第186話 コンニャク料理を出したら戦争が起こった。
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さて、試食兼夕食としてこんにゃくステーキ(っぽい何か)を作ったはいいが、メニューがこれだけだとさすがに可哀想だし、俺自身も物足りない、という事で、追加で何品か料理を作った後、俺達は食堂へ向かった。
「お。おかえりなのじゃ。クンクン……。ふむ。そなたらの体から美味そうな匂いがするという事は、そろそろ夕食の時間かえ? 丁度良かったのじゃ。いい加減何か摘まむ物が欲しかった所だったんじゃよ」
「おかえりなさいませ。レン様、主。他の者を集めますね」
食堂にはすでにルナと狐燐がおり、狐燐の手には陶器製のカップ。ルナは酒瓶を持っていた。二人とも前には何も置かれていない。
アルコールの匂いが食堂に充満しており、かなりの量、または時間飲み続けているであろう事が伺える。手に持ったカップの中身も酒だろう。
まあ九分九厘、飲んでいるのは狐燐だけだろうが。
そして、こんなアルコール臭漂う中、それなりに離れた俺達の体に付いた料理の匂いを嗅ぎ分けるとか、どんだけ鼻がいいんだよ。さすがは狐。
「のうのう。そなたらからも言ってやってくれんか。こやつ、妾がいくら言っても一緒に飲んでくれんのじゃ。酒というのは皆で飲むのが楽しいというのにのう」
「仕事中ですので」
「しかも、摘まむ物も出してくれんし」
「食材の浪費はルナの一存では決められませんので」
「だそうじゃ。全く、こやつ、こんなに固かったかのう。……のう。今浪費って言わなかったかの? 妾に食べ物を供するのは浪費なのかえ?」
「…………お手伝いできず申し訳ございません。コリン様にお酌を頼まれてしまいまして……」
「そこで無視かえ!? な、何を怒っておるのじゃ? のう、妾、何か悪い事したかの?」
「…………」
「そ、そんなゴミを見るような目で見ないで欲しいのじゃ…………」
おおう、ルナ激オコだなあ。大方、仕事中のルナを狐燐が呼び止めて、強引にお酌をさせたんだろう。素面で酔っ払いの相手ってだけでストレスなのに、仕事を中断させられたんだとしたら、怒るのも頷ける。俺だったら怒鳴っちゃうかもしれない。
そろそろ、何か対策を取らないといけないかもしれないな。後でメリアさんと話そう。
そんな、静かにキレているルナに手伝ってもらい、ひとしきりオロオロした後、ションボリと項垂れてしまった狐燐を放って料理をテーブルに並べていく。ちょっとは反省しやがれ。
だがそれも長くは続かず、コンニャクステーキを出した途端、狐燐は頭と同様に力なく下がっていた耳をピンッと立てながら、勢いよく顔を上げた。
「おお! 新しい料理か! 今回はどんな美味を味わえるのかのお。楽しみじゃあ……」
その様子を見たルナは、一瞬だけ眦を吊り上げた後、気を落ち着かせる為か大きく深呼吸をした。爆発しそうになった怒りを飲み込んだらしい。
…………後で労ってあげよう。そうしよう。あのままだとルナが壊れちゃいそうだ。
そんなやり取りをしている内に、他のメイド達や子供達が続々と食堂に集まり、程なく全員が席に着いた。この場にいないのは……マリとオネットか。
確か今日は、マリが〈鉄の幼子亭〉の警備だったな。って事はオネットは屋敷内の警備中か。ご苦労様です。
ま、マリもオネットも食事自体必要ないから、この場にいても意味がないし、来ないのも仕方がないな。
「よーし、全員いるっぽいかな? 今日は新しい食材が手に入ったからそれを使った料理を食べてもらおうと思いまーす。無理して食べ切らなくてもいいけど、出来れば一口は食べて感想を教えて欲しいな」
「最初はビックリすると思うけど、ちゃんと食べ物だって事はレンちゃんが食べて確認してるから安心してね」
食事の開始前に全員に向けて声を掛けると、メリアさんが補足を入れた。いや、メリアさん食べてないじゃん……。あ、だから『レンちゃんが食べて』って言ったのか。
「ほう? ご主人がそんな事を言うなんて珍しいの。…………なんじゃこれ? 何かの肉かと思っておったが、なんかグニュグニュしてるのじゃ。匂いは美味そうじゃが、微妙に気持ち悪い感触じゃの…………」
