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第143話 孤児院にお仕事を依頼した。

 侯爵様と一緒に、元〈女神の美食亭〉、現孤児院の仮宿に行った翌日。


 俺とメリアさんはその仮宿の前にいた。


「この入口も大分見慣れたねえ」


「まあ三日連続だしね」


 メリアさんの言葉に、俺は頷きと共に答えた。炊き出しで定期的に来る予定ではあったが、さすがに三日連続で来る事になるとは思ってもみなかったなあ。


「というかさ、正直な所、ちょっと疲れたんだけど……。貧民街の方はメイドの子達に任せても良かったんじゃない?」


 メリアさんがその言葉の通り、疲労の滲んだ声音でそんな事を聞いてきた。


 そう。俺達はここに来る前に、貧民街での炊き出しを行ってきたのだ。


 前回と違い、今回は開始直後から大盛況。持って行った食事はあっという間になくなった。

 貧民街の人達に多少なりとも信用されたと感じられ、それは嬉しかったのだが、その分、目の回るような忙しさで、俺達の体力をガッツリ持っていかれた。ぶっちゃけ俺も結構疲れてる。


「いやまあ、俺も出来ればそうしたかったんだけどさ。ほら、あそこの人達って警戒心が強そうじゃん? もう暫くは顔を覚えられてる俺達が行かないと」


「あー、そっかあ……そうだねえ……」


 貧民街の人達は、外部の人達への警戒心が強い。それは初めて貧民街に行った時の周りの反応を見れば分かる事だ。視線に敵意がバリバリ籠ってたからね。

 俺達と初回に手伝ってもらったメイドは、一応フレッドさんとも面通しが出来ているし、炊き出しの実績もあるので警戒される事はなくなったが、他のメイド達は違う。俺達が一緒に行かないと警戒されてしまうのだ。

 いやまあ、都度強面おじさんかフレッドさんを呼んでもらって説明すればいいのかもしれないが、毎回呼び出すのも気が引けるんだよね。

 なので暫くは、俺とメリアさんは固定で、手伝いのメイドをローテーションして顔を覚えてもらおうと思った訳だ。


 ……これ、俺とメリアさん、休みなくなっちゃうんじゃないか? 最近〈鉄の幼子亭〉にもあんまり顔を出せてないし……。

 ちょっと色々体制を考えなくちゃいけない時期になってきたかもしれないな。


「まあ、今日の用事は単発だし、そこまで大変でもないから。がんばろ? ね?」


「…………もう。それは卑怯だよレンちゃん。そんな顔でお願いされたら、断れる訳ないじゃない」


 久しぶりに、可愛らしさを全面に出した、あざとい上目遣いでメリアさんの顔を見つめると、メリアさんは『うぐっ』とうめき声を上げて少し仰け反ってから、小さくため息を吐いた。

 うむ。久しぶりに幼女っぽい仕草したけど、破壊力抜群だなこりゃ。多用しないようにしよう。いつか手痛いしっぺ返しがありそうだ。


「ははは。ごめんごめん。で、早速なんだけど…………開けて?」


「え? いや、レンちゃんが扉の前にいるんだし、わざわざ私が開けなくても…………。あー、そうだったね。忘れてた。りょーかい」


 忘れないで。あの惨状見たでしょ。しかも二回も。

 先ほどの仕返しか、それともただの思い出し笑いか、ちょっと腹が立つニヤニヤ笑いを浮かべつつ、メリアさんが代わりにドアに手を掛け。


 俺の目の前で開かれた。


 あ、ちょ、この立ち位置ヤバくない? これ、わざわざメリアさんに開けてもらった意味が――――


「あ! きょうもレンちゃんきたー!」

「メリアおねえちゃんもいるー!」

「ほんとだ! あそぼー! ねーねーあそぼー!」

「あたらしいおにんぎょうさんつくってー!」

「おままごとしよー! きょうはレンちゃんおとうさんやくねー!」

「ああっ! みんなちょっと待ちなさい!」


「意味ねええええええ! ふんぎゃあああああ!?」


 職員さんの制止も虚しく、俺は三度目の荒波に為す術なく飲み込まれた。

 ……俺、そう遠くない内に子供達の海で溺れ死ぬんじゃなかろうか。


 ……


 …………


『ごめんなさーい……』


「うん。もう三回目だから、そろそろ覚えてね……俺の身が保たないから……」


 三日連続の撃沈はさすがに許容できず、出来るだけ柔らかい口調を意識しつつ、子供達に突撃は勘弁してと言い聞かせる。

 俺達だけだったらいいけど、いや、本当は良くないけど、お偉いさんとかと一緒に来てる時にやったら問題になっちゃういからね? え? 侯爵様? あの人は特別枠。俺の貴族のイメージでは有り得ないくらい柔軟な人だからあれ。あ、でも、王女様も庶民だからって見下したりしてこなかったな。この世界の貴族はみんなあんな感じなのかな? だったら色々有難いんだけど。


 六割ほど脱がされた衣服を直し、感覚だけですごい事になっていると分かる髪を直――――え? メリアさん櫛なんて持ってきてたの? なんでまた…………こうなると分かってた? あ、そう。


 メリアさんに髪を梳かれ、元のサラサラヘアーに戻った所で、院長さんが奥から出てきた。職員さんが呼びに行ってくれたようだ。何も用事言ってないのに。ありがとうございます。タイミングもグッドです。


「これはこれは。メリア様、レン様。ようこそいらっしゃいました。本日はどのようなご用件で?」


「お邪魔してます。ええ。ちょっと孤児院の人達にお仕事を頼みたくて、そのお話しの為に来ました」


「ほう。それは…………。そういう事でしたら、ここではなんですので、奥へどうぞ」


 メリアさんからの言葉に、院長さんはにこやかだった表情を引き締め、俺達を奥の部屋へと案内した。


 ……いや、そんなヘビーな話じゃないんで、かるーく聞いていただいて大丈夫ですよ?


