第二羽:密かな楽しみ
憩いの場でのひととき
お昼頃。今日は天気も良く季節も春と外出しやすいおかげか、店内はお客さんで賑わっています。
注文のサンドイッチを作っているとまたカランとベルが鳴り、顔を上げると見慣れた人物が……
「……ニック」
「おす。元気か?看板娘さん」
赤茶色のツンツン頭が特徴のニック。幼なじみだ。頼んでもいないのに時々やって来る。別にいいのに。
お店に入ると当然のように目の前のカウンター席に座る。
「いらっしゃいませ。……もう、わざわざ様子見に来なくていいよ。家にはちゃんと手紙出してるし」
「そのおじさんとおばさんに聞かれるんだよ。それに、ちゃんと売り上げに貢献してんだろ。あ、コーヒーね」
「はいはい。貢献って言ってもその一杯で居座るくせに。ちょっと待ってて」
サンドイッチを盛り付けて渡す。
「はい。真ん中の席にお願い」
「いや、客に手伝わせんなよ」
「その間に煎れるから。お代もサービス」
「しかもお前が煎れるのかよ」
失礼な……。周りのお客さんもクスクス笑い始めているし。
「お前料理はそこそこ出来るのにコーヒーだけはイマイチだよな。ちゃんと練習してんのか?」
「うるさい。次なんか言ったら砂糖抜くよ」
「もともと入れねぇよ」
「うるさい。ミルク抜くよ」
「ただのブラックコーヒーじゃん」
「うるさい。コーヒー抜くよ」
「ただのお湯!?……ったく」
渋々と運んで行く。頑張ってるのに余計な事を言った罰です。店長のが特別美味しいから基準が跳ね上がってるだけなのに。
機材を準備し、豆を挽こうと容れ物に手を伸ばす。そこで残りが少ない事を思い出した。今日はお客さんも多く、よく出たので減りが早い。補充用の豆は上の戸棚に入っている。
「取ってやろか?危ないぞ、ちびっ子」
戻ってきたニックが言う。以前170はあると言っていた。確かにニックからすれば小さいかもだけど、私だって155はある!
「いいよ。お客さんに手伝わせるな、でしょ?」
「そりゃそうだけど……」
台に乗り棚を開ける。豆は……あった。取ろうと手を伸ばす。
が、そこでガクンと体が下がる。手を伸ばす時に足に力が入ってしまい、勢いで台がずれてしまった。
「ひゃぁ!」
「っおい!!!」
何とかとっさに棚の淵に掴まる。ずれた台にかろうじて乗る爪先と棚に掛かった手で持ちこたえる。お客さんもザワついているのが分かるが、それどころではない。
「だから言ったじゃんかよ!ったく」
ニックが作業場に周り、台を……
「ひゃぁああ!?」
台を押して戻してくれるのかと思ったらそうでは無かった。急にふわりと抱えられてしまった。
「ちょっと!何?離して、離して!」
「お前なぁ、言う事あんだろ?」
「言います!言うからとにかく下ろして!」
恥ずかしい。今は何より恥ずかしいのです。
「ほら、気をつけろよ?」
ストンと、ようやく地に足が着く。ふぅと一息つく。
「はい、言う事は?」
「ニックの変態」
「おいこら」
「すみませんでした。ありがとうございます」
「よろしい」
むぅ、何も抱えなくても……。
ふと、お客さん達を見る。何やらそわそわしている。
「お騒がせしました。……えっと、どうかしました?」
すると誰からともなく
「いや~いいねぇ~」
「若いって良いね~」
そんな声が聞こえる。
「ニック、分かる?」
「……お前さ、鈍感すぎ」
「?」
お客さんの間では私とニックのやり取りが「微笑ましい」と、隠れた名物になっていると言うことを知るのはまだ先の話だ。
次回予告
「今の生活は様々な人達の努力の上に成り立っているんだよ」