第12話 冒険者になれた。
大変遅くなりました。ごめんなさい。
冒険者には12歳以上じゃないとなれないらしい。
冒険者登録に年齢制限があるなんて思いもしなかったな……。
でもまあ、年齢制限があるのはある意味正しいし、当たり前か。
制限がなかったら、登録料さえ払えばどんだけ小さな子供でも冒険者になれてしまう。
冒険者は危険な職業だ。魔物との戦い、ダンジョンの罠等、様々な要因で命を落とす危険性がある。
ある程度の自己判断ができる年齢にならないと登録できない、というのは正しいと思う。
だが、まさかそれに俺が引っかかるとはなあ…………。
中身は三十路でも外見は6歳なんだし、当たり前か。
「……あい、わかりました…………」
本日二度目の敗走だ。負け癖がつきそう。ションボリしながら受付から離れた。
「あー、まさか年齢制限があるとはなー……」
「まあ、こればっかりはしょうがないよ。お姉ちゃんがお金稼いでる間、レンちゃんは宿で待ってればいいんだよ」
「つい最近までタダ飯喰らいだった俺が言うのもなんだけどさ、一方的に養われるっていうのはちょっと……」
「いや、レンちゃんの年齢だと、普通両親に養われてる真っ最中だからね……?」
そんな話をしながら歩き、ジャン達が待っている場所に着いた。って、組合長まだいるんかい。
「今度こそ登録できたか……今度はなんだよ」
俺の暗い顔を見て察したらしい。組合長がそう訪ねてきた。
っていうか!仮にも組合の長なんだから、年齢制限に引っ掛かりそうな人材を冒険者にしようとするなよ!
「…………年齢制限に引っ掛かった」
「あ? 年齢制限? …………あ!」
……このおっさん、忘れてやがったな。『しまった!』って顔してる。
「どうしようおじちゃん、俺、冒険者になれない」
「お、おじ……。いやそれはいい。ちょっと待ってろ」
組合長は、俺のおじちゃん呼ばわりにちょっとショックを受けた顔をしながら速足で窓口に向かい、受付嬢さんと話を始めた。
何を話しているかは聞こえないが、身振り手振りを交えながら受付嬢を説得しようとしてるのが分かる。
受付嬢さんは首を横に振ってるけど。これは旗色悪いなあ…………。
あ、なんか思いついたみたいだ。嬉しそうにまくしたててる。受付嬢さんが首を傾げながら何かの資料らしき物を調べ始めて……。あ、頷いた。
組合長がこっちを向いて手招きしてる。すっげえ嬉しそう。
「なんか抜け道を見つけたみたいだよ、おねーちゃん」
「抜け道って……。とりあえず行ってみようか」
窓口に着くと、組合長が嬉しそうに捲し立ててきた。
「喜べ嬢ちゃん! 抜け道が見つかったぞ! いやー! こんな制度あったなあ、すっかり忘れてたぜ!」
いや、あんたが抜け道って言うなよ。仮にもここの長だろうが。
受付嬢さんため息ついてるぞ。
「……ここ最近使用された事がないのですが、冒険者見習い制度、通称『レベル0制度』という物があります。それを適用すればレンさんを冒険者登録することが可能です」
「…………まず、レベルって何?」
真っ先に思い浮かぶのはRPG等のゲームだな。
ああいうのだと、モンスターを倒して経験値を稼ぎ、経験値が一定以上になるとレベルが上がり、ステータスが上昇したり新しい技を覚えたりする。
似たような物だろうか?
「冒険者レベルの事ですね。冒険者は通常、登録した時点でレベル1冒険者となります。依頼達成時や素材の納品等でポイントを貯め、一定以上のポイントが貯まるとレベルが上がっていきます」
ポイントって名前の経験値を稼いでレベルアップしていく訳か。
たくさん依頼達成している人は必然的に冒険者レベルが高い訳だから、冒険者レベルが分かればその人が冒険者として一流なのか、そうじゃないのかが分かるって事だな。
「レベル0というのは名前の通り、レベル1未満という意味です。通常、冒険者は自分で依頼を受諾しますが、レベル0冒険者にその権利はありません。ですので、教育係として登録した冒険者とパーティを組み、同行することで間接的に依頼を受諾します。しかし、教育係の方と一緒でなければ依頼達成報告は受理されません。もちろん、見習いであろうとも冒険者である事に変わりありませんので、冒険者登録による特典も適用されますし、報酬受け取りも、依頼達成時のポイント付与もされます」
なるほど。これ、青田買いみたいなもんか。
優秀そうな子供に小さい内から冒険者のイロハを教えておいて、未来の優秀な冒険者を育成する為の制度って所かな?
