第11話 冒険者登録しにいったけどだめだった。俺だけ。
筆が乗ったので早めの投稿です!
話が遅々として進みません。盛り過ぎでしょうか・・・。
「それじゃ、俺達は依頼の報酬を貰いに行ってくるわ」
ジャン達は依頼報酬の受け取りに向かった。組合長もジャン達に着いていくようだ。
「いってらっしゃーい!」
さて、その間に俺達は冒険者登録だな。
俺達は丁度空いている窓口を見つけたのでそこに向かった。
「すみません。私達冒険者になりたいんですけど」
メリアさんが声を掛けると、何やら書き物をしていたらしい受付の女性が顔を上げ、にこやかに応対してくれた。
「はい、承ります。では、登録に必要な事柄について質問していきますので、お答えください。お名前は?」
「メリアです」
カキカキ。
「メリアさん……と。種族は?」
「人間族です」
カキカキ。
「人間族……。年齢は?」
「35です」
カキカ……ピタ。
「35……え? あの、申し訳ありません。もう一度よろしいですか?」
「はい。35です」
今まで淀みなく登録作業を続けていた受付の女性の手が止まり、年齢の所だけ聞き直した。
女性の顔がメリアさんを見て、手元に視線を戻し、そしてまたメリアさんの顔を見た。めっちゃ二度見してる。
そうだよねえ。見えないもんねえ。どう見ても20代前半だもんねえ。
「そ、そうですか……。お若いですね……。はい、質問項目は以上となります。では最後に登録料として、小銀貨三枚頂戴します」
驚きの事実に手が止まってもさすがはプロ。すぐに作業を再開した。そして想定外の事を口にした。
あ、お金掛かるんですね……。
困ったな……お金なんて持ってない。う~ん、換金できそうな物もないなあ……。
にしても、お金を稼ぐ為に冒険者になりたいのに、その冒険者になる為のお金を稼がなきゃいけないってなんだよ……。
まあ、組合も全くの無一文が来る事は想定してなかったってだけだろう。なんてったって街に入るのにも、街で生活するのにもお金はかかる訳だし。
くそう、世界が変わっても、世の中金か!
決めた! なんとかして一杯お金を稼いで、面白おかしく暮らすんだ!
「あのー、どうしました? もしかして手持ちが足りませんか?」
決意を新たにしたのはいいが、今この瞬間にお金が必要な事実は変わらない。
俺達が固まっているのを見て察したようで、受付の女性がそう聞いてきた。
「ええ……」
「そうですか……。登録料を支払いいただけないと、冒険者登録は行えませんね…………。申し訳ございません」
申し訳なさそうな顔で受付の女性が頭を下げてきた。
「そうですよね……。分かりました。出直してきます」
「はい。またのお越しをお待ちしております」
すごすごと窓口から離れ、少し離れた場所で談笑しているジャン達の元へ向かった。報酬の受け取りは終わったようだ。
「おう、登録は終わった……なんだ、随分辛気臭え顔してんな。どうかしたのか?」
「登録料の支払いができなくってさ…………登録できなかったよ……」
「あん? お前ら文無しだったのか?」
うぐう……。事実だけど、事実だけどさあ! もうちょっとオブラートに包んでよ!
実際メリアさんはダメージが大きかったらしく、その場で崩れ落ちてしまった。
「はは……一文無しか……。一文無しじゃレンちゃんを養っていけない……。レンちゃん、甲斐性なしのお姉ちゃんでごめんね……」
「ったく。おい、ジャン」
組合長は『しょうがねえなあ。』という顔でジャンを見た。
「ああ、分かってる」
それだけで通じたらしく、ジャンは俺の前に立ち、手を伸ばしてきた。手の上には数枚の貨幣が乗っている。
メリアさんは話しを聞ける状態じゃないと判断したんだろう。正しい。
「お嬢ちゃん。君達の取り分だ。受け取ってくれ」
「取り分って……何の?」
なんだろ。ジャン達の依頼を手伝った訳でもないし、魔物を討伐した訳でもないしなあ…………あ、分かった。
「……いくら俺達が哀れでも、施しを受ける程墜ちては……」
「違えよ! これは正真正銘お嬢ちゃん達の取り分なんだよ!」
違った。俺の言葉を遮ったジャンはそのまま言葉を続けた。
「まず、俺達が受けていた依頼だが、報酬が二段階に分かれている。まずは、『竜巻の発生原因の調査、解明』。ま、これは依頼達成の最低ラインだ。ここまで達成した段階での報酬は大銀貨五枚。で、次は努力目標みたいな奴で『原因となる要素の排除』だ。これは原因が未知の時に付くオプションみたいなもんだが、今回、君達を組合に連れてきた事でこれも達成した。こっちの達成報酬は大金貨一枚」
へー。ジャン達が受けてた依頼ってそうなってたんだー。
貨幣価値が分からんから、報酬が高いのか安いのかも分からないけどね!
