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第181話 次の食材……食材? の確認を始めた。

 さて、二人に無事、ゴボウが歴とした食べ物である事を理解いただいた所で、次の食材に移ろう。


「はい。続いてはこちらになります。正直、これも私には食べられる物にはとても見えないのですが、レンさんならば、先ほどのゴボウのように美味しく調理していただけるでしょう」


「俺の知ってる物だったらね? なんでも食べられるようにできる訳じゃないからね? そこ、重要だからね?」


 クリスさんの過度な期待に釘を刺すが、効果はないようだ。だってなんか目がキラキラしてるし。


「こちらになります」


 口調はいつも通りクールに、しかし目には好奇心を漲らせながらクリスさんが袋から取り出したのは――――


「…………えーと。……木の、枝?」


 メリアさんから、初めてゴボウを見たときと同様。下手したらそれ以上に困惑した声が上がるが、俺も同じ気分である。


 はい。紛う事なき木の枝です。特に変わった特徴もないし、木の実が付いてるわけでもない。葉っぱすら取り払われている。これじゃあ、これがなんなのかサッパリだ。


 とりあえず、クリスさんから手渡されたその枝を手に持ってみる。

 うーむ……。完璧に木だな。さすがに木を食べるような文化には覚えがないぞ。


 …………もしかしたらあれか? 枝の中央部は柔らかくて食べられる、とかだったりするのか?


 そう考えた俺は、良く観察するために、断面を顔の近くまで持って行くと、仄かに甘い匂いが鼻腔を擽った。


 んー…………? なんかこの匂い、嗅いだ事がある気がするんだよなあ。なんだっけか?


 ……………………あーくそ。思い出せねえ。もうちょっとでなんか出てきそうなんだけど。


「はい。木の枝です。持ってきた方曰く、『噛むとほんのり甘い』だそうで……」


「いや、その人はなんで木の枝なんて噛もうと思ったの……」


「なんでも、夜営中に眠気が堪え切れなくなり、何か噛んでいれば眠気を誤魔化せるだろう、と思って、近場にあった木から枝を切り落として噛んでみた、そうです」


「あー……。確かに眠気を堪えるのって辛いもんねえ…………、いやでもさすがに木の枝を食べるのは………………レンちゃん? 大丈夫? すっごい眉間に皺寄ってるよ?」


 メリアさんとクリスさんが話している間も、記憶の引き出しを片っ端から開けていると、メリアさんに声を掛けられた。

 うおおお。待って。今話しかけないで。今ちょっと必死なの。


「ちょっと待って。もうちょっとで出てきそう」


「え、嘘。本当に?」


 メリアさんから驚きの声が上がるが、そっちは無視。これ以上別の事に気を取られたら思い出せなくなっちゃいそう。


 う~~~~~ん…………。木……。甘い匂い……。実とか花からじゃなく、木そのものから……? この世界特有だったらお手上げだけど、前の世界にも似たような物があった気が………………あっ!?


 そこで俺は一つ、該当する物を思い出した。


「クリスさん。この枝。葉っぱはないの?」


「葉っぱ、ですか? 持ってこられた時点では付いていたのですが、提出物はあくまで枝の方で、葉っぱは関係ないと聞いたので、毟って捨てましたが」


 捨てたかー……。いやでも、クリスさんは葉っぱ自体は見たって事だよな。本当は自分の目で確認したかったけど、まあ問題はないだろう。


「その葉っぱ、どんな形をしてたか覚えてる?」


「形ですか? ちょっと待ってください、思い出します………………えー、確か、人間の手の平みたいな形だったと思います」


 ビンゴ! 当たりだ!


 これ、カエデの木だ! 某国の国旗で見たことある! って事は、メープルシロップが採れる!


 クリスさんの言葉を聞くや否や、ガッツポーズをとる俺を見て、メリアさんは察したようだ。


「嘘。あんな木の枝まで食べられるなんて、信じられないんだけど……」


 なんか微妙に察する方向が違う!

