表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

105/222

第94話 待ち人来たる。

今回はオネット視点。

久々にR-15タグが仕事をする、かもしれません。そこまででもないかな?

 ワタシは今、人を待っている。


 恋慕ではないが、早く来て欲しい、早くワタシの前に現れて欲しい、と切に願いながら、光源一つないこの場所で、立ち尽くしている。

 ああ、早く来てください。ワタシの前に立ってください。顔も知らないアナタが待ち遠しい。

 来るどうかすら不明瞭だけれども、ワタシはひたすらに待ち、この場に立ち続ける。


 お願い、来て。来て。来て。来て来て来て来て来て来てきてきてきてきてきて――――


 ――――来た。


 扉が小さな音をたてながらゆっくりと開き、人一人がギリギリで通れるだけの隙間を開ける。

 その小さな隙間をすり抜けるように、複数の人がワタシが立っている建物――――〈鉄の幼子亭〉へと足を踏み入れる。人数は…………四人。

 各々が手で持つ型の照明を持ち、ゆっくりと、足音を立てないように静かに店内に入り、最後の一人がそっと扉を閉めた。


 照明が放つ光はワタシの元までは届かず、少し手前までを照らしている。

 このままではワタシの存在を気づいてもらえない。それはとても悲しい。なので。


「いらっしゃいませ~。〈鉄の幼子亭〉へようこそ~」


 声を上げる事にした。


「だ、誰だ!」


 一番最初に店内へ入ってきた人が、そんな言葉と共にワタシが立っている方向へ照明を掲げた。


「ワタシの名前は~、オネットと言います~。〈鉄の幼子亭〉の給仕兼、お店の防衛を担当しています~」


 誰何されたのでちゃんと答えたのに、四人はお互いの顔を見合わせながら、ワタシを放って、小さい声で話し合いを始めてしまった。


「おい! 店員がいるなんて聞いてないぞ!」

「どうすんだよ!」

「金はもらっちまってんだ。やる事は決まってるだろ」

「……そういや、『店長以外なら、一人や二人攫っても構わない』って言ってなかったか?」

「…………言ってたな。後、『生きてさえいれば、何をしても構わない』とも言ってた」

「何をしてもか……へへ。暗くて見えなかったが、良く見りゃえれえ別嬪じゃねえか」

「しかもすげえ体だ」

「こりゃいいや。金がもらえて、しかもあんなイイ女とヤれるなんてなぁ」


 話し合いは終わったらしく、全員がワタシの方へ視線を向け直した。見事なまでに、全員嫌らしい笑みを浮かべている。


「申し訳ございません~。当店はただいま営業時間外でして~。当店は朝から営業しておりますので~、また営業時間中にご来店くださいませ~」


 そう言ってワタシが頭を下げると、周囲から心底おかしそうな笑い声が聞こえてきた。頭を下げている間に、ワタシを取り囲んだようだ。


「ぶひゃはははっ! え、営業時間もなにも、絶賛休業中じゃねえか!」

「ひっひひひひ! 三日後に開店なんだって? そうされると困る奴がいるんだよ。だから俺達みたいなのを雇って、開店できないようにしてほしいんだと!」

「俺達は金をもらって、この店をぶっ壊して、ついでにあんたで楽しむって寸法さ!」

「安心しろよ! 殺しゃしねえ。まあ二度と元の生活には戻れないかもしれねえけどなぁ! あっはははは!」


 笑いながら代わる代わる喋る四人に対して、ワタシもそれに負けないくらい大きな笑顔を浮かべた。


「なるほど~。それでしたらワタシは~、〈鉄の幼子亭〉防衛担当として~、武力による防衛行動を行います~」


 私の宣言に、四人は一瞬、呆けたような表情を浮かべ、すぐさま先ほどよりも大きな笑い声をあげた。


「ぶ、ぶ、武力によるって! あんたみたいな女が?」

「は、腹いてえ…………! ヒヒヒ!」


 笑い転げる四人を無視して、その内の一人に近づいたワタシは、足を控え目に振りかぶって男の脛を蹴った。


「えい~」


 ボキャッ!


