第185話 コンニャクを使った料理を頭から絞り出して作ってみた。
「あー、つっかれたあ……。今日はもうなんにもしたくない…………」
「お疲れー」
現在、俺とメリアさんは屋敷の自分たちの寝室にいた。
怪しさ満点な上に無駄にうるさく、でも有能そうな商業組合の職員さんから新しい食材を購入、そそくさと建物から出て人目のない所で【いつでも傍に】を発動。今に至る。
いやまあ、職員さんとの交渉とか、デートのお誘いとか、色々あったんだけどね? そこは長くなるので割愛、という事で。
おかげでメリアさんはヘトヘトで、着替えもしないままベッドに突っ伏してしまっている。お疲れさまでした。
話す内容自体は俺が考えてたんだけど、交渉と関係ない事はメリアさん自身で答えてもらってたからね。疲れ果てるのもしょうがない。あの職員さん、すげえ攻めて来てたし。
そんなメリアさんの精神的疲労を犠牲にし、俺はコンニャクをゲットした。今の所、『多分』コンニャクって感じだけど。
今回購入したコンニャクは小さめの樽一個分。普段と違い、そこまで大量には購入していない。
まああれだ。俺、コンニャクを使ったレシピのレパートリーがあんまりないんだよね。あったとしても豚汁やオデン、田楽くらいなもんだ。
豚汁と田楽は、現在味噌が在庫切れなので作れない。
オデンはなんとかなるかもしれないけど……。洋風オデンなんて作った事がなくて、材料に何が必要なのかサッパリ分からない。第一、洋風オデンにコンニャクなんて入れんの?
「あー、でも、夕食の準備しなくちゃ……。そういえば、今日の夕食はその、コンニク、だっけ? それを使うんだよね? 私、役に立たなくない?」
「コンニャク、ね。役に立たないなんて事はないけど、まあ今回は俺が作るよ。おねーちゃんには頑張ってもらったしね。ちょっとしたお返しって事で」
「交渉の内容は、全部レンちゃんが考えてくれて、私はその通りに喋ってただけだけどねえ……。でも、今回は有難く受け取る事にするよ…………。で、今日はどんな料理になるの?」
相変わらず疲労を滲ませつつ、しかし好奇心に瞳をキラキラとさせながらメリアさんが尋ねてくる。
だからそんな目で俺を見るなと。俺の料理は所詮、独身男の雑な手料理。美味しいのは前の世界の食事情がこっちの世界より栄えていて、そういった情報を手に入れる手段が豊富に存在したってだけの事。事実、手間のかかる料理作ってないしね。
そして、今回はそんな所謂知識チートも役に立たない。
こういうとき、猛烈にスマホやパソコンが欲しくなるなあ……。
「うーん…………そこなんだよなあ。組合でも軽く言ったけど、コンニャクを使った料理がなかなか思いつかなくてさ……。あー、どーっすかなー」
俺のイメージでは、コンニャクってそれ自体がメインではなくて、その独特の食感で料理にアクセントを加える物だと思ってるから、レパートリーが非常に少ないのだ。皆無と言ってもいいかもしれない。
思い出せ。思い出すんだ藤崎蓮。コンニャクをメインに据えた料理を。
コンニャクは昔ながらの食材。絶対に何かあるはずだ。作った事はなくても、どっかのサイトとか何かの本で呼んだ事はあるはず!
………………………………………………あ。
「あー…………。うーん…………どうなんだろコレ」
「お? 何か思いついたの? 楽しみだなあ!」
いや、思いついた事は思いついたけどさ。口の中で呟いただけの独り言をキッチリ聞き取るの止めてくれない?
しかもコレ、マジで作った事なくて、ネットでちょっと見たことあるくらいの知識しかないんだが…………。
「あーもー! 分かった! 作りますよ! でも先に言っておくけど、今回の料理は作った事はおろか、食べた事もない奴だからね!? 大して美味しくなくても文句言わないでよ!?」
「あーはいはい。分かったよ。文句なんて言わないって」
絶対分かってねえ!? 返事が滅茶苦茶おざなりじゃねえか!
……
…………
メリアさんからのプレッシャーを受けつつ、厨房に移動した俺。
完全初見の料理を、人に振る舞う為に作るとか、気が重いったらない。
だからといって手を抜いたりはしない。いや、初見だからこそ、可能な限り美味しく作れるように努力するのみだ。
俺は気合いを入れる為、両手で頬を挟むように叩く。柔らかい触感と共に、パチン! という乾いた音が厨房に響いた。
「おー、気合い十分だねえ。楽しみ楽しみ」
「…………いや、なんでいるのさ」
「何言ってるの? 一緒に来たでしょ?」
うん。それはそうなんだけど。一緒に居るのが当たり前になりすぎて、厨房に着くまで疑問にすら感じなかったけど。
俺が聞きたいのはそういう意味じゃなくてね?
