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閑話 わたしを救ってくれたあの方は……⑤

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 ルナさんの、レン様へ対する燃え盛る炎のような忠誠心の理由を聞いた日の夜、わたしはレン様に呼び出され、お二人の寝室に向かいました。


「大分遅れたけど、リーアの手袋を作ろうと思います」


「ほんと遅れたねえ。ごめんね、リーアちゃん」


「い、いえ……。そんな無理していただかなくても大丈夫なのです。今日はお仕事でお疲れだと思いますので、次のお休みの時でも問題ないのです」


 これからわたしの手袋を作るそうです。それはお二人の想定より遅くなってしまったらしく、その事をメリア様に謝られましたが、わたしとしては十年悩んでいた問題が解決するかもしれないのです。少しくらい遅くなっても全く問題はありません。


 というか、疲れた表情のレン様を見ると、昼間にルナさんから聞いた話が蘇ってきてしまい、とても不安になります。なのでついわたしは、次のお休みでも問題ないとお伝えしたのですが…………忘れていました。お二人は迷宮に潜る為にお仕事の日付を調整した結果、次のお休みは随分先になってしまっていたのでした。


 その事を思い出したわたしが謝ると、レン様は手をヒラヒラと振ってそれを受け流し、外套の物入れから箱状の物を取り出しました。

 その箱は横長で、大きい方の面に細長い穴が開いていて、小さい方の片側に透明な石がくっついています。これが、機織りの魔道具……。


 なんというか…………地味です。正直、もっと、なんというか、こう、すごい見た目をしている物と思っていました。すごい見た目、というのがどういう感じなのかは分かりませんけど。


 レン様が石に触れると、石の色が透明から緑に変わっていきます。しばらく触って石の色が完全に緑に染まったのを確認してから、レン様は外套の物入れから〈ゴード鉱〉の塊を取り出し、前見せてもらった時と同じように細長く形を変えていきます。そして、糸のようになった〈ゴード鉱〉を箱に近づけると……。


「おおー! すげえ!」


「布になってるのです!」


「これは便利だねえ…………機織りって結構大変なのに……あの頃の私の苦労は一体…………」


 レン様が糸を近づけたのと逆の面から、真っ白な布のようなものが出てきました!

 わたしとレン様が驚く中、メリア様だけがちょっと悲しそうです。昔の苦労を思い出してしまったようです。げ、元気出してください……。


「あれ? おかしいな。聞いた話だと、最後は残った糸が切られて終わるはずなんだけど」


 それなりの長さの布が出来上がった所で、レン様がもう一度石に触れました。そうすることで箱が布を作るのを止めて、出来上がった布を吐き出すそうなのですが…………布の端は箱にくっついたままで離れる気配がありません。


 壊れてしまったのかな? と首を傾げると、レン様が『これで壊れたら殴り込みだな』と仰られました。


 天使様であるレン様が殴り込みなんて掛けたら、この箱を売ったお店がイースから消えてなくなってしまうので慌てて止めたのですが、レン様の続く言葉で、わたしは手の平をくるっと返しました。


 大金貨! 五十枚! この箱がそこまでお高いなんて…………。そして、そんな金額で不良品を売り付けたお店には天罰が落ちても仕方がないと思います。


 ですがお二人が色々調べた所、壊れてしまった訳ではなく、箱が糸を切る事が出来ず、そのため箱から布が離れなかっただけだったという事が分かり、レン様が不要な糸を切り離す事で無事に布が完成しました。


 レン様に言われ、出来上がった布の上に手を置いてびっくりしました。わたしが今まで触った事のある布と違い、とてもサラサラしているのです。その手触りにうっとりとしていると、レン様が布を折ってわたしの手の上に乗せた後、おもむろに布の端に指を乗せました。すると布が生き物のように動きだし、わたしの手にピッタリと張り付き、あっという間に手袋になりました。


 すごい! すごい! ほんとにレン様はすごいです! やっぱりレン様は天使様です! こんなすごいお方に仕えることができるなんて、わたしは幸せ者です!


 自分の身に起こっている幸運に感動していると、レン様……いえ、天使様が手袋の出来を確認すると仰いました。


 え、と。手袋の出来って見た目じゃないですよね? この手袋はわたしの手を触ったら冷たくなっちゃうのを防ぐための物なので……。と、ということは、何かに触らなくちゃいけないですよね? 何かいい感じの物はありますでしょうか…………え!? て、天使様と手を繋ぐのですか!? いやいやいやいや! 無理! 無理です! そんな恐れ多い…………! わたしみたいなのに触ったら、天使様が汚れてしまうのです!


