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閑話 私のご主人様①

毎日投稿中です!

明日も11時に投稿します!

よろしくおねがいします!

 レン様のお役に立ちたい。


 私に『ルナ』という名前を付け、命懸けで救ってくれたあの方のお役に立ち、無二の存在となりたい。

 そう、あの日からずっと思っていました。レン様より、魂を賜ったあの日から。


 とは言ったものの、レン様はなんでもできます。

 レン様が居たという別の世界の知識は膨大で、私如きではとても扱いきれない程ですし、異常な数の【能力】(スキル)を持ち、料理もとてもお上手。そして、毎日のように(マスター)と行う戦闘訓練を見る限り、かなりお強いようです。その動きはとても速く、私では遠目でも目で追うのがやっとな程でしたので。

 掃除や洗濯等の家事は我々が分担して行ってはいますが、魂に刻まれたレン様の記憶を参照する限り、出来ないから我々にやらせている訳ではないようです。おそらくは、我々に仕事を与える為に、あえてやっていないだけなのでしょう。


 そんな完璧なレン様のお役に立つにはどうすればよいのでしょう? 考えて考えて、考え抜いて、私は一度諦めました。無理だと。遥か天上におわすという、神の如き存在である御方の役に立つなど、考えるのも烏滸がましい行為なのだと。


 日々屋敷の維持をしっかりと行いつつ、レン様のお店である〈鉄の幼子亭〉での仕事をきっちりこなせば、無二の存在とはなれずとも、多少なりともお役に立てているだろう。そう考え、私は逃げました。


 しかし、それでは駄目だったのです。


 あの日。〈鉄の幼子亭〉が不埒者により襲撃され、無残に破壊されたあの日。


 普段我々に見せる事のなかったレン様の涙を見、曝け出す事のなかった心の内を聞き、私は自分の愚かさ、浅はかさに、自分を殺してしまいたくなりました。


 レン様は完璧などではありません。少し別の世界の知識があるだけの、普通の人なのです。いくつも【能力】(スキル)を持っていようが、そんな事は関係なかったのです。

 レン様は必死に、全身全霊で、(マスター)と我々が平穏無事に過ごす事が出来るように、骨を折ってくださっていただけだったのです。

 それを私は、我々とは違うのだ、文字通り、別世界の住人なのだと、思考を放棄していただけだったのです。


 私は一度諦めた、レン様のお役に立つ方法を、改めて考えました。何日も、必死に考えました。

 ですが、私の頭では、どうしてもレン様のお役に立つ方法が思い付きませんでした。

 なので――――


「俺達に相談してみた、と」


「はい。皆様は、(マスター)の次にレン様と関わりが古いと聞きました。そんな方々なら、何かルナが気づけない事に気づけるかも、と」


 相談した相手、ジャン様の言葉に私は小さく頷きます。


 現在私が居るのは、ジャン様達の定宿である〈土竜亭〉。そのジャン様達が借りている部屋の中です。先日、ジャン様達が〈鉄の幼子亭〉でお食事をされた時に、お声を掛けさせていただきました。

 ちなみに本日、私は仕事はお休みです。サボりではありません。レン様のお役に立ちたい私が、レン様にご迷惑をお掛けするような事、するはずがありません。


 先ほど話した通り、ジャン様達は(マスター)の次にレン様と古くからお付き合いをされているとの事。きっと、私の知らないレン様をご存じのはずです。であれば、そこからレン様のお役に立つ方法の手がかりがつかめるかもしれません。


