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第163話 商業組合に依頼を出した。めっちゃ疲れた。

「「疲れた……」」


 商業組合(ギルド)への依頼を終わらせた俺は、大分日が傾き、薄暗くなり始めた道を、重い足取りで歩いていた。

 俺の隣を歩くメリアさんもそれは同じだが、彼女の場合、追加で行きにはなかったでっかい布袋を胸の前で抱えている。


 なんで依頼一つ出すだけでそんなに疲れているのかって? まあ色々あったのですよ。大体予想していた通りだったけど、それを上回るような事が。


 俺達が商業組合(ギルド)の建物に入った時、中に客の姿はなく静かなもので、受付にも誰も座っていなかった。

 久しぶりに入った商業組合(ギルド)の様子に、『冒険者組合(ギルド)とは違うなあ』なんて事を考えながら辺りを見回していると、比較的受付に近い場所で別の仕事をしていた若い女性が俺達の存在に気付いた。

 営業スマイルを浮かべながら、『いらっしゃいませ』の言葉と共にその職員さんが受付に就こうとした瞬間、建物の奥から、猛然とこちらに向かってくる人影が。

 その人影はあっという間に受付の前までたどり着くと、お姉さん職員が座ろうと引いていた椅子に颯爽と座り、輝くような笑顔で一言。


『お久しぶりですね。本日はどのようなご用件でしょうか?』


 うん。知った顔だった。メリアさんにホの字の男性職員さんだった。


 もう、俺もメリアさんも唖然としたよね。いやお前、めっちゃ離れてたじゃん。そこはそこのお姉さん職員に任せとけよ。どんだけ受付したいんだよ。と思ったよね。


 お姉さん職員に目を向けると、盛大に肩を竦め、その男性職員を道端の虫ケラを見るような目で一瞥して去っていった。

 そんな、一部の特殊な性癖を持つような男性なら歓喜の声を上げそうな、俺だったら身震いしちゃいそうなお姉さん職員の態度にも、男性職員さんはびくともしない。というか気づいていない。『恋は盲目』ってこういう事を言うのか、と思ったよ。


 そして、お姉さん職員が受付を離れ、元々やっていたらしい仕事に戻った今、近くにいる職員は件の男性職員さんのみ。冒険者組合(ギルド)と違って担当の人がいる訳じゃないので、チェンジとは言いづらい。

 良い人そうだったし、俺としてはさっきのお姉さん職員の方がいいんだが。この世界の例に漏れず美人だったし。やっぱ元おっさんとしては、イケメンよりも美女のほうが目の保養になるのだよ。


 まあ、そんな事を言う事はもちろん出来ず、仕方なくお兄さん職員を相手に依頼の話をする事になった。メリアさんが。俺はここでは置物だ。

 まあ、メリアさんに良く見られようと必死なのか、一挙手一投足全てが芝居がかっていたかっていたのが目に五月蝿かったが、俺がその様子を見る事が出来たのは最初の三十秒くらい。それ以降は――――


「ほら、お姉さんがお話してて暇でしょ! おばさんが話し相手になってあげる! 今日はお客さんが少ないからね! いくらでも付き合ってあげられるよ!」

「あ、いや、だいじょ――」

「ほらこれ食べなさい! 子供は沢山食べて一杯遊んで大きくなるんだからね! 遠慮なんかしなくていいんだよ! でも食べるだけじゃ駄目だよ? ちゃんと身体を動かさないとおばさんみたいになっちゃうからね! あっはっは!」

「あ、えと、はい。ありがとうござい――」

「相変わらず礼儀正しい子だねえ! うちの息子にも見習ってもらいたいもんだよ! うちの息子は今八つなんだけどさ、ヤンチャばっかりしてて家の手伝いもろくすっぽしないで、遊び呆けてるばっかりだよ!」

「はあ…………」

「あらちょっと全然食べてないじゃない! 焼き菓子はお気に召さなかったかい!?」

「いえ、そういう訳じゃ――」

「ならこっちならはどうだい! あまーい果物だよ! ほら、たーんとお食べ!」

「は、はい。ありが――」

「ほーんと、礼儀正しい良く出来た子だ事! ちゃんとお礼が言えて偉いよ! うちの亭主より人が出来てるんじゃないかね? うちの亭主なんてホント無愛想でねえ、挨拶の一つもしやしない……おっと、こんな話面白くないよね! ごめんごめん! あんまり良く出来た子だから、つい大人と同じように話しちゃうね! あら! 全然減ってないじゃない! この果物嫌いだった!? じゃあ別のを出そうかね。えっと――」

