第20話 訓練してたらなんか見つけた。
もG.W中に何話か投稿する予定だったのに、ダラダラしてたらいつの間にか終わってました・・・。
エタらないように気を付けます。
ゴブリンの巣の破壊依頼から三か月が経った。
あれから結構大変だった。
食べ物、特に肉料理を見ると、ゴブリンを殺した時の事がフラッシュバックしてしまい、数日はまともに食事ができなかったし、あの時の状況を夢に見て、絶叫と共に飛び起きたりした。
飛び起きた夜は、その都度メリアさんが抱きしめてくれないと眠れなかった。
食事については、三日目くらいに、強引に食べさせられた。
まさかベッドに拘束されて、口に料理をねじ込まれるとは思わなかったが、一口食べてしまえば後は簡単で、飢えに後押しされ、貪るように食事を腹に詰め込む事となった。
メリアさんの飴と鞭な介護のおかげで、一か月が経った頃には、悪夢で飛び起きることも大分減ったし、食事もある程度普通に食べられるようになった。
『初めての殺し』と『魔物に殺された人を見た』という、割と強烈なはずのトラウマを一か月で克服した事に俺自身が驚いている。
俺は自分で思っていたより心が冷たいのかもしれない。
そんな状況で、一か月程冒険者をお休みしてしまっていたので、それ以降はせっせと様々な依頼を受けていった。
採集系はもちろん、気乗りはしなかったけど、避け続けることもできないし、討伐系も受けた。
討伐系も、最初は一匹討伐する毎に吐くような状態だったけど、何回か繰り返していくうちにそんな事もなくなった。慣れって恐ろしいね。
で、討伐系の依頼を受けるにつれ、問題点が浮上した。
俺の戦闘能力の低さだ。
前の世界ではまともに喧嘩した事もなかったんでしょうがないとは思うけど、そうも言っていられない。
なので、依頼と戦闘訓練を一日おきに、交互に行うことにした。
依頼もこなしていかないと生活できなくなっちゃうからね。
「いくよー!」
「はーい! どんと来なさーい!」
で、今日は訓練の日なので、メリアさんと模擬戦をしている。
訓練は、イースの街の東側、俺達が暮らしていた洞窟のある方角で行っている。
こっち側は障害物もほとんどない、だだっ広い草原なので、訓練するには持ってこいだ。
俺はスタイルも何もないから関係ないけど、メリアさんの戦闘スタイルが素早い移動からのヒット&アウェイなので、それなりの広さがないと本領を発揮できない。
戦闘訓練をするようになって、戦闘でも使用できる無属性魔法をいくつか考えてみた。
まず、元々使用できた【身体強化】。
これは普通に使うと、全身から魔力が噴き出てしまい、一目で使用している事がばれる。
すごい勢いで噴き出す魔力も無駄だし、なんとかならないかと試行錯誤した結果、思いのほかあっさり体外に魔力を漏らさないで【身体強化】が使えるようになった。
結局の所【身体強化】というのは、魔力を大量に放出し、全身にくまなく行き渡らせる事で身体能力を向上させる魔法だった。
なので、自力で魔力を操作して全身に魔力が行きわたるようにすれば同様の効果が得られる。
しかも、魔力の量を調整することで出力も変更できるようになったし、時間経過による強制解除もなくなった。魔力が尽きるまで【身体強化】を連続運用できるようになった訳だ。これは大きい。
通常の【身体強化】と同程度の出力なら数時間は維持できる。ほぼ使い放題といっていいレベルだ。
魔法名を唱えて使用する、というのはテンプレートを使用することと同じで、魔法発動までのプロセスを自動化するもののようだ。
逆に言えば、しっかりと必要なプロセスを経れば、唱えることなく魔法は使用できる。
自分で新しく魔法を作ることだってできるのだ。
それに気付いた時は、喜びのあまり宿のベッドの上で小躍りしてしまい、メリアさんに心配されてしまった。
早速新しく魔法を一つ作ってみて、昨日やっと完成した。
今日初めて訓練で使用するので、使用感を確かめてみたい。
新しい【身体強化】、【身体強化Ⅱ】を使用して、一気にメリアさんに肉薄する。
十メートルほど離れていた距離を二歩で詰め、その勢いのまま、右手に持った棒で突きを仕掛けた。
一応訓練中は木の棒を使い、さらに両端には布を何枚も重ねて取り付けているので、危険は少ない、と思う。
かなりの速度で繰り出した突きを、メリアさんは半身になることで紙一重で躱した。紙一重ではあるが、メリアさんは余裕の表情だ。最小限の動きで避けた結果という事なんだろう。
躱されるであろう事は俺も分かっていたので、そのまま連続して突きを放った。