「はあ」
生返事をする俺に構わず、ジャンは話を続けていく。
「で、ここからが本題だ。組合の規約で『冒険者で有る無しに関わらず、依頼達成に著しく貢献したと依頼を受諾した冒険者、並びに組合が判断した場合、その者にも報酬を分配する。』ってーのがある」
「へー」
そりゃまたお優しい規約ですね。冒険者と組合が認めてさえくれれば、冒険者じゃなくてもお零れに与れるのかー。
あ、冒険者はともかく、組合が認めるってのがハードル高いのかなー。
「返事がすげえおざなりだな……。で、今回その規約が君達に適用される」
「へー。…………へあ?」
予想外だったので、変な声が出てしまった。
正直な所、『なんでそんな事説明してくれてるんだろ?』って思ってたからな!
完全に他人事として流してた。
そんな俺を見て、ジャンは肩を竦めた。
「当たり前だろ? 竜巻の発生原因は君達だ。着いてきてほしいと言ったのは俺達だが、君達はそれを拒否して、あそこで静かに生活を続ける事もできた訳だ。でも君達は俺達に着いてきて、組合への報告に同行してくれた。規約が適用されてもおかしくない」
「それは……」
そんなもんなのか? 大丈夫? その規約、甘すぎない?
俺の心配を察したんだろう。今度は組合長が口を開いた。
「ま、冒険者の一存だけで規約が適用されちゃ敵わんから、組合職員の同意も必要なんだよ。で、そこは組合長である俺が同意した訳だ。ぶっちゃけ、冒険者側からこの規約を適用しようとする奴なんてほとんどいねえんだがな」
そりゃそうだろう。規約を適用すると、一般人に達成報酬を分配しなくちゃいけない。つまりは自分達の受け取る報酬が減るってことだからな。よっぽどの物好きじゃない限り、そんな事しないだろう。
「はあ……」
「そして、わざわざ依頼達成の為に街に来てもらっておいて、そのまま野たれ死なれると、こちらとしても後味が悪いし、組合自体の信用が下がる。冒険者以外の協力者が減っちまう可能性もある。組合に協力するとでも思って受け取っといてくれや」
そんな言い方されたら、受け取らざるを得ないじゃないか。
……まあ、こちらとして助かるし、有り難く受け取っておこうか。
「……あい。じゃあ受け取る」
ジャンの手に乗っていた貨幣を受け取る。
十円玉くらいのサイズの金貨が五枚に五百円玉くらいの銀貨が二枚。そしてこれまた十円玉くらいのサイズの銀貨が五枚だった。結構ずっしり来るな。
「おぉ~。これがお金……。ねえ、これで俺達二人分の登録料、足りる?」
「登録料は一人当たり小銀貨三枚だからな。余裕で足りるぞ」
「ほんと!? ありがとう!」
やった! これで冒険者になれる!
「おねーちゃんおねーちゃん! お金! お金もらった! これで冒険者になれるよ!」
俺は受け取った硬貨を握り締め、ルンルン気分でメリアさんに近づいた。
俺の声は届かなかったのか、メリアさんは先ほど崩れ落ちてから微動だにしていない。肩を叩きながらもう一度声を掛けようとしたところで、小さな声でブツブツと独り言を言ってるのが聞こえた。目が虚ろでちょっと怖い。
『……こうなったら、レンちゃんにばれないように娼婦に……いや、ばれないとか無理か。美人局……? そうよ、これならやりようによっては体は売らないでいける……。』
ショックの余り、犯罪に手を染めようとしている! しかも美人局かよ! えぐいな! メリアさん美人だから引っかかる人めっちゃいそう!
「おねーちゃん! ねえ! おねーちゃんってば!」
肩を掴み、強めに揺さぶる事で、ようやくメリアさんは俺に気づいてくれた。
「……ハッ! あ…………。ご、ごめんねレンちゃん。不甲斐ないお姉ちゃんでごめんね……! お姉ちゃんがんばるから! がんばってお金稼ぐから、捨てないでぇ……!」
我に返ったようだ。で、俺の顔を見た途端、謝りながら抱きついてきた。
いや捨てないでって。どうしてそんな思考になっちゃったんだよ。
というかメリアさんの声が大きかった為、周囲の冒険者がなんだなんだと視線を向けてきている。
ええい! こっち見んな! 見世物じゃねえぞ!
さっさと事態を収拾するために、努めて優しい声を意識しながら、泣きじゃくるメリアさんになだめることにした。
……普通逆じゃね?
