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第169話 模擬戦会場に着いた。狐燐に堕とされた。

「そりゃあさすがにね? 私だって、同年代の人より若く見えるっていうのは知ってるよ? 実際、〈鉄の幼子亭〉で働いてる時も、男のお客さんからそういうお誘いを受けた事もあるし、胸とかお尻にちょっと気持ち悪い視線を向けてくるお客さんも多いし。マリアに親子じゃなくて姉妹に見えるって言われて、結構嬉しかったしさ。それでも、そうだとしてもレンちゃん程じゃないよ。この子と同列に扱われるのはさすがにおかしいでしょ。だってこの子、この見た目で中身は私と大して変わらない年齢なんだよ? しかも男。どう考えても詐欺でしょ。これと比べたら私なんて、性別だって変わってないし、ちょっと若作りなだけじゃん……」


「……あれ? おねーちゃん、もしかして俺の事嫌い?」


 屋敷とイースの中間に位置する荒野。先日、俺とジャンが接戦という名の泥仕合を行った場所で、俺はメリアさんの口からこぼれる愚痴を受け止めていた。

 朝食時における、メリアさんの愚痴の原因となったやり取りの後、俺の体調も問題ないということで、延び延びになっていたメリアさんとジャン達の模擬戦を行う事になった。のだが。


 割りと愚痴の切れ味が鋭くて、ちょいちょいクリティカルヒットしている。……今日はちょっと暑いな。目から汗が出てきそうだ。

 後、その男共の情報について詳しく。出禁にしてやる。


「え! 嘘、聞こえてたの!? いや、違うんだよレンちゃん。私はそういう事を言いたかったんじゃなくて…………泣いてる!? 泣いてるのレンちゃん!? ほら! 頭撫でてあげるよ! ね? 嫌いだったらこんな事しないでしょ!? ナデナデー」


 そこそこ大き目の声で喋っていたのだが、メリアさん的には独り言だったらしく、俺の耳に届いていた事を知って狼狽えた後、俺の疑念を打ち消そうとするかのように頭を撫でて来た。

 うむ。やはりメリアさんのナデナデは良い。メッタ刺しにされた心が癒えていくのを感じるぜ。我ながらチョロイ。


「レン様安心するネ! 主がレン様の事を嫌いだったとしても、サツキはレン様の事大大大大好きアルヨ! 主がナデナデなら、サツキはギューッてするネ! ほらギューッ! こっちの方がナデナデより大好きって気持ちが伝わるアルー」


「むぎゅ」


「ちょっとサツキ! レンちゃん! 私だってレンちゃんの事大好きだからね!? 私もギューッてしてあげる! ギューッ!」


「ぐぎゅ。……うん、分かった。二人の気持ちはよーく分かった。だから二人ともちょっと腕の力抜いて。潰れちゃう。口からなんか出ちゃう」


 右側からメリアさん、左側から皐月にハグされ、サンドイッチ状態になる俺。色々柔らかくてとても気持ちが良いのだが、いかんせん二人とも腕に力が入りすぎだ。このままじゃあ、サンドイッチの具からスルメにクラスチェンジしてしまう。

 メリアさんの力が強いのは身を以て体験してるので知ってたが、なかなかどうして皐月も…………ん? 皐月?


「あれ? なんでここに皐月がいるの? 今日も前と同じで、ルナが来るって聞いてた気がするんだけど」


 屋敷から出る前に、ルナ本人から聞いた。先に潰しておかなきゃいけない仕事があるから、俺達とは一緒に行けないけど、すぐに向かうって言ってたはず。その時のルナの渾身のドヤ顔が鮮明に記憶に残っているんだが。

 一瞬、俺の記憶違いを疑ったが、メリアさんも『そういえば』という顔をしているので、間違いではない様子。じゃあなんでルナがおらず、皐月がいるんだろうか。


「それはモチロン、レン様と一緒にいたいからアル! 大丈夫! ルナには報告済みネ!」


「そ、そうなんだ……。にしても、よくルナが許したね。かなり来たがってたように見えたんだけど」


「? 許しなんてもらってないアル。【念話】で『レン様と一緒に模擬戦行ってくるネ』って言ってすぐ切断したヨ」


「まじかよ。ルナ怒ってるだろうなあ……」


 ルナから今日も観戦に向かうと聞いた際、前回の模擬戦の時、マリアさんとルナの二人が観戦に来たのだが、その欠員により屋敷内の業務が滞ってしまったらしく、今回の観戦は一人だけにしたと聞いた。前回以上の激戦だったらしく、喜びもひとしおだったんだろうし、だからこそのあのドヤ顔だったんだろう。


 なのに、皐月のこの行動である。さぞかしルナは怒り狂っているだろう。いや、泣いてるかもしれないな。俺の時と違って、メリアさんの模擬戦は見ごたえがあるだろうし。


 そして、さりげに皐月がけっこうヤバい奴だというのが判明した。

 俺の事が大好きすぎて、他のことを全て投げ捨てていくスタイル。いや、起きた時と朝食時の行動から、兆候はあったんだけどね?

