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第187話 なんか呼び出しがかかった。

 少ないレパートリーから無理矢理捻りだした末に作成したコンニャク料理。コンニャクステーキ。


 最初こそ、その独特な触感により、皆忌避感を感じていたようだったが、俺の記憶や知識を中途半端に継承されてい一部メイド達は、その断片的な知識によってコンニャクのダイエット効果を曲解。食べるだけで痩せられる魔法の食材として周知した。


 その結果、メリアさんや俺の魂を与えていないメイド達、果ては子供達まで、競うようにコンニャクステーキを貪るという事態に陥った。


 その後、全員が目の前のコンニャクステーキを食べ終わったタイミングを見計らって、コンニャクのダイエット効果について改めて説明(食事中にも説明したが、聞く耳をもってもらえなかった)。なんとか誤った認識を修正する事に成功した。


 しかし、『コンニャクがダイエットに効果的である事は変わらない!』との事で、屋敷の食事に定期的にコンニャクを使ったメニュー取り入れる事となってしまった。レパートリーないのに……!


 そんな小さな事件が発生した翌日。


 コンニャクの定期購入が可能か確認する為、商業組合に向かった帰り、俺宛に【念話】が届いた。


(レン様。サツキアル)


 皐月から? 皐月って確か今日は〈鉄の幼子亭〉のシフトだよな? 店でなんかあったのか?


(ん? どうかした? 店で何か問題?)


(そういうのじゃないネ。さっき、領主様の使いって人が来たヨ。『依頼の日程が決まったので、侯爵家に来てほしい』って伝えてほしい、って言われたアル)


 ………………………………?


(あ、うん。了解。ありがと)


(どういたしましてヨ。あーもー! 相変わらず〈鉄の幼子亭〉は忙しすぎネ! 目が回るヨ! ……サボッてレン様の所に行っていいアルか?)


(ダメ)


 いい訳ないだろ。そんな事、経営者に向かって堂々と言うんじゃないよ。


(やっぱりダメアルかー……。じゃあせめて、頑張れるように応援してほしいアル!)


 応援て。いやまあ、その程度で頑張ってもらえるなら、いくらでもやってあげるけどさ。


(皐月! がんばって! 皐月は出来る娘だって、俺は信じてるよ!)


 ……うん。まあなんだ。本当はもっといい感じのセリフを言おうと思ったんだけど、何も思い浮かばなかったわ。

 さすがに、こんな月並みなセリフじゃあ、皐月も許してくれ――――


(ふおおおおおおお!!! レン様から労いの言葉をもらったアル! これで元気億倍ヨ! ガンバルネー!)


 めっちゃテンション上がってる。嘘。あれでいいの? マジで?


(あ、うん。がんばってね……)


(任せるネ! じゃあサツキは仕事戻るアル!)


 テンションマックスな皐月との【念話】を終え、頭の中に皐月の声が響かなくなった所で、俺は一息吐いた後、大きく首を傾げた。

 とりあえず、絶賛〈鉄の幼子亭〉で仕事中の皐月の手を長時間止めるわけにはいかなかったので、知った風を装ってみたが……。


 侯爵様? 依頼? はて? なんか受けてたっけ? まじで記憶にないんだが。


「ん? どうしたのレンちゃん。いきなり首傾げたりして」


 そんな俺の様子を見て、メリアさんが何事かと尋ねてきた。隠すような事でもないので正直に話す。


「うん。今皐月から【念話】が来たんだけど、侯爵様の使いが来て、依頼の日程が決まったから、お屋敷に来てほしいってさ」


「ああ、それの事かあ。へー、もう決まったんだ。思ったより早かったねえ」


 え? なにその反応。俺の想像と違うんだけど。てっきり俺と同じく『依頼? なんの事?』って返ってくると思ってたのに。


「え。知ってるの……? あれか? 俺がいない間に受けたとか……」


「私とレンちゃんが別行動するなんて、最近ほとんどないでしょ。忘れたの? ほら、領主様の奥様と……ゴニョゴニョ……が王都に向かうのを護衛するって奴」


 …………………………ピコーン!!!


 ピコーンと来た! マンガやアニメだったら、頭の上に電球が浮かんで見えるくらいピコーンと来たよ!


