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第126話 狐燐が連れてきた子供達について話し合った。軽く蚊帳の外に置かれたまま決まった。

 メリアさんの先導で休憩室に入り、中央にあるテーブルの片側に俺とメリアさん。もう片側には狐燐達一行が並んで腰かけた。とはいっても所詮は家族経営の食堂の休憩室。さすがに椅子が足りなかったので、壊れた時の予備として別の部屋に置いてあった椅子を持ってきた。『こんな事もあろうかと』ではないが、予備を準備していて良かった。


 全員が席に着いたのを確認した所で、メリアさんがおもむろに口を開いた。


「さて。じゃあコリン。一体何がどうなってこうなったの?」


「うむ。まあそんな大仰な事でもないんじゃが――――」


 そんな前置きの後に語られた話はまあ、そう珍しい物でもなかった。


 二人が街中をブラブラしていた所、通りの少し奥まった所の壁際で、この子達が地べたに座っているのが見えたらしい。

 その様子が少し気になった狐燐が子供達が座っている場所まで行くと、彼らの足元に、ボロボロの木の器が置かれているのが目に入ったそうだ。

 それを見て、彼らが物乞いをしている事に気づいた狐燐は、可哀そうに思ったそうで『何か食わせてやる』と彼らの手を引き、〈鉄の幼子亭〉まで連れてきた、との事らしい。


「うん。経緯は分かったよ。分かったけど……せめて前もって連絡してほしかったなあ」


「それは……すまぬ。こ奴らを見て話を聞いたら、なんというか、こう……気が急いてしまっての。とりあえず連れて行こう! と思ってしまったのじゃ」


 溜息と共に愚痴るメリアさんに、狐燐は申し訳なさそうにそう返した。それは口だけではないようで、普段はピンと立った狐耳もちょっとへにょっているし、尻尾のボリュームも少し減っている気がする。


 まあ、狐燐が急いてしまうのも分からなくはない。目の前に座っている子供達はほんとにガリガリで顔色も悪く、今この瞬間にぶっ倒れても不思議ではなさそうな見た目をしているから。


 だとしても、さすがに行き当たりばったりすぎるだろ。【念話】があるんだから、メリアさんの言う通り事前連絡してくれれば、多少は手の打ちようもあっただろうに……。


 …………にしてもこいつ、過去に暴虐の限りを尽くしたせいで、復活した時も神様が直々に討伐を求めてくる程だったよな? 戦闘時に発生するであろう周囲への影響を考慮し、わざわざ別世界を構築して、そこで討伐をさせようとするくらいには。

 どこが? 暴虐どころか、底抜けの善人じゃん。なに? 記憶がないだけでここまで変わるもんなの? 記憶ってそこまで人格に影響を与えるもんなの? それとも神様たちの目が節穴だったの?


 …………後者も割とありえるかもしれない。フレヌスはともかく、レストナードは色々やらかしてるしなあ…………。


「なるほどねえ……。うーん…………」


(どう思うレンちゃん?)


 メリアさんは腕を胸の前で組んで考え込むような姿勢を取り、そのままの状態で【念話】で話しかけてきた。


(…………俺としては、このまま追い出すのが良いと思う。今回一度だけ食わせてやった所で根本的な解決にはならないし、かと言って養ってやる義理もない。俺が優先するのは家族の生活の確保だ。慈善事業をする気はないよ)


(まあそうだよねえ。レンちゃんならそう言うと思ったよ。実際言いかけてたしねえ)


 メリアさんがわざわざこの話題を【念話】でしたのは、俺が返す答えをおおよそ予測しており、それを子供達に聞かせないようにという配慮だろう。

 家族を守る為に悪者になる覚悟はあるが、ならなくて良いならそれに越したことはないので正直助かる。俺だって、好き好んで嫌われたい訳じゃないので。


(んー。でも、コリンの言いたい事も分かるんだよねえ。人の親として、子供が苦しんでるのを見て見ぬふりっていうのはなかなか辛いものが……)


 メリアさんもどちらかというと狐燐寄りのようだ。まあ、そっちの方が人としては正しいだろうからしょうがないと思う。俺も背負う物がないならそっち側に付いていただろうし。


(うーん………………。レンちゃんがこの子達に食事を食べさせるに反対なのは、家族じゃないから、かな?)