 これが、俺の魂を分け与えてからの所業となると、俺は自分自身が信じられない。俺、こんな素養を持ってたって事? 結構真面目に生きてきたと思うんだけどなあ……。


「さて、こっちの準備は――――って、なんだその羨ましい状況。両手に花かよ。お前が子供じゃなきゃぶん殴ってる所だな」


「……微笑ましいでしょ?」


「普通の子供はそんな事言わねえ」


 準備が出来たらしいジャンが、それを伝えにこちらに近づいてきて、俺の今の状況――メリアさんと皐月にサンドイッチされている――を見て、呆れた様子で話しかけてきたので、俺は少しの間の後、当たり障りのない言葉を返した。

 ……ここで、俺が実は成人男性だって教えたらどうなるんだろうか。言葉通りぶん殴られるのかな?

 まあ、ジャン達は良い奴らだし、真実を伝えるのは吝かではないが、さすがにここじゃないな。どうせカミングアウトするなら、もうちょっと相応しい場を用意したい。結界があるとはいえ、そんな身体を張った一発ギャグはノーセンキューだ。


「で、準備出来たたんだっけ? じゃあ俺は狐燐のとこで見てるよ。……おねーちゃん、がんばってね」


「っ!! うん! 頑張る! 見ててね! レンちゃん!」


 腕の力こそ抑え気味にしてくれているが、皐月と競う様に、ちょっと必死な様子で俺に抱き着いていたメリアさんだったが、俺の激励を聞いた途端、一瞬驚いた表情を浮かべ、次いで心底嬉しそうな笑顔を浮かべて俺から離れた。

 頭の上で、手を大きくブンブンと振るメリアさんを背中に、俺と皐月は狐燐が寝っ転がっている豆腐ハウスへと足を向ける。

 なんだ、本気で俺から嫌われた、とか思ってたんかね? 別にあの程度、どってことないんだけどね。むしろ色んな事に引っ張り回している自覚があるので、俺の方が嫌われてるんじゃないかと心配になるくらいだ。

 まあ、あの様子を見るに杞憂だったみたいだけど。


「来たか。ほれ、突っ立ったままじゃと疲れるじゃろう。こっちに来るのじゃ」


 豆腐ハウスに入ると、堕落した王族、それか傾国の女かの如く、クッションに囲まれて寝っ転がりながら、大きな尻尾をゆるゆると動かしている狐燐から声がかけられた。こいつ、ほんとこういうの似合うよな。ただ寝っ転がってるだけなのに、普通の男だったらその淫靡な空気に負けてル〇ンダイブをかますか、圧倒的なカリスマにひれ伏すかしてしまうだろう。


「そこまで虚弱じゃないけど、まあお言葉に甘えますかね……おわっ!」


 だが残念。俺は普段のこいつのポンコツっぷりを嫌って言う程知ってるし、この身体になってから男性的な性欲はかなり減衰した。つまり、こいつの偽りのカリスマも、性的な魅力も、俺には効果が薄いのだ。

 なので、特に思う事もないまま、断る理由もないので言われた通りに近づくと、先ほどまでゆったりと動いていた尻尾が突然機敏に動いて俺に巻き付き、そのまま俺を持ち上げて狐燐の隣に寝っ転がらせた。あっという間の早業である。


「むふー。どうじゃ。至高の気持ちよさじゃろう?」


「驚かせるなよ……。確かに、ちょっと気持ちいいけどさ」


 狐燐のドヤ顔に呆れ顔でそう返したが、内心は全く違う。


 オホオオオオオオオオオオッ!! モッフモフ! サラサラ! なんこれ超気持ちいい! あったかいしめっちゃいい匂いする! アアアアァァァァ。やばい。人間じゃなくなっちゃう。言語能力がなくなっちゃううううう!!


「……うむ。お気に召してもらえたようじゃのう。良きかな良きかな」


 ……呆れ顔を作るのは失敗していたらしい。まあしょうがないかな。それくらい気持ちいいんだもん。


「むむむむ。レン様気持ちよさそうネ。サツキも触りたいアル。でもレン様ともくっつきたいアル。サツキは一体どうすれば良いアルか……っ!」


「だったらサツキも一緒に妾の尻尾に包まれるがよかろう。レンともくっつけるし、妾の尻尾を堪能する事も出来て一石二鳥という奴じゃな」


「おお! コリン頭良いネ! じゃあ早速……ふわぁぁぁ。これは良い物ネ。天国アル……」


「くふふふふ。サツキも妾の尻尾の魅力に堕ちたようじゃのお…………ほれ、気持ちいいのは分かるが、ご主人の模擬戦闘が始まるようじゃぞ? 返ってくるのじゃ」


「「……ハッ!?」」


 やべえ。一瞬意識がどっかいってた。恐るべし狐燐の尻尾。


 俺は、頬を叩いてまたちょっと飛びかけている意識を覚醒させ、メリアさんとジャンの方を視線を向けると、丁度今回の審判役らしいレーメスが高く掲げた腕を振り下ろす所だった。


 メリアさん頑張れ。俺はしっかり見てるからね。


 …………俺も頑張らなくては。

あれ? おかしいな。今回もバトルまでいかなかった。うん。俺は悪くねえ。全て狐燐と皐月が悪い。こいつらいると話がなかなか進まん。書いてて楽しすぎる。


すみません。次回、次回こそはバトります!

メリアさんのバトルが見たいという方、申し訳ありませんが、もう少しだけお待ちください……!


お読みいただき、ありがとうございます。


作者のモチベーション増加につながりますので、是非評価、感想、ブクマ、いいね! の程、よろしくお願いします。

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