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第15話 装備を改造したりしてみた。

「あー、つっかれたー……」


「お疲れ様。確かにちょっと疲れたねー」


 今、俺とメリアさんは二人して宿屋のベッドに座っている。

 エリーさんの武器屋から出た後、レミイさんとセーヌさんが『次は私達ね!』と言って俺とメリアさんを近くの服屋に引っ張り込んだ。

 俺達が着ている服がお気に召していなかったらしく、メリアさんにはセーヌさんが、俺にはレミイさんが付いて着せ替え人形にされた。

 普段から着れる物を、という事だったのだが、なぜかフリルが大量に付いたドレスを着させられたりした。

 何回着替えたかは覚えてないけど、着替えるたびにキャーキャー叫ばれた。

 それまで試着した服全部を買おうとするレミイさんを止めるのが大変だったなあ。


 大量の服を、なぜかレミイさんが支払おうとするのをなんとか押し留め、とりあえず上下一式だけ購入した。今着ているのはその時に買った服だ。

 薄い青のシンプルなワンピースなのだが、丈がえらい短い。膝上何センチだよって感じ。

 別の物にしてくれと頼んだんだけど、かなり気に入ったらしく固辞されてしまった。

 それならと、ショートパンツも一緒に着用することにした。

 まあ、俺のサイズに合うのがなかなか見つからなくて、やっと見つけた奴はやたら丈が短くて、ショートパンツっていうかホットパンツなんだけど。他に選択肢がなかったから買ったけどさ。

 まあ、上からコート羽織れば大丈夫かな? ……大丈夫だよな?


