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第13話 武器を買おうとしたらひん剥かれそうになった。

 なんとか冒険者になる事ができた。俺は見習いだけど。


 ジャン達が街を案内してくれるって事なので、組合(ギルド)から出て彼らの後ろを付いて行った。


 最初に案内されたのは宿屋だった。『まずは寝るとこを確保しないとな。』だそうだ。

 宿の名前は〈土竜亭〉というらしい。ジャン達が部屋を取っている宿だそうだ。

 部屋は問題なく空いていたので一部屋取った。二部屋取るほどお金に余裕はないし、必要もない。ベッドは一つあれば俺とメリアさん二人寝るには十分だからな。


 で、次に来たのは。


「……武器屋?」


「ああ。冒険者には武具は必須だ。見たところお嬢ちゃん達はそういったもんを持ってねえだろ? 先に必需品を買った方がいいと思った訳さ。ここは武器だけじゃなく、防具も売ってるからそっちも買えるぜ」


 武器かあ。組合(ギルド)に行った時もみんな剣とか杖とか持ってるのは見たけど、自分が持つとか考えてなかったなあ。

 必要ないってことじゃなく、自分がそういう物を持たなきゃいけない、という事に頭が回らなかった。

 しょうがないじゃん。この世界に来るまで、武器なんて全く縁がなかったんだからさ。剣とか鎧なんてゲームの世界でしか見た事ねえよ。


「言われてみれば……」


「だろ? で、ここだ。この店は俺達が贔屓にしててな。店主が鍛冶師なんだが、別の職人から仕入れているらしくて、剣や金属鎧だけじゃなく、革鎧やローブ、杖なんかも売ってる。品質も悪くないし、おすすめだぜ?」


 そんな事を教えてもらいながら店に入った。

 店内を見回すと、なるほど、確かに色んな種類の武器、防具が所狭しと並べてある。ぶっちゃけ武具の善し悪しなんてさっぱりだが、ジャンが言うくらいだし、良い物が揃っているんだろう。

 まあ、買うにしても俺には致命的な問題がある訳だけど。


「……何を買えばいいんだ?」


 生まれてこのかた、剣を持った事もなければ鎧を着た事もない。何を買えばいいのかさっぱりだ。


「そうだなあ……。二人共どっしり構えて受けるタイプじゃないだろうし、動きやすさを重視して、鎧は革鎧とか胸当て辺りがいいんじゃないか?武器は使い慣れた物があれば一番なんだが……」


「俺は武器なんて生まれてこの方持ったことないぞ」


 刃物なんて包丁とカッターナイフくらいしか持った事ねえよ。


「私は、ナイフかなあ。狩りの時に使ってたし」


「狩りにナイフ? 弓じゃなくて?」


 メリアさんの言葉にいち早く反応したのはレミイさんだった。だが、他のメンバーもみんな同じ心境のようだ。かく言う俺も同じ気持ちだ。

 野生動物は勘が鋭い。狩りをするなら遠距離から攻撃できた方が圧倒的に楽だろう。なぜそこであえてのナイフ?


「あー、ほら、体質のせいでさ、弓は持った途端に燃えちゃうから使えないんだ。で、素手よりはましだろうって事でナイフにした訳だけど……。最初は大変だったよー。近づく前に逃げられて全然獲れないの。がんばって練習して気配を消せるようになったからなんとかなったけどさ」


「あー…………」


 出来るようになるまでは木の実と野草くらいしか食べられなかったなあ……。と遠い目をするメリアさん。

 俺と会う前にそんな過酷な生活をしていた時期があったのか。若い女性一人、森で暮らす事自体がすでに過酷だけど。

 っていうかメリアさん気配消すとかできんの? 初耳なんだけど。


「まあ、村に住んでた頃は護身術として格闘技を習ってたからそっちも出来るけど、ナイフの方がいいよね」


「さすがに魔物相手に素手はなあ……」


 ここにきてどんどん明かされるメリアさんの技能の数々。

 あんな場所で生き抜く事ができていたって時点である程度予想はできそうなもんだが、俺の前ではそういったそぶりを出さなかったから全然知らなかった。メリアさんって結構武闘派だったのね。


