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第144話 芋料理を作って振舞った。

 さて、じゃあ始めようかな。


 まずはブイヨン作り。


 デミグラスソースの作り方をレクチャーした時に出た、大量の野菜くずを鍋にぶち込んで強火にかける。沸騰したら中火にして三十分煮こむ事、アクを取る事を伝えて職員さんにお任せ。

 本当は肉もぶち込んだ方が深みと旨味が出るからいいんだけど、手元に使える肉がないし、第一時間が掛かるからね。今はなるべく早く完成させる必要があるのだ。ここにいる全員の胃の為に。


 とは言っても、ブイヨンは基本煮込むだけで作れるので、野菜を鍋にぶち込んだ時点で手が空いてしまう。

 なので、ここでちょっと摘まめる物を作ろう。腹が減っている状況で、目の前に食材があるのに食べられないって結構しんどいしね。

 まあこれは速攻で終わる。茹でた芋をちょっと取り分け、上にバターの乗せるだけだ。


「はい。本格的に始める前に、これでちょっと小腹を満たしましょう。あくまで食事までの繋ぎですから、少しだけですが」


「さすがレンちゃん、分かってるう。そろそろお腹が空きすぎて辛くなってきてたんだよねえ」


 皆でワイワイとじゃがバターを摘まみつつ、俺は次の作業。

 適当な布を水に浸けてからきつく絞り、テーブルに広げて置く。

 続いて、空の器――多少浅めでもいいから幅が広い物――を用意して、さっきの布の上に置く。まあ滑り止めだね。


 次。ここが肝だね。さりげなく物陰に入って、手元が職員さんたちから見えなくなった所を見計らって〈拡張保管庫〉から鉄を取り出し、【金属操作】を発動。厚みは一ミリ、幅は五センチくらい、口径は器からはみ出さない程度の輪を作る。

 続いて、輪の片面に限界まで細くした鉄線を細かく、でも向こう側が透けて見える程度に敷き詰める。同じ事を輪を九十度回転させて実行。網目状にするっと…………よっし、完成ー。


「あったあった。よかった見つかって」


 さも探し出しました、という雰囲気を出しつつ、完成した器具――裏ごし器を持って物陰から出る。職員さん達全員が『何あれ?』『あんなもの厨房にあったっけ?』と首を傾げているが無視する。メリアさんが呆れた顔でこっちを見ているが、それも無視する。

 前回デミグラスソースを作る時にこし器を作ったけど、今回は持ってきてないからね。この場で作成するしかなかったのだ。使う予定なんてなかったし、しょうがない。いくら〈拡張保管庫〉に入れておけば嵩張らないとはいえ、さすがに調理道具を持って歩いたりしないし。


 続いて、裏ごし器を網を上にした状態で器の上に置き、その上にアツアツの芋を控え目に乗せる。この時沢山乗せると作業がやりづらくなるから注意。

 で、上から木べらで芋をこすり付けるような感じで押し潰すと……あら不思議。器の上には滑らかになったお芋さんが。……いや、別に何も不思議じゃないんだけど、なんとなく言ってみたくなっただけだ。


 おっと危ない。メリアさんに作業を止めてもらい、牛乳を買ってきてもらうように頼む。


「分かった。どれくらいいる?」


「そうだね。食べるにしてもここにいる人数だけだし、大した量は――――」


 そこで感じる強烈な視線。視線を感じる方を一瞥すると、子供達が涎を垂らしながら厨房をガン見していた。目が血走っている気がする。鬼気迫りすぎて怖い。


「――――沢山買ってきて」


「だね。パンも買ってくるよ」


「よろしくー」


「え? メリアさん行っちゃうんですか?」


「料理は? 帰ってくるまで待機ですか?」


 そこで職員さんたちから驚きの声が上がった。

 気持ちは分かるけど、ずっと俺も料理作ってたよね? 今更じゃない?


