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第127話 子供達に食事をさせて自己紹介してもらった。

「それじゃ、みんなもお腹空いてると思うし、食事にしようか! レンちゃんよろしく!」


「はいはい。よいしょ……っと」


 メリアさんに促され、〈拡張保管庫〉からでかい鍋を取り出す。コートのポケットから鍋が出てきた事実に子供達がギョッとしていたが、今は無視。

 鍋の中に入っているのは、いろんな野菜と干し肉をクタクタになるまで煮込んだシチュー。リーアが初めて屋敷に来た時に食べてもらった病人食だ。

 ずっと空腹を抱えていた子供達に、いきなりトンカツとかメンチカツみたいなヘビーな物を食べさせたら体に悪いからね。最初は消化しやすくて、栄養価の高い物が良いだろう。

 リーアの例もあったので、〈拡張保管庫〉の中に入れて置けば腐る事はないからと作り置きしておいていた物が役に立った。

 続いて人数分の器と木匙を取り出し、メリアさんに渡す。盛り付けは任せた。

 メリアさんが器にシチューを盛り、木匙と共に一人一人に配っている間に、俺は追加で焼きたてのパンが山盛りになったバスケットを取り出して、テーブルの中央にドンと置く。


 全員の前にシチューの盛り付けられた器が行き渡った所で、メリアさんが声を上げた。


「全員に行き渡ったね? じゃあ、食べよっか」


 メリアさんの号令がかかったが、何故か子供達は器を見つめたまま微動だにしない。


 あれ? 腹減ってるんじゃないの? と首を傾げていたら、そんな子供達の様子を見ていた狐燐が、わざとらしく声を上げながらシチューを口に運んだ。


「おぉ、この料理は初めて食べるのぅ。どれどれ…………ほう。ほうほう。野菜が溶ける程煮込まれておるのか。野菜と一緒に煮込まれているこれは……ぬ。干し肉か? なるほどのぉ。干し肉の塩気をそのまま料理の味付けに使っておるのか。これなら干し肉から塩気を抜く作業も必要ないし、追加する塩も少なくて済むと……。ふむぅ、良く考えられておるのぉ。ま、それでも普段食べる料理と比べると少し薄味じゃし、いくら肉が入っておるとはいえ、いまいち腹にガツンとは来ないが、これはこれでアリじゃのぅ。深酒した翌日に飲むと一層美味そうじゃ。……ほれどうした、お主らも早う食わんか。温かい物は温かい内に食うのが一番旨いんじゃぞ?」


 普段しない食レポをしつつガツガツとシチューを食べながら、早く食えと子供達に促す狐燐。


 狐燐の食いっぷりを、生唾を飲み込みながらガン見しつつもしばらく手を付けていなかった子供達だが、やがて我慢の限界に達したのか、最初にメリアさんが話しかけた、一番年長っぽい子供が俺とメリアさんに視線を移す。

 その視線にメリアさんが笑いながら頷いて応えると、それを見た子供はソロソロとシチューを口に運び、目を見開いた。そして勢いよく振り返り、他の子供達にコクコクと頷いた。

 その瞬間、残りの子供達が一斉に木匙を持ち、モリモリと食事を始めた。


 …………なるほど。俺達が信用できなかったのか。まあしょうがない事ではある。なんてったって初対面だし。そんな人達にいきなり『家族になる』とか言われて食べ物を振舞われても、何か裏があるんじゃないかと疑うのが普通の反応だ。

 そしてそれを敏感に察知した狐燐は、とりあえず食事だけでも食べさせる為に、一番最初に料理に手を付ける事で、その料理が安全である事を示し、かつ食レポをする事で、それがどういった物なのかを説明し少なくとも目の前の料理は安全である事をアピールしたって所か。

 俺達、というか俺と違って、狐燐は徹頭徹尾子供達の為に動いていた事は子供達にも伝わっていただろうし、狐燐は信用されているんだな。


 で、そこからさらに念を入れて、子供達の内、一番年齢が上の子が、提供者である俺たちにお伺いを立てた上で毒味をし、問題ない事を確認できてから他の子達も食べ始めた、と。


