第158話 妾、帰るのじゃ! 妾、帰ったのじゃ! 妾、死んだのじゃ……。
予約投稿に失敗してしまっていました。申し訳ありませんでした。
「よし! 帰るのじゃ!」
妾達は、村長の計らいで一日ゆっくり休んだ後、予定通り芋の購入について村長と交渉。お互いに満足のいく結果を得る事が出来たのじゃ。むしろ村長に欲がなさ過ぎて、こちらから購入金額の上乗せをしたくらいじゃったのお。
と、いう訳で妾の仕事は終了! 後は恋しき我が家へ帰るだけじゃ!
…………ん? 交渉の内容か? 覚えとらん!
だって妾、あくまでご主人達と村長の仲介役じゃし? お互いの言い分を一字一句違わず伝えるだけの存在じゃし、そこに妾の考えは不要じゃろう? だから、ただ粛々と自分の仕事を全うしたわ! むしろ半分くらい寝てたのじゃ! それでも完璧にやり遂げたのじゃ。すごいじゃろう?
まあ、求められた仕事を完璧に熟すのは当たり前。そこからさらなる付加価値を得るのが妾という者よ。
初日に村長の夕食に誘われた際に出てきた料理。
その料理はご主人の屋敷で出た事がない物で、見た目はともかくなかなか美味じゃった。ジャン達も、最初こそ食べる事に躊躇っておったが、一口食べれば感嘆の溜息を吐く程じゃった。
それ故、村長に頼んで、その料理の肝とも言える食材を譲ってもらったのじゃ!
料理に使う前のその食材は、なんというか、その……見た目は正直、かなりアレだったのじゃが、コレを使えば美味い料理が出来るのは妾の舌が知っておる。勇気を出して受け取ったのじゃ。妾がソレを受け取った瞬間のジャン達は、それはもうえらい表情をしておったわ。
「今回は、わざわざこんな田舎まで来ていただき、ありがとうございました。あの大量の芋を全て買っていただけただけでなく、今後も買い取っていただけるなど、本当に助かります」
その時のジャン達の表情を思い出して密かに笑っていると、一人の老人がにこやかに妾に話しかけてきた。
その者はこの村の村長で、名前は……えーと………………うむ。村長は村長じゃ! それ以上でもそれ以下でもない!
「まあ、この村の作物が必要じゃったからの。これからもよろしく頼むぞ?」
「勿論でございます。村人総出で作らせていただきます」
そう語る村長の顔はとても嬉しそうじゃ。これだけ喜んでもらえると、わざわざここまで来た甲斐もあったという物じゃの。妾はもう来とうないが。日帰りで来れるなら来るんじゃがのお……やはり屋敷の料理が食えないのは辛いのじゃ……。
あ、思い出してしもうた。早う、早う屋敷でたらふく食いたい! コロッケ! メンチカツ! ビーフシチュううううううううう!!!
「では頼んだのじゃ! それでは妾達は帰る! 達者での! さらばじゃ!」
「あ……」
居ても立ってもいられなくなった妾は、早口で別れの挨拶を捲し立て、村長が何か言おうとしているのも無視して走り出し、村の中を疾走。そのままの勢いで村から飛び出した。
「ちょ! 待ってくださいコリンさん! 先に行かないで! というかあなた護衛対象ですよ!」
「は、速っ!?」
「ま、待ってー!」
「なんであの服装であんなに早く走れるんですか!?」
「そんなの知りませんわ! 早く追いかけないと置いて行かれてしまいますわよ!」
ぬおおおおおお!! 待っておれ愛しの料理達! 妾がムッシャムシャのバックバクしてやるのじゃあああああ!!