「え? レンちゃんがやるから大丈夫ですよ? というか今の今までレンちゃんがやってましたよね?」


「いえ、てっきり遊んでるのかと……」


「メリアさんはなんで叱らないんだろうと思いつつも、私達が叱るのも違うかな、と思って見てました」


 メリアさんが俺と同じ疑問を職員さん達に投げかけると、職員さん達は揃って俺が遊んでると思ってたと語った。

 …………納得した。なるほど。職員さん達は俺が食材を使っておままごとをしているように映ってたのか……。

 まあ確かに、今回の調理工程って今んとこ、野菜くずを煮込むのと、芋の裏ごしだからな。遊んでるように見えても仕方がない所はある。


「レンちゃんの料理、とっても美味しいですよ? お店で出してる料理も、見たことないような物は全部レンちゃんが考えた物ですし」


『ええっ!?』


 職員さん達のみならず、厨房を覗き込んでいる子供達からも驚きの声が上がる。気持ちは分かる。俺も逆の立場だったら驚いてると思う。

 だけど今は置いておけ! そんな事に時間を浪費すればするほどメシの時間が遠のくぞ!


「はいはい。おねーちゃんはさっさと牛乳買ってきて。後、作る量が激増したようなので、皆さんも作業を手伝ってください」


「はーい」


「「「あ、はい。分かりました……」」」


 という事で、モードを大量生産に変更。俺一人でやると時間が掛かるので、再度物陰に隠れて裏ごし器を量産。ブイヨンを作ってもらっている職員さんを除いた全員でひたすら芋を裏ごししてもらう。


 さて、さっきまでは軽食想定だったからそこまで大量に作る気はなかったけど、子供達の目的にそんな事は許されないだろう。殺されかねない。


 ……うーん。さすがにこれとパンだけじゃ、ヘルシーすぎて食べ盛りの子供達には物足りないな。……よし、肉も焼いちゃおう。レクチャーに使ったミンチなら経費扱いで落とせるだろきっと。というか落とさせてください。最近出費が激しくて色々厳しいの。自業自得? うん知ってる。