【身体強化Ⅱ】で強化したスピードに物を言わせ、次々に突きを繰り出していくが、メリアさんは余裕の表情を崩すことなく、最小限の動きで躱し、捌いていく。
「相変わらずのスピードだねえ。すごいすごい」
褒めてる気なのかもしれないけど、そんな涼しい顔で言われても凹むだけですメリアさん。
悔しい気持ちを込めて胴に向かって突き出した棒に対し、メリアさんは自分の獲物である木製のナイフをそっと這わせ、そのまま大きく外に振るった。
力の方向を変えられ、そのままあらぬ方向に突き出される棒。予想外の動きを強制された所為で体勢が崩された。
体勢を整えようと、慌てて棒を引き戻そうとするが、次の行動はメリアさんの方が圧倒的に早かった。
横に振るっていたナイフを切り返し、俺の首へと勢いよく叩きつける。
メリアさんのナイフは寸分違わず俺の首に吸い込まれ、
ガキン! という音と共に直前で止まった。
「え?」
決まった、と思っていたであろうメリアさんの動きが一瞬止まる。
その一瞬の間に俺は左足を一歩前に出し、無理やり崩されていた体勢を持ち直す。右手一本で握っていた棒を両手で掴み直し、野球のバットのようにフルスイングした。
「っ!!」
真横からの攻撃に気が付いたらしいメリアさんは、素早くナイフを引き戻し、防御に回した。
俺の棒と違い小回りが利く木製ナイフは、ギリギリのタイミングで棒とメリアさんの胴の間に差し込まれた。
バキャ!
盛大にぶつかり合った棒とナイフは大きな音を立てて砕けた。
「「っ痛~~~~~!!」」
それなりの硬度を持つ木材が砕ける程の衝撃を手に受けた俺達は揃って声を上げた。
「いたたたた…………。さすが、【身体強化】使ってるだけあってすごい力だねえ……。今回は引き分けかな?」
メリアさんがナイフを持っていた手をプラプラと振りながら感心したような声を上げた。
「くそー、最後の奴は当たると思ったんだけどなあ……。全然勝てない……」
俺の元の身体能力がそこまで高くないとはいえ、【身体強化Ⅱ】を使った状態なら、大の大人を軽く凌駕する腕力がある。それを何の【能力】も魔法も使わずに、しかも片手で受け止めたメリアさんは異常だと思う。
「まあ、長年の野性的な生活で鍛えられてますから。さすがに武器を持って数か月の人には負けられないね! ……っていうか、そんな事より!」
いきなりメリアさんが大声を出しながら詰め寄ってきた。顔!顔超近いよ!あまりの剣幕と距離の近さに軽く仰け反った。
頭突きでもされるのかと思っちゃったよ。
「私の攻撃がギリギリで止まったんだけど! なにあれ!? なんか壁みたいのがあったよ!?」
詰め寄った勢いそのままに俺の肩を掴んで揺さぶるメリアさん。俺の体がガクンガクン揺れる。
「あばばばばっ! ちょ、と、止めて止めて! ………………ふぅ。危なかった。あれ? 結界魔法だよ。【身体強化】を改良した要領で作ってみたんだ」
なんとか揺さぶりを止めてもらってから質問に答える。
そう、新しく作成した魔法は結界魔法。
自分の周囲に魔力で壁を作り、攻撃を受け止める。
【魔力固定】で物質として生成しているわけではないが、物理攻撃を止められる。魔法に対しては分からないが、多分問題ないだろう。
メリアさんの攻撃を棒で捌く事が全くできない為、『いっそのこと棒で受けなくても良いようにしよう!』と考えて作った。
この結界は三層構造になっていて、第一層と第三層は魔力で作った結界だが、第二層は違う。
第一層と第三層の間にわずかに隙間を開け、そこに限界ギリギリまで【熱量操作】で熱を閉じ込めてある。
第一層が抜かれた瞬間に一気に高熱が噴き出し、爆発反応装甲のように機能する。
本命は第二層なので、第一層はそこまで結界としての強度は重視していない。むしろ第二層からの圧力に耐える為に、そちらへの耐性を重視しているくらいだ。
さすがに最終防衛ラインである第三層はかなり強固にしたけど。
今回初めて使用してみたけど、さすがに木製武器じゃ第一層も壊れないか。
第二層の挙動も確認しておきたいんだけど、木製武器での訓練じゃ第一層も抜けないか。
「作ってみたんだ、って……。相変わらずぶっ飛んでるねえ…………。結界なんて、個人で張れるような物じゃないはずなんだけどなあ……」
「そう難しいもんでもないよ。……うーん、さっきの攻撃でちょっと罅が入ったみたいだね。強度はこんなもんか」
「…………木製の武器の一撃で罅入っちゃうって、脆くない?」
確認してみると、先ほどの攻撃を受けた部分が少し削られているのが分かった。
