第175話 メリアさんのレベルアップについて話をした。組合長は実は口が上手い事が分かった。
先週は投稿出来ず申し訳ありませんでした。
投稿再開します。
クリスさんの怒気にビビり散らかした後、俺とメリアさんは、そのクリスさんに連れられて組合長の部屋の前までやってきた。
クリスさんはすっかりいつも通りの雰囲気に戻っているが、怒気の直撃を受けたメリアさんはアゲアゲだったテンションが見事にクールダウン。むしろ平常時よりちょっと低い。まあ、これから起こる事を考えれば、ちょっと低めな所から始められるのは丁度いいかもしれない。
「失礼します。メリアさんがいらっしゃいました。ジャンさん達に用があるそうなのですが、まだ時間は掛かりそうでしょうか?」
「ん? おお。メリア達が来たのか。丁度いい。連れてきてくれ」
クリスさんが組合長室のドアをノックしてから声を掛けると、すぐに組合長から返事が返ってきた。
「そう仰ると思いまして、すでに連れてきています」
「おおそうか。流石手際がいいな。入っていいぞ」
「失礼します」
組合長から許可が出た所で、クリスさんは静かにドアを開け、すぐに横に避けて道を開けた。
軽く頭を下げてお礼しつつ、クリスさんの脇を横切り、俺とメリアさんが部屋に入った所で、背後でドアの閉まる音が響いた。首を回し、後ろを振り返ってみると、クリスさんの姿が見当たらない。
クリスさんは一緒には来ないらしい。まあまだ仕事中だろうし、当たり前と言えば当たり前か。
気を取り直して視線を前に戻すと、いかにも組織のトップが座りそうな、ガッチリした作りの机の前にジャン達が並んで立っており、机を挟んだ奥に組合長が椅子に座っているのが目に入った。
「おう。よく来たな。ジャン達に用があるって事らしいが……ま、聞くまでもないな。レベルの件だろ?」
ジャン達の横に並んだ所で、組合長が声を掛けてきた。俺達が来た理由は察しているようだ。話が早くていいね。
組合長からの問いかけを受けて、メリアさんが口火を切った。
「はい。ジャン達がどのように話しているかは分かりませんが、私はレベルを上げる気はありません」
「ジャン達からも、お前自身はそこまでレベルを上げる事に頓着していない事は聞いてる。その上で、レベルを上げてくれと来たもんだよ」
「だからさっきから言ってるだろう? メリアの実力はレベル一じゃあ全く釣り合っていない。レベル六の俺達を一蹴するんだぞ? 最低でも俺達と同じレベルまで上げるのが筋ってもんだ」
肩を竦めながら組合長が言うと、ジャンが話に割り込んで来た。他のメンバーたちも揃ってウンウンと頷いている。
それを見て、組合長は若干ウンザリした様子で顔を歪めた。
「だから、冒険者のレベルは戦闘能力だけで決まっている訳じゃない。そりゃ一定以上の実力は必要だが、それ以上に、様々な種類の依頼を受けた事による経験や知識の方が重要だ。それはお前達だって分かっているだろう?」
「それは……その通りだがよ」
「第一、メリアの戦闘能力が高いのは俺も前から知ってたさ。その場に立ち会った訳じゃないが、簡易版とはいえ、装備を固めた王女付きの近衛を一撃で倒したらしいからな」
そう言って組合長は、メリアを見て――次いで俺に視線を移した。俺の事も知ってるんかい。箝口令とは一体。
……いやまあ、正直ちょっとやり過ぎたかな? とは思ってますよ。でもメリアさんの事を化け物呼ばわりされて、頭に血が昇っちゃったんだから仕方がない。反省の余地はあるかもしれないが、後悔はしていない。
「おいおい。そんな顔すんなよ。俺は冒険者組合の頭だぞ? 領主様と話をする機会くらいあるさ。うちに所属している冒険者の動向をある程度把握しておくのは当然の話だろう? まあ、関わり自体はそこまで多くはないが、お前の信念というか、逆鱗みたいなモンは方々から聞いておおよそ把握している。お前のやらかした事にとやかく言う気はないさ。そこらへん基本自己責任だからな、冒険者ってのは」
考えていた事が表情に出ていたようで、組合長は意地の悪い笑みを浮かべた。
「ぶっ倒された近衛の後日談も聞いてるぞ? 一度見てみたいモンだぜ」
しかも、リンデさんの失禁についても聞いているらしい。プライバシーの保護とかないのか。ないよな。ちょっとリンデさんが可哀想になってきた、かもしれない。
