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閑話 わたしを救ってくれたあの方は……③

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 目が覚めたわたしは、寝起きでふわふわした頭のまま、ぼやけた目で天井を見上げます。いつの間にか眠ってしまっていたようです。


 …………ここはどこでしょうか? 知らない天井です。それは分かるのですが、それ以上は何も分かりません。分かるのは、今まで感じた事がないくらい、気持ちがいい事だけです。


 しばらくボヘーッと天井を眺めていたわたしは、ガバッと布団から体を起こしました。

 そうです。思い出しました。集落を出たら人攫いに捕まって、牢屋に閉じ込められて、そこに突然小さな天使様が現れて、ここから出たいか聞かれて、出たいって言ったら最初に現れた天使様より大きな天使様が現れて、その方に抱っこされたと思ったら、いつの間にかすっごい綺麗なお部屋にいて、おっきな天使様が三人に増えて、三人がかりで体を拭かれて、ふかふかの寝台に寝かせられて、そのまま寝ちゃったんでした。


 ………………自分で言ってて、何言ってるか分かりません。普通に考えれば夢か何かだったと思う所ですが、今まさに寝ている寝台のふかふか具合と、綺麗な部屋の内装が、これが夢じゃない事を教えてくれます。


 ――――ぐぅぅぅぅ。


「…………お腹すいたのです」


「失礼します。食事をお持ちしました」


「わひゃぁあ!?」


 盛大に鳴ったお腹をさすりながら独り言を言うと、それに応えるようにおっきな天使様が押し車を押しながら部屋に入って来ました。も、もしかして聞かれていましたか!? お腹の音も聞かれていたのですか!?


「挨拶します。おはようございます。お食事をお持ちしましたが、お食べになられますか?」


 大きな天使様は押し車を寝台の横に止めて、わたしにそう聞いてきました。そんな質問をするってことは、さっきの独り言もお腹の音も聞かれていないのでしょうか? それとも、聞かなかった振りをしてくれているだけなのでしょうか?

 …………だめです。表情から見極めようと、じっと見つめてみましたが、おっきな天使様は表情が全くと言っていいくらい変わらないので、さっぱり分かりません。


「あ、え、と、はい。いただきますです」


 とりあえず、お腹が空いていることは事実なので、食事をいただく事にしました。


「畏まりました。準備しますのでそのままお待ち下さい」


 このまま? わたしは今、寝台の上で上半身だけ起こした状態です。食事はちょっと離れた場所にある、触るのも躊躇われるくらい立派な机でいただくのではないのでしょうか? いや、できれば遠慮したいのですが、選択肢が他にありません。


 そんな事を考えていると、何故かおっきな天使様は机から椅子を持ってきて、わたしの隣に腰かけました。そして押し車の上に載っていたお皿と匙を手に持ち――――


「はい、あーん」


「うええええっ!?」


 匙をわたしの口元に持ってきました!?


 ま、ま、まさか、天使様手ずから食べさせようとしてますか!? そんな畏れ多いっ!


「い、い、い、いや、自分で食べられます! 大丈夫なのです! お、お気になさらず!!」


「拒否します。我々はレン様より、あなた様をしっかり休養させるよう仰せつかっていますので」


 拒否されちゃうのですか!? いくらなんでもやりすぎじゃないですか!? 天使様はわたしに指一本動かさせない気ですか!?


 天使様に向けていた視線を、口元を寄せられた匙に移します。

 匙の上には、なんらかの汁物と、その汁をたっぶり吸ったパンが一口分、そして――――


「わああっ!? あぶっはむっ!」


 匙の下には天使様の手が添えられ、匙から溢れる汁を受け止めていました。

 わたしが早く食べないと、布団に汁が落ちかねない状況です。それに気づいたわたしは、それ以上汁を溢さないように、慌てて匙を口に含みます。

 口に含んだ汁は、具と言える物がほとんど見当たらないにも関わらず、色んなお野菜の味がします。たっぷりの野菜の甘味の中に、お肉の味も感じられます。その味はとても優しくて、色々足りていなかった体に染み込んでいくのを感じます。その汁を一杯に吸い込んだパンはとても柔らかくて、噛まなくても大丈夫なんじゃないかと思うほどです。牢屋で食べていた、水でふやかしても歯ごたえ十分なパンとは大違いです。

 すごいです。こんな美味しい物、初めて食べました。


「ほわぁ…………」


「お気に召していただけたようで何よりです」


 思わず間の抜けた声が出てしまいましたが、天使様はピクリとも表情を変えずに小さく頷きました。

 そして――間髪入れずに次の匙が繰り出されました。


「はい、あーん」

「ええっ!? はむうっ! ムグムグ……」

「あーん」

「んー!? んく! はむっ! ムグ――」

「あーん」

「あわわわ! むぐ! ムグム――」

「あーん」

「むぐぅ!? はむぐぅ!」


 味わう暇もなく、次々に差し出される匙を口に突っ込んでいきます。ちょ、まだ飲み込めてないです。まだ口の中に残ってます。ちょっと待って、もう口に入ら――――むぐう!?