「ギッ!!!!」


 短い叫びと共に男が崩れ落ち、蹴られた脛を抑えてのたうち回る。その様子を見て、他の男達は腹を抱えた。


「ぶはっ! おま、いくら脛蹴られたにしても、そりゃねえだろ! ガキかよ!」

「弱すぎだろお前! ぎゃはははは! ヒィ、ヒィ……苦しい! 死ぬ!」


 転げまわる男のおかげで、他の男達は隙だらけだ。これ幸いと順番に攻撃を加えていく。


 二人目。


「えい~」

 ボキィ!

「ぎゃははははグギャッ!!?」


 三人目。


「や~」

 ゴキン!

「ひひひひひひウギッ!!!!??」


 四人目。


「とお~」

 バキッ!

「わはははははハグッ!!??」


 全員が全員、蹴られた瞬間に短い叫びをあげ、漏れなく床を転げまわっている。

 とりあえずこれで、逃亡を防止する事が出来た。続いて、この人達の雇い主について聞いて情報収集を――――


「痛ええええええ! 痛えよおおおおぉぉ!」

「折れた! 足の骨が折れたああああ!!」

「ああああああああああ!! うわあああああああああああああああ!!」


 …………うるさい。


「「「「モガァッ!?」」」」


 そのまま叫ばせ続けていると、近隣の迷惑になりそうなのと、単純にうるさかったので、一度全員に猿轡を噛ませて黙らせる。といってもムームー唸ってはいるが。

 そのまま少し待機していると、痛みに慣れてきたのか、荒かった息遣いが落ち着いてくると共に、唸り声も小さくなってきた。


 全員一斉に話を聞くのは手間なので、適当に一人選び、他の男達から少しだけ離してから猿轡を取った。余りお互いの距離が近いと、これからの作業の邪魔になってしまうので。


「それでは~、私の質問に~、キビキビ答えてくださいね~。あなたのお名前は~?」

「……ア――」

「遅いです~」

「アガッ!?」


 折れていない方の足の脛を軽く踏みつける。生木を折るような音と共に、脛が『く』の字に折れ曲がった。


「次の質問~。住んでいる場所は~?」

「ひ、ひん――」

「遅いです~」

「ギャアッ!!!」


 左腕を踏みつけた。足裏に骨の折れる感触が伝わってきた。


「もう~。ちゃんと答えてくださいよ~。次です~。いくらで雇われましたか~?」

「大金貨! 大金貨一枚だ!」

「良く言えました~。そうですか~。大金貨一枚ですか~…………」


 残る右腕を、先ほどよりも強めに踏みつける。肉が潰れ、骨が砕ける音が鈍く響く。


「あああああああああ!! なんで! ちゃんと答え――!」


 喚く男の襟を片手で掴み、グイと引き寄せる。涙と鼻水と脂汗でぐちゃぐちゃの、真っ青な顔色の男の顔が、鼻がくっつきそうな距離まで近づいた。


 ワタシの思考を正確に伝達するために、一時的に疑似人格を停止。

 それに伴い、疑似人格に合わせて設定されている表情、声音も規定値に戻る。

 人で言う、『無表情』かつ『平坦な声音』で男に告げた。


「――――所有者は、この店をとても大事にしています。そんな場所を、たかだか大金貨一枚で破壊しようとする。当機はその場に居ませんでしたが、マリが一部始終を観測していました。所々情報に乱れがありましたが、所有者の表情、声、そして涙。その全てを。…………所有者にそのような表情をさせる存在を、我々は決して許しません」


 情報伝達は完了したため、停止していた疑似人格を再起動する――――完了。適用開始。


「と、いう訳で~、最後の質問――――あら~?」


 いつの間にか、吊り上げていた男は白目を剥き、泡を吹いていた。完全に気絶している。これでは質問出来ない。今までの質問にあまり意味はなく、最後の質問が本命だったのだが。


「しょうがないですね~。よいっしょ~」


 不要になった男を離れた場所に投げ捨て、残る男達に目を向け直す。

 その瞬間、全員がビクリ! と体を震わせたのを見据えながら、ワタシはニッコリと微笑んだ。


「あなた達は~、ちゃんと質問に答えてくださいね~?」


 ……


 …………


「よいしょ、よいしょ…………とうちゃ~く」


 ワタシが大きい荷車を押しながらやってきたのは、衛兵の詰め所。その裏手にある練兵場だ。

 塀の前の、邪魔にならない位置に荷車を止めると、手の甲で扉を数回、扉が壊れない程度の力加減で叩く。


 ガンガンッ!