「だったら尚更だろう。近衛なんて、最低でも冒険者レベル五の実力はあるし、そんな奴がレベル一冒険者に倒されたなんて話が広まったら大事だろ」
「広まらんよ」
相変わらずクツクツと笑いながら話す組合長にジャンが食ってかかるも、その表情を真面目な物に変えた組合長に一蹴された。
「は? いやだって、酒場で――――」
「そんなもん、所詮酔っぱらいの戯言だ。多少の噂は広まるだろうが、容姿だって正確に語られている訳じゃない。いくらかメリアに話が行く事はあるかもしれんが、メリアが否定すればそれでおしまいさ。それを考えると、メリアのレベルは低い方が望ましいのさ。誰だって、天下の近衛がレベル一の木っ端冒険者に倒されたなんて思わんだろ? むしろ、ここでレベルを無理矢理上げる方が要らん疑念を産む。無理矢理上げるに足る理由があったって事になるからな。例えば――――王家からの圧力、とかな」
「っ!?」
『王家の圧力』。その強烈な単語に息を飲むジャン達。それに構わず、組合長は言葉を続けていく。
「実際にはそんな事実は全くない。だが、結果だけを見て的外れな予測をし、それがさも事実であるかのように語りたがる奴らはいるもんだ。そして、そういう奴ら程声はでけえし、そういう類の話は民衆の大好物だ。あっという間に広まって、事実として語られる」
「…………」
「そうなるとどうなるか? もちろん王家の耳に入る。そして秘密裏に事実確認を始める。王家が本気を出したら事実なんてあっという間に暴かれる。そうしたら次は? メリアに何かしらの接触があるだろうな。騎士への引き抜きならまだいいが、殺して無かった事にしようとする可能性もあるな。もちろんその場合、周りの人達も危害が加えられる可能性だってあるし、適当な罪をでっち上げられて、一族郎党撫で斬りって線もあるな」
そこまで話した所で、組合長は一度言葉を切り、強い視線をジャン達に向けた。
「さて? ここまで長々と話したが、それでもお前はこいつのレベルを上げようとするか? このイースの街で平穏な生活を送っている奴を、王家の陰謀やら何やらのド真ん中にぶち込むか?」
「…………………………いや。やめておこう」
静かながら、圧の強い口調での組合長の問いに、ジャンは長い沈黙の後、自身の提案を撤回した。
続いてジャンは、メリアさんの方へ体ごと向き直って頭を下げた。
「すまなかった。そこまで頭が回ってなかった」
「あ、いや、うん。分かってくれたなら、私はいいけど……」
展開の急さについていけず、しどろもどろになりながらもジャンの謝罪を受け入れるメリアさん。
それを見た組合長は、締めとばかりに手をパンと打ち鳴らした。
「ならこれで話は終わりだ。ジャン。他に話がないんなら組合に来たついでだ。依頼でも受けていけ。お前ら最近依頼を受けてねえだろ? レベル六冒険者がいつまでも遊び歩いてたら他の冒険者に示しが付かねえぞ?」
「ああ。そうするよ……じゃあ失礼する」
「おう。……ああ、メリア達はまだ話があるから残れ」
「? はい」
神妙な表情でジャン達が踵を返し、俺達も一緒に出ようとした所で組合長に呼び止められた。
「ふう。お前達には苦労を掛けたな。全く、あいつは良い奴なんだが、良い奴だからこそ、余計な事にまで首を突っ込もうとしやがる。冒険者のレベルについてなんざ、組合に任せときゃいい話なんだがなあ」
ジャン達が退出し、ドアが閉まった事を確認した所で、組合長は溜息と共に愚痴のような物を吐き出した。
「いえ、ジャン達の言っている事も、分からなくはないですから…………」
「そうか。それは何よりだ。…………ん? どうしたメリア? 顔色が悪いぞ?」
メリアさんの返答に一つ頷きを返した組合長は、すぐにその表情を怪訝な物に変えた。
その言葉に、メリアさんの顔に視線を向けるが、なるほど確かに顔色が悪い。
どうしたんだろう? 具合悪くなっちゃったのかな? だったら組合長の話とやらは後日にしてもらって、さっさと帰った方がいいかもしれない。緊急性の高い話だったら、メリアさんには先に帰ってもらって、俺一人で聞けばいいかな。
「…………あの! ……あの、さっきの話、本当ですか?」
「あん? さっきの話?」
意を決して、といった様子で切り出したメリアさんに、俺と組合長は揃って首を傾げた。
さっき、って事は、ジャン達がいた時だよな? なんの事だろう?