「じゃあ、メリアさんは革鎧か胸当てに、ナイフだな。お嬢ちゃんはどうする?」


「動きにくいのは嫌だから、防具は胸当てかな。武器はー…………」


 武器が並べられているコーナーで、自分が持っている姿をイメージする。

 剣。…………重くて持ちあがらない姿が目に浮かぶ。だめだ。

 ナイフ。…………しっくり来る気がするけど、腕が短いからすげーリーチが短そう。

 槍。…………剣と比べると軽いし、リーチも長い。うん。悪くないな。


「……槍かなあ」


「槍か……お嬢ちゃんは小さいし、長物を使おうとするのは悪くないと思うぜ。だけどよ……持てるのか?」


「まあ、軽めのじゃないと厳しいかもしれないけど、剣よりはましじゃない?」


 剣よりは軽いと思ったんだが、違うのかな?


「あー、いや、重さの事じゃなくてな……まあいい。これ持ってみな」


 ジャンに手渡されたのは一メートルくらいの長さの槍だ。柄の部分は木製のようで全体の重量はやはり軽めだ。俺にとっては十分重いけど。

 とりあえず手に持って構えてみる。ゲームキャラの見よう見まねで。


「……うん。重心とかいろいろおかしいが、様にはなってるな。……で、戦闘時以外はどうする?」


「どうするってそりゃ、こうやって、手に持った状態で肩に乗せて、とっと…………おわ!?」


 肩に乗せたまではいいが、俺の身長が低いせいで頭上のかなりの高さに矛先があり、バランスが非常に取りずらい。

 そのままバランスを崩して槍を落としそうになったのをジャンが受け止めた。


「まあ、こうなるよな」


「すまん…………」


 なんとか俺でも持てるサイズの物がないかあちこちに目を向けていると、気になる物を見つけた。


「なあジャン。ここ、武器屋だよね?」


「そうだが?」


「…………これ、武器なの?」


 俺が指差したのはハンマー。ハンマー……だと思う。


 断定できないのには理由がある。

 それは他の武器と比べるととてもワイルドな……いや、雑な作りだったからだ。

 真っ白なでかい金属の塊に無理やり持ち手を付けただけ。頭の部分の金属の塊は鉱山から掘り出したままのようなゴツゴツした形をしている。

 これ……武器として売っていいレベルじゃないだろ。


「なんだこれ…………ほんとになんだこれ?ちょっと聞いてみよう。おーい!」


 ジャンも見たことがなかったらしい。俺の指差したハンマーもどきを見て首を捻った後、店の奥に声を掛けた。店員さんを呼んだようだ。


「はいはい。いかがしまし……あら。ジャンじゃない」


 現れたのは女性の店員さんだった。

 垂れ目の優しそうな美人なご婦人……武具屋に合わない事甚だしい。

 ドレスとか着てパーティ会場に居そうな雰囲気、といえば分かるかな?

