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202/222

第180話 料理が完成したので試食会を開いた。クリスさんにも満足いただけた。

 クリスさんから、方々で言われすぎて慣れてきた感のある言葉を賜りつつ、洋風キンピラを作っている浅鍋の蓋を取る。

 その瞬間、湯気がぶわっと舞い上がり、俺の鼻へ何とも言えない良い匂いを運んできた。


 うん。匂い的にはいい感じかな? まあ、ゴボウを油で炒めて嫌な匂いがするとかあり得ないけど。本当はごま油で炒めたかったけど、現状ないからね、しょうがない。


 後は干し肉がしっかり戻っているかだけど……。


 フォークを干し肉に押し付けると、調理開始時点より一回り以上大きくなったそれは、少し強い抵抗の後、フォークの先端の鋭さに屈した。ん-……。まあ、フォークが刺さるなら大丈夫かな?


 肉を口に運んで噛み締めると、途端に溢れ出る肉の旨味……より強い塩辛さ。少量なら問題ないが、単品で食べ続けるのはしんどいかもしれない。そんな感じ。


「思ったより塩分って抜けないモンなんだなあ。そんじゃ次はゴボウを……」


「本当に食べるの? 本当に大丈夫なの?」


「だから大丈夫だって。ほら……むぐ」


「ああ……食べちゃった…………」


 未だに半信半疑……というか八割方疑惑の視線を向けてくるメリアさんに対し、これが答えだと言わんばかりに勢いよくゴボウにフォークを突き刺し、そのまま口に運ぶ。メリアさんから悲痛な声が上がった気がするが、無視。


 うんうん。この歯応え、いいね。


 久しぶりに食べる、繊維質マシマシの固い歯応えと独特の風味。やっぱゴボウって美味しいなあ。


「随分美味しそうに食べるねえ……」


「実際美味しいからね。少なくとも俺は好きだよ」


 ……火はちゃんと通ってるみたいだな。でも、思ったより干し肉の塩気は移ってないな。ちょっとこれは想定外。でもまあ、しょっぱめの肉と一緒に食べれば、酒のツマミにはいい感じになるんじゃないかな? おかずとして出すんだったら、もっと塩気を抜かないときついな。


 とりあえず味見は終了。干し肉の塩気があるから追加で調味料を入れる必要はなし。これで洋風キンピラは無事完成だ。


 洋風キンピラを皿に盛り付けて場所を空け、豚汁を再び火にかける。まあ、ぶっちゃけほとんど冷えてないから必要ないっちゃないんだけども、豚汁は熱々が至高だと思っているので。


 あっという間に沸いてきた鍋から豚汁を掬い、あらかじめ用意していた器に盛り付ける。…………一人あたり半人前ってところかな? 正直少ないと感じるが、味噌の在庫的にこんくらいが限界だったからなあ。


「ほい完成。豚汁と洋風キンピラ」


「これが料理…………ですか? 泥水と砂利と木の根を一緒に置いたようにしか……」


 テーブルに料理をならべ、二人に完成を告げると、二人の内の一人、クリスさんから、なかなか歯に衣着せぬお言葉を頂戴した。おう、直球。まあ、しょうがないね。


 しかしもう一人、メリアさんの反応はクリスさんとは正反対の物だ。


「おー! トンジルだあ! もしかして、初めてトンジル作ってくれた時に言ってた『足りない材料』って、これの事なの?」


「そ。まあ本当はまだ足りないんだけど、この食材、ゴボウが入るだけで結構違うよ」


「へえー。どう見てもただの根っこなんだけどねえ……。でもレンちゃんの作ってくれた料理で不味かったのってないし、ゴボウも本当に美味しいんだろうねえ! それじゃあ、早速!」


 前回の未完成トンジルが随分気に入っていたらしく、さっきまでの態度とは正反対、ウキウキの表情でスプーンを手に取り、躊躇いなく豚汁を口に運んだ。手のひらクルックルである。


「! 美味しい! 美味しいよレンちゃん! 前食べたトンジルも十分美味しかったけど、断然こっちの方が美味しーい! この、ゴボウだっけ? これもちょっと固いけど、噛みきれない程じゃないし、むしろその固さが逆にいいかも! 歯応えが良い感じ!」


