第176話 組合長から引き続き話を聞いた結果、侯爵様に会う事になった。
「ま、まあ、それについてはいいです。何の用で俺達を呼び止めたんですか?」
メリアさんのレベルアップ騒動をなんとか決着させ、組合長とじゃれあいじみたやり取りを行った後、俺は改めて組合長に俺達を呼び止めた理由を聞いた。
サッサと終わらせて、依頼の進捗について確認したいからね。巻いていくよ巻いて。
「あ、そうだった。レンちゃんが詐欺の手口に詳しい事にびっくりして忘れてた」
…………いや。それはね。前の世界は情報だけはいくらでも手に入る世の中だったからだよ。断じて俺自身が詐欺師だった訳じゃないからね?
ああくそ。声に出して否定したいのに、組合長がいるせいでできない! 違う! 違うから犯罪者を見るような目で見るのはやめてくれ!
「ああ。まあお前らにしたら大した用でもないんだがな。こっちとしては割りと重要な話だ」
そこで組合長は先ほどまでの軽い雰囲気を払拭し、表情も真面目な物に切り替えた。
「ジャン達の話な。強引にレベルを挙げるのはさすがにナシだが、お前達の実力にレベルが見合ってねえのも事実だ。組合としても、お前ら程の力を持った奴らを腐らせておきたくはねえ。どんどん依頼を受けてもらって、レベルを上げていってほしいと思っている。って事で依頼だ。良かったな。レベル零と一で組合長直々の通達なんてまずねえぞ?」
「「お断りします」」
真面目な表情だったのは最初だけで、最後は『どうだ嬉しいだろ』と言わんばかりの、ちょっとムカつく顔で依頼の話なんぞを出してくる組合長に対し、俺達は完璧なユニゾンでお断りの文句をお返しした。
「早えよっ!? せめて内容を聞けよ!?」
悩む素振りも見せない文字通りの即答に、組合長は座っていた椅子から立ち上がって叫ぶが……いや、そんな事言われてもねえ?
「組合長こそ、私の話聞いてました? 〈鉄の幼子亭〉とか諸々が忙しすぎて、冒険者としての活動をしている時間なんてないって、私、言いましたよね?」
「後そういうのって、『聞いたな? これは重大な機密情報だ。聞いたからには拒否はできない』とか言って逃げ道塞いでくる奴ですよね? という訳で話も聞きませんし、依頼もお断りします。おねーちゃん。行こうか」
「そだね」
改めてお断りの文句を述べた後、俺達は退出する為にクルッとターン。第一歩を踏み出し――――
「ちなみに依頼者は領主様だ」
「「…………」」
踏み出した足を戻し、もう一度ターン。目の前には筋肉の塊が鎮座している。ちくしょうが。
「よろしい。あとなレン。いくら俺でも、そこまで外道な事はしねえよ。というかできねえ。この依頼、まだ正式に受諾はしてねえんだが、俺も詳細は聞かされてねえんだよ。俺が知ってるのは、依頼内容がお守りって事ぐらいさ。っつーことで、早急に領主様の屋敷に向かって話を聞いてこい。ザックリ聞かされた期日にはまだ時間はあるが、領主様を待たせるのは良くねえからな」
……いやそれって、組織のトップである組合長にすら話せないレベルの機密情報って事じゃねえの? まじヤバい匂いしかしない。
普通だったら、なんと言われようが断るレベルの地雷だ。ヤバい話に足を突っ込んで家族に危険が及ぶのは断固として阻止しなければならない。
だけどこれ、実質侯爵様からの指名依頼なのよね。侯爵様が治めている街に暮らしている身からすれば断る事なんてそうそう出来ないって言うのもあるが、侯爵様は俺が家族を大事にしているのは知っているはず。
にも関わらず依頼をしてくるって事は、それに足る理由があるって事なんだろう。
「……はあ。はい。分かりました。俺達これから、出してた依頼の進捗を確認してから向かう事にします」
しょうがない。とりあえず話だけでも聞いてくるか。侯爵様には恩もあるしね。
