閑話 私のご主人様③
毎日投稿最終日!
短くてすみません。次回投稿は5/9です!
よろしくお願いします!
「じゃあ、いきますよーっ!」
「フヒ。いつでもどうぞ」
「…………いく」
同じ志を持つ仲間が増えました。
就寝前に訓練をしている所をムツキに見られ、メイドである私が戦闘訓練をしている理由を教えた所、意気投合。以後、ムツキも訓練に参加するようになりました。
その後、ムツキから話を聞いたらしいキサラギとヤヨイも加わり、気づけば訓練を行うメイドは四人になっていました。
さすがはレン様の魂を賜った仲間。想いも一緒だったようです。
とは言っても扱う武器や戦い方は全員異なります。
最初は、全員木剣で訓練を行っていたのですが、各々の装備が余りに特殊な為、最近では実際の装備を用いて訓練を行っています。もちろん細心の注意を払っていますよ。怪我をしてしまうと、レン様に心配を掛けてしまいますので。実際、使い始めの頃は怪我をする事も多く、その度にレン様に心配と疑念の視線を投げかけられてしまっていました。
「どりゃあああっ!」
ムツキは【後付け能力】が【怪力】だったらしく、身の丈より遥かに巨大な剣を軽々と扱います。その威力たるや、空振って叩いた地面が大きく凹むほどです。
何故そんな使いにくそうな武器を使うのか聞いてみた所、『女の子が超重武器を使うのはロマンなんですよっ!』だそうです。
…………確かにレン様の記憶には、レン様と同じくらいの体躯の女性が、やたらと大きな武器を扱う映像が存在しますが…………これ、創作ではないですか?
創作の世界の出来事を現実に行うなんて…………いえ、羨ましいなんて思ってません。本当です。私には【軟体】と〈新体操〉がありますので。
「ほいっと。ムツキの攻撃は軌道がバレバレだから、流すのも簡単だぉ。フヒ」
キサラギは片手に大楯、もう片手に分厚い金属製の籠手、という少々変わった組み合わせです。大楯はキサラギの体がすっぽり隠れてしまうほど大きく、これまたムツキの大剣のように、扱うのが大変そうです。籠手も主に防御に使うようで、防御特化な組み合わせです。
基本は籠手で防御を行い、攻撃に転じる時、又は籠手では受けきれないような強力な攻撃の場合は大楯を使います。
今回のムツキの攻撃は大楯を使うまでもなかったようで、籠手によってあっさりと流され、キサラギのすぐ横の地面を凹ませるに留まりました。
キサラギにも、その装備を選んだ理由を聞いてみた所、『レン様と同じ防御特化なんだぉ。それ以上の理由なんて必要ないぉ。レン様と同じ…………フヒ、フヒヒヒ』だそうです。
なるほど……。そういう考えも…………レン様と、同じ…………うへへへへ………………ハッ?!
ゴホンッ! ……ま、まあ、防御が得意な人員がいれば、いざという時に主やレン様をお守りすることができるかもしれません。そういう意味では、キサラギの方式も、間違いではないのかもしれません。
しれませんが…………正直な所、レン様をお守りしなくてはいけない状況、あるのでしょうか。レン様は普段から結界でその身を守っています。レン様の結界は、一枚あたりの強度はさほどでもないのですが、再展開の速度が尋常ではありません。レン様がその気になれば、一枚破られる間に四、五枚は張り直すことが出来るでしょう。そうなると、レン様の身が危険に晒される状況ってないような気が…………。
い、いえ、取れる手段が多い事に越した事はありませんし、我々以外のメイドや、リーア様をお守りする事もあるかもしれません。無駄なんかではありませんとも!
……マリ様とオネット様ですか? お二方は全身が金属で出来ていますし、なにより我々より圧倒的にお強いので…………。むしろ我々の方が守られる立場になってしまうといいますか……。
ちなみに、キサラギの【後付け能力】は【硬化】です。文字通り体が硬くなり、防御力が上がる能力です。偶然なのか、【硬化】を持っているからこそ装備も防御特化にしたかは不明ですが、なかなか嚙み合っていると思います。
「隙だらけ」
ヤヨイは先の二人とはうって変わって、目に見える武器は持っていません。ですがそれはあくまで見えないだけで、あらゆる場所に武器を仕込んでいます。
腕を振れば袖から短剣が現れ、蹴りを放てば靴の爪先から針が飛び出します。スカートの裾が刃物になっているのは驚きました。あんな服を着て、怪我はしないのでしょうか?