 ですがジャン様は、そんな私の言葉に首を捻ります。


「つってもなあ、実際に一緒にいる時間は、圧倒的にあんたの方が長いだろう。あんたがわからないことを俺達が分かるのかって話なんだが…………」


「レン様は我々に、苦しんだり、悲しんだりしている顔を見せないのです。きっと我々に気を使っているのだと思います…………」


 我々は、レン様にとって庇護する対象なのでしょう。その御心が、嬉しくもあり、同時に悲しくもあります。


「いや、それは考えすぎじゃねえかなあ……。単純に、あんたらと居るのが楽しいだけじゃねえのか?」


 ジャン様がそんなお言葉を掛けてくれます。私の顔が曇ったのを見て、慰めようとしてくれているのでしょう。

 ジャン様はパッと見その大きな体の為、威圧感があるのですが、見た目に反してお優しい方なのです。〈鉄の幼子亭〉でも色々助けていただきました。

 ……話が逸れました。


「とにかく! ルナはレン様のお役に立ちたいのです! なにかご存じないですか!? レン様が苦手な物とか! 嫌いな事とか!」


「聞こえが悪いな。嫌がらせのネタを探してる奴みたいになってるぞ…………。うーむ、レンの奴が苦手な事ねえ…………」


 腕を組んで考え込むジャン様に、隣で黙って話を聞いていたレーメス様が声を掛けました。


「いやいや。何考えこんでんだよジャン。そんなもん、すぐ分かんだろうがよ」


「あん? レーメス、なんか知ってるのか? 正直、俺にはサッパリ分からねえんだが……」


 ジャン様の言葉にレーメス様は大仰に肩を竦めました。


「戦闘だよ戦闘。あいつ、戦う事自体が好きじゃねえだろ」


「あ? 戦闘? …………ああ、そういやそうだったな。すっかり忘れてたわ。……懐かしいなあ」


 思いがけない情報が出てきました。

 まさか、(マスター)と毎日のように訓練を積み、素人目から見てもわかる程の強さを持っているレン様が、戦いがお嫌いだとは…………。

 こう言ってはなんですが、正直な所、あまり信じられません。


「その顔は疑ってるな? 今はどうか分からんが、一緒に依頼を受けた時は、あいつ、ゴブリンにもすっげえびびってたんだぞ?」


「だな。倒した後は真っ青な顔で腰抜かして、ゲーゲー吐いてたくらいだし」


 ジャン様の言葉に、レーメス様が相槌を打ちつつ、情報を追加していきます。

 その情報も、俄かには信じがたいものでした。

 あのレン様が、魔物の中でも最弱とも言われるゴブリンに恐れ戦き、さらには倒した後嘔吐するなど…………。


「ち、ちょっと二人とも。そんな事教えたら…………」


 慌てたようなレミイ様の声が聞こえたような気がしましたが、お二人の言葉を反芻していた私には届きません。


 ………………なるほど。確かに言われてみれば、訓練をしている所は良く見ますが、実際に戦っている所は見た事がありません。領主様の息子とやらと決闘した時は、(マスター)しかその場にいなかったので詳細は知らないですし。

 魂に記録されているレン様の記憶を参照する限り、レン様が元々いた世界では、戦闘は遠く離れた場所で起こるもので、大半の人々はそういった事柄とは無関係な日々を過ごしており、あったとしても、ちょっとした喧嘩程度だったようです。

 つまり、レン様をそのような事態からお守りする事が出来れば、お役に立てる……?


 …………………………私が進むべき道が決まりました。


 しかし、この道を進むには、一人の力では限界があります。なので協力を要請することにします。丁度すぐ近くに、ソレが得意な方々がいらっしゃいますので。


「皆様! ルナに戦い方を教えてください!」


「「…………はあ?」」


「あーあ。やっぱそうなっちゃうよねえ…………」


「むしろ今の話の流れで、そうならない訳ないでしょう…………」


「きっと、後の事なんて考えてなかったんですわ」


 そうです。レン様が戦う事を望んでいないのなら、私が代わりに戦えばいいのです。

 そうすれば、レン様は戦わなくて済んで幸せ、私はレン様のお役に立てて幸せ。損する人がいない、我ながら完璧な案です!


 …………何故皆さん、頭を抱えているのでしょう? なにか心配事でしょうか?


 ………………ああ、なるほど。理解しました。確かに重要なお話をしていませんでしたね。皆様には、申し訳ない事をしてしまいました。


「ご安心ください。ちゃんと組合を通して、適正価格で依頼を出させていただきます」


 お金は大事ですからね。〈鉄の幼子亭〉で働くようになって、私もお金の価値を知りました。抜かりはありません。


「「「「「違う、そうじゃない」」」」」


「あら?」


 全員から異口同音で否定され、私は首を傾げました。

 おかしいですね。何か間違えていたのでしょうか。


 その後、渋る皆様をなんとか説き伏せ、戦闘訓練の講師をやっていただける事になりました。

 屋敷での業務と、〈鉄の幼子亭〉での給仕がありますので毎日は無理ですが、私のお休みの日を事前にお伝えし、その日に訓練をしていただく事にしました。


 不肖ルナ、レン様の為に全力で頑張ります!

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[一言] そしてみんな戦闘メイドに( ˘ω˘ )
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