「あーあーあーあー! 思い出した思い出した! そういやそんなんもあったなあ! 素で忘れてたよ!」


 そんな俺の、あんまりと言えばあんまりな反応に、メリアさんは心底呆れた表情を浮かべる。


「いや、普通忘れないからね? 相手は領主様の奥様と……ゴニョゴニョ……なんだから。すっごい名誉な事なんだよ? 本当なら、私たちみたいな庶民じゃあ、近づく事すら出来ないようなお方なんだから」


 いやまあ、そこらへん、頭では理解してるつもりなんだけどね? まだいまいち実感が沸かないというか。まだ、前の世界の感覚を引きずってるみたいだなあ。実際に会うと緊張するんだけど。


 そして、外だからなのかメリアさんはゴニョゴニョと誤魔化してるけど、この依頼、侯爵様の奥様の護衛っていうのは建前で、本当は王女様の護衛だからね。しかも離れた場所からの護衛じゃなくて、すぐ近く。まじ意味わからん。もっと身元がしっかりした人にしなよ。


 侯爵様からは、王女様に気に入られてるって聞いたけど、なんでそうなったのか皆目見当もつかない。

 なんてったって俺達二人して、近衛をぶっ飛ばしてるからね。憎まれたり怖がられたりする可能性こそあれど、気に入られるような事態にはなり得ないと思うんだが……。


「えへへ……。まあとりあえず、外でやる用事は終わってるし、これから向かってみる?」


「笑って誤魔化した。可愛いから良いけど。そだね。こういうのは早めに動いた方がいいだろうし、早速向かおうか」


 うーん。可愛いって便利。チョロいぜ。


「なんか言った?」


「イエナンニモ」


 全然チョロくねー! 心読んでくるの忘れてたああああ!!


 ……


 …………


 商業組合から出た足でそのまままっすぐ侯爵様のお屋敷に向かった俺達は、ちょっと顔色が悪いハンスさんの先導で応接室に通された。


 応接室のソファにはすでに侯爵様が座っており、ハンスさんよりさらに悪い顔色で、俺達に座るように促した。


「えーと…………大丈夫ですか?」


 促されるままに侯爵様の向かいのソファに座った所で、俺より先にメリアさんが口火を切った。

 俺もそれ、全く同じ事聞こうと思った。

 いやだって、侯爵様まじヤバイって。

 顔色は土気色だし、目の下の隈はすごいし、髪の艶もない気がするし、肩は丸まってるし、服もなんかよれてる気がするし。

 十人が見たら十人とも同じ質問するよこれ。


「大丈夫そうに見えるかね?」


 そんなメリアさんの質問に対し、侯爵様は質問で返してきた。いやまあ、質問の形を取っているだけで、ガッツリ回答なんだけどさ。


 ズバリ『全然大丈夫じゃない。死にそう』だ。


「いえ、全く。出直しましょうか?」


「いや。出直してもらったとしても、どの道休む事は出来ないからな」


 俺からのリスケの申し出に、侯爵様は心底疲れた笑みを浮かべた。

 なるほど。まだまだ仕事は残っていると。だったらこの話は速攻で終わらせて、お暇するのがベストだな。

 って事で話を進めよう。


「承知しました。では。〈鉄の幼子亭〉に使いを送っていただいたようですが、以前お話をいただいていた、依頼の件で間違いないですか?」


「その通りだ。出発の日取りが決まった」


「なるほど。いつでしょうか」


「三日後だ」


「「……はい?」」


「申し訳ないが三日後だ。三日後に出発する。諸々調整したのだが、この日しか都合がつかなかった……」


 ガックリと項垂れる侯爵様。その後ろでは、ハンスさんもしんどそうな表情で立っている。


 あー……。これはあれだ。本当はもっと余裕を持ったスケジュールで組みたかったけど、先方の都合で滅茶苦茶前倒しになって、現場が地獄になってるやつだ。何回か経験あるわ。オーケーオーケー。


「承知しました。では三日後の朝方に、こちらにお伺いすればよろしいですか?」


 質問をするでなく、サクサクと話しを進めようとする俺に、侯爵様は驚きの表情を浮かべつつも、俺の質問に答えてくれた。


「あ、ああ。それで大丈夫だ。冒険者組合への依頼は今日中に出しておくから、明日にでも受けてくれ」


「ありがとうございます。話は以上でしょうか? それでは俺達は失礼しますね。……ほら。おねーちゃん、いくよ」


「え? え、あ、うん。いや、ちょ……。ええぇぇー……」


 展開に付いていけず混乱しているメリアさんの手を引いて、俺はさっさと応接室から退室する。


 この状況で俺達が出来る事。


 それは一秒でも早く話を終わらせて、侯爵様を拘束する時間を短くする。

 そうすれば、侯爵様は仕事に回す時間を多く取れるし、結果的に仕事が早く終わる。そんで休む事が出来る。

 疑問とか困惑とか、もちろん色々あるけど、今はそういう事は飲み込んでしまおう。


 問題は、急ぎすぎたあまり、ちょっと、いや結構無礼な行動を取ってしまっている事だが……。


「………………すまない。ありがとう」


 うん。さすがは侯爵様。分かってくれたみたいだね。

お読みいただき、ありがとうございます。


作者のモチベーション増加につながりますので、是非評価、感想、ブクマ、いいね! の程、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 元気が出る食べ物でも差し入れてあげよう…… ↓この世界でもこんにゃくが広がればダメな使い方する奴も出てくるんだろうなぁ
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