まあ、それはいいんだが、一つ気になる事がある。
「何でずっと使われてないの?」
俺の想像通りの意味で作られた制度なら、どんどん見習い冒険者を量産した方がいいだろう。
というか仮にも組合長が存在を忘れるってよっぽどだぞ。
「組合が許可しねえんだよ。見習いっつっても冒険者だ。最低限自衛できないといけねえ。いくら教育係がいたって危険なもんは危険な訳だしな。だが、普通ガキ共にそこまでの力はねえ。だから許可しないってこった」
「……それでずっと許可しなかったら、最終的に誰も来なくなった?」
俺の予想に組合長が頷いた。
そりゃ、いくら申請しても受理されないんだったら誰も来なくなるだろうよ。『どうせ申請しても無駄だろ?』ってなるわ。
「そんなとこだろうよ。少なくても、俺が組合長になってからは一件も申請が出てねえ」
この人が組合長になってどれくらいなのかは知らないが、結構長い期間使われてないのは確かそうだ。
「つーことで、何年かぶりの利用申請ってことになるが、どうする? 嬢ちゃんなら許可するぜ?」
見習いだろうがなんだろうが、冒険者は冒険者だ。ポイントを上げていけば見習いも卒業できるみたいだし、なれるならなっておきたい。断る理由がないな。
「申請する! 見習い冒険者になる!」
俺の言葉に受付嬢さんが頷いた。
「承知しました。ではそちらで処理致しますね。見習い冒険者になるにあたり、教育係としてレベル1以上の冒険者の登録が必要となりますが……」
「おねーちゃんで!」
「私で」
俺とメリアさんの声が重なった。それしかないよね! お互い駈け出しだけど、がんばろう!
「かしこまりました。では教育係としてメリア様を登録します。……はい、では最後に登録料をお支払いいただきます。金額は通常の冒険者の方と同額ですが、見習いの方は分割払いも可能ですよ」
「んー。いや、払っちゃいます! ……はい、これで足りる?」
小銀貨が二枚しかなくて足りないので、大きい方の銀貨、大銀貨だっけ? それを一枚出した。
まだ貨幣価値がわからないけど、大きい方が価値高いでしょ! 多分!
こういうのは払える時に払っちゃった方がいい。分割払いっていっても結局は借金だ。借金なんてしない方はいいに決まってる。
「はい、足りますよ。登録完了しました。こちら組合証と、お釣りの小銀貨七枚となります」
受付嬢さんから組合証とお釣りを受け取った。大銀貨って小銀貨十枚分の価値なんだなあ。
渡された組合証をまじまじと見てみる。クレジットカードくらいのサイズで、登録の時に質問された内容が記載してある。名前の横にレベル0と書いてあり、下の方には教育者:メリアの文字が。色はジャン達が出していた物と変わらない。ジャン達はそれなりのレベルだろうし、色でレベルの判断はできないようだ。
「組合証には特殊な加工が施してありまして、専用の魔道具を使用しないと詳細な情報は閲覧できないようになっています。過去に受諾した依頼やその達成率、素材の売買履歴等ですね」
そこまで細かい情報が記録されるの!? 組合証すげー!
「それでは、お二人共無事冒険者となりましたので、冒険者について説明させていただきますね」
「あい! よろしくお願いします!」
「お願いします」
またも揃って返事した俺達ににっこりと微笑みながら、受付嬢さんが説明を始めてくれた。
「冒険者とは、依頼者の依頼を受諾、達成し、その報酬を受け取る事を生活の糧とする方達の総称です。冒険者にはレベルという物が存在し、レベルが上がるほど、高難易度、高報酬の依頼が増えていきます。レベルは1~10の十段階が存在し、世間一般の認識では、レベル1が駈け出し、レベル2~3が駈け出し卒業、レベル4~5が一人前、レベル6~7が一流、レベル8~9が英雄といった感じですね。レベル10に到達した冒険者はここ10年ほど存在していません」
ほえー、十段階もあるのか、結構細かいんだなあ。
ふときになってジャンに声を掛けた。
「ジャン達はレベルいくつなのー?」
「ん? 俺達はレベル6だ」
おお! 一流じゃん! すごいな! 答えたジャンも誇らしげだ。
そんな気持ちが顔に出ていたようで、受付嬢さんが頷いた。
「ジャンさん達のパーティはイースの街で二番目にレベルが高いんですよ。なので、組合からの指名依頼等も行っていただいていますね」
「指名依頼?」
俺達の住んでいた場所に来たのも、組合長からの指名依頼だったっけか。
「指名依頼とはその名の通り、依頼を受ける冒険者を依頼者側が指名するものです。特殊な技能を持っていたり、信用の置ける冒険者に依頼したい場合などに発生します。指名依頼は、似た内容でも通常の依頼より報酬が高いので、指名依頼を受諾できるようになるのが、一流冒険者の証、とも言われていますね」