「…………」


 ――といった感じで、相槌すらまともに打つ事ができないような状況で、ひたすらおばちゃん職員さんによるお守り、もとい暇つぶしの相手をして、マシンガントークを浴び続けていた。

 知ってるか? こういう手合いの相手をする時は、例え相手が矛盾するような事を言ってても突っ込んじゃ駄目だ。ひたすら人好きのする笑顔を顔面に貼り付けて、ちゃんと聞いている振りをしつつ肯定的な姿勢を取り続けるんだ。相手が欲しいのは話し相手じゃない。愚痴を叩きつけるサンドバッグなんだ。甘んじて殴られろ。


 その姿勢が功を奏したようで、気を良くしたおばちゃん職員さんは、事あるごとにお菓子や果物を勧めてきて、最終的には、どこにそんなにあったんだ、というくらい大量のお菓子や果物が眼前に積み上げられる事になった。

 しかもその荷物は持ち運びがしやすいように布袋に詰められ、メリアさんに手渡された。なんとも気が利くおばちゃんである。


「まあ、沢山お菓子もらえて良かったじゃない。暫くお菓子には困らないね?」


「いくらなんでも多すぎだよ。今度何かお礼しないと……って事はまた来なきゃいけないのか。まじかあ……」


 胸の前の布袋を揺らしながら笑うメリアさんに、俺は溜息を吐いて空を見上げた。しかもこんなに大量のお菓子、どないせえっちゅうんじゃ。食いきれねえよ。

 アー、オホシサマガキレイダナー。


「まあ、もらっちゃった物は仕方ないよ。アイラ達にあげればすぐなくなるでしょ」


「ああ、その手があったか。……喜んでくれるかな?」


「お菓子をもらって喜ばない子供はいないと思うけど…………あ、目の前にいた」


「子供じゃない!」


「あはははは………………ハァ」


 メリアさんのボケに突っ込みを入れ、メリアさんが笑うが、その笑いはすぐ消え、最後には疲労が滲む溜息へと変わった。メリアさんがここまで疲労を全面に出すのは珍しい気がする。メリアさんはメリアさんで、なかなか大変だったようだ。


「おねーちゃんもかなり疲れてるね。あのおばちゃんの勢いがすごすぎて、そっちを見る余裕がなかったけど、そんなにあの職員さんと話すのしんどかった?」


「そうだねえ……。前話した時も思ったけど、すごい仕事が出来る人みたいだね。話の内容はしっかりしてたし、私の要望もしっかり聞いて、より良い案を出してくれたりして。結果的に、最初の案とは大分変ったけど、結構いい感じの依頼になったと思うよ」


「へえ、そうなんだ。意外、でもないか。〈鉄の幼子亭〉の建物も、あの人から買ったんだもんね。…………聞いた限りだと、そこまで疲れそうな要素がないんだけど?」


 俺の当然とも言える疑問を聞き、メリアさんはゲッソリした様子で話を続けた。


「うん。なんていうかさ、あの職員さん、すごい必死だったんだよ。全身全霊で挑んできてる感じ。その空気に当てられちゃって、私も身体に力が入っちゃってさあ。なんだったんだろうね? 次商業組合(ギルド)に来る時は、出来れば別の人がいいなあ…………毎回あんな調子だと、正直ちょっと辛いし」


「そりゃまた…………御愁傷様というか、なんというか」


 メリアさんも御愁傷様だが、メリアさんに好かれようと全力で挑んだ結果、逆に避けられる事態になってしまった男性職員さんも御愁傷様だ。なんと哀れな……。


「…………さてと、そろそろいいかな? レンちゃん、頼んでいい?」


「りょーかい。うわっとっと。やっぱ結構重かったんだな……。ほい、これで良しっと」


 周囲を見渡し、人目が無いことを確認したメリアさんが胸に抱えた布袋を渡してきたので、ちょっとふらつきながらもそれを受け取り、〈拡張保管庫〉に収納する。それなりの大きさと重さを持つ布袋が、一瞬で俺のコートのポケットに収納されて消えた。

