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第173話 模擬戦が終わった。ジャン達を追ってイースに向かう事にした。

今回からレン視点に戻ります。

「――――って感じで、みんなイースに行っちゃったんだよ! 私の話も聞かないでさ! 酷くない!? 酷いよね!?」


「あー、なるほど。そういうこと…………」


 離れた場所から見ていても分かるくらいのフィジカルモンスターっぷりで、メリアさんがジャンとレミィを下したのを見て、『次はレーメスかな? いや、違うタイプって事でキースかセーヌって事も……』なんて話を、狐燐や皐月と共に、完全に観客視点で話していたら、いきなりジャン達がその場を離れていくのが目に入り、揃って首を傾げていたのだが、その直後に肩を落としてトボトボと俺達のいる豆腐ハウスにやってきたメリアさんから一部始終を聞いてやっと状況が把握できた。


 話している内に沸き上がる物があったのか、どんどん語り口がヒートアップしていくメリアさんの話を端的にまとめると、『二人戦って分かったけど、メリアさん強すぎでジャン達じゃ勝てない。そんなメリアさんがレベル一とか他の冒険者の沽券に関わるからって理由で、ジャン達はこの場を離れて組合長に直談判しに行った』って感じか。まあ気持ちは分かる。メリアさんの規格外さは俺も身を以て知ってるし、試合内容的にもそう感じてもおかしくないだろうし。


 ジャンとの一戦では、開始の合図と共に瞬間移動したかと思ったら、離れた場所から見ていた俺でも分かるくらい微妙な体勢で打った、手打ちの一発でジャンを吹っ飛ばしてギブアップさせるし。


 レミィとの一戦では、最初こそ見当違いの方向に攻撃をしていたけれど、すぐに対応して、目で追えないくらいの応酬の上にレミィが半ギレでギブアップしたし。

 ――なお、見当違いの方向に攻撃していた事については、メリアさんからの説明で、詳細はボカされたけど、レミィの【能力】(スキル)に翻弄されたそうだ。どんな【能力】(スキル)なんだろ。近くの人にしか見えない幻を作る、とかかね?

 まあ、それは今は置いておいて。


 確かに、メリアさんは冒険者としてのレベルは全く上がっておらず、登録時のレベル一のままだ。

 メリアさんが俺を置いて、一人で冒険者としての依頼を受けようとしないってのもあるが、単純に〈鉄の幼子亭〉の経営を含む諸々が忙しすぎて冒険者活動を行う暇がないからね。俺も全く同じ理由でレベルは零のままだな。


 だが、俺はともかく、メリアさんの実力はジャン達の言うとおりレベル一には収まらない。それを改善するために、ジャン達は冒険者組合に向かったのだ。ぶっちゃけ有難迷惑である。

 というか、そんなイカサマでレベルを上げたりした方が、他の冒険者からの顰蹙を買う気がするんだが、そこらへん考えてるのかねえ?


「正直、冒険者登録なんて解除しちゃってもいいかな、って思ってるくらいなのに! しかも確か、レベル六から指名依頼が来るようになるんだよね? 毎日忙しいのに、そんなの受けてる暇なんてないよ!」


 うん。その話もあったね。でもまあ、そこに関しては気にしなくてもいい、というか、気にしても意味ないというか……。


「…………今まで受けた依頼も、ほとんど指名依頼みたいなモンばっかだったけどね……」


「…………そういえばそうだった」


 一番最初に受けた、ゴブリンの巣の殲滅依頼以外、全部侯爵様からのイカサマじみた、実質指名依頼だからね。ぶっちゃけレベルが上がっても、そこはあまり変わらない気はしないでもない。

 …………ないが、レベルが高いって理由で、知らん相手やめんどくさい相手から指名依頼が来ても嫌だな。


「まあ、それはさておき。これから組合に行ってキッパリ断っておこうか。……そうだ。ついでに俺達が出した依頼の進捗についても聞いてみよう」


 こういうのは、ハッキリしておかないとズルズルと面倒な方に進んでいくものだし、動くのが遅いと色々間に合わない可能性もあるからね。体験談である。もちろん前の世界の、だが。うぅ、思い出すだけで頭が痛くなる……。


「そうだね。後回しにしていて、気づいた時にはレベル六になってた、とか嫌だし」


 という事で、俺はメリアさんと共に、イースへと足を向け…………おっと忘れてた。


「ほいっと」


「うおおっ!? ……いきなり視界が開けるとちょいと驚くのお。片づけるなら片づけると一言欲しかったのじゃ」


 ここでの用事は終わったので、観戦用に作っていた豆腐ハウスを【金属操作】でパパッと片づけると、いきなり屋外に放り出される形になった狐燐が驚きの声を上げた。寝っ転がったままで。大物である。