「途中からメリアさんも俺の着せ替えに混ざってたよね…………。俺と一緒に着せ替え人形になってたはずなのに」


「あははー。こっちは結構さっくり決まったからねえ。いやあ、セーヌさんと服の趣味が近かったから、楽だったよー」


 そんなメリアさんが今着ているのも、その時に買った物だ。

 デザインは街の住人の人たちが着ている物とそう違いはないんだけど、なんというか、全体的にピッチリしてる。

 体に張り付く、とまではいかないんだけど、体のラインが割りと出ている。メリアさんはメリハリのある体つきだから、ぶっちゃけちょっとエロい。


「……なんでその服にしたの?」


「ああ、私、ゆったりした服って好きじゃないんだー。動くとバサバサして邪魔くさいし。洞窟に住んでた頃はえり好みしてる余裕なんてなかったから、あんな服着てたけど」


 実は欲求不満なんだろうか、とちょっと不安になったが、単純に趣味のようだ。それはそれで困るけど。変なのが寄ってきそうで。

 ちなみに、『あんな服』というのは今まで俺達が着ていた服の事だ。腰の部分を紐で縛った貫頭衣、という極めてシンプルな服。

 まあ、あそこに住んでた頃は服に気を使う必要なんてなかったからな。


「はあ……そういう服が好きならいいけどさ。それ着てたら鼻の下伸ばした男が寄ってくるだろうから気を付けてよ?」


「はーい」


「適当に返事してるでしょ…………」


 まあ、俺がくっついていれば子持ちに見えるだろうし、変なのが寄ってくる確率も下がるだろ。

 ……多分。


 俺は気を取り直して、革の胸当てを〈拡張保管庫〉から取り出した。

 今日エリーさんのお店で買った物だ。


「装備なんて取り出してどうしたの?手入れ?」


「買ったばっかりだよ……。このままだと性能が微妙だから、ちょっと改造しようと思ってね」


 言いながらさらに取り出したのは、胸当てと一緒に買った〈ゴード鉱〉の槌だ。

 とりあえず持ち手はいらないので取り外し、鉱石のみにした。


「あれ? 持ち手外しちゃうの?」


「うん。あくまで欲しかったのはこの〈ゴード鉱〉だからね」


 片手に胸当て、もう片手に〈ゴード鉱〉を持ち、胸当ての裏地に〈ゴード鉱〉を宛がう。


「【金属操作】っと……」


能力(スキル)】を発動すると、〈ゴード鉱〉が粘土のように変形し、胸当ての裏地に張り付いた。

 裏地全体を覆った所で鉱石の塊を切り離してから【能力(スキル)】を解除する。胸当ての裏地がおよそ一センチほどの厚さの〈ゴード鉱〉でコーティングされた形だ。


「よし、次は……【魔力固定】」


 〈ゴード鉱〉の層をさらに覆い隠すように布地を生成し、貼りつける。

 といっても、〈ゴード鉱〉は魔力を反射してしまうのでそのままでは貼り付けられない。

 なので、周囲の革の部分に張りつけ、〈ゴード鉱〉の部分は覆うだけに留めた。

 これで、ぱっと見は元の胸当てと違いがわからないようになったな。

 胸当ての裏側を見られる事なんてそうそうないと思うけど、念のためだ。


「……鍛冶師が加工できないって言ってた金属をあっさり加工してるよ、この子……」


 メリアさんに呆れられてしまった。

 その道のプロが匙を投げるような金属の加工を、ずぶの素人である俺があっさりとしているのだ。呆れられてもしょうがないかな。


「まあ、普通の方法じゃないしね。実際すごいよこれ。熱も魔力も完全に反射される。これの加工方法が確立されたら世界が変わりそう。…………よし、完成。おねーちゃんのも貸して。同じ改造するから」


「はい。……熱しても魔力使っても駄目な金属をどう加工しろと」


「それを探すのは本職の人たちの仕事だよ。熱して駄目なら冷やしてみるとかさ…………はい。出来た」


 熱を完全に反射するなら冷やしても無駄だとは思うけどね。適当言っただけだ。

 メリアさんから胸当てを受け取り、同じ改造を施す。

 これで、革の胸当てとは思えない強度を得ることができた。

 改造した胸当てを渡すと、メリアさんは受け取った瞬間に目を丸くした。


「最初と全然重量が変わらないんだねえ。見た目も変わらないし、これで強度が上がってるなんてすごいなあ」


「硬度自体はそこそこらしいけどねえ。金属の癖に弾力があるみたいだから、衝撃を受け止める効果もあるかも。んじゃ次はっと……」


 改めて【金属操作】を使用し、残りの〈ゴード鉱〉を一メートル半程の棒状に加工した。

 軽く振ってみる。部屋が狭いので重心の確認くらいしかできないけど。

 ……よし、問題なさそうだな。


「それがレンちゃんの武器? 槍……じゃなくて、棒?」


「うん。ただの棒なら相手も油断するでしょ? 刃物自体に慣れてないから、普段から持ってると怪我しそうでさ。いざとなったらこんな感じで……ね?」


 言いながら【金属加工】で棒の先端を先端を尖らせて見せた。


 ……今言った事は嘘ではないが、本当の理由は違う。

 俺は今まで生き物を殺した事ないし、できれば殺しなんてしたくない。出来る限り戦闘は避けたいとは思ってるけど、そうもいかない事もあるだろう。そういう時に刃の付いた武器を使っていると、その気はなくても、誤って致命傷を負わせたり、殺してしまったりするかもしれない。ただの棒であれば、そういう危険性は多少は減るんじゃないかと思った。

 金属製の棒でぶん殴られたらどっちみち危険な気もするが、刃物で斬られるよりはましだろう。


 結局の所、俺に生き物を殺す覚悟がないだけだ。


「そっか…………。うん、そうだね。それがいいよ」


 心配かけまいと隠してみたのだが、メリアさんには通じなかったようで、優しく笑われてしまった。

 あっさりと見破られてしまって恥ずかしい。


「う…………。さ、さて!次はっと!」


 大き目な声を出したらメリアさんにさらに笑われてしまった。

 でも気付いてない振りをしてくれているらしく、そのまま話に乗ってくれた。


「あはは。まだ何かあるの?」


 折角気付いてない振りをしてくれてるんだ。有り難く乗っからせてもらおう。


「うん。こっちは準備っていうか、実験なんだけどね」


【魔力固定】で布を生成し、そのまま袋状に加工した。俺の握り拳くらいのサイズの小さな袋だ。


「俺のコートのポケットが、〈拡張保管庫〉だっけ? それになってたじゃない? でも俺、そんな機能を付けようとは考えてなかったんだよ。というか存在すら知らなかったし」