 メリアさんはピカーッと擬音が聞こえてきそうな笑顔でそう言うと、すぐさま豚汁を休みなく口に運びはじめた。

 いやー、これだけ美味しそうに食べてくれると、作った側としても嬉しいね。


「あ、なくなっちゃった……」


「俺のも食べていいよ。俺は作ってる最中に食べてるし」


 空になった器に視線を落とし、悲しそうな声を上げるメリアさん。


 それを見た俺はメリアさんの前に自分の分の器を置いてあげた。

 この豚汁で味噌の在庫が切れてしまい、次にいつ食べられるか分からない状況なので、俺としてもじっくり味わって食べたい所ではあるんだが……。あんな態度を取られたら選択肢は一つしかないだろう。


「いいの!? やったー! ありがとレンちゃん!」


「………………おかしいです。見た目と言動が完全に逆です。混乱してきました……」


 俺が渡した器を嬉々として受け取り、再び食事を再開するメリアさんを見て、クリスさんがこめかみの辺りを押さえながら渋い表情を浮かべる。

 そうね。確かにさっきのやり取りは、外見を交換すればピッタリだったかもしれないね。

 だが残念。これが現実なのだ。実はメリアさん、たまに幼女化するんだぜ? 可愛いんだぜ?


「ふうー! 美味しかったー! それじゃあ次はこっちの、ヨウフウキンピラ? を食べてみようかな?!」


「はいどうぞ」


 きれいに豚汁を完食したメリアさん。続いて洋風キンピラに手を出す模様。

 豚汁に入れたゴボウが好感触だったこともあって、ウキウキの表情でキンピラを口に運んだ。


「ムグムグ……。うん。まあこれは普通…………いや、ちょっと塩辛いかなあ……。でもゴボウの歯応えがなんだか気持ちいいね! これはお酒と一緒に出したらいいかも?」


 先程までのハイテンション幼女化していた時とは打って変わって、しっかりとした感想を述べるメリアさん。なんという温度差。風邪引いちゃいそう。


「おねーちゃんもそう思う? 試食した時から分かってはいたんだけどね。今回は初めてだったから加減がわからなかったんだよね。何回か試行錯誤すればいい感じには出来ると思うよ」


「そだね。お店で出すとしたら……入れる干し肉の量を減らすかゴボウを増やすか、かなあ。あ、いっそのこと別の野菜とか入れてもいいかも」


「うん。それもありかな。干し肉を減らすのは原価的には美味しいけど、お客さんからすればケチ臭いって思われるかもしれないし、ゴボウもどんくらい手にはいるか分からないんだよね。…………うん。別の食材を増やす方向でやってみようか。今度作ってみるから、試食よろしくね」


「もちろん! 楽しみだなあ!」


「あの…………。その木の根、そんなに美味しいんですか?」


「「あ」」


 やっべ、料理談義に花が咲いてクリスさんの存在を忘れてた。なんかヤバイこととか言ってないかな!? ………………よし! 思い出す限り多分大丈夫! 屋敷の事とかルナ達の正体とか言わなくてよかったー!


「うん! こっちのヨウフウキンピラ? はちょっと塩っ気が強いけど、ゴボウの食感が楽しいし、何よりトンジル! こっちは本当に美味しいよ! お肉の脂と野菜の甘味が喧嘩せずにお互いを高めあってて、それをミソがさらに引き立ててて…………ゴボウも他の野菜とは違う歯応えで食べてて楽しいし……」


「あ、はい。そうですか。分かりました。もう大丈夫です。良く伝わりました」


 話を逸らす為なのか素なのか、マシンガンの如く今回の料理(ほぼ豚汁)の食レポを行うメリアさんに対し、クリスさんはちょっと引きながら受け答えしつつ、疑わし気な視線をテーブル上の料理に注いでいた。


