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第112話 色々話を聞いた。そう美味い話はないのだと改めて知った。

「記憶が、ない?」


「うむ。つい先ほどまで、妾はあの女子の中で眠っていた……のだと思う。夢も見ておらんから、なんとも言えんがの。すると突然、なんとも美味そうな匂いがし始めるではないか。今までそんな事なぞなかったから驚いたわ。その匂いで妾の意識がハッキリと目覚め、それと同時に『この美味そうな匂いの食べ物を食べたい』と思った訳じゃ。後はお主も知っての通りじゃよ」


「お、おう……そうか」


 恐ろしきはビーフシチュー。眠れる獅子ならぬ、眠れる狐を起こす程のパワーがあったとは……。


「どれどれぇ…………………………なるほどぉ。魂に欠損がありますぅ。恐らくこれが原因でしょうねぇ。大方未熟な腕で禁術を使用した為に、完全な魂の分離ができなかったんでしょぉ」


 レストナードが片目を瞑り、開いている方の目の前に、親指と人差し指で作った輪を持ってきて狐女を眺め、そんな事を言った。あんなんで見えるの? 神ってすげえ。


「魂が欠損すると、そんな事が起こるのか」


「そりゃあ、魂はあらゆる生命の根幹ですからねぇ。魂に傷や欠損があれば、様々な影響がありますよぉ」


「そんなもんなのか……こいつの魂の欠損は治るのか?」


 魂に欠けがあるってあんないい事じゃないよな、多分。

 治せるなら治した方が…………いや待て。こいつって確か、生前はかなりの悪者だったって話だよな。

 今は只の腹ペコ狐女だけど、記憶が戻ったら悪い奴に戻るんじゃ?

 ………………治ったらやばくね? これ、またやらかし案件ですか?


「んー…………。治ると言えば治りますし、治らないと言えば治らないですねぇ。輪廻の輪に戻ってもらえれば、ササっと治せますよぉ。全く別の存在になりますけどぉ」


「それは治ったとは言わんだろ……」


 呆れたような調子でそう言いつつ、心の中ではガッツポーズ。

 良かった! 悪者の狐女にはならないんだ! こいつには悪いけど助かった……!


「うーん…………。それにしても困りましたねぇ。本当であれば、輪廻の輪から外れた魂は何か起こる前に滅してしまうのが通例なのですがぁ…………まだあそこの娘と繋がってますねぇ」


「え、そうなの?」


 そう言われて、レストナードが見ている辺りに視線を移してみる…………が、何も見えない。

 神にしか見えない何かが繋がってるんだろうか。


「はいぃ。しかもこれ、無理に切るとあの娘の魂にも影響がある繋がり方ですよぉ。…………ま、いっかぁ。なんとかなるでしょぉ。切っちゃいますよぉ」


「やめろぉ!」


 ふっざけんな! なんで影響があるって分かってるのに切ろうとするんだよ!

 これだから! これだから神って奴は!


「いや、あなた、もうちょっと相手の事を考えなさいよ……。この子とあの娘、いっつも一緒だったの見てたじゃないの。それなのにサックリ切ろうとするなんて…………」


 てっきり、神全体がレストナードのように、神以外の存在への配慮がないのかと思いきや、フレヌスはレストナードの言葉にドン引きしていた。神全体ではなく、レストナードが酷いだけのようだ。


「でもぉ、この繋がりを介して、あの娘から〈炎魔〉(えんま)に魔力が流れて行ってますよぉ? 確かあの娘、【魔法適性(火)】があるにも関わらず、魔法が使えないんですよねぇ? それ、これの所為だと思いますよぉ? 魔力が作られる側から吸い取られていっちゃって、常時空っぽになってるみたいですしぃ」


「なぬ!?」


 そういえば昔、メリアさんは【魔法適正(火)】の【能力】(スキル)を持ってるって聞いた事があったな。でも何故か上手く魔法が使えない、とも。

 理由については不明だったのだが、今のレストナードの言葉が真実なら説明が付く。そりゃ魔力が空っぽだったら魔法は使えないわ。


「おい。おねーちゃんから魔力を吸い取るのをやめろ」


「ふむ。ちょっと待て…………これかのぉ?」


 さっそく狐女にメリアさんから魔力を吸収するのをやめるように言うと、狐女が頷いて目を瞑った。見た目の変化はないが、魔力の吸収を止めようとしているようだ。


「……………これでどうじゃ?」


「あ、流れる量が減ったわね。さっきまでの…………半分くらいかしら」


 フレヌスが狐女とメリアさんの間の空間の一点を見つめながらそう言うが、相変わらず俺には何も見えない。まあフレヌスが言うならそうなんだろう。レストナードと違って、フレヌスはなんだか信用できる気がする。何を司る神か知らないけど。


「これで半分か。ふんぬぬぬ………………これならどうじゃ?」


「さらに半分ってところね」


「これでもか………………ふぅ。すまぬが、全く吸わないようにするのは無理なようじゃ。吸ってしまう量を絞る事は出来るが、無理せずに出来るのは通常の半分くらいが限界だのぉ。これ以上は制御に意識を割きすぎて動けなくなってしまいそうじゃ」


 眉を顰めながら吸収量を止める努力をしていた狐女は、やがて息を吐きながら閉じていた目を開いてそう言った。

 俺が見ていた限り、狐女が手を抜いてる様子はなかったし、言ってる事は事実なんだろう。

 もしかしたらこれで完全解決かも、と思っていたので残念だ。


「そうか……。それならしょうがないな。じゃあこれからは、無理のない範囲で出来る限り吸収量を絞ってくれ。…………これでおねーちゃんは、異常発熱もしなくなったし、今まで使えなかった魔法も使えるようになるんだよな?」