「おねーちゃん。大丈夫だよ。おねーちゃんを捨てたりなんかしないよ」
「ぐすっぐすっ……ほんとう?」
メリアさんの顔は涙でぐしゃぐしゃだ。俺に捨てられるって恐怖のせいか、幼児退行してる気がする。
あー、このメリアさん見てると、なんかキュンキュンする。
「当たり前だよ。ほら、お金もらったから。これで冒険者になれるよ」
握りしめていた硬貨をメリアさんに見せると、メリアさんは目を丸くした。
「え……そんな大金、いつの間に……。ハッ! だめよレンちゃん! まだそんな小さいのに、変な病気移されちゃうよ!」
「いや違うから」
つい演技を忘れて素で返してしまった。
俺の否定の言葉も聞こえてなかったようで、メリアさんは涙目のまま俺を抱きしめる力を強め、周囲を威嚇し始めた。『がるるー』とか聞こえる。
幼児退行から脱したと思ったら今度は犬化した。
というかジャンや組合長の話、聞いてなかったのか……あんな状態で、聞いてる訳ないか。
しょうがないので、ジャン達から聞いた話を改めてメリアさんに説明した。
「…………なるほどー。そんな規約があったんだねー。てっきりレンちゃんが体を売ってお金を作ったのかと……」
説明しているうちにメリアさんは調子が戻ったようだ。無事に犬化も解除された。
「いやいや。そんな時間ないし。第一、こんな子供を買う奴なんていないでしょ」
幼女だぞ? いくら元の世界とは法律が違うとは言え、犯罪だろう。
「わからないよー? レンちゃんかわいいし、世界は広いからねー」
ニヤニヤしながら周りを見渡すメリアさん。
釣られて周囲を見渡すと、結構な人数がバッと視線を逸らした。性別関係無く。
……俺、この業界に入って大丈夫だろうか……。
「ゴホン! ……金は手に入ったんだ。登録に行かないのか?」
おかしくなった空気を振り払うように咳払いをしてから、組合長が俺達に話しかけた。
やっべ、忘れてた。窓口に向かう為にメリアさんの手を引く。
「そうだった! おねーちゃん、行こう!」
「うん、そうだね。…………皆さん、ありがとうございました」
メリアさんは一度立ち止まり、ジャンと組合長に向かって頭を下げた。
あ、忘れてた。俺もお礼しなきゃ。
「ありがとうございました!」
「俺達は規約に従っただけさ。気にすんな」
「そうだぞ。だからさっさと登録済ませて来い」
「はい。登録料の小銀貨三枚、お預かりします。では登録完了です、お疲れさまでした。こちらが組合証になります」
「あっはい」
先ほどと同じ窓口に行ったら、一瞬で登録が終わった。
登録料支払い以外の処理は全て完了してあり、お金と交換で組合証を渡された。
あまりのスピード登録に俺もメリアさんもポカンとしてしまった。
不思議に思って聞いてみると、俺と組合長のやり取りを聞いていたらしく、すぐ戻ってくると思ったそうだ。
何この敏腕受付嬢。かっこよすぎる。
「この後、本来であれば冒険者についての各種説明がございますが、お連れの方の登録が終わってからに致しますか?」
「はい、それでお願いします」
「そうですか。承知しました。ではお名前からどうぞ」
よし、俺の番だな。受付の端に手を掛けて、と
「んぎぎぎぎ……わ!」
前回と同じように体を持ち上げて受付に顔を見せようとしたら、メリアさんが俺を抱っこしてくれた。
「ありがと!」
「どーいたしましてー」
笑顔でお礼を言ったらメリアさんも笑顔で返してくれた。
クスクスという笑い声が聞こえたので顔を前に向けると、敏腕受付嬢さんが口元に手を当てて笑っていた。
「仲がよろしいですね」
「あい! 仲良しなの!」
「「ねー!」」
俺とメリアさんのハモリに受付嬢さんは笑みを深くした。
「ふふ……。あら、いけない。つい和んでしまって職務を忘れる所でした。登録作業を続けましょうか。お名前をお願いします」
「レン! です!」
「はい、レンさんですね。……種族はなんでしょう?」
種族ねえ……。気にした事なかったなあ。というか人間族?以外の種族がどんな感じなのかもいまいち分からないな。
分からないからメリアさんに聞いてみることにした。
「種族? んー……? なんだと思う?」
「人間族じゃない? 他の種族の特徴とか特に見当たらないし」
人間族だろう、ということになった。じゃあ人間族という事で。
「あい。人間族で!」
「ふふ……はい、人間族っと。……年齢は? おいくつですか?」
これまたあんまり気にした事なかったなあ。多分小学校低学年くらいなんだろうな、とは思ってるけどさ。
よし、ここも困った時のメリアさんだ!
「年齢? どうかな、おねーちゃん」
「小さいって事くらいしか分からないねえ。まあ、6歳くらいでいいんじゃない?」
了解。わたし、れん! ろくさいです!
「じゃ、それでー。6歳!」
そこで、今までニコニコしながら登録作業を行っていた受付嬢さんの表情が曇った。
「申し訳ございません。冒険者登録には年齢制限がありまして、12歳未満だと登録できないんですよ……」
うそん。俺、冒険者になれないの?