あらゆる行動が攻撃に繋がる可能性があり、気を抜けません。それでいて、欺瞞として意味のない行動も挟んだりするので、ヤヨイとの訓練はかなり刺激的です。
それでいて私とは違う体系の体術も訓練しており、例え隠し武器がなかったとしても、それなりの強さを持っています。
そして、そんなヤヨイの【後付け能力】は【器用】。細やかな動きを可能にする能力で、これも、隠し武器を扱うヤヨイにはピッタリでしょう。私では、絶対あのような動きはできません。なんですか、小指のわずかな動きで袖に仕込んである鎖を取り出すって。動きが小さすぎて全く分かりませんでしたよ?
各所に武器を隠す関係上、我々の中で一番武器の精度にうるさいのもヤヨイです。我々の武器を作っていただいた武器屋のご主人は大変だったと思いますが、そんなヤヨイの拘りにしっかりと応えたご主人はすごいと思います。
いやだって、修正前と修正後の違いが全く分からないくらい、細かい部分まで拘ってましたからね。私には理解できない世界でした。
…………他の者ですか?
ムツキは、『とりあえずおっきくて重くて頑丈な剣』という雑な注文でした。
そして、注文が雑な割には、いざ完成した剣を持ってみると『なんかしっくりこない』等と言い出す始末。何回も修正を繰り返した結果出来たのが、一番最初に渡された物と大して変わらなかった事は、ご主人はもっと怒ってよかったと思います。
キサラギは、性能への拘りはそこまででもなかったのですが、見た目の拘りが凄かったです。盾だけで『全体の色は灰色で、ここに蓮の花の模様を白で。大きさはこれくらい。全体を赤で縁取り。蓮の模様を囲うように月の満ち欠けを模した模様も。数は十三個で。色? もちろん金色。でも派手にならないように艶消しで』といった具合です。ちなみに籠手はどちらかというと性能寄りで、『攻撃を流しやすいように曲面を多めに。拳の部分は尖らせ気味で、殴った時に威力が上がりそうな感じで。こっちは艶消しの金色を縁取りで、全体の色は白。模様はなくて良い』でした。
正直、そこまで見た目に拘る意味が分からなかったので本人に聞いてみた所、こんな返事が返ってきました。
『壁役っていうのは、一番前に出る。そして盾を前に掲げるんだぉ。つまり盾がパーティーで一番前に出ているって事になるぉ。そんな一番目立つ位置にある盾がカッコ悪いと、パーティー全体、引いてはパーティーの頭の品格が疑われるって事だぉ。それは誰か。レン様だぉ。レン様がカッコ悪いと思われるとか、絶対に許せないぉ。だからカッコ良さを求めつつ、キサラギ達の関係性も分かるような見た目にしたんだぉ。全体が灰色なのはキサラギの髪色に合わせたぉ。蓮の花はもちろんレン様だぉ。蓮の花を囲う月は我々メイド、赤い縁取りは主を表しているぉ。つまり、レン様を中心に我々と主が集い、レン様を全員で守護するという想いを込めたんだぉ。これで誰が盾を見ても、レン様の偉大さが分かるんだぉ! フヒ!』だそうです。すごい勢いで、かつ早口で説明されました。鼻と鼻がくっ付くくらい至近距離で。鼻息がすごかったです。
…………ええ、まあ、よく考えられている、とは思います。
ですが、そんな盾の前に立っているであろう敵は、そこまでしっかりと盾に描かれている模様について考察をしたりするでしょうか? 正直疑問です。『随分派手な盾だな』くらいにしか思われないような気が……。まあ、キサラギ本人は満足しているようなので、それで良いのでしょう。
私ですか? 私にはそういった拘りはありません。武器として持っている短剣も、陳列されていた物の中から扱いやすそうな物を選んだだけですし。私の主な武器はこの体なので。
…………ですが、先日ジャン様と訓練を行った際、素足では木剣と打ち合う事が出来ず、止む無く回避に回った事がありました。脚甲と籠手くらいは身に着けた方がいいかもしれませんね。
そうなると、【軟体】を生かす為に稼働範囲を広げてもらって。力はないので、なるべく軽い素材で、でも剣との打ち合いも考慮する必要があるので、それなりの強度は必要で…………今度、武器屋のご主人に相談してみましょう。あの方なら、私にピッタリな装備を作っていただけるでしょうし。
……とまあこのように、現在は四人で訓練を行っているわけですが、これからどんどん同志は増えていくでしょう。正確に言うなら、レン様より魂を賜り、生まれ変わる者が現れる毎に。
同じ志を持つ者が増える毎に、レン様をお守りできる確率が上がりますので、どんどん増えていって欲しいですね。
さあ、訓練の続きです。もっともっと強くなりますよ!




