第174話 冒険者組合でクリスさんと話した。
すみません。体調が思わしくなかったので今回は短めです。
狐燐の手によって皐月が屋敷へ強制送還されたのを見送った後、俺とメリアさんはイースの冒険者組合にやってきた。
理由は言わずもがな、独断でメリアさんのレベルアップに向かったジャン達を止める為だ。後依頼の進捗確認。俺としてはこっちがメインだけど、まあそれは言わぬが花って事で。
「――――って事なんだけど、ジャン達来てるかな?」
「ええ。先程組合長の部屋に向かいましたね。なるほど。組合長への用というのはそれの事だったんですね……。深刻そうな表情だったので、何事かと思いましたが」
メリアさんが模擬戦から今までの流れを軽く説明すると、クリスさんは得心が行ったというようにウンウンと頷いた。
「そう! 私は全くって言っていいくらい依頼を受けてないし、第一私自身はレベルを上げる気はないのに、ジャン達が勝手にさあ……」
「そうですね。冒険者というのは、只強ければいいという訳ではありません。知識を蓄え、様々な依頼を受けて経験を積み、上位の依頼を任せても問題ないと組合側が総合的に判断した方を、依頼者が判断する為の目安がレベルです。それを、言い方は悪いですが、ただの一冒険者であるジャンさん達が決めるのはおかしな話です」
「でしょでしょ! やっぱりおかしいよねえ!?」
クリスさんから同意を得られた事に嬉しくなったのか、メリアさんの声が一段階大きくなる。
だが、続くクリスさんの言葉に、一気にテンションダウンした。
「ええ、それはもちろん。……ですが、正直な事を言いますと、ジャンさん達の気持ちも少しわかります。イースで二組しかいないレベル六冒険者であるジャンさん達。そんなイースの最上位の実力の持ち主である彼らを、模擬戦とはいえ打倒した方のレベルが一というのは、納得がいかないという方も一定数はいるでしょう。先程、冒険者レベルは戦闘能力だけでは上がらないとは言いましたが、やはり一定以上の戦闘能力は必要ですし、冒険者の皆さん自体、戦闘能力を重視する傾向がありますので尚更ですね。なので、私個人の意見としては、お二人には日々の生活に支障が出ないような……そうですね。例えば、期限が長く設定されている納品関係の依頼や、近場で完遂できる討伐依頼等を熟していただいて、レベル二……いえ、三くらいまでは上げていただきたい所ではあります」
「ええええ……。クリスさんまでそんな事言うの……? 日々の生活に支障が出ないような依頼って言われても、正直厳しいんだけど……」
「まあそうですよね。〈鉄の幼子亭〉は連日大盛況ですし、数日おきに孤児院と貧民街で炊き出しもしていますよね」
「あ、知ってたんだ」
「結構話題になってますし、イースで知らない人はいないと思いますよ?」
まじで? そんな大事になってたの……? 言っちゃあ悪いけど、只の炊き出しだよ?
メリアさんも同じ感想を抱いたようで、驚きの声を上げた。
「そこまでなの……? まあ、始めたのは例のごとくレンちゃんなんだけどね。私はただ手伝っただけ」
「やはりですか。そんな気はしてました。稼いだお金を溜め込むのでなく、弱き人々に手を差し伸べる為に使う。そうそうできる事ではありませんよ」
「だよねえ。そこらへん、レンちゃんは普通と違うっていうか……あー、レンちゃんから普通な所を見つける方が難しいかな?」
「……………………」
なんかいつの間にか、メリアさんのレベルについての話から、俺を聖人かのように持ち上げる内容に変わり始めている。
実際は、狐燐が連れてきて、ウチで養う事になった孤児――アイラ達の話を聞いた際、仕事のアウトソーシング先に丁度良いのではないか? と思っただけの事なんだけどなあ。
…………いやまあ確かに、クリスさん達が思っているであろうような事も、考えなくはなかったけどさ。
家も、俺のような小市民では有り得ない規模の屋敷があるし、定職もあってそっちも好調。唸る程有る訳ではないけど、まあそれなりの生活を送るだけの金は稼げている訳で。
それだったら、多少は慈善事業的な物にお金を使ってもいいかな? と思った訳だ。
という事なので、マジモンの聖人のように、自身の生活を切り詰めてまで奉仕をする気はサラサラない。守るべき家族もいるし。それはもう沢山。
というかメリアさん。サラッと言ってるけど、それ暴言だよ? 俺はそこまでおかしい人間じゃないです。
それとクリスさん。沈黙は肯定と見做されるって言葉知ってる? 後、声は出してないけど、『ですよねー』って表情でバレバレだよ?
二人からの軽い聖人扱いから一転しての変人扱いに、苦い表情を浮かべていると、それを見たクリスさんが話題を変える為か咳払いを一つ吐いた。
「コホン。……えー。という事ですので、ジャンさん達は今、組合長の部屋にいます。向かわれますか?」
「もちろん! ガツンと言ってやるんだから! レベルなんて上げさせないよ!」
「普通は、簡単にレベルが上がるかもしれないと聞いたら喜ぶ所なんですけどね。まあ、お手柔らかにお願いします。ジャンさん達も悪気がある訳ではないでしょうし」
「大丈夫! もしかしたら一発殴るくらいはするかもしれないけど!」
おお……。メリアさん、ついさっきまでバトっていた所為か、まだテンションが高めみたいだな。普段はこんな事言わないのに。
「やめてください」
「じょ、冗談だって……。だからそんな怖い顔しないで……」
「それならいいです」
そしてクリスさんの顔を見て一瞬で鎮火した。やべえ。クリスさん怖え……。
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後、次回の投稿ですが、帰省するので来週は難しいかもしれません。楽しみにしている方がいらっしゃいましたら申し訳ございません。




