまっている。


 確かに〈拡張保管庫〉は高価で希少だ。だがそれはあくまで一般人レベルでの話。

 国のトップともなればこの通り、ちょっと手に入れづらいアイテムくらいの認識でしかない。金なんざ唸るほど持ってるだろうし、希少さは権力でゴリ押し出来るだろうしね。


 でもまあさすがに、自力で〈拡張保管庫〉を作成できる事は言わない。バレると、延々と〈拡張保管庫〉を作り続けさせられるだろうし。

 この人達はそんな事させようとは考えないだろうとは思うけど、まあ念のためだ。情報っていうのは、どこから漏れるか分からないからね。


 〈拡張保管庫〉は、個人としてもあると大変助かる物だが、国や商人にとっては、それこそ喉から手が出る程欲しい物だからね。


 商人であれば、〈拡張保管庫〉を一個持っていれば小さな労力で商品を大量に持ち運びできるから、大規模な商隊を編成する必要もなくなる。そこらへんの諸経費を圧縮できるって事はつまり、利益率が上がるって事だな。


 国としては、主に軍事関係で欲しがるだろう。

 戦争っていうのは、兵站が勝敗を分けると言っても過言ではない。なので、兵站輸送にはかなりのリソースを割くのが基本だ。

 それが、〈拡張保管庫〉があればどうだ。一人当たりの輸送量が激増するので、同量の物資を輸送するのに必要な人員をかなり削減できる。

 そして、輸送人員を削減できるという事は、それを護衛する人員を削減できるという事なので、相乗効果で凄まじい効率上昇を望めるだろう。


 うん。ヤバい。どちらも、一個あれば満足、という感じではなく、あればあるだけ良い、という感じになりそうなのが特にヤバい。

 まあ、俺が作った〈拡張保管庫〉は、俺の一存で無効化できるから、無碍には扱われないだろうけどね。

 とは言っても、こっちの世界に来てまで社会――この場合は国か――の歯車にはなりたくない。よって却下だ。


 って事で、俺の〈拡張保管庫〉は、作成した物ではなく、頑張ってお金を貯めて買った物、という事にした。

 実際の所、俺みたいな子供が高価な〈拡張保管庫〉を持っている事事態がおかしいんだけど、そこはあれだ。多分もう、二人からは少なくとも普通の子供だとは思われてないから大丈夫。


 そんな感じで俺は、少なくともこの二人以外の視線がない場所では、コソコソする事なく大っぴらに、〈拡張保管庫〉からの物の出し入れが可能となった。という事で、早速食べようかなー。


 …………うん。目の前に大量の肉を並べられたせいで、口の中が肉モードになっちゃってるな。よし、肉だ。肉を食べよう。

 だけど、今は護衛依頼中だし、手軽に食べられる奴がいいな。そんで、偉そうに講釈たれた手前、それなりに野菜も食べておかないと立つ瀬がないので、野菜も摂れる物。


 よし、決めた。

 決めたけど、これは今まで作った事なかったから、完成品がないな。簡単だし、ここで作っちゃうか。


 という事で、調理の為に俺が〈拡張保管庫〉から食材を取り出した。


 パン。トンカツ。キャベツの千切り。ソース。

 以上。


 はい。みんな大好きカツサンドですね。作るの簡単だし、手軽に食べられるし、キャベツ入れるから野菜摂れるし、肉も入ってる。完璧。


 そんじゃ調理開始。

 パンを半分に切って、片方の上にキャベツ、トンカツの順に乗せてからソースをかける。その上から追加でキャベツを乗せた後、もう片方のパンを乗せて、馴染ませる為に軽く押す……っと。


「完成ー。はいこれ、おねーちゃんの分」


「ありがとう。へー。トンカツにこんな食べ方があるんだねえ。これ一個でお肉も野菜もパンも食べられるし、手も汚れない。簡単に作れるし、いいねこれ。ムグ。……うん、おいしい!」


「でしょ。挟む物を変えればいくらでも種類を増やせるしね」


 メリアさんが美味しそうにカツサンドを頬張るのを横目に見ながら、俺も自分用に小さめサイズのカツサンドを作成する。


 ……ほい完成。そんじゃ、いただきまー…………。


 完成したカツサンドを頬張る為、大口を開けた所で、俺は動きを止めた。

 いや、あのさあ…………。


「すみません。そんなに見つめられると食べにくいのですが」


 王女様からめっちゃ見られてた。さすがにこれは無視できない。

 カツサンドを口元から離してから王女様へ苦言を呈すると、当の王女様は羞恥からか顔を真っ赤に染めながら、両手を前に出してワタワタと振った。


「あ、ご、ごめんなさい! 美味しそうだったもので、つい」


 いや美味しそうって、あなた、今しがた食べたばっかでしょ。満腹って言ってたじゃん。


 まあ、大した手間じゃないし、別にいいけどさ。絶対残すなよ? 残すのだけは許さんぞ?

お読みいただき、ありがとうございます。


作者のモチベーション増加につながりますので、是非評価、感想、ブクマ、いいね! の程、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 某忍術学園の女将「お残しはあきまへんで!!!」
[一言] 害しはしないけどテロは始まる……飯テロが( ˘ω˘ ) 絶対道中せがまれる
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