 なんかキラキラしてる気がするんだよ。


「おう。武器が相変わらず似合わねえな」


 片手を上げて挨拶するジャン。顔見知りのようだ。

 軽口が言える間柄のようで、俺が思ってた事をバッサリと言ってのけた。


「開口一番言ってくれるじゃないの。気にしてるんだから言わないでちょうだい」


 口調は普通なんだな。違和感がすごい。

『~ですわ。』とか言ってた方が絶対似合う。セーヌさんみたいな感じな。


「ははっ! そりゃすまなかったな! で、これについて聞きたいんだが、親父さんいるかい?」


 ジャンがハンマーもどきを指差すとご婦人は合点がいったという顔をした。


「あー、はいはい。それね。分かったわ。今呼んでくるからちょっと待ってて」


 そう言うと、ご婦人は店の奥に引っ込んだ。親父さんとやらは奥にいるらしい。


「ねえ。あの人、どっかの貴族とかなの?」


 メリアさんが恐る恐るといった様子でジャンに質問していた。

 やっぱそう思うよね?聞きたくなる気持ちは良く分かるよ、メリアさん。


「ん? ああ、今の人か? 一応違うらしいぜ。普通の庶民だとさ…………見えねえよなあ?」


「「全く見えない」」


 俺とメリアさんの声がハモり、それをジャン達が笑っていると、奥からずんぐりした男性がやってきた。

 身長は低く、毛むくじゃら。腕は太く、とても腕力がありそうだ。

 ゲームや小説で出てくるドワーフそのものな見た目をしている。


「おお! 久しぶりじゃねえか! 槌に興味を持ったって? 剣から鞍替えかよ?」


「違えよ。このお嬢ちゃんが冒険者になったんで武具を見に来たんだが、そいつが気になったみたいでな」


 ジャンが俺の頭に手を置いた。

 ……なんかジャンって、よく俺の頭に手を載せるよな。丁度いい高さなんだろうか。


「ああ? こんなちっこいガキンチョが冒険者だあ?馬鹿も休み休み言えよ! 冒険者登録には年齢制限があんだろう、どう見たって引っかかるだろうが!」


 まあ、年齢制限の事を知ってたらそういう反応になるよな。

 見習い制度の事は知らないようだ。よっぽど長い期間使われてなかった制度なんだろうな。


「それが組合(ギルド)長のお墨付きでな。見習いではあるが、ちゃんとした冒険者だぜ?」


 見習い冒険者制度について親父さんに説明するジャン。受付嬢さんから説明を受けている間、ジャン達は近くにはいなかったはずだが、組合(ギルド)長からでも聞いたんだろうか。

 ジャンの説明が終わると、親父さんは目を丸くして俺を見てきた。


「ほう! あいつのお墨付きか! こんなちっこいのにすげえんだなあ! ……で、嬢ちゃん。どうしてこいつが気になったんだ?」


「うん。他の鎧とか剣とかはすっごいきれーなのに、これだけきれーじゃないから気になったの」


 とりあえず幼女モードで行く。初見の人には幼女モード。買い物の時とかも値引きとかしてくれるかもしれないしね!


「ああ、この頭の部分か。これな。加工できねえんだよ」


 言いながら、親父さんはハンマーもどきを軽々と手に持った。

 あんな重そうな物を軽々扱うなんて、見た目通り力持ちだな。


「この鉱石は〈ゴード鉱〉って鉱物なんだが、別名〈不変鉱〉っつってな? どんなに熱しても溶けやがらねえ。硬さはそこまででもないんだが、鉱物の癖にやたら弾力があってな。割る事もできねえ。しかも魔力を一切通さないと来たもんだ。俺ならできる! と思って仕入れたはいいが、むかつく事に全く手が出なくてよ。しょうがねえから、持ち手だけ付けて槌っぽくしたんだが、欠点があってなあ。……嬢ちゃん、ほれ」


 親父さんから木の棒でも渡すかのような気軽さでハンマーもどきを渡された。

 おま、こんな重そうな物持たせようとすんなよ!


「ちょ!? ……うわ!軽!」


 反射的に受け取ったが、手に持った瞬間驚いた。

 片手で持ちあげられるくらい軽い。ぶっちゃけ持ち手の方が重いくらいだ。

 見た目との差異がありすぎて、なんか気持ち悪い。


「そう、槌に使うには軽すぎんだよ。槌ってのは武器の重量と使用者の腕力で敵を叩き潰すもんだ。軽い槌なんて使い道がねえんだよ」


「なんでそんな使い道がねえもんを売り場に置いてるんだよ」


「自分に喝を入れる為さ。いつか必ず〈ゴード鉱〉で武器を作ってみせる。その気持ちを忘れねえように、いつも目に入るように店のあちこちに置いてあるんだ。もちろん、買おうとする奴には必ず説明してるぜ」


 あーだこーだとジャンと親父さんが話している間に、こっそりと金属塊、〈ゴード鉱〉に手を置いた。

 精錬もされてないだろうに、綺麗な白色をしている。触った感じも、金属なのにほんのりと暖かい。


(【金属操作】。……お、いける!)