 前も触っただろうって? あの時はまだ天使様のすごさがちゃんと分かってなかったのです! だからあんな気軽に…………。ああ、今すぐあの時に戻って、何も知らない当時のわたしにしっかりみっちり天使様のすごさを教え込んでやりたいのです……!


 なんて事を考えながら必死に断っていると、天使様は強引にわたしの手を取って握手を始めたではありませんか!

 あ、あわ、あわわわわわ……! 天使様が、わ、わたしの手を………………っ!


 天使様の手の温かさと柔らかさを感じた瞬間、目の前が真っ白になり、気づいたらわたしは、宛がわれた部屋の寝台に寝ていました。


 後でお二人に聞いたのですが、天使様に手を握られた瞬間、わたしは気を失ってしまったそうです……。しょうがないこととはいえ、お二人には恥ずかしい姿をお見せしてしまいました。穴があったら入りたいです…………。


 気持ちはどん底ですが、わたしは天使様に恩を返すために働いている身。しっかりがっちり働かなくてはいけません。


 手袋を嵌めることで抱えていた問題が解決したわたしは、天使様のご指示により、天使様が営んでいるお店、〈鉄の幼子亭〉で働く事になりました。


 最初は本当にダメダメでした。お品書きの中身も覚えてないし、お客様の注文も間違える。動くのが遅くてお客様をお待たせしてしまう。持っていく料理を間違える。お釣りを間違える、等々。

 考え付く失敗は全部やったと思います。でも他の店員の方も、お客様も優しく、根気よく教えてくれたので、十日……いえ、もうちょっとですね、大体二週間程で目立つ失敗はなくなりました。

 ただちょっと、お客様がわたしを子供扱いするのが難点です。わたし、十八歳ですから! 立派…………ではないですが、大人ですよ!


 ……


 …………


 ………………


 失敗が減ってきて、〈鉄の幼子亭〉でのお仕事が楽しくなってきた頃、唐突に後輩が出来ました。


「あんたがリーちゃん? マリだよ~♪ よろよろ~♪」


「え、あ、はい。よ、よろしくお願いしますなのです……」


「も~、何そのつまんない返し~。リーちゃんの方が先輩なんだから、もっと軽くいこ~よ~。ほら、よろよろ~♪」


「リ、リーちゃん? よ、よろよろー…………?」


 な、なんだかすごい人が来ました……。キレイな人ではあるんですが……なんというか、変わった人です。

 マリさんは桃色の長い髪を頭の片側でまとめて縛っていて、黒い瞳の中がなんだかキラキラしています。お星さまが輝く夜空みたいで、とってもキレイです。


 身長はわたしより大分高く、メリア様と同じくらいありそうです。

 そして、胸がおっきいです。最近、胸が大きいのは太っている訳ではない事を教えてもらいました。胸が大きい事は良いことだ! とお客様の一人に熱く語られました。そのお客様と一緒の席に座っていた女性のお客様が、その方をゴミを見るような目で見ていたのが印象的でした。

 その後、そのお二人は連れ立ってお店を出ていったのですが、女性のお客様の背後の風景が歪んで見えたのは気のせいでしょうか……?


 ですがそのお陰で、嫌いな場所の一つだった胸がちょっと嫌いじゃなくなりました。でも…………正直邪魔なんですよね、これ。足元も見えないですし、重いですし。服も、体の大きさに合わせると胸が苦しいですし、かと言って胸に合わせると他の部分が大きすぎてダボダボに……やっぱりこれ、邪魔です。天使様のように、スラッとした体が羨ましいです。


 それはともかく、マリさんはわたしのように人前に出られない事情もないようでしたので、次の日から〈鉄の幼子亭〉で働き始めました……が、マリさんとしては、〈鉄の幼子亭〉ではなく、お屋敷で働きたいようで、厨房にいらっしゃる天使様に文句を言っています。ボウエイがどうとか聞こえますが……ボウエイってなんでしょうか?


 結局マリさんはレン様と何かの約束をされたようで、満足そうに〈鉄の幼子亭〉での仕事を始めました。


 わたしと違って覚えが良くて、ちょっとションボリしたのは内緒です。


 いや、だから、わたしはもう十八歳なので、そんな子供みたいに頭を撫でられるような歳では………………はふぅ。

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[一言] 小さい人は頭を撫でられる運命にある( ˘ω˘ )
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