 このままだと、俺が好き好んで木の枝に齧りつく変な奴だと思われてしまう!


「違う違う! さすがに木の枝は食べないよ! 今回は樹液!」


「じゅ、えき? なにそれ」


「私も初めて聞きました」


 えー。樹液の存在を知らないとな!? そんなアホな。


「いやほら、木に傷つけたらドロッとしたのが滲み出てくるでしょ? あれが樹液だよ」


「あー、あれかー。なんかドロッとしてて気持ち悪いよねえ。…………え? あれ? あれ食べれるの? ほんとに?」


「あんな色をした物をですか……?」


 あんな色……? 確かに樹液って茶色っぽいのが大半だから、食べ物には見えづらいかもしれないけどさ…………。そこまで露骨に嫌そうな顔するほどじゃなくない?


「だってあれでしょ? ベタベタで真っ黒な奴。あんなの食べてみようだなんて、誰も思わないよ? 体に悪そうだし、気持ち悪いし」


 真っ黒って。コールタールかよ。たしかにそんな色をしたモン、普通は食べようとは思わんかもしれないな。


「黒、ですか? 私が見たことがあるのは血のように赤かったですよ? 初めて見た時は悲鳴を上げました」


 そしてこっちは赤。木を切りつけたら真っ赤な液体が滴ったりなんてしたらかなりホラーだな?


「おおう。そうなんだ……。いやでもほら。そんな感じで、木の種類によってかなり違いがあるんだよ。二人が見た奴は食べられないかもしれないけど、そんなに色々種類があるんだったら、食べられる奴が一つや二つあってもおかしくなくない?」


 いかにも異世界な樹液の色事情に若干引きながら、表面上はおくびにも出さずに二人の言いくるめを試みる。

 こういうのは、相手側の経験に基づいた話をすると信憑性が上がる……って、なんかの本で読んだ。


「そう言われると…………」


「そう、かもしれないですね…………」


 よし、言いくるめ成功。ダイスロールに勝ったぜ。


「という事で、これも確保したいんだけど…………ちょっと難しいかなあ」


 俺が苦い顔をすると、クリスさんは不思議そうな表情を浮かべた。なんでそんな不思議そうなん?


「何故です? 言い方は悪いですが、こんな木の枝を持ってくるだけでいいんのでしたら、いくらでも持ってきてもらえると思いますが」


 ああ、そういう事か。クリスさんは木の枝さえ手に入ればメープルシロップが手に入ると思ってるのか。

 まあこれは俺が言ってなかったからしょうがない。


「いや、オレが欲しいのはあくまで樹液で、木そのものはいらないんだよ。しかもね、一本の木から樹液はそれなりに取れるんだけど、ちゃんと生えてる状態じゃないとほとんど採れないんだよね。さらに、そのままじゃ薄いから煮詰めて味を濃くしなきゃいけなくて、しっかり煮詰めると、そうだな……これくらいの器一杯分くらいかな? それくらいになっちゃうんだよ」


「ええ!? それしか採れないの!?」


 俺が手で、大体一リットルくらいの大きさを示すと、メリアさんが驚きの声を上げた。


「そ。だから、木を切って持ってくるんじゃなくて、その種類の木が沢山生えてる場所で、生えたままの状態の木に穴を空けて樹液を採って、近くに小屋かなんかを建ててそこに樹液を集める。で、その小屋で集めた樹液を煮詰めて味を濃くするって作業が必要なんだよ」


「それは……かなり規模が大きくなりますね」


 そうなんだよなあ。人手もそれなりに必要だろうし、この世界で木が生えてるって事は、大体未開拓の場所だろうから、魔物への対処とかも考えなくちゃいけない。下手すると村を作るくらいの規模になりかねないな。うん。一介の冒険者兼食堂の店主じゃ手に負えない。


