第三羽:苦労の先に
働くと言うこと
遠い昔に季節の周期が乱れてからと言うもの、当時の人達がまず困ったのが作物でした。
気温が安定しないので本来なら育つはずの時期に成長せず、枯れてしまう事も珍しくなかったと本には記してあった。
「で、今日は何を買うんだ?野菜ってだけは聞いたけど」
隣を歩くのは幼なじみのニック。ひと言で言えば荷物持ちです。
「お店で使うやつを色々だよ。ありがとうね。いつもは台車押して行くんだけど、この前雪が積もった日に屋根からの落雪が直撃して大破しちゃって」
「危ねぇなぁ……お前や爺さん、婆さんじゃ無かっただけ良いけどさ。そう言う日は注意しろよ?」
「うん、ありがと」
今は秋です。四季の中でも春と並んで過ごしやすい季節。
そんな今日は二人で買い出しに。一番の近場で野菜を育てているグラウさんの畑まで向かっているところ。
普段はグラウさんがレスト・パーチまで来てくれる事が多いけど、時々こうやって店員とお客さんが入れ替わるのも何だか楽しいかな。
小一時間ほど歩くとグラウさんの畑が見えて来る。畑と言っても眼前に広がるのは大きな建物だけど。全部で三棟になる。
丁度その内の一カ所から人が出てくるところで、相手もこちらに気付いて手を振ってくれた。
「待ってたよ、お二人さん」
「おはようございます、グラウさん。今日もよろしくお願いしますね」
店長からの控えを渡す。グラウさんはさっと目を通すとニコリと笑った。
「うん。今日は全部揃いそうだ。ニック、お前も手伝えよ?」
「うぇっ!?マジかよ?ただでさえ無償で荷物持ちに来てんのに?」
「つべこべ言うな。さぁ、こっちだよ」
建物に入ると全体に畑が広がる。そう。この建物は畑にすっぽり被さるように建てられいるんです。野菜が育つ気温を保つためにこうなったと、以前来た時に教えてもらった。
「いつ見てもすげぇな。つか暑い」
「ここは夏野菜が主だからな。じゃあ手分けして集めよう」
かつて野菜が育たなくなったとき、昔の人達は知恵や力を出し合いどうにか切り抜けるべく奮闘しました。最終的に外気を避けて建物内で温度を管理する事である程度の危機を乗り切ったらしい。
でも、あくまで再現できるのは気温だけだ。二人の目を盗んで小瓶のシキミドリを覗いて見たけど、示す季節はやはり秋のまま。
当時の人達はどんなに苦労したことだろう。なんとなく気になり作業の後、休憩時間にグラウさんにその話を聞いてみた。
グラウさんは少し遠くを見つめ語ってくれる。
「実際にやってみると、気温を一定に保つのも楽じゃないさ。太陽の光も天井の窓からしか入ってこない。費用も手間も掛かるがそれでも育たない時もあるんだ。でも誰かがやらないと皆が困る。まぁ、今はこうして先人が残してくれた物があるからマシな方だ。一から造った人達の苦労は計り知れんよ」
バンッとニックの背を叩く。
「ま、季節が関係無くなったおかげで、年中どんな野菜も育てるようになった。良いこともあるのさ。ただな、今の生活は様々な人達の努力の上に成り立っているんだよ。それを忘れるなよ?」
帰り道。二人で並んで歩く。
「……大変だよな。やっぱ。誰かがやらないと、って言ってもわざわざやろうとは思えねよ」
「やれる人に任せれば良いんだよ。おじいさんもよく言ってるよ?適材適所。私達はきちんとその苦労や思いに感謝して、大事にいただくことで恩返しするしかないよ」
「……だな」
私も、おそらくニックも、野菜の入った籠を大事に抱え直した。
次回予告
「あぁ、これはダメなやつだ」




