第190話 出発した。即敗北した。
全然話が進まなーい! ごめんなさーい!
※2023/2/18追記
第190話(第212部分)に書いた内容と一部乖離してしまいましたので、一部を修正しました。ちょっと強引な感じになってしまっておりますが、ご了承ください。
とりあえず、同乗者の名前を知らない、という、後々の旅に影響しそうな状況は回避できた。
できたのだが……。
「前から気になっていたのですが、レンさんは本当に六歳なのですか? とても落ち着いてらっしゃいますし、受け答えもしっかりしていて、正直な所、私より四つも年下とは思えないのですが」
「はい。六歳です。それについては、まあ……生まれついての物と言いますか、教育の賜物と言いますか……。まあ、俺なんか、王女様と比べれば、ちょっと賢しい子供ですよ。そんな事より、王女様も十歳とは俄かに信じられない程しっかりしてらっしゃいますよね。人の上に立つに相応しい教育を受けている事もあるとは思いますが、どんな素晴らしい教育を受けていたとしても、それは王女様の努力、そして才能あってこその物です」
「…………いよいよもって、年下である事が疑わしくなってきました。その話し方といい内容といい、周りの大人達と一緒です」
「い、いやあ……ハハハ」
ガラガラゴトゴトと走る馬車の中、絶賛、王女様に詰められております。
いや、ぶっちゃけ、マジのガキの振りして濁す事もやろうと思えばできたよ?
でもそれをやろうとすると、かなり歯に衣着せぬ言い方になっちゃうんだよね。子供ってそこらへん隠さないからさ。
それを、俺の中の社会人経験が許さなかったんだ。
だって、相手は目上も目上、国の最上位だよ?
例え、会社の飲み会で上司が『今日は無礼講だ!』なんて言ったとしても、下っ端はそれを真に受けちゃいけない。全力で媚び諂っていかないといけないのだ。
という事で、俺に向けられた追及を華麗に躱しつつ、ごく自然に王女様のヨイショに話題をシフトさせたはずなんだが、却って疑念を深める結果になってしまったらしい。
さて困った。俺が年齢の割に大人びているのは、中身がおっさんなのだから当たり前の話なのだが、それを言うのも憚られる。この体になる前の話なんて出来ないしね。うーむ。どうやってこの話題から逃げようか、と内心頭を捻っていると、全く予想外の所からアシストが入った。
「確かに殿下の仰る通りですが、その割には、リンデを打倒した時は随分大人げなかったですね。いえ、レン様は子供ですので、大人げない、というのは正しくないような気がしますが」
サーガさんからだった。大人げなかったって……随分な言い様だなあ。
「そういえばそうですね。遠くから見ていても分かるくらい怒ってらっしゃいましたよね。状況的にリンデがまた何かやらかしてしまったとは思うのですが、一体何を……?」
王女様も同じ意見らしい。おかしいな。あの模擬戦、見てたと思うんだけど。忘れちゃったんか?
だとするなら確かに、傍から見れば、俺がメリアさんとリンデの勝負に乱入して、無抵抗の相手を蹂躙したように見えたかもしれないか。
まあ別にこれは隠す事でもないし、正直に言っちゃうか。なんでもかんでも隠してると、信用されなくなっちゃうかもだし。これについては誰であっても許す気はないから、釘を刺す意味でももう一回言っておくか。
「おねーちゃんを化け物呼ばわりしたんですよ」
「……はい?」
ん? 聞こえなかったかな?
