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第167話 メリアさんとジャン達の模擬戦の日になった。

 マリアさんの余計な一言により開催が決定し、ジャンと締まらない戦いを繰り広げた模擬戦。

 最終的には、セーヌさんとレミィさんの訓練(ダイエット)欲に火を付けた挙げ句、ガソリンをぶちまけた日から二日後。


 今日はメリアさんの実力を確かめるべく、ジャン達とメリアさんが模擬戦を行う日。

 なんだが――――


「すまん。後数日待ってくれ。俺達全員、とてもじゃないが模擬戦が出来る状態じゃない」


「分かった。あ、理由は言わなくていいよ。見たら分かるから」


「すまん…………」


 情けない顔を浮かべながら、普段よりゆったりとした動作で頭を下げるジャンに対し、俺は責めたりせず、出来るだけ優しい表情を作って、理由は聞かずに了承した。


 言葉の通り、一目見たら分かるからね。筋肉痛だ。


 朝食を食べる為に食堂で待っていたら、いつもより遅い時間現れたジャン達に一瞬、おや? と思ったが、次の瞬間には理解した。

 すっごいゆっくり歩いてるし、めちゃくちゃ動きがギクシャクしていたのだ。


 まあそりゃ、しばらくまともに運動もしてなかった所に、急にやる気大爆発中の女性陣の訓練に付き合わされたらそうもなる。むしろ肉離れとかにならなかった事を誉めてあげたいくらいだ。そして、その女性陣も揃って強烈な筋肉痛に苛まれているようで、その表情はかなり辛そうだ。特にセーヌさんはしんどそう。

 魔法使いであるセーヌさんは、元々他のメンバーより運動量が少なそうだから、肉体へのダメージも他より多かったんだろう。同じ魔法使いであるキースもかなりしんどそうだから、多分間違ってない。


 ちなみに俺も、模擬戦の後筋肉痛になったが、そこまで酷くはならず、一日で完治した。若さって素晴らしい。元の体だったら二日後とかにキた挙げ句、一週間はまともに動く事も出来なかっただろう。


 という訳で、当初の予定がなくなってしまい、もったりもったりと食事をする五人を尻目に五分で食事を終え、さっさと食堂から辞した。ジャン達も、いつまでも情けない姿を見られたくはないだろうしね。


「……うーん。これからどうしよう。かなり無理して予定開けたんだけどなあ……」


 とりあえず寝室に戻り、二人揃ってベッドに腰掛けた所で、モヤモヤした気持ちを溜息と共に吐き出すと、そんな俺を見て、メリアさんが笑った。


「あの後のレンちゃん、ほんとしんどそうだったもんねえ」


 そう。前回のジャンとの模擬戦の後、もはや定例業務になりつつある、孤児院での炊き出しだあったのだが、これがまた辛かったのだ。


 動けない程ではないとはいえ、若さ故にその時点ですでに筋肉痛が出てきており、さらに疲労困憊ときたもんだ。そんな状態で元気一杯の子供達の相手をするのは少し、いや大分きつかった。メリアさんが子供達の大半を受け持ってくれなかったら撃沈していたかもしれない。


 そんな前回の反省を生かし、今回は他の予定を前倒し、後ろ倒し等して調整を行い、なんとか丸一日予定開ける事に成功した。代わりに前後の予定が詰め詰めだが。


 そうしたらこれだよ。どうすりゃいいんだ。リスケした事をさらにリスケするのは心情的にやりたくないし……。


「いや、素直に一日休めばいいじゃない」


「そりゃそうなんだけど。なんかさ、なんも予定がないと何もすればいいかわかんないし、なんというか、不安にならない?」


 我ながらワーカーホリック一直線の思考だな。分かっちゃいるんだけど、そういう気分になってしまうのは止められないんだよな。

 前の世界では娯楽が溢れてたから、急に予定が空いちゃってもどうとでも出来たんだが、こっちの世界はそうもいかないんだよなあ。


「分からなくはないけど…………。レンちゃんの歳でそうなっちゃうのは私、ちょっと良くないと思うなあ」


「歳て。大人だから。おねーちゃんと大して変わらない年齢だからね?」


「それは知ってるけどさ。見た目がそれだと、どうしてもねえ」


 ニヤニヤとした笑いを浮かべつつ、俺を上から下まで眺めながら俺を揶揄うメリアさんに、俺は本日何度目かの溜息を吐いた。

 そりゃまあ、俺の外見は可愛い可愛い六歳児だから、外から見れば、メリアさんの言っている事は正しい。こんなに忙しなく働いている六歳児なんてそうそういないだろう。

 だけど中身は三十歳なの。働き盛りの独身男性なの。だから何もおかしい事はないのだ。

 だからホッペをツンツンしないで。『やっぱりこれくらいの子のホッペは柔らかいねえ』じゃない!