「それはすまんかった。それはさておき、ほらほら。一緒に見てたから分かるでしょ? 模擬戦はおしまい。俺達はイースに行くから二人は帰りなさい」


「そうじゃのう。見世物が終わったのなら、ここにいる意味もないの。さっさと帰って柔らかな寝台で惰眠を貪るとするかのお。正直、ここは床が固くて居心地が悪かったのじゃ」


 手をパンパンと叩いて帰宅を促すと、狐燐はのっそりと起き上がってパンパンと服に付いた土埃を払った。


「えー! サツキもアルか!? 嫌ヨ! レン様と離れたくないアル! サツキも一緒に行くネ!」


 服に付いた汚れを粗方払い終わり、続いて尻尾に付いた汚れをはたき落とし始めた狐燐を余所に、皐月はその場で寝っ転がって、駄々っ子のようにジタバタと暴れ始めた。

 その理由に、なんとも愛されているもんだ。とちょっと嬉しくなったが、ここは心を鬼にしないといけない場面だ。

 皐月は絶対に屋敷に帰らせた方がいい。いや、帰らせないといけない。皐月本人の為に。


「気持ちは嬉しいけどさ。帰るのが遅くなればなるほど、ルナの怒りが大きくなると思うよ?」


「むぎゅ!?」


 相変わらず、幼子の如くジタバタしていた皐月だったが、俺の一言を聞いた途端、潰れたカエルみたいな声を上げて動きを止めた。


「……ルナ、怒ってるアルか?」


「程度は分からないけど、確実に」


「…………なんでアルか?」


「報告義務を怠ったから、かな?」


「怠ってないかないアル。ちゃんと【念話】したヨ」


「あれは報告とは言わない」


「言わないアルか……。うぅ……余計に帰りたくなくなったアル…………ルナ怖いヨ」


 ルナの怒りを思い出したのか、その場でガタガタと震えだす皐月。

 なかなか破天荒な事をする皐月ではあるが、メイド達のまとめ役であるルナの事は怖いらしい。

 俺達の前では怒る事がないから、どれくらい怖いのか分からないんだけど、ルナって怒るとそんなに怖いのか……。


 いや、怖いのが分かってるなら言い逃げなんてしないで、ちゃんと許可を取って来ればよかったのに。


「そうアル! レン様と主も一緒に帰るネ! そしてルナに一緒に謝るヨ!」


 子犬のような潤んだ瞳で俺を見上げていた皐月だったが、名案を思い付いたとばかりにペカーッと笑顔を浮かべた。

 その笑顔はとても可愛らしい物だが、残念ながらその案は却下だ。


「いやいや、意味分からんし。なんで俺達も謝らないといけないのさ。第一、俺達はこれからイースに行くって言ったでしょ? そういうのは後回しにしていいことなんか何もないんだから、パパッと謝っちゃうなさい。ちゃんと謝れば、ルナも許してくれるよ……………………多分」


「そこは断言してほしいアル!? やっぱり怖いアルー! 帰りたくないアルー!」


「…………のう。妾、先に帰ってもいいかのう? 早く帰りたいんじゃが。こんな何もない所で突っ立ってられるほど、妾は暇じゃないのじゃ」


 皐月との押し問答を続けていると、尻尾の掃除が終わったらしい狐燐から意味不明な声が掛かった。

 ……暇じゃない? ハハハ。こいつは何を宣っているのやら。


「いや超暇だろ。屋敷に帰っても寝るだけだろうが」


「そうじゃが?」


「こ、こいつ、悪びれもせずに…………。帰るのはいいけど、皐月も連れていってくれ。このままじゃ埒があかない」


 狐燐のあっけらかんとした物言いにちょっとイラッときたが、それを飲み込んで皐月も一緒に連れて帰るように頼む事にした。本人が帰る気がないのなら、強制的に帰らせるしかない。


「そんなのお安い御用じゃ。ほれ行くぞ」


「あああああぁぁぁ!? ま、待つアル! サツキはまだ心の準備が――――」

「そんなもん知らん。ではな」

「あ――――」


 叫ぶ皐月を完全無視し、狐燐が未だ寝っ転がったままの皐月の頭を手を置く。次の瞬間には二人の姿が目の前から消えていた。


 あ、行っちゃった。一言言っておきたい事があったんだけど……。


「せめて服を払ってから帰らせたかったんだけどなあ……」


「そうだねえ……。全力で暴れてたから、かなり泥だらけだったよね。あれはルナ怒るだろうなあ」


 自分から怒られるネタを増やしていくスタイル。俺には真似できないね。したくもないけど。

 まあ、これに関しては自業自得って事で。


「…………さてと。そんじゃま、行きますか」


 皐月がルナにコッテリ絞られる様子を幻視し、心の中で手を合わせてから、俺はメリアさんに向き直った。


「うん。絶ーっ対! レベル六になんてならないんだから! ガツンと言ってやる!」


 そっちも重要ではあるけど、俺的には依頼の進捗が気になるなあ。なんかいい食材、入ってるといいなあ。

お読みいただき、ありがとうございます。


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