閑話 気になるあの子と気にする神②
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「説教されたのはあなたの自業自得でしょうに。にしても、街の食堂の主人って…………確かあの子、かなり強力な【能力】をあげてたわよね?」
「そうなんですよぉ! 貴族の息子と決闘する事になって、相手をボコボコにした時は、『ここからついに異世界チート開始か!?』って思ったのに、そこから進展ないし! ボコられた息子も怖がっちゃって近寄ろうとしなくなっちゃうし! そこは憎んで憎んで復讐する所でしょぉ!?」
ほんとあのドラ息子はヘタレでした。おしっこチビって気絶したのを見た時は大笑いしましたが。
「滅茶苦茶言ってるわね……言いたい事は分かるけど。私としては、あそこから強者への憧れ、転じて恋愛感情、みたいな流れを期待してたんだけどねえ」
「…………さすがは愛を司る神、見事な恋愛脳ですぅ」
話としてはなくはないんでしょうが、いかんせん相手があのヘタレですしねえ。第一、あの子は外見こそ可愛らしい幼女ですが、中身はいい歳した男性です。多少肉体に精神が引っ張られているようですが、それでも男に恋愛感情を向ける事はそうそうないでしょう。
「聞こえてるわよ」
「にゃあ!?」
口の中だけに留めたはずなのに、フレヌスの耳に届いてしまったようです。耳、よすぎじゃないですか?
「私は権能として地獄耳と千里眼を持ってるのよ? どんな小さな音だって聞き逃さないし、わずかな口の動きから何を喋っているか理解する事だって可能だわ」
「なにそれずっこい! 卑怯ですよぉ!」
そんなの、何も隠し事が出来ないじゃないですか!
「権能だって言ってるでしょうが。そんな事言ったら、あなただって大概よ? 魂を好きに弄れるなんて、実質生命に対して無敵じゃないの」
「そりゃ私だって神ですからねぇ。とは言っても、下界にいる生命の魂を直接弄るのはルール違反なので、そうそう出来ないんですけどねぇ」
「そういえばそうだったわね。…………んー、でもこのまま大した出来事もなく過ごされても、見ていてもいまいち面白くないわねえ。あの子の近くで戦争でも起こらないかしら」
「そういうのはいらないですぅ」
そんな事になったら仕事が増えるじゃないですか! ただでさえ毎日還ってくる魂の選別やら修復やらで大変なんですから。
「それが仕事でしょう。つべこべ言わずにキリキリ働きなさい………………あら?」
ぶつくさ言いながら穴を覗いていたフレヌスが、何かに気づいたようです。ずっと見てた私が気づかず、ついさっき見始めた彼女が気づくなんて、なんだか腹立たしいです。
「なんですかぁ? いくら面白くないとは言っても、我々神が許可なく下界に干渉するのはルール違反ですよぉ?」
「分かってるわよそれくらい。それよりほら、あの女を見てみなさい」
フレヌスが指差したのは、あの子といつも一緒にいる赤髪の女でした。えーと、確か名前は…………………………ああ、思い出しました。
「メリア、だったですかねぇ」
「あら、そんな名前なの? 下界の者の名前を覚えてるなんて、すごいわねえ」
「見てると良く目に入りますからねぇ」
あの女、常時と言っていいくらいあの子と一緒にいるので、嫌でも目につくんですよ。そりゃあ名前も覚えるってものです。
それに、あの子を送った先にあの女がいなければ、あの子はすぐ死んでしまっていたでしょうから、その点も感謝していますので、それもあるでしょうね。
「で? そのメリアがどうかしたんですかぁ?」
「ほら、気づかないの? あの女の魂」
「魂? …………うん? ……あらぁ」
フレヌスに言われてメリアの魂を観察し、彼女が言いたい事が分かりました。
メリアの魂に影が見えます。そして、私はあの影に見覚えがあります。
「あれは…………よろしくないですねぇ」
「でしょ? あの状態だと、目覚めるまであまり時間はないんじゃない? 肉体の変質はちょっと前から始まっていたみたいだし」
