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第189話 侯爵様の奥様と軽くお話した。馬車に乗り込んだ。

先週は失礼しました。投稿を再開させていただきます。

「殿下、出発の準備が整いましたので、馬車へお乗りください」


 王女様の、あまりにも一般人とはかけ離れた様子に慄いていると、どこからともなく女性が近づいてきて、王女様に馬車への搭乗を促した。

 あ、この人見た事ある。王女様に給仕している時に、王女様の後ろに立ってる二人の内、マトモな方の人だ。名前は、えーっと………………あれ? 分からんぞ? ド忘れ? 単純に聞いた事がない? どっちだ? 後者ならいいけど、前者だと超失礼だぞ?


 目の前の女性の名前が分からない、という事実に俺は恐怖を覚えたが、それとほぼ同時に、さらに衝撃的な気づいてしまった。


 俺、奥様の名前も王女様の名前も……知らない。


 うわー、まじかよ。初対面って訳じゃないんだぞ。やべえ俺。もうちょっと興味持て俺。つーかまず落ち着け俺。深呼吸――――は、目の前に人がいるこの状況では出来ないから、なんでもいいから別の事を考えるんだ。えーと、えー--と……。


「あら。もうですか? もっとお話がしたかったのですが……」


 俺が内心焦り散らかしていても時間は止まってくれない。名称不明の女性騎士さんの言葉を聞いて、王女様はあからさまに落胆した様子を見せるが、それを見た騎士さんは柔らかい微笑を浮かべながら言葉を続けた。


「ご安心ください。この二人は殿下のご希望通り、馬車の中で殿下の護衛を務めます。積もるお話は馬車の中ですればよろしいかと」


「まあ! そうですのね! それなら、馬車の中でゆっくりお話が出来ますのね!? では早く出発しましょう! うふふ! 楽しみですわ!」


 騎士さんから、俺達が同じ馬車に乗る事を聞いた王女様はテンションが急上昇。居てもたってもいられないとばかりに、すぐ近くにも関わらす小走りで馬車の前に向かう。それを見た騎士さんは、浮かべていた笑顔をちょっと困った物に変えつつ、その後に続いた。


「ウフフ。殿下、あなたたちとお話するのがよっぽど楽しみだったみたいですね」


 騎士さんと王女様が俺達から離れる中、一人その場に残った女性――――侯爵様の奥様は、騎士さんにドアを開けてもらって馬車に乗り込む王女様の後ろ姿を、母性に溢れる微笑みを浮かべてそう言ってから、顔を俺達の方へと向け直した。


「かく言う私もそうなんですよ? 仲良くしたいと思っていましたが、屋敷へいらしていた時は、夫からの依頼という事でお話は出来ませんでしたからね。……改めまして、プロフィル王国侯爵、ジルベルト・オー・イースの妻、サフィア・ファス・イースです。メリアさん。レンさん。これからよろしくお願いしますね」


 奥様――――サフィア様はそう言って、慈愛に満ちた笑顔を俺達に向けてきた。


 そんなサフィア様、この世界の例に漏れず超美人である。


 可愛らしい丸顔に、整った鼻梁と少し厚めの唇。深い青の瞳は海のように大きな包容力を秘めており、はしばみ色の長い髪は綺麗に結い上げており、柔和な雰囲気と良く合っている。

 なんというか、理想の〈ママ〉という感じ。


 そんなママみ溢れるサフィアさんではあるが、その雰囲気にそぐわず、見た目はかなり若い。メリアさんの見た目年齢よりちょっと上、二十台半ばくらいに見えるのだ。これでいい年した息子がいるとか、俄かには信じ難い。


 ……いや、実際に若いのかもしれないな。貴族の女性の結婚って、すっごい早かったりするらしいし。

 むしろそうであってくれ。見た目詐欺はメリアさんだけで十分だ。


(私だって好きでこんな見た目してる訳じゃないからね? まあ、若く見られるのは素直に嬉しいけどさ)


(心読まないでよ)


(あんな目で見られたら誰でも分かるって。というかレンちゃんが表情に出すぎなんだよ)


 いや、本当に一瞬だけ、チラッと視線を送っただけなんですが? その一瞬では普通そこまで読み取れないと思う。


 メリアさんから【念話】に釈然としない気持ちを覚えていると、そんな俺の気持ちなど露知らず、というか絶対気づいているにも関わらずガン無視して、サフィアさんと会話を始めた。


