第97話 マリアさんがメリアさんの娘である事を身を以て知った。
今回、ちょっと短めです。
忙しくてなかなか書く時間が取れなくて……すみません。
それでも、なんとか頑張って週一更新は維持していこうと思います!
メリアさんとの再会を泣いて喜んでいた娘さん――マリアさんというそうだ――は、メリアさんと抱き合ってひとしきり泣いた後、そのまま眠ってしまった。
心から安らいだ顔で眠っている彼女を起こすのも気が引け、かと言ってこのまま店に居続ける訳にもいかず。しょうがないので、屋敷に連れ帰る事にした。メリアさんが抱っこして。
いい歳した大人(に見える)マリアさんを、まるで小さな子供かのように容易く抱っこするメリアさんの腕力に、ちょっと慄きながら屋敷に戻り、マリアさんを客間に連れて行ったのだが、そこで問題が発生した。まあ予定調和ともいえるかもしれない。
マリアさんがメリアさんから離れなかったのだ。それはもうガッチリと、コアラのように抱き着いていた。
「あー、これは離れない奴だ。こういうとこ、ちっちゃい頃と変わらないなあ。……どうしようレンちゃん」
困ったような、嬉しいような顔で俺を見るメリアさん。そんな顔で見なくたって大丈夫だから。メリアさんがどうしたいかなんて、手に取るように分かるよ。
「十年越しの再会だし、今日は二人一緒に寝なよ。俺は一人で寝るからさ」
「……大丈夫? 一人で寝れる?」
「俺をなんだと思ってるのさ。こんな見た目でも、中身はおねーちゃんとそう変わらない年齢だよ? ほら、俺の事は気にしなくていいから、さっさと寝た寝た」
「わ、わ、わ。分かった。分かったから。そんなに押さないで~」
メリアさんの背中をグイグイ押して、コアラ状態のマリアさん共々ベッドに押し込む。
二人揃ってベッドに横になったのを確認してから、俺はその場でクルリと半回転し、背を向けた。
「それじゃあ、いい夢を。おやすみー」
「うん。おやすみ。…………ごめんねレンちゃん。ありがとう」
メリアさんの謝罪混じりの挨拶に、俺は背を向けたまま片手をヒラヒラと振る事で応え、そのまま部屋を出た。
客間を出た俺は、その足で厨房へ向かい、メイド達と一緒に明日、店で出す用の料理を作る。
「よし。おねーちゃ……じゃなかった。ルナ、アレ取って」
「すみませんレン様。アレとはどれの事でしょうか」
「あー……ごめんごめん。ソレソレ。そこに置いてある奴。ルナの横にある奴」
「えっと…………これ、ですか?」
「そうそう。それ貸して」
「はい。どうぞ」
「ん。ありがと」
俺の意を汲んで動いてくれるメリアさんがいない調理は、いつもより時間が掛かった。
それでもなんとか料理を作り終え、今日やる事は終了。そろそろ寝ようと寝室に向かう。
普段だと、寝る前に少し工作等の作業を行うが、今日はする気が起きなかったので、寝巻に着替え、ベッドに寝転んだ。
「ひゃぁっ!?」
布団が冷たくてめっちゃびびった。変な声が出るくらいびびった。
普段はそんな事ないのに。と少し頭を捻り、すぐに理由が分かった。
「そっか。いつもはメリアさんと一緒に布団に入るから、冷たくないんだ」
まあ、いないものはしょうがない、と冷たい布団に潜り込んで目を瞑る。
「…………広いな」
二人で寝るのに丁度いいサイズのベッドは、一人で寝るには大きく、なんとも落ち着かない。
その日は、布団の冷たさと、広すぎるベッドに対する落ち着かなさで、なかなか眠気が訪れなかった。
……
…………
ちょっと寝坊してしまった。
まあ、余りに眠れなくて、意味もなくゴロゴロと布団の中を転がり続け、ウトウト出来たのが空が白んできてからだったので、しょうがないとは思うけど。
ちょっとフラフラしながら食堂に入ると、当たり前ではあるが、すでにメリアさん達母娘が来ており、テーブルに着いて朝食を摂っている真っ最中だった。
「あ、レンちゃんおはよー。今日は遅かったねえ」
「おはよう。おかあさんから聞いたよ。ごめんね、アタシが寝ちゃったせいで、一人で寝かせる事になっちゃったんだって? 寂しかったでしょ?」
「………………いや、別に」
今回が初会話のはずなのに、やたら馴れ馴れしいマリアさんに対して、俺はつい、ぶっきらぼうに返してしまった。
図星を突かれた事による恥ずかしさを隠す為に、そそくさと椅子に座ろうとして、固まった。
メリアさんはいつも座っている席に座っている。それはいい。それはいいのだが…………。
「? どうしたの? 椅子、座らないの?」
「ん? どうしたのレンちゃん…………あー」
マリアさんは不思議そうに俺を見るが、メリアさんは俺が固まった理由に気づいたようで、苦笑いを浮かべていた。
「どういう事? おかあさん」
「うん。マリアが今座ってる席、そこがいつもレンちゃんが座ってる席なんだ。だから、どこに座ればいいか迷っちゃったんだね」
その通り。でもそれだけじゃない。
メリアさんの隣の席、今マリアさんが座っている席が、俺の指定席だった。
そこに俺以外の人が、しかもメリアさんと血の繋がった娘であるマリアさんが座っている事で、『ここはお前の居ていい場所じゃない。ここはアタシの居場所だ』と言われたような気分になった。
気のせいだっていうのは分かってる。
「え? 逆側が空いてるんだから、そこに座ればいいじゃない」
「いやまあ、それはそうなんだけど…………」
気のせいなんだ。
「まだ固まってるね。そんなにこの席がいいのかな?」
「どうかな? いつも座ってる席じゃないと落ち着かないとか?」
気のせいだ。
「ふーん…………じゃあ、レンちゃんの席はここね! よいしょ……っと。うわ! 軽い! やわっこい!」
「マリアもレンちゃんくらいの時は、軽くてやわっこかったなあ」
「ちょっと! なにその言い方! まるで今は重くて硬いみたいでしょ!」
気のせ………………ん?
