第146話 レミイさんとセーヌさんが怖かった。
なるほど? レミイさんとセーヌさんは俺達が住んでいる場所を見たいと。
ふーむ。領主である侯爵様の屋敷よりデカい、という困った理由で屋敷の存在は秘密にしている訳だけれど……もうすでにジャンを入れちゃってるし、今更か。でも一応釘は刺しておこう。
「分かった。いいよ。でも、ちょっと広まったら困る事情があるから、言い触らしたりはしないでね?」
「え? 何それ? もしかして……幽霊屋敷に住んでるとか?!」
なんでレミイさんはそんなに嬉しそうなのか。
そんな訳ないでしょ。誰が好き好んでそんな場所に住むか。
前の世界にいた頃は、そういった俗に言うオカルト話は信じていなかったけど、この世界には魔法とかあるし、マジモンの幽霊とかいてもおかしくない。そんなのがいる場所に住むとか…………いや、怖くないよ? ほら、そんな同居人がいたらプライバシーも何もあったもんじゃないじゃん? 俺は各自のプライバシーを重視するタイプなの。ほんとだよ?
っとと、思考が脇に逸れた。
「違う違う。そんなんじゃないよ。んー……。そうだな。口で説明するより、実際に見てもらった方がいいかな。ジャン。こんな時間だし、見せるついでに泊まっていってもらおうかと思ったんだけど、大丈夫?」
さすがにチラっと屋敷を見せて、ハイさようならって訳にはいかないだろう。現時点でも結構遅い時間なんだ。どうせならそのまま泊っていってもらえばいい。部屋はまだまだ余ってるし。
そんな考えの元、話を振ってみた所、ジャンは問題ないとばかりに頷いた。
「ああ、そこらへんは大丈夫だ。依頼で数日空けるとか普通だしな。依頼が終わって帰ってきたら部屋が埋まってて泊まれないとか困るだろ? だからそれなりの日数分の金を前払いで払ってる。荷物はお前から買った〈拡張保管庫〉に入れて持ち歩いてるから盗まれる心配もねえ」
「そっか。りょーかい」
〈拡張保管庫〉は役に立ってるようだ。生産者としては嬉しい限り。
とりあえず、ジャンから言質を取ったので、次は屋敷の状況の確認だな。
(ルナ。ちょっといいかな?)
(はい。大丈夫です。どうかしましたか?)
(うん。いきなりで申し訳ないんだけど、ジャン達が泊まる事になったんだ。五人ね。で、部屋の準備とか大丈夫かな? って思ってね)
(なるほど。そういう事でしたか。……そうですね。空き部屋も毎日掃除していますので、汚れているといった事はないのですが、人員の関係で最低限しか行っていません。空き部屋には寝具を置いていませんし、少々お時間はいただきたいです)
おおう。こんな所でも人材不足の波が……。これは早急になんとかしないといけないなあ。
まあ、それに関しては今は置いておいて。
時間が欲しい、か。……よし。
(分かった。それじゃあ、先にお風呂と夕食を済ませてもらっちゃおうか。それくらいあれば大丈夫かな?)
(はい。それでしたら問題ありません)
(りょーかい。じゃあそれでよろしくー)
(畏まりました)
ルナに【念話】で確認をとり、部屋に直行させなければ大丈夫との回答をもらった。風呂はともかく、夕食はもう済ませてるかもしれないけど、そうなったら適当に酒でも飲んでいてもらおう。狐燐とオーキさんくらいしか飲む人がいないから、そんなに数はないけど。
そんじゃま、さっさと連れていっちゃいましょうかね。
「お待たせ。じゃあ行こうか。はい、じゃあ全員、どこでもいいから俺に触ってー」
「は? なんでまたそんな事……」
「いいから、レンの言うとおりにしろ。ほら」
「お、おう……」
【いつでも傍に】を使う為に俺に触ってもらうように言うと、レーメスが不思議そうな顔をしたが、ジャンが有無を言わさずレーメスの腕を掴み――――俺の頭に乗せた。
…………いや、触れている事が条件だから、どこでもいいっちゃいいんだけどさ。なんで頭?
「ああ! レーメスずるい! 私も!」
「では私はこちらで! ああ、とってもプニプニスベスベしてますわあ……気持ちいい……」
「えー…………。女性の頭に無遠慮に触るのは私には難しいので、こちらで。……失礼しますね」
次いでジャン、レミイさんと順番に俺の頭に手を乗せていき、セーヌさんはほっぺを、キースさんは一言断ってから肩に手を乗せてきた。
だから、なんで五人中三人が頭なの。なんでセーヌさんは触るだけじゃなくてメッチャ撫でてきてんの。まともなのキースさんだけだよ。
そして、なんでメリアさんまでさりげなく頭に手乗せてるの。あなたいつもは肩でしょ? なんで今日に限って頭なの? 四人分の手って結構重いんだけど。
「…………はあ。もういいや」
なんだか疲れたからこのままいこう。
【いつでも傍に】発動っと。行き先は…………ルナかな? さっき話したし。
「うわっ!」
「なんだ?!」
「いきなり風景が変わりましたわ!」
「一言くらい言え! 焦ったろうが!」
「これは…………まさか転移魔法?!」
前触れなく変わった風景に、全員が矢継ぎ早に驚きと抗議の声をあげるが、俺はそれをガン無視する。詳細を説明する気は今の所ないし、おおまかな部分はキースが答え出してるからいいよね。
まあこっちにも釘を刺しておくか。
「はい到着。……分かってるとは思うけど、これについても秘密にしてね?」
前の世界で読んでた小説とかアニメでも、転移魔法はレアだったからね。隠せる所は隠しておくに越した事はないだろう。
まあ実際は転移先にメイド達か狐燐、後メリアさんの誰かがいないと使えないから、それほど万能って訳じゃないんだけどね。
「お、おう……」
「転移魔法まで使えるとは……」
「なんというか…………さすがレンちゃん?」
「そうですわね……。レンちゃんなら何をしてもおかしくないと思ってはいましたが、まさかここまでとは……。正直甘く見てましたわ」
…………俺に聞こえないように小声で喋ってるみたいだけど、話してる場所、俺の頭上だよ? 丸聞こえだからね?