「ですから、あいつ、おねーちゃんを化け物って言ったんです。こんなに優しい人を、自分が一発で倒されたってだけの理由で。そんなの、許せる訳ないじゃないですか。おねーちゃんの事、何も知らない癖に」
「「…………」」
……あれ? なんか二人共、ポカンとしてる。俺、別におかしな事言ってないよな? 極々普通の事を言っただけでしょ? そんな表情で見られる覚えはないだけど。
二人の様子に困惑していると、突然真横から衝撃を受けた。続いて横っ面に押し付けられる固い何かと、頭上から聞こえる聞き慣れた声。
「もう! ほんとレンちゃん可愛すぎ! 私嬉しいなあ! ぎゅーってしてあげる! ぎゅーっ!」
メリアさんだった。俺の言った事が嬉しくて感極まったらしい。声の調子的に、上を見上げればデレデレに蕩けたメリアさんの顔が見られる事だろう。
だが、今の俺はそれどころではない。
「いだだだだっ!? お、おね、おねーちゃん! 顔! 顔が潰れる!」
「え? あ、そうか! 今防具着けてるんだった! 大丈夫?」
俺の悲鳴にメリアさんはすぐに理由を察し、俺を胸元――――に着けている防具から離し、押し付けられていた方の頬を優しく撫でた。ザラザラした固い革に押し付けられた所為でヒリヒリと痛む頬が、それだけで少し良くなった気がする。
にしても惜しい。防具がなければメリアさんの胸に顔を埋められたのに。呼吸できなくなる事も多いけど、柔らかくて暖かくて気持ちいいし良い匂いするし、なにより落ち着くんだよなあ。
ちなみに邪な思いはない。この体になってから、性欲がほぼなくなってしまったからね。単純な心地よさ故の感想である。
んあぁぁぁ~~~~…………。やばいぃぃぃ……。連日の徹夜の所為で、眠気が……。
………………むにゃ。
「安心しきった顔……。いくら大人びているとは言っても年相応な所もあるのですね」
「そのようです。私は独り身なので、子を持つ親の気持ちは分かりませんが、それでも見ていてとても胸が暖かくなります」
「……ハッ!!」
向かいから聞こえてきた声に我に返る。やべえ! 寝ちゃってたよ!
今は依頼中だぞ! しかも目の前には王女様! そんな状況で寝落ちなんて、プロ意識の欠片もない事をやらかす訳には……!
「ああ、起きちゃいました」
「可愛らしい寝顔だったので、少々もったいないですね」
王女様とサーガさんから向けられる微笑ましい物を見る視線にいたたまれなくなり、俺はいつの間にかメリアさんに寄りかかっていた体を起こす。
だが、少し体が離れた所で何故かメリアさんに肩を掴まれ、そのまま引っ張られてしまった。
寝起きで体に上手く力が入らなくなっていた俺は全く抵抗できず、そのまま横倒しに。膝枕の状態に移行してしまった。
慌てて起き上がろうとするが、メリアさんに目を覆うように手を置かれあっさり妨害される。くっ! 力比べでメリアさんに勝てる訳がない……!
「すみません。この子、最近働きづめで、ここ数日は全く寝れていないんです。私がこの子の分まで働きますので、少しだけ眠らせてあげられないでしょうか?」
程よい弾力を片頬に感じる中、頭上から聞こえてきた言葉に耳を疑った。
いやいやいや! それはダメでしょう!? 常識的に考えて許されざる事だよ!?
…………っく! まじで起き上がれない! ふんわりと手が乗せられてるだけのはずなのに、なんでだ!?
「そうだったのですね……。それは悪い事をしました。サーガ、どうでしょう。少し寝かせてあげてもいいのではないでしょうか」
「はい。まだ出発したばかりで危険もありません。短い間でしたら問題ないかと」
「ありがとうございます。……だってレンちゃん。じゃあお言葉に甘えて、ちょっとお休みしようか~。ほいっと」
王女様とサーガさんから許可を取ったメリアさんは、軽い掛け声と共に横倒しだった俺の体を転がし、仰向けの体勢に移行させる。俺は相変わらず抵抗できず、されるがままだ。なんだこれ。なんで抵抗できないんだ!? 合気道的なサムシングなのか!?
「いやだから、そういう訳には……ちょ、やめて、頭撫でないで。それダメ。ほんとに落ちちゃ…………ふにゃぁ」
せめてもの抵抗として声を上げるが、メリアさんに頭に感じる気持ちよさに一瞬で敗北する。
連日の徹夜で疲れ気味だった目が手の平で覆われ、暗闇に落とされると同時、じんわりと暖められる。
寝不足で軽い頭痛を起こしていた頭は優しく撫でられ、頭から全身へと安心感と多幸感が広がっていく。
ああ……。これは、耐え、られ……ない………………。
いや、ダメだ、耐えなければ……。耐えろ……耐え………………。
「おお……。頭を撫でた途端に全身の力が抜けました……すごい」
「メリアさんの事を信頼しているという事もあるのでしょうが……何か魔法でも?」
「そういうのではないです。私、魔法は使えませんし。単純に子供の扱いに慣れてるだけですよ……」
意識が心地よい闇に完全に飲まれる直前、優しい声が頭上から降り注ぎ、耳から染み込んできた。
「……おやすみ、レンちゃん」
…………ぐう。
お読みいただき、ありがとうございます。
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