「な、なんで膝の上に……?」
気づいたら俺は、マリアさんの膝の上に座らされていた。いつの間に……!?
しかも、しっかりお腹の辺りを手で抑えられていて脱出不能……!
「え? レンちゃんはここに座りたいんでしょ? で、私もわざわざ料理ごと別の席に移るのも面倒。だったら二人で同じ席に座ればいいじゃない! どう! この完璧な案!」
頭上からそんな声が聞こえてくる。声のトーンで分かる。これはドヤってる。すっごいドヤってる。
………………さすがはメリアさんの娘さん。親に似て、とても優しい人だ。ほぼ初対面である俺の気持ちを読んで、俺の意を汲んでくれた。
この親にしてこの子あり、という事か。
なんというか、一人悶々としていた俺が、馬鹿みたいだ。
「あー…………。あったかくて、やわっこくて、抱っこしてると気持ちいー…………なんかいい匂いするし……」
「いや、あの、ちょっと……」
後頭部の辺りからなんかフガフガ聞こえる! 何!? どうなってるの!? 今どんな状況!?
「こら。何レンちゃんの髪に顔突っ込んでるの」
髪に顔!? 何! その状態で匂い嗅いでんの!? 恥ずかしいからやめて!?
「そういうのは食事が終わってからにしなさい」
「むー……分かった」
「いやおかしいよね!? そうじゃないでしょ!?」
それじゃあ、食事の後だったら問題ないみたいに聞こえるよ!?
食事とか関係なくやめてよ!
「まったくもう。……後で交代だよ。私も久しぶりにレンちゃんを思い切り抱っこしたいし」
「はーい」
「交代制!?」
止めなかったのはそれが理由!?
あとメリアさん、久しぶりって言ってるけど、毎日俺を抱き枕にして寝てるよね!? 久しぶりって言う程久しぶりじゃないよね!? 一日は久しぶりとは言わないよ!?
「それじゃあ、パパッと食べちゃいますか。……はい、あーん」
「一人で食べられるよ!? そこまで子供じゃないから! ちょ、ストップ、やめモガァッ!」
「あー! ずるい! 私もやる!」
「モグモグ……んっく。いや、そこは止めろよ! なんで便乗してるんだよ!」
「はいあーん」
「いやだからやめモゴゴォッ!? ムグムグ……」
「「かーわーいーいーッ!!」」
その後、俺は二人に次々に食事を口に突っ込まれる事になった。
最後の方は俺も抵抗を諦め、口の前にスプーンやフォークが差し出されると、素直に口を開けてそれを受け入れた。
そして俺がスプーンやフォークを咥える毎に、頭上と隣から響く黄色い歓声。
そしていつの間にか集まって来て、俺達の様子を興味深げに、そして羨まし気に眺めるメイド達の姿。いやそこは眺めないで止めて。羨ましそうにしないで。俺、そろそろお腹一杯…………はい。あーん。
…………つーかすっげえ食ってるはずなのに、なんで料理が無くならない…………おま! ルナ! 何さらっと料理追加してんの! なんでかぶりつきで眺めてんの! なんで頬染めてんの!? いや、俺もう食べられな……はい。あーん。
そんなエンドレス餌付けは、俺のギブアップ宣言でようやく終わりを告げた。
もう、腹がはち切れそうだ……。うわ、お腹ぽっこりしてる。すげえ。漫画みてえ。
なんというかほんと、似た者母娘だなあ。と、ぐったりとマリアさんの胸に体を預けながら…………あ、ここは似てないんだ。メリアさんと違って薄――――あ、やめて、触らないで。今触ったら出ちゃう。出ちゃ……ヤメロォ!
メリアとマリア……字面が似すぎてて結構困る……。
親と子の名前を似せるのはリアルでも割とある事だと思いますが、文字にするとここまで困るとは……。
「読みにくい!」「わかりにくい!」という意見が多く出るようであれば、変更も視野にいれようと思います。
作品自体が読みにくい! というのは思ってても心の内に仕舞っておいていただけると有難いです。私のメンタル豆腐なんで、言われるとすっごい凹みます。