組合から指名されるってことは、それだけジャン達は組合から信頼されてるってことだよな。
ジャン達って実はすごい奴らだったのか……。一緒に旅した限りだとそうは見えなかったけどさ。
そんな事を考えている間にも受付嬢さんの説明は続いていく。
いけないいけない。ちゃんと聞かないと。
「レベルを上げる為には、達成ポイント、という物を貯める必要があります。ポイントの付与は、依頼の達成、素材の納品、組合への貢献等でも発生します。依頼には大きく、討伐系、その他の二種類に分かれているのですが、ポイントも同様に分かれています。レベルアップに必要ポイント数は機密事項となっておりますのでお教えすることはできませんが、両方のポイントが必要数に到達した場合、組合員よりレベルアップの通達を行います」
「つまり、採集や人探し等依頼だけを受け続けてもレベルアップはできない、という事ですか?」
メリアさんの質問に受付嬢さんが頷いた。
「採集の最中に魔物が現れ、それを討伐する、といった事もあるので一概には言えませんが、基本的にはその認識で問題ありません。もちろん、これは見習い冒険者の方にも当てはまります。通常の冒険者と比べれば、討伐系の必要ポイントは低く設定されてはいますが」
レベルアップする為には、魔物も倒していかないといけないってことか。
俺、この世界に来てから魔物はおろか、普通の動物を殺した事すらないんだけど。
もちろん、元の世界でもない。ただの会社員だったしな。
……出来るのかな、俺。ちょっと心配になってきた。
「依頼の受け方ですが、あちらの掲示板に張り出されていますので、受諾したい依頼の依頼書を剥がし、受付までお持ちください」
ただし、と指を一本ピッと立てる受付嬢さん。
「依頼失敗の際、違約金が発生します。違約金は達成報酬の100%、つまり達成報酬に書かれた金額そのままが課せられます。ご注意ください」
100%! めっちゃ重い!
これは依頼を受ける時は慎重を期さないといけないな。
「説明は以上となります。質問はございますか?」
メリアさんに視線を向けると、彼女はそれに気づいたようで俺の方を顔を向け、首を横に振った。メリアさんも特にないみたいだ。
「いえ、大丈夫です」
「かしこまりました。何かありましたら組合員に質問していただければお答えしますので、お気軽にお声掛けください。それでは、この瞬間からお二人は冒険者となります。組合長のお墨付きですので問題ないかとは思いますが、お二人とも無茶はなさらないように」
「あい!」
「はい!」
俺達の力強い返事に受付嬢さんは大きく頷いた。
「良い返事です。それでは、これからの活躍を期待しております」
そういって受付嬢さんはニッコリと笑った。
紆余曲折あったが、ついに俺達は冒険者になった。いやー、良かった良かった。
受付から離れ、ジャン達が待っている場所に行くと、ジャンが俺の頭をポンポン叩いてきた。
「お?終わったか。これでお嬢ちゃん達も俺達の同業者か。よろしく頼むぜ」
ジャンの言葉に同調するように、いままで静かだったレミイ達がこぞって話しかけてきた。
「まさかレンちゃんが冒険者になるなんてねー。ちっちゃい子がなれるなんて、初めて知ったよ。……組合長相手に物怖じしないし」
「レベル0制度なんて物があるなんて思いもよりませんでしたわ。ですがレンちゃん? 冒険者になったからって危ない事しちゃいけませんわよ? ……まあ、組合長相手に自然体でいられるなら問題ないかもしれませんが」
「いやいや、危ない事しない冒険者ってなんだよ……。言いたい事はわかるけどよ。……組合長相手にあれだぜ? 大丈夫だろ」
「あんな強力な【能力】を持ってるんです。大丈夫でしょう。とはいえ、命あっての物種です。十分気を付けてください。……組合長の相手が大丈夫なら、本当に大丈夫そうですが」
組合長、恐れられすぎじゃね?
確かにあのムッキムキな見た目は迫力抜群だが、そこまで怖がる程かねえ? 魔物の方が怖いだろ、普通。
「なんでそこまで組合長を怖がってるか分からないんだけど……。話した感じ、気のいいおじさんって感じだったし」
「まあ、機嫌が悪くなけりゃそうなんだがな……。まあ、組合に通うようになれば嫌でも分かるだろ」
レーメスの言葉に他のメンバー全員が『うんうん』と頷いた。何それ怖い。
できれば分かりたくないなあ……。
「ま、組合長の事は置いといてだな。用事も終わった事だし、そろそろ行くか。約束通り、街を案内してやるよ。冒険者になったら色々入り用だし、そっちも一緒にな」
「あい!」
よっしゃ! 観光だ観光! 異世界の街はどんな感じなのか、楽しみだ!