 俺の言葉にメリアさんは意外そうな顔をした。


「あ、そうなの? レンちゃんの事だから、『便利だからー。』くらいの理由で作ってそうって思ったんだけど」


「……何その認識。まあ、ありえるけどさ……」


 今回は偶然〈拡張保管庫〉としての機能が付いていたが、前もって作り方を知っていても結局付けていたと思う。

 だって便利そうじゃん?


 メリアさんに軽く文句を言いながら、作成した袋に手を入れてみた。この時点で容量が拡張されていれば【魔力固定】で入れ物を作成しただけで〈拡張保管庫〉としての機能を持つ事になる。だが、手を開こうとするとすぐに指が布に当たる感触がした。狭くて手を中途半端にしか開けない。これはどう考えても中の空間は拡張されてないな。


「普通の袋だ……。おっかしーなー。生成した布地もコートと同じ素材のはずなんだけどなあ」


 ちょっとがっかりしながら袋から手を引き抜いた。

 その様子を見てメリアさんが首を傾げた。


「上手くいかない?」


「うん……。ただの袋だわ。うーん、コートとこの袋の違いってなんだろ…………、あ」


 そういえば、この袋は布地一枚でしか作ってないな。コートは300枚ほど重ねてるから、そこが違うか。

 ……もしかすると、【魔力固定】で作成した素材を重ね合わせた物を使う事が条件かもしれない。


「ふむ。まあ試してみるか」


 もう一枚布を生成し、魔力を使って袋に張りつけた。

 規模は小さいが、これでコートのポケットと同じ構成になったはずだ。


「んー……、お? おお?」


 袋に手を入れてみた所、すぐにさっきまでと違う事が分かった。

 中が広い。手を開いても布にぶつからない。成功だ!


「広がってる! さっきより中が広いよ!」


 興奮気味な俺の声に、メリアさんは驚いたような、呆れたような微妙な顔をした。


「まさか〈拡張保管庫〉まで作れるなんて…………お姉ちゃん、レンちゃんが恐ろしいよ。作れない物なんてないんじゃないの?」


「いやいや。俺だって作れない物くらいあるよ。【魔力固定】で作った物は強度が低いから、鎧とか、武器は作れないよ」


 そんな事を言いながら袋の中をまさぐってみると布に指が触れた。拡張されている事は確かだけど、思ったより広くない。


「んー……? 中のサイズは本来の二倍くらい……かな?」


「二倍? そのくらいじゃあ、エリーさんも『どれだけ拡張されてるか分からない』なんて言わないよねえ」


 確かに、この程度だったらエリーさんも『二倍くらいに拡張されている。』と言うだろう。

 というか、たかがコートのポケットの容量が二倍に増えた所で高が知れてるし、あんなに驚いたりしないだろ。


「だよねえ……。さっきコートのポケットに胸当てとか入れてたけど、二倍程度の拡張じゃ絶対入らないよね…………二枚重ねで二倍か。じゃあもう一枚重ねたら三倍かな?」


「……そんな単純な物なの?」


「いや分からないけど。でもその計算だと、コートのポケットは通常の約三百倍ってことになるからエリーさんが『それだけ拡張されてるか分からない。』って言ったのも理解できる……かな?」