(………………まあ、そうなる、かな?)


 理由としては他にも色々あるが、端的に言えばそうなる……のか?


(なるほどなるほど。…………じゃあさ、レンちゃんとしては、〈鉄の幼子亭〉で働いてくれて、屋敷に一緒に暮らしてる人は、家族扱いになる?)


(え? うーん…………。極論ではあるけど、それなら、とりあえずは家族扱いでもいい、のかなあ?)


 メリアさんから投げかけられる質問に、ちょっと嫌な予感を覚えつつも正直に答えていく。

 現状俺が家族として見なしているメンバーは、メリアさん一家の間くらいにしか血の繋がりはないし、共通項を見出すとすれば確かに、『〈鉄の幼子亭〉で働いており、かつ屋敷に一緒に暮らしている』になる、とは思う。思うが…………。

 でも実際、相手を家族として見れるかどうかって、共通項がどうとか、そういう事じゃないと思うんだけど……。


「よし!」


 最後の質問に答えた瞬間、メリアさんが声を上げながら勢いよく立ち上がった。その突然さと勢いに、メリアさん以外の全員がビクゥッ! と身を震わせる。

 自分の行動で皆を驚かせてしまった事に気づいたメリアさんは、謝罪の言葉を述べながら椅子に座りなおした。


「ああ、ごめんごめん。驚かせちゃったね。まず、この場でこの子達に食事をさせる事自体は別に難しい事じゃないよ。料理の在庫は沢山あるし、子供五人程度が食べる分くらい出すのは簡単だよ」


「おお! やはりか! では早速――――」


 色よい返事をもらえそうだと嬉しそうに身を乗り出す狐燐を、メリアさんは手を前に出して制した。首を傾げる狐燐に、メリアさんは真面目な表情で問いを投げかける。


「今食べさせるのはいいよ。でも明日は? 明後日は? それはいつまで? 終わりはあるの?」


「そ、そんなもの、いつまででも食べさせれば良いであろう! 金はあるじゃろう!? 先ほど申しておったではないか! たかだか子供五人程度が食べる分を出すのは簡単だと!」


「さっきのは一食分の話だったんだけど……。まあいいや。でもね、だからといって、家族でもない、言っちゃ悪いけど赤の他人を養う筋合いはないよね。ここはあくまで食堂で、孤児院じゃないんだよ」


「なら…………ならどうすればいいのじゃ! この子らはまだ子供じゃぞ! まだまだ人生はこれからなんじゃ! だが、このまま返してしまったらそう遠くない内に死んでしまう! 妾はそんな物見とうないっ! ご主人はそれでいいのか!?」