「で、どうするの? また寝る?」


 一通り俺を揶揄って遊んで満足したのか、今後の予定について提案を始めるメリアさんに対し、いじられすぎてちょっと痛くなった頬をさすりながら答える。


「さっき起きたばっかだよ。全く眠くない」


「だよねえ。んー、アイラ達に勉強教えるとか?」


「俺はいいけど、アイラ達にとっては迷惑でしかないよね。勉強が好きな子供なんていないし」


「レンちゃんが教えるなら喜んで受けると思うけど。……じゃあ、オママゴトでもする?」


「まだ俺の子供扱い続いてるの? だから子供じゃないって。第一、オママゴトなんて一人でやるもんじゃないでしょ。何? 一緒にやってくれるの? オママゴト」


「いいよ。いやー。久しぶりだなあオママゴト。マリアがちっちゃかった頃だからなあ、懐かしい……。うん、やろうか!」


「……ごめん。やっぱなしで」


 メリアさんの子供扱い攻撃に一矢報いようとしたら、強烈なカウンターを受けてしまった。

 くそう。やっぱ親ってすごい。メンタルが強すぎる。独り身の俺では太刀打ちできん。


「そっかあ。ちょっと残念。で、レンちゃんはなんか思いつかないの? さっきから私ばっかり案を出してるけど」


「それが思いついたら苦労してない…………あ。そうだ。冒険者組合(ギルド)に行こう。依頼出してから多少時間経ったし、確認に行ってみよう」


 そうだそうだ。冒険者組合(ギルド)に食材収集の依頼を出してたんだよ。まだ出してから二、三日しか経ってないけど、一個くらいは来ててもおかしくないよね。


「あー、そうだねえ。確かに、そろそろ一度見に行ってもいいかも」


 メリアさんも同じ考えに至ったようで、俺のアイディアに賛成のようだ。

 よーし! 冒険者組合(ギルド)に行こう! 同じ依頼を出した商業組合(ギルド)は…………今回はキャンセルで! ほら! 数日じゃあ何も来てないだろうし、そんな頻繁に行ってもあちらさんに迷惑が掛かるしね! 行きたくないからじゃないぞ! ちゃんとした理由があるからセーフ! 


「決まり! じゃあ早速――――」

(レン様、主。サツキが機能停止しました)


「「………………」」


 出発! と気炎を上げた所で、メイドの一人から【念話】が入った。

 俺の数日の予定が埋まった瞬間である。


 そっかあ……。そういえば最近なかったからなあ。いつ来てもおかしくはないよなあ……。


「……おねーちゃん」


「分かってる。詰めた用事は私が片付けるよ。冒険者組合(ギルド)の方はどうする? 私だけで見てくる?」


「よろしくおねがいします…………。冒険者組合(ギルド)は俺も行きたいから、また今度で」


「りょーかい。じゃあ、いこっか」


 メリアさんが腰掛けたベッドから立ち上がるのに続いて、俺も気持ち勢いを付けて立ち上がる。

 続いて頬を挟みこむように叩いて気合を入れてから、ベッドから離れた。


 さあ! 人助けだぞ! 気張れ俺!


 ……


 …………


 ………………


「んむ…………」


 はい。目覚めました。


 最初に視界に入ったのは見慣れた天井。いつもの寝室だ。


 目が覚めたばかりで、霞が掛かったようにはっきりしない頭と視界でぼんやりと周囲を見回すと、見慣れた服を着た誰かが、クローゼットの前で何やらゴソゴソやっているのが目に入った。


 なんとなく全身がだるかったので、ベッドに横になったままで、その様子をボーッと眺めてみる。

 服装は言わずもがなのミニスカメイド服。これを見慣れる事になろうとは、前の世界にいた時は思ってもみなかったな。


 その人物は、髪は青っぽい黒で、頭の両サイドの高めの位置でお団子にまとめ、そのお団子には布を被せていた。

 ええっと、なんだっけあれ。マンガとかで見た事ある気が……………………えーと、シニョン、だったかな。


 少しだけ動き始めた頭で、その人物に対しての考察を続けていく。

 俺の記憶にあんな髪色の人物はいないし、うちは色々と秘密が多いので、メイドの募集なんかしてない。つまり俺が寝ている間に外部の人間を雇い入れてーってのもない。

 つまり、消去法で――――。


「――――皐月」


 という事になる。


 相変わらずクローゼットのまえでゴソゴソやっていた人物――――は、俺が声を掛けた瞬間、素早い動作で体ごと振り返った。


「アイヤー! レン様目覚めたアルか! 良かったヨー!」


 そして、リアルでは初めて耳にするような癖の強い口調でそう叫ぶと、次の瞬間、ほぼノーモーションでジャンプ。俺に向かって飛びかかってきた――――飛び掛かってきた!?


 未だに頭がボーッとしていた俺は、皐月の突然の行動に反応が一歩遅れた。しかも、いまだ続く体のだるさでさらに一歩遅れた。

 その結果……。


「むぎゅ」

「良かったアル! お世話は前もした事があるから、数日は目覚めないっていうのは知ってたアルが、こんなに不安になるなんて思わなかったヨ! 死んじゃったのかと思ったネ! 生きててくれて嬉しいアルー!」


 深い谷間に俺の頭を押し付けてそう叫んだかと思えば、次の瞬間には頭を掴んで引き剥がし、今度は満面の笑みで頬擦りと続いた。頬擦り中は頭ナデナデも平行して実施中。――――かと思ったら身体中を撫で回し始めたぞこいつ!

 や、やめろ! くすぐったい!?


「いい加減に、しろ……よ!」


「ああーん!イケズアルー!」


 ようやく動くようになってきた両腕での顔を押し退けると、どこかで聞いたような台詞とは裏腹に、拍子抜けするほどあっさり体を離した。


「ふう……ふう……。皐月、でいいんだよね?」


「もちろんそうアル! この姿では初めましてネ! これからもヨロシクアル! 大好きアルよ! レン様!」


 今回はこう来たかあ……。人格ガチャって引き出しが多いんだなあ……。

お読みいただき、ありがとうございます。


作者のモチベーション増加につながりますので、是非評価、感想、ブクマ、いいね! の程、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一瞬で脳内CV.がくぎゅになった……
[一言] クローゼットをゴソゴソ…… レンちゃんの下着でも漁ってたのだろうか?
[気になる点] 撫でまわす部分の描写を是非もっと詳しく! [一言] 中華娘はシャンプーのイメージ。
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