 うん。やっぱ〈拡張保管庫〉は便利だ。……便利なんだけど、使う時に人目を気にしなきゃいけないのがめんどくさいなあ。


「んし。人目は……大丈夫だね。じゃあ、いくよ?」


「はーい。よろしくー」


 続いて、布袋を手放し、身軽になったメリアさんの手を握り、【いつでも傍に】を発動。一瞬で屋敷へ帰還する。


「お帰りなさいませ。レン様、(マスター)。準備は整っています」


 転移した先は厨房。

 目の前で深々と頭を下げるルナの言葉に辺りを見回すと、なるほど確かに。食材や調理器具がしっかりと準備されていた。

 どうにかこうにか一仕事終えたのだが、俺とメリアさんの一日はまだ終わっていない。次は夕食づくりだ。

 朝食こそメイド達が作ってくれるようになったが、夕食は未だに俺とメリアさんで作っているのだ。どうせ〈鉄の幼子亭〉で出す料理を大量に作らなくちゃいけないのだ。そのついでに夕食を作ってもそこまで手間は増えない。


「ほいただいま。準備ありがとね。じゃあチャッチャと始めちゃいますか」


「だね。今日は何を作ろうか。……できれば簡単なのがいいなあ」


「それは同意」


 とは言っても、手を抜きたい時だってある。まさに今日がそうだ。俺もメリアさんも、各々別の意味で疲労困憊だからね。


「そうだなあ……。焼いた肉と付け合わせに茹でた芋、後は〈拡張保管庫〉に入ってる汁物あたりでいいんじゃない? 肉なら文句も出ないでしょ」


 よって、メリアさんの未だに疲れが滲む言葉に頷き、手抜きメニューを提案する。


 肉焼いて芋茹でて、作りおきのスープを出すだけ。なんというお手軽さか。

 まあ、ステーキを上手く焼くのって難しいんだけどさ。今日はまじで火が通ってりゃいいだろ、気分だ。


 これで元気が残ってたら、聞きかじりの知識ながらシャリアピンステーキなんかに挑戦してみたり、茹でた芋には潰した後牛乳やバターを少し混ぜてマッシュポテトにしたり、スープも作りおきじゃなくて一からちゃんと作ったりするんだけどね。

 今日は無理です。楽させてください。


「そだね。じゃあササッと作っちゃおう」


「その程度ならルナもお手伝いできますので、ご一緒させていただきます」


 俺が提案したメニューを聞いて、ルナが手伝いも申し出てきてくれた。まじで助かる。いくらメニューを手抜きにした所で、作る量がそこそこ多いので、なんだかんだ大仕事になるからね。一人でも人手が増えれば、その分楽ができる。


「お、助かる。その調子で料理の腕を磨いて、夕食を任せられるようになってね。出来れば〈鉄の幼子亭〉の料理も」


「申し訳ありませんが、それについてはお断りさせていただきます。ルナを含め、この屋敷にいる者全てがレン様と(マスター)の料理を食べたがっておりますので」


「……むう。その言い方はずるいなあ」


 それとなく、夕食の準備諸々のルナへの丸投げを画策したのだが、ルナに一蹴されてしまった。

 しかも絶妙に反論しにくい。自分が作った料理を欲していると言われて頑張らない料理人はいないだろう。


「しょうがない。皆の舌とお腹を満足させられるように、一丁頑張りますか。出来るだけ手は抜くけど!」


「あははは」


 喋りながらもしっかりと手を洗い、エプロンを身に付けて準備万端。よし、やるか!


 ……


 …………


「今日の肉、なんか固くね?」


「そうじゃのお。付け合わせの芋も茹でただけのようじゃし。手抜き感が半端ないの」


「うるせえこちとら疲れてるんだよ! 黙って食え居候!」


 一口でバレた。無駄に舌が肥えてやがる。

商業組合への依頼内容についてはまた次回。


お読みいただき、ありがとうございます。


作者のモチベーション増加につながりますので、是非評価、感想、ブクマ、いいね! の程、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 本当に疲れてたり眠かったりすると食べるのも億劫な事が……
[一言] 誰か受付のにーさんに「この人は人妻なんです!」と教えてあげてほしい、「だがそれもいい」とか言い出しそうだけど あとこの居候連中は追い出した方が良いのではw
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