 瞳を潤ませながら、血を吐くような勢いで叫ぶ狐燐に対し、メリアさんはワタワタと手を振って、感情が昂ってしまっているらしい狐燐を宥めにかかる。


「待って待って。落ち着いて。まだ話は終わってないから。とりあえず最後まで聞いて。ね?」


「ふう、ふう………………。ふう。分かったのじゃ。続きを頼む」


 興奮の余り荒い息を吐いていた狐燐がなんとか落ち着きを取り戻した事を確認し、メリアさんと共に俺も胸を撫でおろした。

 狐燐は今でこそ狐の獣人のような姿を取ってはいるが、本来の姿は炎で出来た巨大な狐だ。興奮に身を任せて元の姿に戻られたりなんかしたら大惨事だった。

 まあ、今までの様子から見て、子供達に危険が及ぶような事はしないとは思うが。


「うん。さっきも言った通り、赤の他人を養うつもりはない。でもそれって逆に言えば、家族であれば別に食事を振舞ったりしても何もおかしくないって事だよね」


「……まあ、そういう事になるかの」


「で、私たちの中で〈家族〉っていうのは、ザックリ言うと『同じ家に暮らして、一緒に仕事をする』って事なんだ。まあ例外とかは色々あるけどね」


 同じ処で暮らしてるけど、働いてない人もいるし? と笑うメリアさんに、狐燐は気まずげに目を逸らす。そうだね。狐燐は現状ニートだからね。俺としては働いてほしいんだけど、なんか狐燐が接客とかしてるイメージが全く湧かないんだよね。早めに狐燐でも出来そうな仕事を探さないとなあ……。


 狐燐が目を逸らした事で会話が一瞬途切れる。そのタイミングでメリアさんは席を立ち、狐燐の横に座っている子供の前でしゃがみこんだ。その子はメリアさんが近づいた瞬間ビクッと体を震わせ、狐燐の服をギュウっと握りしめる。


「ねえ君。おうちはある?」


 視線の高さを合わせての、かつ優しい声音でのメリアさんの問いに、緊張が少しほぐれたらしい子供は、狐燐の服を握りしめていた手を緩め、悲しげな表情でゆるゆると頭を横に振った。


「そっか。他の子も?」


 続けての問いに対し、子供は今度は首を縦に振った。ここにいる子供達全員が家なき子らしい。……この状況、侯爵様は知ってるんだろうか? ちょっと今度話を持ってってみよう。


「そっか……。ねえ。私達が住んでるおうちに来る? もちろん他の子もね。私達のおうちで一緒に暮らして、私達のお仕事を手伝ってくれたら、毎日食べ物を食べさせてあげるし、働いた分だけお金もあげる。でも、もちろん良い事ばかりじゃないよ? お仕事は大変だし、覚える事もたくさんある。お仕事の間は遊ぶ事もできないね。どうする?」


 変わらずの優しい声音で話しかけるメリアさんに、子供は少しだけ考え込むような姿勢を見せた後、首を巡らせて周りを、正確には他の子供達を見た。

 そして全員の顔を一通り眺めた後、正面にいるメリアさんの目をしっかりと見つめ、首を縦に振った。


「わかった。じゃあ今日から私達は家族だよ。私はメリア。よろしくね。こっちの子はレンちゃんだよ。……ほら、レンちゃん」


「え? あ、うん。……よろしく」


 なんだかとても嬉しそうな笑顔を浮かべるメリアさんに促され、子供達に向かって頭を下げ、それにつられた子供達も頭を下げた。


 半ば予想通りの結末ではあるが、五人の子供達が家族に加わる事になった。


 いや、別にいいけどね? 五人くらいならなんとか養えると思うし、しっかりと教育を施せば、目下の悩みである慢性的な人員不足も、少しは解消できるかもしれない。上手く行けば新しい事業にも手を伸ばせるようになるかもしれないし。構想はあるが、リソース不足で行動に移せていない案がいくつかあるのだ。


 だけど、この子達を家族に加えた所で、『話を聞いた同じ境遇の人達が押し寄せてくるかもしれない』っていう問題の、根本的な解決になってないと思うんだけど、そこんとこ大丈夫なのかな…………?

 まあ、話を進めたのはメリアさんだし、何かしらの対策は考えてるんだろ。そうに違いない。というかそうじゃないと困る。


 …………ちょっと不安だから、後で聞いてみよっと。

狐燐の行動には賛否あると思います。というか私自身が割と否定的です。

まああくまでお話の中での事ですので、あまり目くじらを立てず、緩~く見ていただければと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 孤児の人数が1桁ならまあここで何とかなるけど、2桁を超えてくるとさてどうしようか?孤児院を作るぐらいの話になってくるよね〜。街や領主を巻き込んだ話になっていくのかな?
[一言] 後は領主に丸投げしよう( ˘ω˘ )
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