 ………………。


 やべえ。すげえ腹立ってきた。こんな小さな子供達が、ここまで慎重に慎重を重ねないと食べる事すら出来ない環境とか、あっちゃ駄目だろ。『あったかいね。おいしいね』ってポロポロ泣きながら食べるのなんか見せてくんじゃねえよ。まじふざけんなよ。


 あーもーだめだ。決めた。ぜってえこの子達幸せにするわ。もっと美味いもんもっと食わせて、綺麗な服を着せて、うんと可愛がってやる。後の事? 知らん。子供達が増えたら? 増えても問題ないようにすりゃあいいんだろ。どうとでもしてやるよクソが。


 あークソ。あークソッ!


「……おねーちゃん。俺が間違ってたわ」


 泣き笑いの表情でシチューを頬張る子供達をしっかりと視界に収めながら、子供達には聞こえないくらいの小声で、俺はメリアさんに対し自分の非を認めた。


 俺が知ってる貧困は、テレビやネットで仕入れた物だ。知識として知ってはいるが、実際に経験した訳じゃない。だからいまいち実感がなかった。

 だがメリアさんはそんな俺と違い、この子達のような境遇を身近に感じている。ディスプレイ越しに見る、編集され、希釈された物ではない本物を。

 だからこそ、強引な理論で俺を丸め込み、口を挟む間を与えずにこの子達を助ける事を決めた。そういう事なんだろう。


「レンちゃんは間違ってなんかいないよ。レンちゃんはレンちゃんで全力で、家族を守ろうとしていた。それは絶対に、間違いなんかじゃないよ。私は子供を、マリアを産んで育てた経験があるからね。この子達と小さな頃のマリアが重なっちゃって、どうしても放っておけなかっただけだよ」


「…………そっか」


 そんな事を話しながら、狐燐に甲斐甲斐しく世話を焼かれながらシチューとパンを腹に詰め込んでいた子供達を眺めていると、やがて子供達は満腹になったようで、匙を器に置き、幸せそうに笑いながら腹をさすり始めた。器は洗った後のようにピカピカだ。

 そんな中、一番の年長者らしき子供が椅子からそっと立ち上がり、嬉しそうに子供達の様子を眺めていたメリアさんの前に立った。


「…………ありがとう。おいしかった。それで、さっきのはなしなんだけど…………ほんとう?」


 その子は、たどたどしいながらもはっきりとした声でメリアさんに質問を投げかけた。初めて聞いた子供の声は想像より高く、そこで初めて俺はその子供が女の子である事に気づく。

 …………いやだって、みんなガリガリだし、服も体も薄汚れてるし、髪も皆伸び放題だし、性別を判断できるような要素がなかったんだよ!

 だから俺の目が節穴って訳じゃないぞ! 違うからな!


 内心の驚きを顔に出さないように、必死に表情筋の動きを抑え込んでいると、メリアさんが俺に一瞬ジト目を向けた後、目の前の子供に向き直って問いに答えた。その時にはすでに、表情は笑顔に変わっている。


「はい、どういたしまして。もちろん、本当だよ。これから私達と君達は家族。君達を入れて全員で、えっと…………二十五人! 大家族だねえ! 自分の事ながらびっくりした! ちなみに狐燐もレンちゃんもそうだよ。ジャンだけが違うねえ。アレだけは他人。仲間外れだね」


「いや、そうだけど……そうだけどよ……。もうちょっと言い方があるんじゃないか……? 仲間外れって……」


 メリアさんの仲間外れ宣言に肩を落とすジャン。まあしゃーない。事実だし。てか二十五人か……増えたなあ。最初は俺とメリアさんの二人で洞窟暮らしだったのになあ…………。