……
…………
「す、すまぬ。ちょっと気が急いてしまっての……」
「ぜえ、ぜえ……。いえ、追い付けたんでいいです……」
「追い付けたという、か、止まってもらっただけ、なんですけど、ね……ハア、ハア」
「まじで、足、速すぎ……」
「も、もう動けませんわ……ふう、ふう…………」
「わた、しも……」
現在妾達は、村が完全に見えなくなった辺りで休憩中じゃ。先行してしまった妾を追いかけて来たジャン達が力尽きてしまったのでな。
…………いや、正直申し訳ないと思っておる。屋敷に帰りたい気持ちが爆発してしまったのじゃ。まあ、今も妾の心の内では絶賛燻り中なのじゃが。
ああー、早く帰りたいのお。ここからイースまで十日か……。もっと早く帰る手段はないかのお。
未だぐったりとしていて、動けそうにないジャン達を眺めつつ、妾は頭を全力で回転させ、早く帰る方法を考え始めた。
まずは走る、じゃな。ひたすら走れば、半分くらいの日程で帰れるのではないか?
…………いや、走った分、休憩が増えるから、そこまで短縮にはならなそうじゃな。今の皆を見れば一目瞭然じゃ。
妾が獣の姿になって皆を背に乗せるのはどうじゃろうか。それなら休憩もそこまでいらんのではないか? 身体もデカイから、全員を乗せるのもそこまで苦じゃないじゃろ。
…………そういえば妾、獣の姿だと全身が火で出来てるんじゃった。そんな状態で背に乗せたりなんかしたら、大惨事じゃの……。これも却下じゃ。
他……他になにかないか? もっと確実で、かつ高速で帰る方法……。なんかあった気がするんじゃが、こう、喉まで出かかっておるんじゃが、なかなか出てこん…………。
うーん、うーん……………………………………あっ! 思い出したのじゃ! この手があった! これならすぐ帰る事が出来るぞ! 妾、天・才♪
そうと決まれば話は早い! すぐに始めるぞ!
「よし! 皆の衆! 休憩は終わり! 出発じゃ!」
「え。いや、出来ればもうちょっと休憩したいなー、なんて……足もガクガクですし……」
「大丈夫じゃ! ほれ! 皆妾の方へ近づくのじゃ! ……いやいい! 妾が動かす! じっとしておれ!」
まだ疲労が抜けきらず、へたりこんでおる皆を見て、妾は計画を修正。一人一人を担いで妾の手の届く範囲に運ぶ事にした。
「ちょ! うおお!?」
「なあ!?」
「うわわっ!」
「な、なんですの!?」
「コリンさん、力強すぎ……!」
皆軽いのお。もっと食え。食事は睡眠と同じくらい大切じゃぞ? レミイとセーヌなんて、羽かと思うくらい軽いわ。これは二人一緒にいけるの。一番体のデカイジャンも片手で持てるぞ?
そんな感じで全員をヒョイヒョイと持ち上げて移動させ、妾の近くへと集めたら、全員に触れるように位置を調整して……。
む。手が足りん。まあいいわい。妾には尻尾があるからの。手の代わりに尻尾で代用じゃ。握るなよ? 力が抜けてしまうでな。…………よし、これで大丈夫じゃな。
「よし。それじゃあ行くぞー!」
「え、ちょ、待――――」
そーれ。【いつでも傍に】を発動! ご主人の元へと一っ飛びじゃー!
「ご主人! レン! ただいまコリンが帰ったのじゃ! さあさあ美味い料理をたらふく――――」
「キャアアアアアアアアアアアアア!?」
一瞬で視界が切り替わり、近くにいるであろうご主人に帰宅の報告をしようとした所で、絹を裂くような悲鳴が耳を突き抜けた。
「な、なんじゃなんじゃ! 一体どうしたと言うのじゃ…………あ……」
突然の大音声に驚いた妾は視線を巡らせ、声の主であるご主人を探し、見てしまった。
ご主人は一糸纏わぬ姿で、着る予定であったであろう衣服を胸にかき抱いて、怒りと羞恥で全身を真っ赤に染めて震えているのを。
あ、妾死んだ。
特に意味のない脱衣がメリアを襲う。
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