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第107話 オーキさん達とイースの街に来た。

「すまなかった」

「ごめんなさい」


「あ、いや……。怖がるのは当然だと思うんで、頭を上げてください……」


 メリアさんの語りを受けて、しゅんとしながら頭を下げる二人に、そう声を掛けた。


 いや、擁護してくれるのは嬉しかったけどさ、三人がかりは可哀想じゃない? いや三人とも『やってやったぜ』みたいな顔で腕組んでウンウン頷いてるんじゃない!

 実際問題、そんな【能力】(スキル)持ちが近くにいたら、怖がるのが普通だと思うよ? 君たちの境遇が特殊なだけだよ?


「いやしかし、君の【能力】(スキル)のおかげで、メリアが人並の生活を送れるようになったのは事実だ。そのおかげで、またこうして三人揃って暮らす事が出来る。感謝こそすれ、怖がるのは筋違いだった……」


「そうだね。その【女神レストナードの加護】、だっけ? その【能力】(スキル)も、死にそうになっている身内を助ける事にしか使ってないらしいし。それに、万一悪い事に使おうとしたら、おかあさんが止めるでしょ。主に拳で」


 そうだね。確かにメリアさんにぶん殴られたら止まるね。生命活動的な意味で。メリアさんに本気で殴りかかられたら、俺が結界を張り直す速度より、結界をぶち抜く速度の方が速そうだし。

 …………やばい、想像したら寒気が。超怖い。俺、絶対、悪い事しない。


「えーっと、とりあえず、俺の【能力】(スキル)についての説明はこんなもんです。他に何もないようなら、これからの生活拠点になるイースの街に行こうと思うんですが…………まだ行ってないよね?」


 オーキさん達に話しかけていたのだが、最後の方でちょっと心配になって、メリアさんに確認を摂った。

 ほら俺、三日寝てたし、その間にもしかしたらイースに行ってたかもしれないじゃん? ただ待ってるのって暇だし。


「寝込んでるレンちゃんを置いて行く訳ないでしょ。ずっと屋敷にいたよ。ちょっと外に出て、軽く体を動かしたりはしたけど」


「軽く……? あれで軽くなの? アタシ、結構全力だったんだけど……」


「マリアは弱すぎ。腕力はともかく、速さは完全にレンちゃんに負けてるよ? レンちゃん六歳だよ? もっと鍛えないと」


「うぐ。村に向かう道中でなんとなく分かってたけど、いざ言われると結構傷つく……。これでもアタシ、レベル五冒険者なのに…………いや、おかあさんとレンちゃんは例外。二人がおかしいだけ。あれでレベル一と零なんて、詐欺もいいとこなんだから…………」


 …………うん。とりあえず、イースに行ってない事は分かった。ついでに、マリアさんがメリアさんにボコボコにされたであろう事も分かった。


 後、マリアさん。小声でブツブツやってるの、聞こえてるからね? メリアさんはともかく、俺、スピードと防御能力以外は雑魚だからね? そこんとこ間違えないでね? ほんとにおかしいのは、ぶん殴っただけで全身鎧を着た大男を吹っ飛ばす、あなたのお母さんだけだからね?


「あー、ゴホン。俺が寝てる間にイースに行ってない事は分かりました。待たせる事になっちゃって申し訳ない。それじゃあ、行きましょうか」


 そう言って、俺は椅子から立ち上がり、メリアさんの手を取った。そのままメリアさんを引っ張り、オーキさん達の元へ向かう。


「レンちゃん。もしかして、【いつでも傍に】で行こうとしてる?」


「え? もちろん。歩くの面倒だし。この方が早いしね」


 コテン、と首を傾げてそう答えた俺に、メリアさんは首を横に振った。


「駄目だよ。【いつでも傍に】で行くとなると、〈鉄の幼子亭〉の中って事になるでしょ? 一人二人くらいなら、ちょっと誰かに外に出てもらって、人目につかない所に移動してもらえばなんとかなるかもしれないけど、四人だよ? そんな人数が都合よく隠れられる物陰なんてそうそうないよ」


「あー、そっか。探せばあるのかもしれないけど、忙しいだろうし、そんな事に人員を割く余裕はないかー」


 〈鉄の幼子亭〉は人気店だから、毎日目も回るような忙しさなのだ。そんな中、『ちょっと四人くらい隠れられる場所探してくれない?』って言うのは空気読まなさすぎだろう。少なくとも俺がその立場だったらキレる。


「…………いや、それ以前に、門を通らないで街に入るのは不法侵入なんじゃないか?」


「「………………ソウデスネ」」


 オーキさんの正論という名の刃に、俺とメリアさんは揃って目を泳がせた。

 言えない。ちょいちょいやってるなんて言えない……!