「私たちも同じ気持ちです。奥様」


「サフィアでいいですよ。これから暫しの間、寝食を共にするのです。あまり肩肘を張っていると疲れてしまうでしょう?」


「ありがとうございます。サフィア様」


「それでは、そろそろ私たちも馬車に乗りましょうか。殿下も待ちくたびれているようですし」


 サフィアさんの言葉に馬車の方を見ると、ドアに取り付けられている窓から王女様が顔を出して、物欲しそうにこちらを見つめていた。

 あー、あれは口にこそ出していないけど、確実に『あなた達が乗らないと出発出来ないでしょ! 早く乗って!』と言っているな。

 そんな年相応な態度にホッコリしつつ、俺達はそれぞれサフィアさんの両隣に移動して、馬車への短い道のりをエスコートした。一応護衛だからね。それっぽい事しとかないと。


 ……


 …………


 当たり前の話ではあるが、サフィアさんが馬車に乗るまでに何も事件は起こらず、無事に全員が馬車の座席に座る事が出来た。


 馬車には向かい合わせで二列の座席があった。それは長いソファのようになっており、間に手すりはない。一人当たりのスペースが限られている訳ではないらしい。


 サフィアさんを先に乗せ、後から俺達が馬車に乗り込むと、入口から見て右側奥から王女様、サフィアさんという順番で座っており、左側には、一番手前に騎士さんだけが座っている。騎士さんが手前に座っているため、俺達はその前を通って奥に向かわなくてはいけないのだが、中央部はスペースが広く取られており、前を通るのに足をぶつけたりする事はない。

 なんとなくメリアさんが一番奥、俺は騎士さんとメリアさんの間に座った。深い意味はない。ないんだけどさ。


 いや、普通こういうのって、王女様とサフィアさんの周りを護衛で取り囲むもんじゃないの? 絶対その方が護衛しやすいでしょ。


 そんな考えが表情に出ていたらしく、騎士さんが説明をしてくれた。


「通常ですと、殿下と奥様それぞれの両側に護衛が陣取った方が護衛しやすいのですが、この馬車だけは別です。お二人が座っている座席の周囲は他の部位より格段に頑丈に作られていて、生半可な事ではびくともしません。ですので我々護衛はお二方の前方に密集し、前方の防備を固めた方が総合的な防御力が高まるんですよ。…………本当は、馬車全体を同じくらい頑丈に作る事が出来れば良いのですが、それだと重くなりすぎて馬が引けないらしいので、このような使い方になっています」


 はー、なるほどねー。昔の戦艦にも似たような思想があったって聞いた事があるな。バイタルパート、だっけか。

 重要区画だけを特別強固に作るって考えは、時代も世界も関係ないんだなあ。


 俺達が座席に座った事を確認した騎士さんは、おもむろに窓から手を出した。すると大して間を置かず、馬車がゆっくりと動き出したのを感じた。出発の合図だったらしい。


 窓から出していた手を引っ込めた騎士さんは何故か、メリアさんと俺の方を見ながら口を開いた。


「お二人は、必要に迫られない限りこちらの窓には近づかないようお願いします。外とのやり取りは私が行いますので、何かありましたら言ってください」


「え? 俺達ですか? 王女様達ではなく?」


 普通それって、護衛対象に言うもんだろ。なんで護衛である俺達にそれを言うんだ?

 俺の質問に対し、騎士さんは至極真面目な表情と口調で一つ頷いてから口を開く。


「はい。当たり前ですが、この馬車は全周囲に近衛が並んで護衛されています。そして、この馬車に最も近い位置には、近衛の中でも優れた実力を持つ者が割り当てられており、扉という一番の急所には、近衛の中でも最強の者を割り当てています。つまりそういうことです」


 説明された内容自体は理解できる。至極当たり前の事しか言ってないからね。でも最後が分からん。

『そういうことです』とか濁して言われても、それで察せる程近衛の人達に詳しくないんですが?


 俺が首を傾げると、騎士さんは苦笑いを浮かべながら言葉を続けた。


「内側には、恥ずかしながら今回同行している近衛の中で二番目の実力と言われている私サーガが。外側には一番の実力者であるリンデが付いています。つまりリンデはこの扉のすぐ側にいるのです。……ここまで言えば分かっていただけますでしょうか」


「「あー…………」」


 なるほど、そういう事か。理解した。つまりリンデが俺達を見て失禁&失神コンボを決めないよう、俺達を馬車に缶詰にするって事だな。


「ご理解いただけたようで何よりです。ご不便お掛けしますが、よろしくお願いします。食事や休憩の際はリンデを別の担当に割り当てて馬車から離しますのでどうぞご容赦ください」


 俺達の反応で理解したことを察したらしく、騎士さん改めサーガさんは頭を下げた。


 サーガさんは申し訳なさそうだが、俺としてはぶっちゃけ大したダメージはない。


 まあ、外を見た所で、旅の中で目に映るであろう光景は、見渡す限りの森や平原等の大自然。でっかい街等に入るんであれば、ちょっと風景を眺めてみたい欲はあるが、それくらいだ。


 視界一面の大自然、というのは、前の世界では一応都会に住んでいた身からすればそこそこに珍しく、興奮する光景ではあるのだが、こっちの世界に来てそこそこ経った今では大した感慨もない。ぶっちゃけ見飽きた感まである。


 そんな事より。


 よし! これでこの場に居る全員の名前が分かった! ボロが出る前に分かって良かったー!

お読みいただき、ありがとうございます。


作者のモチベーション増加につながりますので、是非評価、感想、ブクマ、いいね! の程、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] レンちゃん移動中に絶対に一度は王女様と奥様の膝の上に乗せられそう
[一言] リンデはまだ居たんか、騎士辞めて田舎に帰ったかと思ったw
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