「ほら、王家がどうのって言ってたじゃないですか。私が近衛の人を倒したのが原因で、周りの人達にも迷惑が掛かるって…………」
「「あー…………」」
確かに言ってた。なるほど。顔色が悪かったのは、体調が悪いんじゃなくて、絶望的な話を聞いてしまったせいか。
「大丈夫だよおねーちゃん。そんな話にはそうそうならないよ」
「でも……」
泣きそうな表情を俺に向けるメリアさんに、俺は出来るだけ優しく、一言一言含ませるような言葉遣いを心がけて語り掛けた。
「あれね。詐欺の手口。ほら思い出して? 王家がどうのって話って、一例として挙げただけだよ?」
「…………あ」
俺の言葉に、ハッとした表情を浮かべるメリアさん。うんうん。思い出せたみたいだね。
「そういう事。あくまで例の一つとして出した話を、さもそれが確定した事実であるように一気に語った挙句、相手に深く考える時間を与えずに、究極の二者択一に見える選択を迫る。すると相手はその選択肢以外が見えなくなっちゃう。ジャン達を止めるのに有効そうだったから黙ってたけど、正直、組織の長のやり口じゃないよね」
「言うじゃねえか。だが実際助かっただろ? まあ、俺はあくまで一例に対しての答えを聞いただけだ。あいつらが勝手に勘違いしただけさ」
メリアさんに、組合長が使った手口を説明してあげ、ついでに組合長の事を軽くディスると、件の組合長がニヤニヤ笑いで会話に割り込んで来た。
「まあ、そういう事にしておきましょう。その方がお互いの為ですし」
「そういうこった。つーか、あの話を始めた時に微妙な表情をしてたのは全部分かってたからかよ。全く末恐ろしいガキだぜ。本当に六歳か? 正直大分疑わしいぞ?」
「失敬な。どう見ても子供でしょうが」
子供である事をアピールする為に、俺はその場でクルッとターン。そして首を傾げてニッコリスマイルを決めた。
どうだ。どこからどう見ても可愛らしい子供だろう?
「…………マジモンのガキは、そんなあからさまにあざとい真似はしねえよ」
仰る通りで。ちょっとやりすぎた。そして呆れた表情でこっちを見ないでくれ。恥ずかしくなってくるから。
「ま、お前自身がそう言うなら別にいいがな。組合としての不利益はねえ訳だし。むしろ、レベル零冒険者っつー、保護者がいねえと街の出入りすらおぼつかねえような立場に居てくれるのは、いい枷になってくれて助かるぜ」
…………そうだ。【いつでも傍に】で簡単に街に入れるから忘れてたけど、レベル零冒険者って制約があるんだった。基本メリアさんと一緒に行動してるから今の所問題はないけど、いざと言う時の事を考えると、そういう制約なしで動けた方が色々便利だよな。
となると…………。
「………………実は俺、十二歳でして……」
「あーあー。聞こえねえ聞こえねえ」
「ちょっと! 組織の長が下の人間の話を聞かないとか腐敗の第一歩ですよ!」
「ハッ! 組織の長の前で年齢詐称を公言しようとした奴が何を言ってやがる。寝言は寝て言え」
「ぐぬぬ…………」
くっそ。やっぱ駄目か。
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