 一度袋から手を抜き、さらに一枚布を生成して張りつけてみた。

 改めて手を入れてみると


「おお? これ三倍どころじゃないぞ! もっと広い!」


「ええー……どういうこと? 法則がわからないよ……」


 俺もわからん。

 とりあえず、【魔力固定】で生成した素材を複数重ねた物で入れ物を作ればいい、という事はわかった。

 メリアさんの言う通り、拡張の法則はよく分からないが、重ねる数を増やせばその分容量が増えるって事がわかればいいや。


「まあ、とりあえず〈拡張保管庫〉の作り方は分かった。簡単だねえ。なんでみんな作らないんだろ?」


「いやいや。普通の人は魔力を固めて物なんて作れないから」


 メリアさんが顔の前で手を振りながら言った。


「そんなもんなのかー…………はい、おねーちゃん。あげる」


 とりあえず、さっきの袋に追加で五枚程重ねた物をメリアさんに渡した。

 使用した魔力量も大した事ない。この程度なら一度に何個か作る事もできそうだな。

 なぜかメリアさんは嫌そうな顔で〈拡張保管庫〉を受け取った。


「これ、普通に買ったら大金貨十枚くらいはするんだけど…………。こんな高い物、持ちたくないなあ……」


「……お金の価値が分からないから、どれだけ高いのか判断付かないよ…………」


 俺の言葉を聞いて、途端にメリアさんの顔がしまった! といった感じの物に変わった。


「あ! そうだ! そうだったね! レンちゃんにお金について教えておかないとね! 教えるタイミングを逃して続けてたら忘れちゃってたよ!」


「割りと重要な事だから、できれば忘れないで欲しかったなあ……」


 そんな感じで、メリアさんからこの世界での貨幣価値について教えてもらった。


 貨幣は全部で六種類あり、下から小銅貨、大銅貨、小銀貨、大銀貨、小金貨、大金貨となる。

 同種の硬貨十枚で一つ上のランクの硬貨と同価値となるらしい。

 小銅貨十枚で大銅貨一枚と同じ価値、という事だな。

 聞いた限り、小銅貨一枚で日本円で十円くらいの価値となるようだ。


「え…………って事は大金貨十枚って……すっげえ高くない?」


「だからそう言ったじゃない…………」


 呆れた感じで言われてしまったが、しょうがないだろう。価値が不明の貨幣で言われてもいまいちピンと来ないよ。

 にしても、大金貨十枚って事は日本円で換算すると……一千万円!?

 高っ! 超たっか!

 改めて〈拡張保管庫〉の高さに驚きつつ、先ほど作成した袋に視線を向けた。


「こんなのでもそんなにするの? ……ふむふむ、なるほどねえ」


 メリアさんに渡した〈拡張保管庫〉は大した消費もなく作成できた。それでも大金貨十枚という高額で取引されるレベルの物らしい。

 …………これは、荒稼ぎできるのでは?


「レンちゃん。顔、顔。悪い顔してるよ。それ、女の子がしちゃいけない顔」


「おおっと。いけないいけない」


 メリアさんに注意されてしまったので、意識して表情を笑顔に変えた。ついでに話題も変えた。

 やましい事を考えていた訳ではないけど、金勘定をしてニヤついていたのは事実。

 金に汚いと思われるのはさすがに嫌だ。


「よし! 明日は組合(ギルド)に行って依頼を受けてみよう!」


 あからさまで無理やりな話題転換だったが、メリアさんは『しょうがないなあ』というように乗ってくれた。


「そうだね。ジャンさん達からもらったお金はまだ残ってるけど、稼がないとすぐなくなっちゃうからね。最低限の準備は整ったと思うし……。うん。依頼、受けてみよっか」


「うんうん! じゃあもう寝よう! 初めての依頼だし、体調は万全にしておかないとね!」


「ふふ。はいはい」


 俺のテンションが上がった声音を聞いて、メリアさんは子を見る親のような顔で笑った。

 まあ実際そんな心境だろうな。俺、中身はどうあれ見た目は子供な訳だし。


 よーし! 冒険者になって初めての依頼、頑張るぞー!

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[一言] 「俺のテンションが上がった声音を聞いて、メリアさんは子を見る親のような顔で笑った」 レンは、ほんとにメリアと出会ったのはラッキーだったね。
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