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第八羽:疑念

それは初めて芽生えた思い

 ニックが帰った後、片付けながら改めて考える。



「あんまり実感が無いようだけどな、これは高価とかそう言う話じゃ収まらないかもしれないんだぞ? その羽が本当にオリジナルなら、羽の大きさから間違い無く小鳥だ。つまり、あいつは今まで伝承でしか知られていないシキミドリの巣を見つけてた可能性があるんだよ。……まぁ、ただ拾っただけかもしれないし、憶測の域をでないけどな……。とにかく、気を付けろよ?」




 ニックは帰る前にも念を押してくれた。でも、どうしたものだろう。理屈は分かる。ただ、本当にそこまで危険なのだろうか?伝承のように皆で見つけて大切に保護する、ではいけないのだろうか?

 シキミドリを渡された日、あの人は言っていた……。



ーーーーーーーー


 その日、出発の前日は何も手に付かなかった。せっかく一緒に暮らせると思ったのに、あの人は明日、旅に出る。

 夜、部屋で何をするでも無く、窓から外を眺めていた。こんな寂しい夜なのに、星は嫌になるほど綺麗だった。


 コンコンと控えめにノックがされる。相手が分かっているので返事はしない。……訳にはいかない。


「はい……」


 入って来たのはやっぱりあの人だった。


「……メグル、機嫌を直してくれないかな?出発の前に、メグルの笑顔が見たいんだ。曇った表情のまま”行ってきます”はやっぱり悲しいものだから」

「……怒ってる訳でも、困らせたい訳でもないの……。ただ寂しいし、どんな顔で送り出せば良いのか分かんない……」

「ほら、いつも通りで良いんだよ。今までも送り出してくれたろ?また、色々な話しをたくさん聞かせるから」


 隣に来て頭を撫でてくれる。余計に寂しさがこみ上げて来る。


「ねぇ、直ぐ帰って来る?」

「う~ん、どうかな?少なくともメグルにいっぱい話してあげられるくらいには色々見てまわるつもりだよ。……ごめんね、せっかく来てくれたのに。すぐ出発する事になってさ……」


 ふるふると首を振って否定する。我が儘を言っているのは私だ。この人はいつも通り、ただ旅に向かうだけだ。


「ごめんなさい。私だって旅のお話し、大好きだもん。寂しいけど、待ってる」

「……ありがとう、メグル。よし、じゃあ、可愛いメグルのために、元気の御守りをあげよう」

「元気の御守り?」


 そう言って取り出したのは小瓶だった。さっきまで眺めていた星の輝きが霞むほど、キラキラと輝いている。


「それ、シキミドリ?お店にもある……」

「うん。メグルに持っていて欲しい。受け取ってくれるかい?」


 突然の出来事に戸惑う。シキミドリと言えば高価な物だし、仕事の都合などで私何かより必要としている人は他にもいる。

 でも、その優しい輝きに惹かれ、気が付くと私は自然と頷いていた。


「ありがとう。大事に、大事に仕舞っておくんだよ?」


 首に下げてくれる。初めて手にした自分のシキミドリ。羽は小さいのに、懸命に光っているようで応援したくなる。


「ふふっ、可愛いね!」

「お、やっと笑ってくれた。良かったよ」


 顔を見合わせ二人で笑う。うん。私も、ちゃんと送り出せそうで良かった。


「気を付けてね。出来るだけ早く帰って来てね。それから手紙も!」

「……ねえ、メグル。メグルはあの伝承をどう思う?」


 みんなが知っているシキミドリの伝承。実際にシキミドリが存在する以上、本当にあった事なんだと思っている。


「今のこの世界は平和の象徴なんだよ。争いを見かねた少女が望んだ平等な世界。厳しい環境を生き抜くために人々は手を取り、発見されたシキミドリですら仲良く分けられた。争いらしい争いはあまり聞かない」

「うん。学校でもそう習った」


 外を眺めてあの人は呟く。その時の表情は忘れられない。


「まるでそう思え(・・・・)と言わんばかりだね……」

「え?」

「旅の先で見つけたいんだ。人間本来の姿を」


 それって、どう言う……?


「まぁ、それもこの安心できる場所があるからこそだけどね。矛盾しているけど」


 途中から何だかよく分からない。 


「すまない。メグルにする話しじゃなかったね」


 最後にはいつもの笑顔を向けてくれた。



ーーーーーーーー


 その時の私は深く考える事もなく、ただしばしの別れを耐える事で精一杯だった。


「もしかしたら、あの人の言う人間本来の姿って……」


 ニックの話とあの人の話。あの人が何を求めて旅をしているのか、何となく分かってしまった気がする。

 同時に湧き上がる一つの疑問。



 この世界は、何かとんでもない事を隠しているんじゃないだろうか?


 

次回予告

「そりゃあ、流石にねぇ」

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