メリアさんの注意事項に、真っ先に狐燐が反応し、目の前のコンニャクステーキをフォークで突っつき、その触感に嫌そうな表情を浮かべた。他の大半のメンバーも、全員似たり寄ったりの反応を示している。
ふーむ。やっぱり触感がネックか。メリアさんが触った瞬間にぶん投げるくらいだし、こっちの世界ではそうそうない感触なんだろうなあ。
「レン様……。こ、これはまさか、コンニャク、ですか?」
そんな中、他は違う反応を示す者がいた。ルナだ。
ルナ以外にも、数人――睦月・如月・弥生・卯月・皐月――が、ルナと似たような反応を示している。
「え? ルナ、なんでコンニャクの事を知って…………ああ、なるほど。そういう事か」
一瞬、ルナがなんでコンニャクの事を知っているのか疑問に思ったが、すぐにその理由に思い当たった。
あれだ。ルナは俺の魂を分け与えてるから、俺の記憶や知識をある程度持っている。つまり前の世界の事もそれなりに知識として持っているという事だ。その知識の中にコンニャクの事もあったんだろう。
そして、ルナと似たような反応を示しているメンバーも、よくよく見れば全員が俺の魂を分け与えた娘達。
なるほどねえ。魂を分け与える事で共有される記憶って、結構幅が広いんだなあ。
「これが! 食べれば食べる程痩せるという究極食材、コンニャクなのですね!」
「……ん?」
興奮する事しきり、といった様子で叫んだルナに、残りの魂を分け与えられた組……長いな、転生組でいいか。
転生組が次々と声を上げていく。
「これがコンニャクッ! 夢にまで見た食べ物ですっ!」
「記憶の通りだお! これさえ食べれば、他の料理をいくら食べても太ったりしないお!」
「屋敷の料理……美味しすぎて食べすぎちゃうから、朗報…………!」
「助かるわぁ。自制するのも、そろそろ限界や思うとったんやわぁ」
「さすがレン様! 最高アル! 大好きネッ!」
いやちょっと待って!? コンニャクにそんな効果ないからね!? 確かにコンニャクにはダイエット食品って一面もあるけど、それはあくまでコンニャク自体のカロリーが低いからであって、コンニャク食っときゃいくら暴食しても太らない夢の食材って訳じゃあ……っ!
くそ、知識がすげえ中途半端に継承されてる! これなら全くの無知の方がいいんじゃないか!?
つーかお前ら全員全く太ってねえじゃねえか! ダイエットの必要なんて微塵もねえよ!
「いや、ちょ――――」
「レンちゃん」
誤った情報に踊らされ、勝手に盛り上がっていく転生組に焦った俺が否定の言葉を掛けようと口を開いた瞬間、それをさえぎるようなタイミングで真横から声を掛けられた。
「な、何……?」
「なんで、そんな、重要な、話を、教えて、くれなかった、の?」
強調するように一語ずつ区切って話すメリアさんの表情はにこやかだったが、何故だろう、俺にはその笑顔が非常に恐ろしく見えた。
「いや、あのね? べ、別にコンニャクにそんな効果は――っていねえ!?」
メリアさんから発せられる圧に、しどろもどろになりながらも真実を伝えようとしたのだが、その時にはメリアさんは目の前にいなかった。
「ガツガツガツガツ……」
転生組の悲鳴に慌てて首を回すと、そこには一心不乱にコンニャクステーキを頬張るメリアさんの姿。
ええええ!? 俺、目離してないのに!? 何? 瞬きの瞬間に移動したの!?
「主!? 挨拶もまだですよ!?」
「ああっ! ずるいです主っ! ムツキも食べますっ!」
「早く食べないとなくなっちゃいそうだお……!」
「急ぐ……!」
「あらぁ。主があんなにガッツくなんて、珍しいわぁ。そやけど、気持ちは分かるわぁ」
「サツキも食べるネ! コンニャク食べて可愛くなって、レン様に褒めてもらうヨ!」
「アタシも! アタシも食べる……!」
そして、それを追うように慌てて食事を開始する転生組。そしてマリアさん。
「……いや、おぬしら、誰一人太ってなどおらんではないか。何故痩せようなどと思うのじゃ。意味が分からん」
「儂もそう思うんだが……女心というのはいまいち良く分からん」
半ば戦争のような様相を呈する食堂を見て、オーキさんと狐燐が呆れた声を上げるのに、俺は無言ながら激しく同意を示した。
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