 という事で無事(?)経費で落ちる事になったミンチを使って一品作ろうと思う訳だが……。何がいいかな。ハンバーグが無難なんだろうけど、なんとなく一捻りしたい気分。

 なにか料理のヒントになる物はないかと辺りを見回した所、器に乗せられた卵が目に入った。

 卵……卵か。スコッチエッグ……いや、あれ揚げ料理だし。焼いても作れるとは思うけど、ゆで卵から作ると余計に時間がかかるよなあ……。オムレツでいっか。


 出来上がっていたブイヨンから野菜だけを引き上げ、適当に小さく切ってから、同じく小さく切ったトマトと一緒に、ひき肉と一緒に炒める。味付けは塩オンリー。

 頑張って炒めてトマトから出てきた水分をある程度飛ばした所で、ドアが開く音が聞こえてきた。メリアさんが帰ってきた。ナイスタイミング。


「ただいまー。あれ? なんかいい匂いがする?」


「おかえりー。うん。物足りないと思って、一品追加する事にしたんだ。よし。こっちは丁度ひと段落着いた所だし、芋の方を先に仕上げちゃおうか」


 深めのフライパンっぽい鍋に裏ごしした芋、牛乳、ブイヨン、塩、バターを適量入れ、沸騰させないように注意しながら温めて……と。

 ちょい味見。……ん。色々不満はあるけど、まあこんなもんかな。


「ほい完成。ビシソワーズ」


 本当は冷やすんだけどね。温かくても十分美味しいんだなこれが。


「へー。面白いねえ。芋を具材にするんじゃなくて、芋そのもので作るんだ」


「おお……。まさか芋が汁物になるなんて……」


「あんな料理、初めて見た……」


 メリアさんは楽しそうに、職員さん達は信じられない物を見るような目で、出来上がったビシソワーズを見ている。いやいやダメでしょ。


「作る過程は見てましたね? じゃあ俺はもう一品作るので、皆さんはドンドンビシソワーズを作っていってください。こんだけじゃ全然足りませんよー」


 パンパンと手を叩きながらそういうと、ハッと我に返ったらしい職員さん達が、見よう見まねでビシソワーズを量産していく。

 ちょっと作業風景を眺めてみたが、特に問題はなさそうなので、宣言通り俺は追加の料理に移ろう。といっても大した事しないけど。


 卵を溶いてからちょっと牛乳を加えて混ぜ、油を引いたフライパンへ投入。

 なんとなく固まってきたら、さっき作ったひき肉と玉ねぎのトマト炒めを適量乗せて、それっぽく形を整える。

 で、最後に卵の面が上になるように皿に盛って、〈拡張保管庫〉に突っ込んであったデミグラスソースを掛ければ……。


「ひき肉と玉ねぎのオムレツ、完成っと」


 盛り付ける時に卵の面を上にしてるから、ちゃんと具材を包めてなくても見栄えは悪くない。


「おおー。美味しそう。オムレツかあ。いいねえ」


 オムレツはこの世界にすでにある物らしい。まあ作り方自体はシンプルだし、誰でも考え付くよな。ちゃんと作るのはかなり難しいけど。

 実際、このオムレツも結構焼き目がついてる。プロのシェフが作ったオムレツってすっごい綺麗な黄色になるからなあ。さすがに家庭料理レベルの腕でそこまでは出来ん。


「あんまり料理に割く時間もなかったしね。ビシソワーズの方はどうですか?」


「はい。総出で作っているので、それなりの量が出来てます」


 次のオムレツを作りながらメリアさんの言葉に応えつつ、ついでに職員さんにビシソワーズの作成進捗を確認すると、満足いく答えが返ってきた。


「分かりました。じゃあ俺は引き続きオムレツを作っていくので、皆さんは配膳をお願いします。おねーちゃんもそっち手伝って」


「「「はい」」」

「はーい。りょーかい」


 ……


 …………


『おいしいっ!』


 食堂に子供達の嬉しそうな悲鳴が響き渡る。


「これね! なんかね! おいもさんのあじがするの! でもおいもさんはいってないの! ふしぎ!」

「このオムレツ、にくがすっげえはいってる! うめえ!」

「オムレツにかかってるちゃいろいの、なんかへんなあじがする! でもおいしい!」

「本当に美味しい……」

「これが芋から出来てるなんて、作ってる所を見てても信じられない……」

「うーん! 美味しい! レンちゃん! これ、お店で出さないの? 絶対売れるよ!」

「いやー、芋ってクロケットですっごい使うじゃん? 追加でビシソワーズも出すってなったら、街中の八百屋さんから芋が消えるよ。今でさえ買い占めかってくらい買ってるんだし、これ以上は街の人達の迷惑になるよ」

「あー、そっかー……確かにそうだねえ……残念」


 ビシソワーズ、オムレツ共に、子供達に大好評だった。もちろん大人も。

 子供達は輝くような笑顔で料理を頬張り、職員さん達は信じられない面持ちでビシソワーズを飲む。

 メリアさんはビシソワーズを〈鉄の幼子亭〉で提供する事を提案してきたが、俺は芋の確保を理由にそれを却下した。

 まあ、追加で芋を手に入れる手段があれば考えてもいいけどね。できればメークインっぽい奴。イースで売ってる芋って、男爵っぽいのしかないんだよね。その所為で今回のビシソワーズは裏ごししているにも関わらず、ちょっと舌触りが悪い。メークインで作ればもっと滑らかになる……はず。


 とりあえず、レクチャーの結果、職員さん達が問題なく、依頼した作業が遂行できる事は確認できたし、これで多少は家族の皆の負担も軽減されるかな?


 ――――ちなみに、一緒にじゃがバターも出したけど、こっちには余り子供達の食指は動かなかったようでした。美味しいのに。モグモグ。

お読みいただき、ありがとうございます。


作者のモチベーション増加につながりますので、是非評価、感想、ブクマ、いいね!の程、よろしくお願いします。

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[一言] ビシソワーズ、名前しか知らなかった。
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