この様子だと、鉄製の武器を受けたら一発で砕かれそうだ。思惑通りだけど。
「それは大丈夫、この結界、三層構造でね? 本命は第二層なんだ。第一層は抜かれる前提だね」
俺の言葉を聞いて、メリアさんは疲れたような顔をして肩を落とした。
「…………色々突っ込みたいけど、何から突っ込んでいいのかわからないや。で、どうしようか? 二人とも武器壊れちゃったけど」
「予備あるから大丈夫。もう一個試したい事があるから、もう一回やろう?」
「…………まだ新しい魔法があるの?」
メリアさんがジト目を向けてきた。何故そんな目を向けられるんだ。解せぬ。
「違う違う。次は魔法じゃないよ。もっと別の事」
「そうなの? ……まあいいや。じゃ、もっかいやろっか」
〈拡張保管庫〉から出した木製ナイフをメリアさんに渡してから離れるように足を進める。
今回実験する事は、それなりに距離が離れてないと使いにくいのだ。
先ほどよりもさらに距離を離し、十五メートルほどで相対した。
「じゃあ、いくよー!」
「はーい。どんと来なさーい!」
【身体強化Ⅱ】を使用して、メリアさんに向かって駆け出す。ここはさっきと変わらない。実験はここからだ。
走る速度を落とさずに、棒を持っていない方の手を背中に回し、【熱量操作】を発動する。
前面から一気に熱を奪い取り、その熱を背中に回した手から背面の空気に向かって一気に放出した。
一瞬で莫大な熱を与えられた空気は爆発的に膨張し、周辺にある物体を猛烈な勢いで押し出す。そして一番近くにある物体は、俺の体だ。
瞬間的な空気の膨張によるバンッ! という破裂音と共に俺の体はさらに加速した。
俺の想像を遥かに上回る速度で。
「ま、ず……!」
膨張した空気に押された時に体が少し浮き上がってしまい、足が地面に着いていない。この状態ではブレーキはおろか、方向転換すらままならない。
気付けば驚きの表情を浮かべたメリアさんがすぐ近くまで迫っていた。
「よ……!」
避けて! と言う暇すらなく、メリアさんに顔面から激突した。
「ごふっ!?」
「ぶ!」
身長差の関係で、お腹に俺の直撃を受け止める事になったメリアさんの口から、くぐもった声が漏れる。
二重の加速をしていた俺をメリアさんは受け止めきる事ができず、二人して水平に一メートル程飛んだあと、そのままの勢いでゴロゴロと転がっていく。
それなりの距離を二人で転がり、やっと止まった頃には二人とも土と草に塗れていた。
「ぐおおおおおおぉ……」
顔面からぶつかった所為で首と顔が痛いし、転がった所為で少しクラクラする。
でも今はそれどころじゃない。メリアさんは大丈夫だろうか。
俺も結構なダメージを受けたが、メリアさんはそれ以上だろう。
「おぉおおぉぉ…………っ」
案の定、メリアさんはお腹を押さえた状態で、今まで聞いた事ない声を出して悶絶していた。
「お、おねーちゃん、大丈夫!?」
お腹さすってあげればいいのか? いやいやそんな事したら余計苦しくなるかもしれないだろ。あーもーわからん!
といった感じでアワアワしていると、
「ぐ、ぐふっ……。はあ、はあ、ぜ、全然! だ、大丈夫よっ! お姉ちゃん、強い、から!」
と言いながら立ち上がった。
「いや、無理しなくていいよ……? 苦しいでしょ」
足めっちゃプルプルカクカクしてるよ? 生まれたての小鹿みたいだよ?
「ぅぷっ……む、無理なんてしてないもん!」
いやどう見てもしてるよね? してないもんって…………。
なんで俺以外誰も見てないのに虚勢を張るのかさっぱり分からん。
「あ、はい。そうで……」
半ば呆れながらメリアさんに投げかけようとした言葉が途中で止まる。
「うぶぅ……全然苦しくなんか…………ど、どうしたの?」
一生懸命苦しくないアピールをしていたメリアさんは、俺が固まっているのを不思議に思ったようだ。
俺の視線の先、自身の背後を振り返り、
俺と同じく固まった。
「なに、あれ……」
二人の視線の先、そこにあったのは、見たことのない大きなお屋敷だった。
「あんな屋敷、なかったよね……」
「こんなでかい屋敷が建ってたら、イースから見えてるよ。障害物もないし…………」
元の世界の旅館みたいなサイズだ。そんな建物が草原のど真ん中に建ってたら目立つ。
街の人間の話題に上ってもおかしくないのに、そんな話は一度も聞いたことがない。
「よし、入ってみよう!」
「え!? 入るの!?」
腹部へのダメージから復活したらしいメリアさんの発言に、思わず声を上げてしまった。
唐突すぎる。