「そうですねぇ。輪廻を司る神としては、肉体が滅んだならちゃんと輪廻の輪に戻ってきて欲しい所なんですがぁ」
あの様子だと、禁術か何かを用いて。輪廻の輪から外れたのでしょう。全く、ただでさえこの世界の生命は減少傾向にあるというのに、勘弁してほしいです。
「どうするのよあれ。このままいくと、沢山生き物が死んじゃうわよ?」
「分かってますよぉ。でも現状だと私も手を出せないですぅ。ルールに抵触しちゃいますのでぇ。不本意ではありますが、事が起こってから動くしかなさそうですねぇ」
輪廻を司る神である私は、その輪からはみ出している存在には干渉できないんですよねえ。
いやまあ、申請出して受諾されれば大丈夫なんですが、今から申請出しても絶対間に合わないです。許可されるまで、早くて下界の時間で五年くらいかかりますし。
沢山人が死ぬからと言って、即世界が崩壊する程ではないですし、あの程度だと例外処置は期待できないですね。『それも世界の有り様の一つ』って事になってしまいます。
「そうよねえ…………。ま、その時になったらすぐ動けるように、準備はしておきましょう。私も手伝うわ」
「……珍しいですねぇ。自分の担当以外には割りと無頓着だと思ってたんですがぁ」
まあこれはフレヌスに限らず、どの神にも当てはまる事なんですが。かくいう私もそうですし。
例外は創造神様くらいでしょうかね。あの方、決まった担当という物が存在しませんからね。強いていうなら、〈この世界で起こる事象〉が担当でしょうか。さすがにそれだとやる事が多すぎて管理が疎かになってしまうので、振れる仕事は我々に振っている訳ですね。
…………だったらなんで、あの子を連れてくるのを私にやらせたのでしょうか。今更ながら疑問に覚えてしまいました。別世界から生命を連れてくるなんて大事、普通は最上位の存在がやるべき事なんじゃないでしょうか。
まあ、お上の考える事なんて、私みたいな木っ端神には到底理解できないという事なんでしょう。そういう事にしておきます。万一『面倒だったからぶん投げた』とか言われたら凹みますし。
「もちろんそうよ? でもほら、あの子達の関係は私の担当でもあるし」
「成人女性と幼女ですよぉ? まあ片方の中身は成人男性ですがぁ」
いやまあ、私としては微妙な気分ですが、同性での恋愛というのもありますし? 否定はしませんけど? でも生命を司る神としては、できれば異性でくっついて欲しいというか……。同性だと次の世代が生まれませんからね。
「あれはそういう、男女の間に育まれる愛じゃないわ。生物として生まれた者には大小あれど確実に存在し、かつ一番最初に生まれる愛。それは――――」
そこでフレヌスは一度言葉を区切り、私にムカつく顔を向けました。あの表情はあれですね。ドヤ顔って奴ですね。なるほど。確かにこれは腹が立ちます。心優しき神である私が顔面に拳を叩きこみたくなる程です。かなりの効果ですよこれは。
「ちょっと黙りなさい。今大事な所なんだから。あの子の世界のアニメ? とかいう奴なら、私の顔がアップになる所だから。コホン。それは…………家族愛よ」
おぉ……。背景に『ドヤァ……』という字が見えるようです。ほんとムカつきます。
「うっさいわね。いいじゃない別に。迷惑かけてる訳じゃないんだし」
「現在進行形で私の精神に多大な負荷をかけていますがぁ」
今も、殴りかからないように必死に腕を抑えつけてるんですよ?
「そんな事、私の知った事じゃないわ。……さて、それじゃ行きましょうか。あなたと私のお気に入りであるあの子が壊れないように、入念に準備しないとね」
「分かりましたよぉ。はあ、しょうがないですぅ」
あの子がお気に入りである事は事実ですし、壊れられると困ります。
とりあえず、すぐ許可が下りる申請を出す事から始めましょうかね。
…………というかフレヌス。なんだかんだ言って、あなたもあの子がお気に入りなんですね。
これにて、累計50万PV達成記念 連続更新は終了です。
次は……100万PVですかね。遠い……。
なんとかそこまで行けるよう頑張っていきますので、応援よろしくお願いします!