 だって、屋敷からイースの街って、微妙に離れてるんだもん! 歩けない距離じゃないけど、めんどくさいんだもん!


 ……ああ! オーキさんが疑惑の眼差しで俺達を見てる! まずい! これはまずいですよ!

 こうなったら……!


「よーし! さっさと行きましょうか! 街を案内しますよ! もちろん〈鉄の幼子亭〉もね! もしかしたら侯爵様と会えるかもしれないですね! あの人結構な頻度で店に来てるので!」


「そ、そうだね! もしいたら紹介するよ! 貴族様に顔を覚えられるなんて、すごい事だよ! 村にいた頃じゃ考えられないよねえ!」


 全力で話を逸らす方向に舵を切った俺に、メリアさんもがっちり乗っかった。ナイス!

 ここはなんとかこのまま有耶無耶に……!


「…………はあ。それじゃあ、行くか。メリア、案内頼むぞ」


「まっかせて!」


 セーフ! セーフです! 回避に成功しました! オーキさんの溜息がちょっと気になるけど、これは気にしちゃいけない類の奴だ! なんかビンビン来る! ここはこのまま突っ走るのが正解だ!


 ……


 …………


「ここがイースの街か…………結構栄えてるんだな」


 門をくぐり、イースの街並みを見たオーキさんの第一声がそれだった。

 俺の想像だと、『これがイースの街か! 村と違ってでかいなあ!』とかそんな感じで、もっと驚くと思ってたんだが、結構淡泊な反応だ。なんか拍子抜けだな。


「……ああ。若い頃あちこち旅をしていたからな。このくらいの大きさの街にも何回か足を運んだ事があるんだよ」


 俺の顔を見て、オーキさんは苦笑いを浮かべながらそう言った。表情に出ていたらしい。


「さてと。とりあえず、最初に冒険者組合(ギルド)かな? なくても大して問題はないけど、あった方がいいでしょ? 身分証」


「そうだな。作っておいて損はないな」


 という事らしいので、冒険者組合(ギルド)に向かう事になった。


 ……


「すっげえ久々に来た気がする」


 久しぶりすぎて、組合(ギルド)の建物に入るのにちょっと緊張しちゃったよ。

 最後に来たのいつだ? 最低でも二月前……いやもっとだな。〈鉄の幼子亭〉が忙しすぎて、冒険者としての活動をする時間的余裕が全くないからなあ。


「ん-と……あ、いた」


 受付を端から順番に見ていくと、中央より少し左寄りの席に見知った顔がいたのでそちらに向かう。運よく並んでいる人が捌けたタイミングだったので、すぐに話しかける事が出来た。


「クリスさん、こにちわー」


「あら? レンさんじゃないですか。ここではお久しぶりですね」


「あはは。いつもご利用いただき、ありがとうございます」


「いえいえ。こちらこそ、いつも美味しい食事をありがとうございます」


「……あははは」

「……うふふふ」


 そんな掛け合いをしながら頭を下げ、少し間を開けてから視線だけを前に向けると、同じ動作をしていたクリスさんと目が合い、なんだかおかしくなって二人で笑いあった。


 台詞から分かる通り、実はクリスさん、〈鉄の幼子亭〉の常連である。二日に一回くらいのペースで食べに来てくれる有難い存在だ。


「それで、今日はどのような要件ですか? 久しぶりに依頼を受けられる……訳ではなさそうですね。後ろの方に関係が?」


 ひとしきり笑った後、クリスさんが俺の頭越しに、後ろに視線を移しながらそう言うので、俺は頷きながら横にずれる。

 代わりにオーキさんが前に出て、クリスさんに話しかけた。


「オーキという。よろしく頼む。要件だが、組合(ギルド)証を再発行してもらいたい。とは言っても、最後に依頼を受けたのは数十年は前だから、情報が残ってないかもしれんが」