 そして待つ事暫し。扉が開き、中から衛兵さんが一人出てきた。


「お? 今日はオネットちゃんか。どうだった?」


 この衛兵さんは〈鉄の幼子亭〉の常連で、ワタシも何回かお話した事がある。

 この人に限らず、衛兵の皆さんは大体常連なのだが。


「四人でした~。全員、いつも通りの状態にしてありますので~。あ、これ、ワタシがこの人達から聞いた事が書いてありますので~」


「おう、ありがとよ。じゃあ持ってくから、ちょっと待っててくれな」


「は~い」


 荷車ごと男達を衛兵さんに引き渡し、再度待機。

 特にする事もないので、ボーッと空を眺めて時間を潰す。どこまでも青い空を白っぽい鳥が飛んでいるのが見えた。


「待たせたな」


 鳥は見えなくなってしまったので、代わりに雲を眺めていると、先ほどの衛兵とは違う、しかし聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「あら~? 侯爵様じゃないですか~? なんでこんな所に~?」


 見上げていた視線を下げると、そこにいたのは、イースの街の領主である侯爵様だった。

 この人も、それなりの頻度でお店に食事をしに来るので顔は知っている。対応は所有者が専任しているので、した事はないが。

 ……ワタシの持つ記録では、貴族という括りの人間は、あまり外で食事をしない、とあるのだが、この人は例外らしい。


「うむ。つい先日、貴殿らの店が破壊され、それ以降も数日おきに襲撃されていると聞いてな。襲撃された翌日の朝はここにやってくると聞いたので、待っていた」


「……情報遅くないですか~? 最初に襲撃されたの、結構前ですよ~?」


「うむ……。襲撃の報せを受けた私が暴走して、やり過ぎては困るとかで、情報を絞っていたらしい。……全く、私は領主だぞ? 民に降りかかる火の粉を払うのが務めであろうに、それを報告すらせんとは……」


 苦々しい顔でブツブツと文句を言う侯爵様。


「ちなみに~、当日に報告を受けていたら~?」

「衛兵を総動員し街を封鎖。逃げられないようにした上で街中を虱潰しに調査させ、犯人を拘束。財産没収の上奴隷落ちだな」


 ちょっとした好奇心で投げかけた私の質問に、侯爵様は間髪入れずに答えた。

 ……人と共に過ごすようになって日が浅いワタシでも分かる。部下の人達は良い仕事をしたと。


「どう考えてもやり過ぎです。街からの永久追放辺りが妥当な所でしょう」


 視界に誰もいないのに、三人目の声が聞こえた。

 体を少し横にずらしてみると、丁度侯爵様の身体で隠される位置に、初老の男性が立っていた。

 確か名前は……ハンスさん。毎回、侯爵様と一緒に来店するので、この人もそれなりの頻度で顔を見る。来店の度に、所有者と共に侯爵様の給仕をしており、店での食事はしないが。


「そんな訳なかろう。処刑しないだけ有情だと思うが? デミグラスソースは至高の料理だぞ? 唯一それを提供し、それ故、私も懇意にしている店を襲撃するなど、我が侯爵家への宣戦布告と同義だ」


 …………ワタシの持つ記録は、誤りが多いのかもしれない。記録上の貴族像と、侯爵様の態度や言動がが結びつかなすぎる。


 ハンスさんの後ろで、衛兵さんが荷車を持ってオロオロしているのを見ながら、そんな事を思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり領主も激おこだった( ˘ω˘ )
[一言]  拠点防衛ユニットが防衛しなかった意味がわからない。  店を壊された後、防衛するのなら、二人の存在は必要なかったのでは?
[一言] オネットは激おこぷんぷん丸、領主も激おこムカ着火ファイアーで、衛兵も既に定例でチンピラを受け取ると まともな冒険者なら店主を知ってるだろうから嫌がらせに来るのはチンピラとかかな なんにして…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