「にじゅうご……? よくわからないけど、かぞくがたくさんになるのはうれしい。ウチはアイラ。こっちのこがイゾルデで、そっちはウルスラ。あっちのおおきいほうがエドで、ちっちゃいほうがオットー」


「うんうん。アイラちゃんにイゾルデちゃん、ウルスラちゃんにエド君にオットー君ね。みんなよろしく!」


 お、おぉ……。ごく自然に『ちゃん』と『君』を使い分けている……っ! そしてリーダーっぽい立ち位置のアイラちゃんが何も言わないって事は、その呼び方に間違いはないという事だ。

 すげえ……。メリアさんすげえ…………俺、ついさっきまで全員が性別不明だったんだけど……。


 さりげないメリアさんの洞察力に慄いていると、年長者であるアイラちゃんが子供達を紹介してくれた、


 アイラちゃんは一番年上で十一歳くらい。予想通りここにいる子供達のまとめ役だそうだ。

 赤みの強い茶髪と三白眼が印象的で、まとめ役をやってるだけあって責任感が強そう。


 イゾルデちゃんは十歳くらい。なかなかお転婆で、抑えるのが大変だそうだ。

 金髪、というか黄色の髪色が非常に目立つ子だ。大きくてまんまるだが、ちょっとつり目がちな目がなんとも可愛らしい。猫目って言うんだっけ?

 アイラちゃんと同様に、狐燐の手を握っていた子だ。腹が膨らんで眠くなってきたのか、しきりに目を擦っている。というかちょいちょい寝落ちしてる。首がフラフラ揺れ始めたと思ったらガクッと折れて、その体勢の変化にビクッとなって起きる、というのを繰り返している。


 ウルスラちゃんは九歳くらい。とても優しい子で、動物が好きなんだそうだ。

 若葉のような、優しい色合いの緑色の髪を持ち、目がまんまるなのはイゾルデちゃんと一緒だが、こっちはちょっと垂れ目。不安そうな表情で俺達とアイラちゃんの間を交互に見ている。だけど、俺が視線を向けた瞬間に、シュバッと効果音が聞こえそうな勢いで顔ごと目を逸らされる。反応が顕著すぎてちょっと凹む。引っ込み思案なだけだよね? 俺の心の安寧の為にもそうであってほしいんだが……。

 この子は狐燐の服を握りしめていた子だな。


 エド君は六歳くらい。生意気盛りで全然言うことを聞いてくれないとボヤいていた。

 ジャンに肩車されていた子だ。

 濃い目の青色の髪の持ち主で、アイラちゃんの言う通り、なかなか生意気そうな目をしている。そしてなんだかこの子、俺を見る目が強い。めっちゃ睨まれてる。俺、何かしたっけ……?


 オットー君は四歳くらい。大人しい子だが、大人しすぎて何を考えているのか良くわからない所があるらしい。

 かなり色の濃い茶髪で、ギリ黒髪って言っても通用しそう。食事が終わった後はボーっと俺とメリアさんに視線を向けている――が、確実に俺達の事は見ていない。さっきから俺たちのちょっと横やら頭の上やらに視点が動いているのが見ていて分かる。うーん……不思議ちゃん枠か?

 こっちがジャンの腕に抱えられていた子だな。確かにジャンからしたら抱えやすそうなサイズだ。俺には無理だけど。


 この五人はいつも一緒に行動しているそうで、別行動をする事はあまりないそうだ。身の安全を守る為の事だろう。

 そして、全員年齢に『らしい』とついているのは単純な話で、自分自身正確な年齢を知らないらしく、大体これくらい、くらいの感覚で言っているのだそうだ。


 アイラちゃんからの紹介を一通り受け、子供達についての理解がある程度出来た所で、俺はおもむろに椅子から立ち上がり、子供達を見回しながら口を開いた。


 大事な話だから、良く聞いてくれよ?

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― 新着の感想 ―
[一言] レンちゃんの周りとかに精霊的なサムシングが居るんだろうか??
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