第六羽:今は甘えて
厳しい世界。一つの油断が大きな事態を呼ぶことも
「うーん、風邪ですね。お薬を飲んでちゃんと休んで下さい」
お医者さんの言葉が頭の中をぐるぐる回る。完全に油断した。
その日の朝は強烈な寒波が襲い、見事に風邪をひいてしまった。寝る前のシキミドリは夏を示す緑色だったので、夜中に冬へと急変した事になる。見事に薄着のまま眠りに就いてしまい、結果はこの有様。
やって来たお医者さんに絶対安静を言い渡され、今は自室で寝かされている。
寒気、発熱、頭痛で気持ち悪い。ここまで盛大に体調を崩したもの久しぶりだ。
コンコンとノックが聞こえてくる。
「はい……」
カチャリとドアから顔を見せたのは予想外の人物だった。
「お、お母さん!?」
驚いて起き上がる。何故居るのだろう?
「あぁ、ダメよ、寝てないと」
スタスタと寄ってきて布団を掛け直してくれる。小さい時も体調を崩すとこうやって寝かしつけてくれたなぁ。
「もう、寝る時は気を付けなさいって言ってるでしょう?どんなに暑くても、ある程度着ておく! 布団もすぐ掛けられるようにもう一つ置いておく!」
「うぅ……ごめんなさい……」
返す言葉も無い。季節が安定しないこの世界では、無防備な夜が一番危険なのに。
「過去には同じように、夏から冬の流れで亡くなる事もあったそうよ。風邪だけで済んで良かった……」
きゅっと抱きしめてくれる。少し泣きそうになった。グッと堪えて気になっている事を尋ねる。
「ねぇ、偶然遊びに来たの?それともわざわざ……?」
「後者よ。ニック君が知らせてくれたの。彼がお店に遊びに寄ったら店長さんから寝込んでるって聞いて、慌てて飛んで来てくれた。元気になったらちゃんとお礼言うのよ?」
やっぱりニックか。悔しいけど感謝しかない。今度おまけで何か付けよう。
「ありがとう、お母さん……」
「うん、顔見て安心した。やっぱり、会える時に会っておかないとね! 丁度良い機会だったのよ」
ポンポンと頭を撫でてくれる。私の方も、もう少し家に帰る機会を増やそうと思った。
「じゃあ、店長さんにもきちんとご挨拶したいし、少し離れるわね。また来るから休んでてて」
「私の方はもう大丈夫だよ。家の事もあるだろうし、風邪も移しちゃいけないから」
「そんな事気にしないの! こう言う時は甘えるものなんだから」
もう。元気が出てきたのは本当なのに。でも、ここは素直に甘える事にする。お母さんにこくんと頷いた。
「あれ、そう言えばニックは? どうせお仕事抜けてお母さん呼びに行ってくれたのなら、ついでにちょこっとくらい顔見せてくれれば良いのに」
ピタッとお母さんの動きが止まる。
「……はぁ。ごめんね、ニック君。この無自覚おバカは……」
「?」
「あなた、間違ってもニック君に同じ事、言っちゃダメよ?」
「??」
何か変な事を言ったのかな?しばらく考えてみたけど、結論は出なかった。
次回予告
「うわぁ~ん、返してぇ~!」




