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第19話 依頼を達成した。

難産でした・・・!

とりあえず、なんとか形にできたので投稿します。

今回は、人の死、についての表現があります、ご注意ください。

「よし…………行くぞ!」


 ジャンの号令と同時に全員が一斉に駆け出し、一気に空洞に突撃した。


 空洞は小さな体育館くらいの広さがあり、おおまかな半球形をしていた。

 入口の近くに二匹、こちらに背を向けた状態でゴブリンが立っていたが、俺達の侵入に気付いて振り向こうとした所で、


「ふんっ!!」


 ジャンが横薙ぎに振った大剣により上半身と下半身を分断された。


 その横をレーメスとレミイさんが無音で駆け抜けていく。二人の向かった先にはゴブリンが三匹おり、これまたこちらに背を向けていた。三匹とも膝立ちで横一列に並んでいる。そして何故か腰が前後に動いている。


 とても嫌な予感がする。


 ジャンが切り捨て、宙に舞っていたゴブリンの上半身が地面に落ち、音を立てた事で三匹の内一匹がこちらを振り向いた。

 すさまじい速度で近づいてくる二人に気付き、慌てた様子でそばに置いてあった石斧を掴んだが、その時にはすでに二人の間合いに入っていた。


「おらああああっ!」

「ハッ!」


 レーメスが右側、レミイさんが左側のゴブリンの背中にナイフを突き刺した。即死だったようで、声を上げることもなく倒れた。

 しかしまだ一匹残っている。そいつは今までの奴らより一回り体が大きく、ボロボロながら革鎧を纏っていた。


「グギィィィァァァアアアアッ!」


 鎧ゴブリンはこちらに体ごと振り向き、雄たけびを上げた。

 それに合わせてレーメスとレミイさんはバックステップで鎧ゴブリンから離れ、次の瞬間には鎧ゴブリンの顔面に五十センチほどの大きさの火の玉が、胴体には十センチほどの大きさの水の玉が直撃した。

 かなりの威力だったようで、顔面が吹き飛び、胴体に穴が開いた鎧ゴブリンは雄たけびを上げただけで死亡し、その場に倒れこんだ。


「そっちに倒れんじゃねえ、よ!」


 魔法を受けた衝撃で後ろに倒れていくのを、いつの間にか再度近づいていたレーメスが掴み、無造作にに引っ張った。

 手前に引っ張られたゴブリンは倒れる向きを手前に変え、今度こそ倒れた。


 ほんの十数秒でゴブリン五体との戦闘は終了した。


「…………すごいね」


 メリアさんのつぶやきに、俺は頷いた。頷く事しかできなかった。


 すべては最速で敵をせん滅する為に最適化された動きだった。

 レーメスとレミイさんを奥に向かわせる為にジャンが入口付近にいたゴブリンを相手取る。

 それによりレーメスとレミイさんは一切足を止めることなく奥のゴブリンに接近する事が出来た。

 そのレーメスとレミイさんも中央のゴブリンが鎧を着ており、一撃での撃破は難しいと判断し、両脇のゴブリンをそれぞれ一匹ずつゴブリンを倒し、即離脱。前衛の二人が離れた事により、射線が通った状態で残り一匹となった鎧ゴブリンに、キースとセーヌさんが魔法を撃って撃破。二人で魔法を撃ったのは、万が一片方の魔法で倒し切れなかった時の為の保険だろう。

 ここまでの事を全員が事前の打ち合わせ無しでやってのけたのだ。阿吽の呼吸という奴だろうか。

 高レベルパーティのすごさを認識した戦闘だった。


 だが、そんな事より、俺は別の事に意識が割かれていた。

 壁になっていたゴブリンが倒れたことで、戦闘前にゴブリンが向いていた方向に視線が通るようになった。

 少し離れており、かつ手前にゴブリンの死体があるためしっかりとは見えないが、肌色の何かが転がっている。

 ゴブリンの緑色とは違う、肌色が。


「シース! レミイ! どうだ!?」


「…………だめだ」


「こっちも。……もう死んでる」


「そうか……」


 ジャンが突然大声を上げながらレーメスとレミイさんの元へ駆け寄ったが、後ろを振り向きながら苦々しい顔で首を振る二人を見て、悲しそうな表情を浮かべた。

 レーメス達の元に着き、二人が見ていた何かの前に立った時、体が震えたように見えた。

 だがそれもほんの一瞬で、何事もなかったかのように俺達の方を向いた。こちらに向けたジャンの顔は、怖いほどの無表情だった。


「お嬢ちゃん、こっち来な」


 俺の事を呼ぶジャンに対し、レーメスとレミイさんが焦った声を上げた。


「お、おい。ほんとに見せるのかよ?」


「今無理して見せる必要ないんじゃない? いつかは経験することなんだしさ……」


「その『いつか』が致命的なタイミングだったらどうする。今回は俺達もいるし、安全に経験することができる。またとないチャンスだ」


「そ、それはそうだけどよ……」


 ジャンの表情に言いようのない恐怖を覚え、動けないでいた俺を見て、ジャンは無表情のまま俺の前まで歩いてきた。そして俺の腕を無造作に掴み、ゴブリンが並んでいた場所、あの『肌色』の前まで引っ張っていく。