 ……


「それで、そのお仕事、というのは、どういった内容なのでしょうか?」


 昨日、侯爵様との話をするのに使った部屋に着き、俺達が席に着いた事を確認した所で院長さんも着席し、単刀直入に仕事の内容について質問してきた。


「はい。まあ、簡単に言ってしまえば、私達のお店、〈鉄の幼子亭〉で出す料理のお手伝いをお願いできませんか、という所です。とは言っても、全ての料理を作ってもらおうと考えている訳じゃなくて、お店で出している料理の中でも、『簡単だけど時間が掛かる物』と、『ひたすら単純作業が必要な物』をお任せできないか、と思いまして」


「なるほど……。そのお話しですと……仕事としては、野菜の皮むきや皿洗い辺りですかな?」


 メリアさんから語られる話を聞き、院長さんは仕事の内容を推測する。

 それに、メリアさんは頷きで応えた。


「そうですね。詳細については受けていただけることが決まってからと考えていますので、まだ詳しくはお話しできませんが、まあそれに近い物です。ここでしたら、元食堂だけあって厨房も大きいですし、丁度いいかなと。後、これくらいの仕事であれば、子供達にも手伝ってもらえるんじゃないかなと思いまして。職員の方々の手だけだと、お金を稼ぐのも大変でしょう? それなら、子供達にも手伝ってもらえるような仕事であればいいかなと」


「おお……そこまで考えてくださっていたとは……。是非やらせていただきたい、と言いたい所ですが……さすがに、仕事の内容が何かも分からないとお答えしようがありませんな……」


「ああ、言われてみればそうですね…………」


 そこでメリアさんは目だけを動かして俺を一瞥。お伺いを立てて来た。

 いや、別に俺から許可取らなくても、メリアさんが決めていいんだけど。別に俺が統括責任者って訳じゃないし……。

 まあ、別にいいんじゃない? と俺が小さく頷くと、それに応えるようにメリアさんも小さく頷いて、視線を院長さんへと戻した。。


「……では、前向きに考えていただけるようですし、依頼予定の仕事の内容を見てもらいましょうか」


「おお。よろしいのですか? 是非お願いいたします」


 という事で、仕事内容の説明をする為に、俺達は連れ立って厨房へ向かった。


 ……


 …………


 無事、受けてもらえる事になりました。


 ちなみに、今回孤児院の人達に依頼するのは、デミグラスソースの作成と、ハンバーグ、コロッケの下ごしらえだ。

 ハンバーグはミンチの作成、コロッケは芋を茹でて皮を剥き、荒く潰してもらう所までをやってもらう予定。


 職員さん達は、芋の処理については特に問題がなかったが、肉を叩いてミンチにする作業を見せた時には『何故そんなもったいない事を!』という表情をし、デミグラスソースの作成にかかる時間を聞いて目を剥いていた。

 まあ、しょうがないかな。パッと見、ひき肉作りなんて食べ物で遊んでるように見えるだろうし、レストランとかじゃない限り、たかだかソースに三日近くかけるなんて考えられないだろうからね。

 でもこれ、全部必要で、かつ重要なお仕事なんで、しっかりやってください。


 なお、作ってもらった調理品は、〈拡張保管庫〉を貸し出してそこに入れてもらった上で、うちの人間が毎日回収する事にした。もちろん念入りに口留めをしてだ。侯爵様の名前を勝手に使って脅したのでまず大丈夫だろう。後で侯爵様に報告しておかないとな。無断借用、ダメ、ゼッタイ。


 さて。一生懸命レクチャーしたら結構時間が経過していたらしい。具体的に言うと腹減った。


 それは他の人達も同じようで、あからさまに態度に出したりはしてないが、皆下ごしらえが済んだ芋に目が向いている。すぐ近くに置いてある肉に向いている視線が少ないのは、多分さらに調理が必要だからかな? 芋は茹でてあるし、そのまま食えない事はないけど、生肉はさすがにね……。

 その視線に釣られ、俺も未だにホクホクと湯気を立ち上らせている芋に目を向ける。


 んー、食堂経営者としてはここでチャチャッと一品作ってあげたい所なんだけど……うーむ。なんかいいメニュー、あったかな?


 芋……芋かあ…………。

 コロッケは芸がないよなあ。というか、ここには揚げ物をするだけの油がないから作りようがないか。


 って事は揚げ物以外だな。うーん。どうせならこう、インパクトのある物を……………………あ。いいの思い出した。よし、あれなら結構インパクトあるし、いいんじゃないか? 久しぶりに俺も食べたいし。


 作った事はないけど、ザックリとした作り方は分かるし、まあなんとかなるっしょ!

お読みいただき、ありがとうございます。


なんか『いいね!』機能なる物が実装されたようなので、有効にしてみました。どういう効果があるのかは分かりませんが、拙作をお読みいただくにあたっての指針になると嬉しいですね。


作者のモチベーション増加につながりますので、是非評価、感想、ブクマ、いいね!の程、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 芋でチャチャッと作れてインパクトのあるもの… じゃがバターだな
[一言] > 久しぶりに幼女っぽい仕草したけど、破壊力抜群だなこりゃ。 自分の精神の性別と年齢を踏まえた上で客観的に見たときの破壊力も抜群( ˘ω˘ ) うーん、ポテサラか何かかな?
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