 ……


 …………


 ………………


 そんな感じで、天使様がたに重病人のように扱われ三日ほど経ちました。


 その間わたしは、ひたすら食っちゃ寝食っちゃ寝を続ける事になりました。寝台から降りたのはお手洗いの時くらいです。それもおっきな天使様が変な形の入れ物を持ってきて、『こちらへどうぞ』と言われたのを、全力で拒否した末に勝ち取ったものでした。……勝ち取れて本当に良かったです。


 いつものように寝台に横になっていると、扉がコンコンと叩かれました。

 食事にはまだ早いですし、体を拭くももっと先のはずです。何の用でしょう? と首を傾げつつ体を起こし、入っても大丈夫である事を伝えました。


 扉が開かれ、部屋に入ってきたのは、そろそろ見慣れてきた感のあるおっきな天使様と、真っ赤な髪のすごい美人な女の人、そして――――


「天使じゃないからね? ……さて、調子はどうかな? 不便はない?」


 わたしを牢屋から助け出してくれた、小さな天使様でした。本人は否定してますが天使様です。

 慌てて寝台から降りようとしたのですが、小さな天使様に止められてしまいました。

 小さな天使様は椅子を二つ持ってきて、女の人と一緒に寝台の横に座り、お話をしてくださいました。

 わたしの体の心配。

 わたしを閉じ込めていた人達はみんな捕まった事。

 ……そして、これからどうしたいか。


 家に帰らないのかと聞かれましたが、もう一度あの集落で暮らす勇気はありません。帰っても居場所はないですし。

 その事を言うと、小さな天使様はわたしが集落で何か問題を起こしたから帰れないと思ったようでした。口調こそ変わりませんでしたが、少しだけ目付きが鋭くなりました。

 小さな天使様からそんな目付きで見られるのはとても悲しかったので、呆れられるのを承知で、木に登れない事を話すと、やっぱり呆れられました…………が、なんとなくわたしが考えていた理由と違う気がします。

 そこでわたしは、天使様がたは、わたし達リスの獣人についてよく知らないのではないか、と気づきました。なので、リスの獣人は、高い場所に住めれば住めるほど偉い事、木に登る事ができず、地面で暮らすしかなかったわたしは居場所がなかった事を話すと、納得してもらえたようです。

 その時になんとなく耳と尻尾を触っていたのですが、お二人の視線がちょっと怖くなりました。いえ、怖くなったというか、何かに耐えているかのような……うーん。良く分かりません。


 続いて、何故木に登れないかを聞かれたので、恥ずかしかったですが正直に答えました。すると小さな天使様の視線がわたしの胸、腰と下りていきました。

 …………なんだかその視線が、牢屋にわたしを閉じ込めた人達と似ていた気がしましたが、多分気のせいです。相手は天使様ですからね。


 小さな天使様は一度大きく咳をした後、改めてわたしがこれからどうしたいかを聞かれましたので、天使様に助けていただいた恩を返すために、お側に置いてほしい事をお伝えしました。


 すると、小さな天使様は思いのほかあっさりお側にいることを認めてくださいました。

 そのあと、小さな天使様がわたしを呼ぼうとして口ごもり、そういえば自己紹介をしていない事に気づき、改めてお互いに自己紹介をしました。


 小さな天使様のお名前はレン様、赤い髪の女性はメリアさんというそうです。


 しっかり覚えた事を伝える意味も込めて、挨拶をすると、何故かレン様は困惑していました。何故自分だけ『様』付けなのか気になったそうです。

 そんな事を言われましても、レン様は天使様なので『様』を付けるのは当たり前だと思うのですが、レン様は何故か自分が天使様であることを認めません。何か深い意味があるのでしょうか?


 気を取り直したレン様が、握手の為か手を握ろうとしてきたので、慌てて払い除けました。レン様はとても悲しそうな顔をされましたが、わたしの手に触るとなんでも冷たくなってしまうのですから、たとえレン様であろうとも触らせる訳にはいきません。


 その事をお伝えすると、少し考え込む様子を見せた後、軽い調子で手を握ってきました。今回は払い除ける暇もなく、手を握られる事を許してしまいました。

 握られた手を離そうとするのですが、レン様の手は石になったように動きません。

 すごい力です。さすがは天使様。単純な腕力でも、人とは違います。

 ですがそれでも諦める訳にはいきません。このまま手を繋いでいたら、すぐにレンの体が冷え切ってしまいます。

 …………と思ったのですが、いくら手を繋いでいても、レン様の体が震えだす事はありませんでした。


 しまいには『全く問題ない』と言って、メリアさんにまで手を繋ぐように促しました。

 レン様は天使様なので、もしかしたら耐えられたのかもしれませんが、メリアさんは天使様ではありません。なんとか拒否しなくては…………!


 などと考えてる間にメリアさんにも手を握られてしまいました。

 右手をレン様、左手をメリアさんです。

 なんとか握られた手を解放しようとしますが、メリアさんもすごい力です。全く抵抗できる気がしません。実はメリアさんも天使様なのかもしれません。


 レン様とメリアさんはわたしの手を握りながらよく分からない話をしています。

 あれ? もしかして、わたしが気づかない内に触っても大丈夫になったのでしょうか?

 わたしが混乱していると、メリアさんが何故かサッパリした顔で手を離しました。


 いや、『スッキリした』ってどういう事ですか? 意味がわからないです…………。


 その様子を見て、レン様は体がおかしくなっていないか聞いてきました。正直、『それはこちらの台詞です』と言いたい所ですが、そんな事とても言えませんので、素直になんともないと答えます。

 するとレン様とメリアさんがまた難しい話を始めました。わたしは首を傾げていると、お二人が説明してくれましたが…………何を言ってるかのか全く分かりません。


 分かりませんが、とりあえずお二人はすごいという事ですね!


 あ、メリア様もすごい方だっていうことが分かりましたので、呼び方を変えたらすごい微妙な顔をされたのですが…………今まで『さん』付けで呼んでたのが気に入らなかったのでしょうか?

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[一言] 二人の相性は抜群!
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