「かなり前ですね…………よいしょっと。それでは確認しますので、こちらの魔道具に手を乗せてください」


 クリスさんが掛け声と共に受付の裏から取り出したのは、一辺が二十センチ程の黒い立方体だった。これに手を乗せると、その人の冒険者としての情報が確認できるらしい。すごい。すごいけど……どうやって個人を判別してるんだ? 指紋? 静脈? いやでもそんなモン登録した覚えないしなあ……。


「これは、その人が持つ魔力で個人を判別してるんですよ。始めて触った人の魔力を組合(ギルド)証が記憶して、初回の依頼達成時にこの箱に登録するんです」


 立方体をジーっと見つめていると、クリスさんが仕組みを説明してくれた。ほう、なるほど。初めて触った人の魔力を…………ん?


「あれ? 初めて組合(ギルド)証に触る人って、受付の人じゃないの?」


 だって、組合(ギルド)証は受付の人から手渡されて……あれ? 手渡されてない?


「それが実は触ってないんです。結構神経使うんですよ」


 クリスさんが言うには、組合(ギルド)証は専用の魔道具で作成されて、これまた専用のトレイの上に出力されるそうだ。で、相手にはそのトレイごと渡すらしい。そうだったっけ……全然記憶にないや。


「まあ、初めて登録される皆さんは大なり小なり浮かれてますからね。我々のちょっとした動作なんて、気づかない人がほとんどですよ。…………はい、ありがとうございますオーキさん。もう手を離していただいて大丈夫です」


 なんだかんだ話している間に、確認が終わったらしい。クリスさんは立方体の一面――俺達からは見えない、クリスさん側の方――を見つめ始めた。目が左右に動いているので、文字か何かを読んでいるんだろう。


「情報は残ってますね。最後の依頼完了は今から……三十二年前のようです。最終的なレベルは……六ですね」


 レベル六! 一流じゃないか! オーキさんって結構すごい冒険者だったんだなあ!


「六か……。ないとは思うが、指名依頼が来ると面倒だな。…………まあ、断ればいいか」


 断るんかい! ……いやでも、しょうがないか。今オーキさんは足が悪い。指名依頼なんて来ても達成できない可能性が高いから、失敗するくらいだったら、最初から受けない方がお互いの為だもんな。


「その依頼がどんな物であろうと、それを受けるかを決めるのはあくまで冒険者です。問題はありません」


 組合(ギルド)側としては、可能であれば受けていただきたいですけどね。と苦笑いを浮かべるクリスさん。

 言いたい事は良く分かるが、それはちょっと難しいかな。


「すまんが、儂は最後の依頼で足を悪くしてしまった。討伐はおろか、採取や護衛、運搬の依頼すらまともに熟す事は出来んよ」


 歩く事すら難儀するような人間に下手な事をさせると命に関わるからね。


「そういう事。オーキさんはメリアさんの旦那さんで、俺の家族なんだ。危険な目には遭って欲しくない。…………ないとは思うけど、強引に来たりしないでね? 何するか分からないよ?」


 俺以外のメンツがな! 特にメリアさんとか!

 俺? 俺はほら、戦闘能力低いし。武力に訴える事とか出来ないし。

 もちろん、いざとなったら出来る事を全力でやるけどね。


「……はい、肝に銘じます。組合(ギルド)長にも言付けし、いざとなったら領主様にもご助力を仰ぎ、そのような事が起こらないよう努めます」


 そう言ったクリスさんは、先ほどまでのにこやかな雰囲気から一転、滅茶苦茶真面目な顔をしていた。


 うん。クリスさんも、〈鉄の幼子亭〉で不埒な輩をメリアさんがぶっ飛ばしてるのを見てるからね。メリアさんの怖さは知ってるよね。よろしくお願いします。

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[気になる点] マリアさん99話ではレベル五でしたよ。
[気になる点] こにちはー って脱字なのか判断に苦しむやつ [一言] 上から順に 六四一零!
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