「疲れたから休んでるんじゃなかったの?」
「そのつもりだったんだけどねえ。レンちゃんがどんな料理を作るのか気になっちゃってさ」
やめてください。そんなピカーッとした笑顔を向けないでください。俺、灰になっちゃう。
「…………まあ、いいけど。でも厨房に来てるからには手伝ってもらうからね?」
「りょーかーい。簡単なのでよろしくね?」
そこは問題ない。ノウハウがないので、どっちみち簡単な物しか作れないから。
という訳で、調理開始だ。
まずはコンニャクのアクを抜く…………んだったよな。
えーと、コンニャクは表面がツルツルしてて、味が染み込みにくいから凸凹を作らなくちゃいけないってなんかで読んだ……気がする。
凸凹を作る方法はいくつかあるが、今回選ぶのは――――
「という事で、早速お仕事です。このコンニャクを一口大にちぎって、ここに入れて」
「あはは。容赦なく使ってくるねえ。まあそれくらいなら私にも出来るかな…………わあ!?」
「!? ちょ!?」
コンニャクを手に取ったメリアさんは、次の瞬間に叫び声を上げて――コンニャクを放り投げた。
突然の奇行に俺は固まったが、一瞬で復帰。【身体強化Ⅱ】を足に使用して高速ダッシュ。宙に浮いたコンニャクをキャッチした。良かった、床に落ちなくて。
「ちょっと! 何ぶん投げてるのさ! 食べ物を粗末にするな!」
「グニッて! グニッてしたよ!? 冷たくて、柔らかくて、でも固くて……それ本当に食べ物!?」
俺は割とマジで怒って声を荒げたが、メリアさんはそんな事お構いなしに、先ほどコンニャクを掴んだ手を見つめながら叫ぶ。
あー。なるほど。初めてコンニャクを触ったらああいう反応になるのか。確かに、色々独特だからなあ。
自分の中で回答を見つけた事で、怒りが沈静化した俺は、手に持ったままのコンニャクを元の場所に戻しつつメリアさんの問いに答えた。
「もちろん食べ物だよ。でも確かに、初めて触ったらビックリする感触ではあるかもね。作業は俺がやるから、おねーちゃんはそこで見てて」
「う、うん…………」
俺からの事実上の戦力外通告を受け、目に見えてションボリしたメリアさんは、大人しく厨房の端に置いてある椅子に腰かけた。厨房から出る気はないらしい。まあいいけど。
さて、気を取り直して、ちぎっていきますか。初めての食材だし、メリアさんの反応を見る限り、そこまで評判は良くなさそうだな。少な目にしておくか。
まあ、少な目とはいっても我が家は大家族。一般家庭とは食材の消費量が桁違いな訳だけど。
ま、ここはひたすらコンニャクを毟っていくだけだ。無心にやろう。
……
…………
「………………あん?」
新しいコンニャクを取ろうとした手が空を切った事で、俺は我に返った。
気づけば未処理のコンニャクは姿を消し、その逆サイドには、一口大にちぎられたコンニャクが山を築いていた。
おおう。まじで無心でやってしまった。単純作業ってこういう事あるよね。どれくらいやってたんだろ。時間の感覚もなくなってたな。念のため、ちょっと急いだほうがいいかもしれないな。
続いては…………えーっと、塩揉み、だったかな。その後は下茹でするから平行して湯も沸かしておこう。
山になった一口コンニャクにパラパラと塩を振る。かなり量が多いので、塩の量もそれなりに。
そんで、全体に塩が行き渡るように軽く揉んで、ちょっと放置。湯が沸くのを待つ。
湯が沸いたら、そこにコンニャク投入。塩は付いたままで良かったはず。んで、数分茹でるっと。
茹で終わったら、水に浸けたりせず、そのまま水切り。これで下処理は終わり……だったと思う。
しっかりと水が切れたら、いよいよ本格的な調理を開始する。
底の浅い鍋に油を入れて熱し、そこにニンニクを投入。油にニンニクの風味を付ける。ニンニクがキツネ色になったら取り出すのを忘れずに。焦げちゃうからね。
続いて、コンニャク投入。焼き色が付くまで、しっかりと炒める。
いい感じに焼き色が付いたら、取り出していたニンニクを戻して一緒に軽く炒めてから、味付けに塩を投入っと。
「さて、どんなもんかな? ………………まあ、しょうがないか」
ぶっちゃけすっげえ物足りない。醤油か、バターか、唐辛子当たりが欲しい。だけど無い物は無いんだよなあ。まだまだ俺の食材探しは終わりを迎えられそうにない。
「と、いう訳で、コンニャクステーキ、ペペロンチーノ風モドキの完成だ!」
「名前、長いね?」
しょうがないじゃん。そう言わざるを得ない料理なんだからさ。
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