「これは…………侯爵様に持ち込むかあ」


「そうですね。それがよろしいかと」


 とは言っても、完全に口頭で、しかも侯爵様にとっては未知の食材だからなあ。プレゼンするにもさすがに説得力が低いと言わざるを得ない。メープルシロップの現物があれば説得力も増すんだけど……。


「クリスさん。この枝を持ってきてくれた人って、連絡つく?」


「……ちょっとお待ちいただけますか」


 枝を持ってきた人の所在を訪ねると、クリスさんは一言断った後、キビキビとした動作で場を離れた。確認に行ってくれたようだ。


「ねえレンちゃん。そのじゅえき? っていうのが美味しいっていうのは分かったけど、その枝は美味しいの?」


 待ちの状態になり、手持無沙汰になった所、メリアさんが興味深げに、俺の手にある枝を見つめながらそう聞いてきた。


「ん-……。いやたぶんこのままじゃ美味しくはないと思うよ。この木から採れる樹液を煮詰めるとメープルシロップっていう……えーと、そうだな。蜂蜜みたいな奴になるんだけど、このままじゃ薄すぎると思う」


 前の世界のメープルシロップも、滅茶苦茶濃縮してるしてるはずだし、さっき嗅いだ匂いも大分薄かった。この枝を齧ったとしても、本当に仄かな甘味が感じられるかどうか、くらいだと思う。


「そっかあ。残念。……にしても、蜂蜜みたいって事は甘いって事だよね? へー……。こんな木の枝からねえ…………」


 言葉通り、少し残念そうな表情を見せつつ、変わらず枝を見続けるメリアさん。俺としては是非食べさせてあげたい所なんだけど、現状はどうしようもない。


 せめて、この枝を持ってきた人と連絡が取れれば、場所を聞いてパパッと樹液を採集、精製して食べさせてあげられるんだけど……。


「お待たせしました」


 そこで、相手の所在地の確認に向かっていたクリスさんが戻ってきた。申し訳なさそうな表情で。

 あー。これは、所在地が分からなかったとか、遠出してて捕まらないとか、そんな感じかなあ。


「ううん。大して待ってないから大丈夫だよ。で、どうだった……って、聞かなくても分かるか」


「はい……。お察しの通りです。この枝を持ってきた方は冒険者なのですが、ついこの間、遠方へ向かう依頼を受けたようでして……。依頼報酬も、口座への振り込みを希望されています」


 依頼かー。それはしょうがないな。食う為には働かなくちゃいけないし。


 となると、侯爵様へ味見させる為のメープルシロップを作るっていうのは難しいか。

 一応、依頼内容に採取場所の情報開示があるので、おおよその場所については分かるんだけど、その場所にどれくらいカエデの木が生えてるか分からないし、一本からどれくらい樹液が取れて、どれくらいのメープルシロップになるかなんて、業者じゃない俺には分からない。


 この枝を侯爵様にしゃぶらせたとしても、未精製だと糖度が低すぎてインパクトに欠けるしなあ。


 ………………よし!


「棚上げだ! 侯爵様に話すのは、メープルシロップの実物が出来た後にしよう! あ、クリスさん、依頼自体は問題ないので、枝を持ってきてくれた方への報酬支払いをお願いします」


「承知しました。現時点で納品されている食材候補は以上ですね」


「りょーかい。じゃあ、また時間を開けて来るねー。じゃあレンちゃん、そろそろ帰ろっか」


「そだね」


 本当は商業組合にも行きたかったんだけど、料理を作ったせいで結構長居してしまった。商業組合へ行くのはまた今度にしよう。


 にしても、これでゴボウとメープルシロップをゲットか。素晴らしいね。


 この調子でどんどん集めていこー!

お読みいただき、ありがとうございます。


作者のモチベーション増加につながりますので、是非評価、感想、ブクマ、いいね! の程、よろしくお願いします。

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[一言] 侯爵領が食の都になりそうだなぁ
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