「正直私には、いまだにこれが食べ物には見えないのですが……」


「大丈夫だよ! レンちゃんも私も食べてたじゃない! ほら、クリスさんも食べて食べて! クリスさんが食べてくれないと先に進まないよ!」


「いえ、別にこの依頼に私の意見は必要ないのですが……。確かに匂いは良いですし、少しいただいてみましょうか……。スウ…………ハア…………………………いきます!」


 半ばメリアさんに押し切られた形で、クリスさんはスプーンを手に取り、豚汁を掬う。

 大きな深呼吸の後、普段のクールな雰囲気からは想像がつかない、死地に赴く戦士のような形相と声を上げた後、スプーンを口に含む。


「…………っ!!!!???」


 顎を一回動かした瞬間、目をクワッと見開き、そこからは動画の早回しのような豚汁を口へと運び続け――――。


「ああ…………」


 あっという間に完食した。メリアと同じく、食べ終わった後の悲しげな声付き。


 メリアと違ったのは、お代わりが存在しないという事だ。俺の分もしっかりメリアの胃袋に収まっちゃってるんで。


「………………レンさん。この料理。トンジル、でしたか。お店で出すご予定は?」


 暫し器に視線を落としながら固まっていたクリスさんだったが、そのままの姿勢で俺に話しかけてきた。普段は職業柄か、相手の目を見て話すクリスさんにしては珍しかったので、一瞬聞き洩らしそうになった。


「え? ああ。その料理の肝になる調味料、味噌って言うんだけど、それが今使った分でなくなっちゃったから、しばらくは作れないかなあ」


「…………そうですか」


 姿勢も声音も変わらないのに、あからさまにガッカリした様子が伝わってくる。

 そこまで豚汁が気に入ってくれたのか。嬉しいね。

 嬉しいからこの情報でクリスさんにも嬉しくなってもらおう。


「まあでも、俺としても味噌はなんとしても欲しい物ではあるし、確保の目途は立ってるから、そう遠くないうちに確保できると――――うおおお!?」

「本当ですか!?」


 言葉を言い切る前にクリスさんは俺の視界から消え、次の瞬間には目の前に居て鬼気迫る表情で俺の肩を掴んでいた。速っ!? ちょ、力強痛たたたたっ!?


「本当! 本当だから! 痛いから手離してえええ!?」


「ハッ! し、失礼しました!」


 俺の悲鳴を聞いて我に返ってくれたようで、クリスさんは謝罪と共に肩を掴んでいた手を離してくれた。あー痛かった。手形とか付いてそうだなあ。てかメリアさん見てないで助けてよ。


「もうちょっと続くようだったら助けたけど、あれくらいならじゃれ合いみたいな物だよ」


 恨みがましい視線をメリアさんに向けると、当のメリアさんは『大した事じゃないでしょ?』とばかりに肩を竦めた。

 いや、割とシャレにならない痛さだったんだけど……。俺、メリアさんと違ってフィジカルモンスターじゃないだよ?


「本当に申し訳ありません。嬉しさのあまり、つい……」


「あー…………。いや、おねーちゃんのいう通り、あれくらい、じゃれ合いみたいなモンだから大丈夫。むしろ張ってた肩が解れていい感じかも?」


 一回り小さく見えてしまうくらい恐縮してしまっているクリスさんを見て、これ以上この話を引っ張るのは良くないと感じた俺は、未だに痺れが残る肩をグルグルと回して問題ないことをアピールした。


「いやレンちゃん、さすがにその歳で肩が張るはないでしょ……」


 うん。つい口から出ちゃったけど、さすがにないね。でもややこしくなっちゃうから、それ以上の突っ込みは無しの方向でお願いします。


「はい! じゃあこの話はおしまい! とりあえずこれ。ゴボウは依頼内容に合致してるってことで、持ってきた人には報酬の支払いをお願いします。お金は口座から出しておいてください」


「ありがとうございます。…………はい、かしこまりました。そのように処理します。それでは次に参りましょう」


 手をパンと叩いて強引に話題を切り替え、事務的な内容へ話を進めると、クリスさんは小さな声でお礼の言葉を呟いた後、一度の深呼吸の後、元のクールな雰囲気に戻った。ふう。良かった。


 さて、ゴボウの時は色々あったけど、次はどんな食材が出てくるんだろうな。幸先良かったから楽しみだ!

お読みいただき、ありがとうございます。


作者のモチベーション増加につながりますので、是非評価、感想、ブクマ、いいね! の程、よろしくお願いします。

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[一言] ゴボウ出してきた冒険者もびっくり ↓蒟蒻芋はどこかで武器とか劇薬として使われてそう
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