 発熱は狐女が寄生していた所為だし、魔法が使えなかったのは狐女が魔力を根こそぎ吸収していた所為だ。

 繋がりこそあるそうだが、狐女はメリアさんから離れたから発熱はなくなったはずだし、魔力も吸収量を絞ったから、常時魔力枯渇状態からは脱せるはず。

 メリアさんが抱えていた問題は、かなり軽減されたはずだ。


「あー……。本来であればそうなるはずなんですがぁ…………」


 俺の質問に、なんとも歯切れの悪い口調のレストナード。


「なんだよ。そうならない理由があるのか?」


「…………ああ、なるほど。そういう事ね。これはまた厄介な……」


 今度は、レストナードの言葉を聞いてメリアさんの方を見ていたフレヌスがそんな事を言い始める。


「フレヌスまでそんな事言うのかよ。一体なんなんだよ」


「あの娘なんだけど、【能力】(スキル)にもあるように、火属性の魔法に適性があるのね。これはつまり、魔力の質が火属性に寄っている、という事なの。これだけだったら別に珍しい事でもなんでもないんだけど、〈炎魔〉(えんま)に長期間寄生されていた所為で、それがさらに顕著になったみたいなのよ」


「はあ」


「あの娘の魔力は、魔法として方向性を与えるまでもなく、火そのものの性質を持っているのに等しいわ」


「へぇ」


 …………つまり、どういう事だってばよ?


「つまり、あの娘が魔力を保持するという事は、体内で炎が燃え盛ってるのと同じ状態なのよ。自分自身から生み出されたものだから、それで体がどうにかなる事はないけれど、炎のように熱は発生するし、下手すると体から炎が噴き出す事になるわね」


「…………」


 悪化してるじゃねえかっ!


 それだったら狐女に吸われる魔力を元に戻した方がいいんじゃないか? それなら魔法は使えなくなるが、狐女が中にいないから、異常発熱体質だけは解決――――


「そして厄介な事に、〈炎魔〉(えんま)との繋がり自体は残ってるから、熱の発生も止まらないみたいなのよ。まあさすがに、寄生されていた時と比べれば生み出される熱は減ると思うけど」


 しないんですね。そっすか…………。


 じゃあなにか? 狐女に吸収する魔力量を絞ってもらっても、魔法を使えるようになる代わりに、いきなり体から火が噴き出す体質に変わるだけって事?


 ………………ふむ。


「意味ねえええええええええ!!!!」


「うわ! びっくりした!」


 俺の突然の叫びに、一番近くにいたフレヌスが驚きの声を上げるが、今の俺はそんな事知ったこっちゃない。


 いやこれどーすんの? どーすればいいの!?


 吸収される魔力を絞ると、今まで出来なかった事が出来るようになる。その代わり新たな問題が発生する。

 絞らないと今までと変わらない。

 なんだこの選択肢! どっちも微妙! 内容的には絞らない方が良さそうだけど、どっちみち微妙!


「うおおおおおぉぉぉ………………」


「いや、なんであなたが悩むのよ。本人に選ばせればいいだけの話でしょう」


 フレヌスの呆れたような声は、さながら天啓のように俺の全身を貫いた。いや、正しく天啓か。神様の言葉だしな。

 そうだよ! これは俺が勝手に決めていい話じゃない! メリアさんに決めてもらわないと!


「おねーちゃん! おねーちゃん、起きて!」


 そうと決まれば話は早いと、俺はメリアさんの元へダッシュし、肩を掴んで大きく揺さぶった。


「ぅ…………。ん? あれ? レンちゃん?」


「おねーちゃん! 大事な話があるんだ!」


「ど、どうしたのいきなり? そんなに慌てて…………大事な話……? あれ? 私、なんで寝てたんだっけ…………。えっと、侯爵様から依頼を受けて、レンちゃんがその為の新しい料理を作って…………。今日それが完成したから試食、を……………………っ!? 駄目っ!」


「ぐべぇ!?」


 こめかみを指でトントンと叩きながら記憶を遡っていたらしいメリアさんは、そこまで言った所でいきなり俺を突き飛ばした。結構力を込められており、俺は数メートル空を飛び、背中から地面に着地。そのままボールのように、追加で数メートル転がるはめになった。

 視界がぐるんぐるん回り、上下の感覚がわからなくなってきた所で、後頭部に強い衝撃。その強さに目の中に火花が散る。何かにぶつかったらしく、後頭部の激痛を代償に転がる体が停止する。


「ぐおぉぉぉぉぉ………………」


 後頭部を押さえて痛みに悶えていると、メリアさんの切羽詰まった声が頭上から降ってきた。


「私に近づいちゃ駄目! なんか体の内側から出てきそうなの! 嫌な予感がするから私から離れ、て…………」


 最初こそ、とても焦った様子で、早口で叫んでいたメリアさんだが、その言葉は段々と弱くなり、最後まで言い切る前に途切れた。


「…………あれ? なんともない。どういう事? …………夢?」


「そ、それも含めて、説明するつもりだったんだ……ぬおぉぉぉ…………」


「ああ! ごめんレンちゃん、大丈夫!? …………あれ!? なんで私裸なの!? しかもなんか空も地面も白い! お屋敷も見当たらない! というか何もない!? え、ここどこ!? 何がどうなってるの!? やっぱりこれ夢なの!?」


 俺が頭痛から回復し、混乱の極みにいるメリアさんに事情を説明し、理解してもらうのに三十分程かかった。

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[一言] メリアさんが戦うときに炎魔の力を借りて炎の狐耳と尻尾を生やして火魔法で戦ったりしないかな
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