溜息と共に、侯爵様の屋敷に向かう事を受諾すると、組合長は真面目な顔で聞き返してきた。
「それはすぐ終わるのか?」
……いや、そんなん俺が知ってる訳ないじゃん。全く食材が集まってなかったら一瞬で終わると思うけど、逆に沢山集まってたら精査とかで時間がかかるし……。
「それは分かりませんけど、俺としては時間がかかるような状態になってる方が嬉しいですね」
「期限は? 緊急か?」
「…………いえ、特に切ってません。気に入った物があれば取り下げって感じですかね」
「だったら今無理に確認する必要はねえよな? それは別の機会にして、今は領主様の所に行け」
「…………はい」
という事で俺達は、組合長の部屋から出た足で侯爵様の屋敷に向かう羽目になったのだった。
進捗確認は一体いつになったら出来るのか……。
……
…………
「王女殿下が王都に戻られるから護衛を頼む」
「「…………はい?」」
組合から真っすぐ侯爵様の屋敷に向かった俺達は、門番さんに依頼の件で来た事を伝えると、顔見知りという事もあり、アッサリと屋敷の中に入れてもらえた。
応接室に通され待たされる事暫し。侯爵様がハンスさんを伴って部屋に入ってきた。
俺達の横を通り過ぎ、向かいの椅子に腰掛けた侯爵様が、開口一番に言った言葉が先の物である。
え? 聞き間違いだよね? そうであってくれ。
「ん? 聞こえなかったか? ではもう一度言おう。王女殿下が王都に戻られるので、貴殿らに護衛を頼みたい」
聞き間違いじゃなかった……。一縷の望みを賭けて聞き返してみたのに……。
「えーっと……いくつか質問があるのですが、宜しいですか?」
突然の状況に俺が困惑している中、メリアさんが片手を軽く挙げながら口火を切った。
「構わんよ」
「ありがとうございます。まず一つめ。なんで私達なんです? ご存じだとは思いますが、私達はレベル一と零です。とてもじゃないですけど、王女様をお守りするなんて依頼を受けられる立場じゃありません」
うん。まずはここだよね。普通ならもっと高レベルの冒険者、ジャン達みたいな人達に依頼するのが筋というか普通だろう。
「それについては安心したまえ。冒険者組合への依頼は、王都へ向かう妻の護衛、という事にする。侯爵家としての護衛も出し、冒険者は数合わせ、という形だな。まあ実際は、護衛として同伴するのは大半が近衛の者達で、侯爵家から出すのは極僅かだし、貴殿らは王女殿下付きの護衛となるがな」
……俺達が心配してるのはそこじゃないし、知りたくない情報が増えた。
侯爵様の奥さんもいんの? いくら数合わせ扱いとはいえ、王女殿下じゃなくて侯爵夫人だから低レベル冒険者でもオーケーとはならんやろ。十分高レベル冒険者案件ですわ。
しかもなに? 王女付き? そんなもん冒険者にやらせんな。近衛がいるだろ。その為にいるんじゃないの? なんの為の近衛だよ。
「ちなみにこれは王女殿下直々の要望だ。王女殿下は貴殿らを大層気に入っているようでな。こちらとしても、王女殿下に付ける者が強い方が心強いからな。近衛最強のリンデ殿を一蹴したその実力、私だけでなく、王女殿下も高く評価している」
自業自得だったよちくしょう。
しかも侯爵様の言っている事自体におかしい所がないので反論のしようがない。
「ああそうだ。もちろん、妻の護衛も一緒に頼むぞ。表向きとはいえ依頼内容は妻の護衛なのだしな。その方が色々都合がいいだろう」
さらに護衛対象の追加まで入った。ちくしょう。俺達が断れないと思って盛りに盛りやがって。実際断れないから質が悪い。相手が貴族と王族とか、一般ピーポーに断れる訳がなかった。
「……………………はい。分かりました」
チクショー! 後から後から色々起きやがって! 勘弁してくれ!
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