「お、おい! ちょっと待て! 心の準備が……!」


「そんなもん常にしてろ。…………これが、魔物と人間の関係だ」


「っ!」


 そこに『在った』のは半裸の女性二人の遺体だった。

 苦悶の表情を浮かべ、着ていたであろう衣服は無残に破られ、布切れが体に張り付いているだけの状態だった。

 体のあちこちにはベトベトした液体が纏わりつき、異臭を放っている。

 一人は二十台から三十代くらいだろう。残り一人は俺の体と同年代のようだった。


 ゴブリンが一心不乱に腰を前後していた事。

 遺体のあちこちに付着した、異臭を放つベトベトした液体。

 その状況で思い当たる事実は一つしかなかった。


 この人たちは、ゴブリンに犯されていた。


「ゴブリンに限らず、人型の低級の魔物には雌が存在しない。だから、繁殖の為に他の生き物を襲い、犯し、孕ませ、子を産ませる」


 俺の考えを肯定するように、ジャンが説明を始めた。相変わらず無表情だが、言葉の端々に怒りが滲んでいるのが分かる。


「そして、魔物の体液を取り込んだ生き物は体を作り変えられ、魔物を孕む事ができるようになる。いや、魔物しか孕む事が出来なくなる。雌の体が未成熟であろうとも関係なくだ」


 魔物しか孕む事が出来なくなる? しかも未成熟でも関係なく?

 つまり、あれか? 魔物に犯された女性は、たとえ生き残ることができたとしても、二度と人間の子供を産む事ができなくなると?

 しかも、生理が来ていないような年齢の子供でも、それが当てはまると?


「分かったか。これが魔物だ。人間と魔物は相容れる事はない。魔物にとって、俺達人間は仲間を増やす為の道具であり、食料だ。決して手を取り合う間柄ではない」


 ジャンは吐き捨てるように言うと、遺体から離れた。


「……この人たちの遺品を探すぞ。遺品の回収が終わったらこの人達を弔う。その後ゴブリン共から魔石を回収し、この洞窟を再利用できないように崩す」


 ジャンの号令でレミイさんたちは全員遺体から離れ、作業に向かった。この場に残っているのは俺とメリアさんだけだ。


「ごめんね。あなた達の持ち物、一度預からせてね。絶対に、大切な人に、届けてあげるから……」


 メリアさんが遺体に向かって、噛み締めるように声を掛けてから手を伸ばした。回収できるような持ち物はほとんどなかったが、それでも、女性からは指輪を、幼女からは髪飾りを回収した。


 それを俺はただボーっと眺めていた。

 頭が回らない。見えている光景に現実味がない。

 全てが夢の中での出来事のように感じる。


「…………レンちゃん、布を出してくれないかな。体を清めてあげてから、布で包んであげよう。このままじゃ可哀そうだから……」


「…………」


 頼まれた通りに、タオルくらいのサイズの布と全身を包めるくらい大きな布を【魔力固定】で生成して、メリアさんに渡した。


 メリアさんは俺から布を受け取る時、俺の方を見て一瞬悲しそうな顔をした。だがすぐに女性の遺体に向き直り、小さい方の布を水袋の水で湿らせ、女性の遺体を丁寧に清めていく。


 俺も新しく布を生成し、幼女の遺体をノロノロとした動きで清めていった。

 ゆっくりと遺体を清めていきながら、遺体に目を向ける。

 体中あちこちにあざや切り傷がある。所々噛み傷もあった。首には絞められたような跡があり、これが死因のようだった。


 二人で無言で作業を行っていく。念入りに、一切の痕跡が残らないように。


「……うん。綺麗になったね。じゃあ、一緒に布にくるんであげよう。離れ離れにならないように、ね?」


 二人で協力して遺体を布で包み終わった頃、ジャンとレーメスが声を掛けてきた。俺達の作業が終わるのを待っていたらしい。


「俺とレーメスでその人達を外に運ぶ。付いてこい」


 二人は丁寧に遺体を抱えて、外に向かって歩き出した。俺とメリアさんも無言で着いていく。


 洞窟の外にはレミイさん、セーヌさん、キースが待っていた。

 洞窟から少し離れた場所が掘られており、ジャンとレーメスはそこに遺体を横たえた。

 剣を使って無理やり穴を掘ったようで、穴は浅かった。


「ゴブリンの死体の処理は終わっていますわ」


「そうか。じゃあ次はこの人達を弔うぞ。セーヌ、頼む」


 ジャンの言葉にセーヌさんは無言で頷き、遺体に手をかざした。

 すると遺体が一瞬で火に包まれた。


「死体はそのまま土に埋めると、アンデッド化してしまう。アンデッドによる被害も発生するし、なにより、哀れだ。だから死体は可能な限り焼くんだ」


「………………ねえ」


「なんだ」


「ここに来た時にさ、俺が文句言ったり、ゴブリン相手に手間取ったりしてなかったら……この人たちは死ななくて済んだのかな?」


 ここに着いてから、ジャンはとにかく素早く行動しようとしてた気がする。それはつまり、急げばこの人たちを助けられたかもしれなかったからで、俺が時間を浪費しなかったら、もしかしたら二人で俺の隣に立って、助かった、って喜んでいたかもしれない訳で。


