第七羽:渡した物、渡された物
レスト・パーチ閉店後に……
「ほら、これで良いか?」
レスト・パーチの閉店後。ニックに頼んでおいた作業場用の椅子が届きました。
ちょっとした時に休めて、邪魔にならない程度の大きさ。うん、希望通りだ。
「ありがとう、ニック。さすがだねぇ」
手触りも良く、仕上げも丁寧なのが分かる。
「別に、何てことねぇよ。ほら、極力費用も抑えておいてやった。後日払いに来るように!」
「はーい」
受け取った請求書をしっかり握る。ニックには本当に世話になってばっかりだ。
「でも珍しいね。泊まりで作業なんて」
ニックは普段馬車通いで、仕事が終わると私達の町まで帰って行く。今日は泊まりらしく、こうして閉店後に持って来てくれた。
「隣町の学校から大量の発注が来たんだよ。納めるのはだいぶ先だけど他にも仕事はあるからな。しばらく朝から晩まで作業になる」
隣町の学校。この周辺の子供達が集まる大きな学校。私もニックも通っていた。
「気にせず後回しにしてくれて良かったのに。大変だったでしょ?」
「お前の注文が先だった。そっちこそ気にすんな。で、そう言やなんか話があるんだって?」
そうだ。今日来ると知って、急いで用意したんだ。
「この前はお母さん、呼んで来てくれてありがとう。」
クッキーを渡す。他に思いつくのが無かったので、こんなものしか用意出来ないかったけど。
「……」
「……ニック?」
反応が無い。やっぱり別のを考えた方が良かったかな?
「い、いや、別に……つうか、い、良いのか?貰って」
「ん?そのために焼いたんだけど」
そっと受け取るニック。なんかにじみ出る雰囲気がぽわーんとしている気がする。変なニック。一応喜んでくれてるみたいだけど。
「それじゃ、コーヒー煎れるね」
「おう、悪いな!」
やっぱりなんか変?
二人分のコーヒーを煎れ、ニックが作ってくれた椅子に早速座る。こうしてゆっくり話すのも久しぶりかな。
「ま、あんまり心配させるなよ?休憩中にふらっと寄ったら風邪って言うじゃん。午後の作業にも遅れたんだからな?」
「うん。気を付ける」
あれ以来、しっかり備えてから寝てるもん!もう大丈夫!
「この前、棚から落ちそうになったのもそうだけどよ、普段から危なっかしいもんな」
むぅ。いつもの厳しいニックだ。さっきのは気のせいだったのかな?
「そう言えば、誰も居ないから聞くけどさ、お前何か首から下げてる?」
「……へ?」
「その時にさ、抱えた拍子に手が何かに当たったから……単純にぶつけて危ない物なら注意しようかと」
しまった。いや、ニックなら、良いか……それに二人きりだし。
「うぅ……皆には内緒だよ?」
小瓶を取り出す。羽は赤く輝いていた。
「なっ!?」
「あの人から貰ったんだ。他の人には見せちゃいけないって言われてるけど……あ、おじいさんとおばあさんは知ってるよ」
ニックはポカーンとしている。確かにシキミドリは貴重だけど……
「……ちょっと見せてみろ」
「え?」
「良いから!」
びっくりした。急にどうしたんだろう?迫力に押されて仕方無く渡す。
食い入るように眺めるニック。
「間違いない……くそっ! 何てもん持たせやがる、あのバカ野郎……!」
「な、何?もう良いでしょ?」
「うるせー、ちょっと待て!」
何か考え込んでいるようだ。本当に何だろう?
「うわぁ~ん、返してぇ~! まずは返して!」
「あぁ、もう、取りゃしねぇよ! つうか、絶対に人前で出すな! 絶対に人に話すな!」
ニックはそう言い、一呼吸置いて更に続けた。
「これはオリジナルだ」
「は、……え?」
言葉を失った。
『オリジナル』
それはシキミドリが複製されるようになって付けられた複製品では無い物の事だった。現存するオリジナルは研究所に残され1枚以外、ほぼ無いとされている。この町にある最も古いおじいさんの、お店のシキミドリでさえ複製から更に複製された第2制と言われる物だ。
「え、な、何で分かるの?」
「こんな小瓶に入るような小さい羽での複製はされていない。何でか成功例が無いんだよ」
それが本当なら、このシキミドリがオリジナルであろうと、複製品であろうと、その価値は計り知れない。
小瓶を返しながらニックは舌打ちする。
「ちっ。あいつ、帰ってこないどころか、こんな危険な物持たせやがって。ただじゃおかねぇ!」
「危険?」
「この町の奴らを悪く言いたくは無いけどな、こんな価値のある物持ってたら誰に狙われるか分かんねぇぞ? 絶対バレるなよ?」
どうやら、私が思っている以上にとんでもない事態のようだ。
次回予告
「大事に、大事に仕舞っておくんだよ?」