つーか、なんで俺なら何をしてもおかしくないんだよ。確かになんだかんだで【能力】五個くらい持ってるけど、そこまで非常識じゃ…………いややっぱ結構非常識かもしれない。
別世界から来てるって時点で大分ぶっ飛んでるしなあ。性別も年齢も変わってるし。そう考えると俺って結構びっくり人間だったわ。正しくはこの体はホムンクルスで、人間ですらないらしいけど。
「おかえりなさいませ、レン様、主。そして皆様、ようこそいらっしゃいました」
自身の非常識っぷりを再認識してちょっと凹んでいた所、ルナの声が耳に入ったので、いつの間にか少し下がっていた視線を上げ、ルナを視界に収めた。
「ただいまルナ。お風呂の準備は出来てる?」
「はい。いつでも入れる状態になっています」
気を取り直して、お風呂の準備が出来ているか聞いてみると、色よい返事が返ってきた。うんうん。魂を分け与えた直後は、なかなかの残念っぷりを発揮していたけど、最近はそれも落ち着いて、とても有能になった。素晴らしいね。たまに熱い視線を感じるのは見てない振りをしておこう。
「そっか、ありがとう。じゃあ先にお風呂に――――」
「「お風呂があるの?!」」
おおう。レミィさんとセーヌさんがめっちゃ食いついてきた。やっぱ女性ってお風呂が好きなのかね。
なんというか、好き、ってレベルじゃないくらいの鬼気迫る物を視線から感じるけど。
「う、うん。でも一つしかないから、男女別れて、順番に入らないといけないけど」
この屋敷、女性しかいないからなのか、何故かお風呂が一つしかないのだ。以前、倒れたルナを助ける方法を探す為に調べた資料を見る限り、前の持ち主は男っぽかったんだけどね。そこはまあ気にしない事にしよう。
さすがに混浴にする訳にはいかないので、入る順番を決める必要があるんだが――――
「私達が先で……いいよね?」
「いいですわよね?」
「「「はい……」」」
――――穏当に決まってなによりです。はい。
俺の言葉を聞いた瞬間、レミィさんとセーヌさんは首だけをグリンッと回し、男性陣を恐喝、いや説得し、女性陣が先に入る事に決まった。
俺の位置からは二人がどんな顔をしていたのか分からないが、男性陣の反応で推測はできる……いや、やめておこう。これは知る事はおろか、想像する事も許されない奴だ。
「そ、それじゃあ行こうか。ルナ、そっちはよろしく」
「はい、レン様。……それでは皆様、本来であればお部屋に案内させていただく所ではございますが、まだお部屋の準備がまだ出来ておりません。ですので、食堂にご案内させていただきます」
ルナの言葉に、レーメスとキースが驚きの声を上げる。ジャンはなんだか楽しそうだ。
「食堂?! そんなんまであんの?!」
「この部屋の内装からして、かなり立派な家だとは思っていましたが……」
「俺も前来た時は風呂場と部屋一つしか見てねえからな、はてさて、どんなもんか……。あ、コリンさんいるかな?」
「コリン様でしたら、おそらく食堂でお酒を飲まれてるはずです」
「よっしゃさっさと行きましょうおらお前らなにボーッと突っ立ってんだ早くいくぞ早く早く!」
「わっ! いきなり押さないで……! 分かりました! 行きます! 行きますから!」
「おおう……。どんだけ会いたいんだよ……口調もブレブレだし」
……本当に楽しそうだな。
ルナから狐燐が食堂にいると聞くや否や、ジャンは超早口でレーメスとキースを急かしながら背中をグイグイ押し始めた。レーメスの言うとおり、どんだけ会いたいんだよ。そんな急がなくても狐燐は逃げねえよ。現状あいつニートだからな。
ルナを先頭にして、ジャン達男性陣が部屋から出ていき、ドアが閉まった瞬間、再びグリンッと首を回し、レミィさんとセーヌさんが俺の方へ顔を向け直した。動きがホラーだ。目力が半端ない……!
「さあ!」
「お風呂の時間ですわ!」
「は、はい……」
これは、迅速にお風呂に連れていかないとヤバそうだ。まじで怖い。
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