「…………死体を見た感じ、死後数日は経っているようだった。つまり、俺達がイースの町を出た時点ですでに二人とも亡くなっていた可能性が高い」


「……そっか」


「だが、今回はたまたまそうだっただけだ。次に同じような依頼を受けた時は、迅速に行動すればギリギリで間に合うかもしれん。だからどんな依頼でも可能な限り素早く行動するんだ」


「……うん」


 その後は何も喋らず、遺体を焼く火を消えるまでじっと見ていた。


 完全に火が消えた事を確認してから、ジャンとレーメスが遺体に土を被せていった。掘ってあった穴が浅かったので、完全に隠れるまで土を被せると、少し盛り上がってしまっていた。


「よし、これでいい。じゃあ最後の仕上げだ。キース、セーヌ。派手にぶちかませ」


「ええ」

「はい」


 キースとセーヌさんは両手を洞窟へ向け、それぞれ巨大な火球と水球を放った。一拍の後、洞窟の中から轟音が響き、続いてガラガラと音を立てながら崩れていった。

 完全に崩落した事を確認してから、ジャンが俺達に顔を向けた。


「このままここにいると遺体を焼いた匂いにつられて魔物が来る。移動するぞ」


 ジャンに言われて全員で移動を開始する。

 俺もいまいち現実味がない状態のまま、言われるがままに動いていた。

 昨日夜営した場所に戻り、今回もそこで夜営した。

 翌日は日が昇ると同時に移動を開始し、夕方頃にイースに到着し、その足で組合に向かった。

 ジャンは組合に入ると、まっすぐ受付に歩を進め、受付嬢さんに声を掛けた。


「依頼の報告に来た」


「あ、ジャンさん! おかえりなさい! 依頼の報告ですね! えーっと、今回ジャンさんたちが受けた依頼は……」


「…………ゴブリンの討伐と巣の破壊だ」


 ジャンの言葉を聞いて、受付嬢さんは先ほどまでの笑顔から一転、悲しそうな表情を浮かべた。


「そうですか。………………どうでしたか?」


 恐々とした様子で尋ねる受付嬢さんにジャンは首を横に振った。


「ゴブリンの数は七匹、全て討伐した。巣も再利用できないよう崩してきた。だが、二人犠牲になっていたよ。俺達が見つけた時には既に事切れていた。母娘のようだった。………………子の方はこいつくらいの年齢だったよ」


 言いながら、ジャンは俺の頭に手を乗せた。いつものちょっと乱暴な乗せ方ではなく、とても優しかった。

 受付嬢さんはその様子を見て、表情をさらに暗くした。


「そう、ですか。…………遺品はありますか?」


「ああ。……お嬢ちゃん、出してくれ」


「うん……」


 〈拡張保管庫〉から遺品が入った小さな袋を取り出し、受付にそっと置いた。

 袋の中には子供の遺体が身に着けていた髪飾りと、大人の遺体が身に着けていた指輪が入っている。

 受付嬢さんはそっと袋の中を確認し、悲しそうに眉を寄せた。


「……隅々まで探したけど、これしか見つかりませんでした。ごめんなさい……」


「ううん。見つけてきてくれただけで十分よ。ありがとう」


 受付嬢さんは優しい表情で俺にお礼を言ってから、ジャンに顔を向けなおした。


「では依頼完了です。こちらの品は組合で責任持って依頼人に返却します。……報酬をお持ちしますのでそのままお待ちください」


 そう言うと、受付嬢さんは遺品の入った袋を丁寧に持ち、受付の奥に消えていった。


 その様子をボーっと眺めていると、後ろから抱きしめられた。

 ゆるゆると首を回すと、メリアさんだった。


「がんばったね、レンちゃん。もういいんだよ。依頼は終わったんだよ。もう、無理しなくてもいいんだよ」


 依頼は終わった。


 メリアさんの一言で俺の中で何かが切れた音がした。

 さっきまで凪のように平らだった頭の中が一気にぐちゃぐちゃになり、目から涙が溢れ、視界が歪む。


「…………ぁぁぁぁああああ! うあああああぁぁぁぁぁ!」


 体ごと振り向いてメリアさんに思いっきり抱き着き、泣いた。



 俺にとっていくつもの『初めて』をもたらした依頼が、終わった。

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