【金属操作】が適用されるか確認してみた。傍目には分からない程度に形を変えてみたが、問題ないみたいだな。


 いくら高熱に晒しても溶けることなく、通常の手段じゃ加工が不可能でも、【金属操作】ならそんな事関係ない。

 この槌、というか金属塊は買いだな。できればもっと欲しいけど、もうちょっと懐が暖かくなってからにしよう。

 これだけあれば最低限の装備は作れるだろ。


「おじちゃん。レン、これ買うー」


「嬢ちゃん、俺の話聞いてた…………難しくて分からなかったのか。そいつはな、作った俺が言うのもなんだが、失敗作だ。もっといい武器はそこら中にあるぜ?」


 親父さんがジャンに『なんとかしろよ。』という視線を向けた。子供のわがままに見えたんだろう。

 ジャンがしゃがみこんで、俺と高さを合わせて来た。

 親父さんに聞こえないように小声だ。


「おい、そんなんでいいのか? 聞いた限りすげー使いにくそうだぞ?」


「大丈夫だよ。俺ならこれを使いこなせるさ」


 ジャンに合わせて俺も小声で答えた。

 使いこなすのはあくまで〈ゴード鉱〉であって、槌そのものじゃないけどな。


「…………ま、お嬢ちゃんがそう言うなら大丈夫なんだろうな」


 諦めたような顔でそう言うと、ジャンは立ち上がった。


「どうしてもこれがいいってさ。まあ、実際に依頼を受ける前に適当な所で使わせてみて、だめそうだったら改めて別の武器を買うさ。…………ってことで安くしろ」


「流れるように値切ってくんなよ……。そういう事なら売ってやってもいいが、文句言うなよ?」


「ああ、良く言っておくよ」


 文句なんて言うはずがない。こんな良い金属の存在を教えてもらったんだ。お礼を言いたいくらいだよ。


「頼むぜほんとに……。そんじゃ、他に買う物があったらまとめて奥に持ってきてくれ。俺は戻る」


「あいよ。あんがとな」


 ジャンのお礼に親父さんは店の奥に向かいながら手を上げて応えた。


「それじゃ、他の物も買いますか」


「おう」


 それから店の中を周り、あーだこーだ言いながら買う物を決めた。

 革製の胸当て二つにナイフ一本、それと〈ゴード鉱〉の槌だ。

 胸当てはサイズを見繕うのに苦労した。

 メリアさんは体格は普通だが、なかなかの物をお持ちだし、俺に至っては子供だ。

 それでもなんとか合うサイズを見つけ出す事が出来た。俺の胸当てはドワーフ用って書いてあったけどな。合えばいいんだよ合えば。

 決めた武具を持って店の奥に向かうとカウンターらしきものがあり、そこにさっきのご婦人が座っていた。

 武骨な店のカウンターがお茶会のテーブルに見えてくるな。


「あら? 買う物は決まったの?」


「ああ、これを頼む」


 ジャンがカウンターに武具を置いていった。


「はいはい…………ちょっとジャン。ドワーフ用の胸当てなんて買うの? あんたのパーティにドワーフなんていないでしょうに」


「いや、それはこのお嬢ちゃんが使うんだよ。こんなナリでも冒険者なんだよ」


「…………あら! 可愛いお嬢ちゃんねえ! いつ来たの?」


「いや最初からいたよ……」


 ご婦人は今の今まで俺の存在に気付かなかったらしい。

 まあ武具屋に子供なんて来ないだろうしな。気づかなかったってしょうがないさ。うん、しょうがない。

 ……悲しくなんてないやい。


「へえー、こんなかわいらしいお嬢ちゃんがねえ…………っ!?」


 愛玩動物を愛でるような視線を俺に向けていたご婦人がいきなり目を見開いた。


「ね、ねえお嬢ちゃん、お名前は?」


 ご婦人が俺に声を掛けてきた。なんか顔赤いな。

 とりあえず幼女モードで返事しておく。


「んー? レン!」


「レンちゃんかー、可愛らしい、いい名前ねー。……ねえレンちゃん。ちょっと服を脱いでもらえないかしら?」


「…………は?」


 ……この世界の女性はこんなんばっかりなのかよ。

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