第二十羽:いくつもの再会
サクラから語られるリタナシアの居場所とは
「実は、話があるとかであなたの家に向かってる」
……もう、どうして……どうして……
「どうして最初がここじゃないのぉ!?」
私は部屋を飛び出した。すぐに馬車が出てくれても家に着くのは20~30分後。それまで滞在していてくれるだろうか?
おじいさんとおばあさんへの説明は後だ。優先するのはリタに会って、ここへ連れてくること。
「おじいさんとおばあさんが一番会いたいと思ってるんだよ、リタ……!」
その日、初めて仕事を投げ出した。ごめんなさい。後できちんと謝ろう。
まずは移動手段だ。馬車乗り場へ急ぐ。
「おい、どうした? そんな慌てて?」
走っていると声をかけられる。ニックだった。たぶんお昼ご飯を食べにお店へ向かっていたのだろう。
「良かった! ニックも一緒に来て!」
ニックは一瞬口を開きかけたけれど、こちらの様子から何かを察してか、何も言わずに頷いてくれた。
走りながらこれまでの経緯を説明する。
「あんの野郎、そんな事になってたのかよ。つうかお前の親に用事って何だ? それともお前にか? お前が家に居ると思って向かったのか?」
「分かんないよぉ。とにかく、またどこかに行っちゃう前に会わないと」
このまま帰らずに旅立つ事は無いと思うけど。その可能性も否定は出来ない。
馬車乗り場へ着くと待機している車を探す。そこで見覚えのある人物を見掛けた。
「あれ? あなたは……」
以前、早朝にお店を訪れたと思ったら、突然いなくなった謎の人。
「あ、君は……この前は、その……悪かったね」
何て偶然だろう。元気そうで良かった。
「運転手をされてたんですね。突然帰られたので心配してました」
「あぁ、グラウさんの畑を手伝いながら、空いている時間にね。家族のために、また頑張ると決めたから……君のおかげさ」
「?」
何かしただろうか?
「で、どこかへ? 君なら喜んで走らせてもらうよ」
ニックと顔を見合わせる。二人同時に頭を下げた。
「よろしくお願いします!」
馬車に揺られて20分。無事に家へと辿り着いた。まだ居るだろうか。
「なぁ、今更だけど、店で待ってりゃ良かったんじゃないか?さすがに帰らないでまた旅に出ることはないだろう」
「うん。私も考えたよ。でも、保証は無いからね……行こう」
勢いよくドアを開ける。
「ただいま、お母さん、お父さん! リタ、来てない?」
「あ、お帰り、メグル。久しぶりだね~。ニックも一緒か」
お父さん、久しぶりだ。
「待ってるよ。お行き」
「うん、ありがとう」
奥へ向かう。居間へ踏み込むと……
「やぁ、メグル。お帰り。いや、ただいまかな?」
私は抱き付くように突進。ニックの方は完全に顔面に拳が入っていた。
リタは思いっ切り吹っ飛んだ。
「何でおじいさんとおばあさんに真っ先に会いに行かないのぉ!?」
「お前、厄介事に首突っ込み過ぎなんだよ!心配する奴も居るんだぞ!」
リタはよろよろと起きあがる。
「くっ、手厳しい……2年ぶりなのに、会って数秒で拳や罵声が飛んでくるなんて、誰が予想できよう……もっと感動的な再会を期待していたんだけどね……」
「まだ余裕ありそうだな。もう一発いっとくか?」
「待ってニック。顔は辞めてあげて」
「顔以外なら良いんだ? 落ち着こう、二人とも!」
私とニックは馬車までリタを運んだ。
「じゃあ、お父さん、お母さん、また。今度帰ってきたらゆっくり話そうね」
「もう。二人とも、リタナシアの話も聞いてあげなさいよ?」
「ニック、今日の夜、帰って来たら寄りなさい。どうなったか教えておくれ」
二人は手を振って見送る。ごめんなさい、もっとちゃんと話したかったな……
馬車は私達三人を乗せて揺れる。
「それで、2年も音沙汰無しかと思ったら、爺さんと婆さんにも会わずに、なに知り合いん家でくつろいでんだよ。ご説明願えますかね、リタさんよぉ」
「いや、ちょろっと寄ってすぐ合流するりつもりだったんだ。申し訳ない。ただ、お店は人が多い。ここで時間を潰して閉店後にゆっくり再会するのも悪く無いかと思って」
リタはそっと頭を撫でた。優しく。優しく。
「すまない。私はいつも自分の都合を優先してしまう。心配をかけたね……」
「うん……心配した。みんなも心配してる。でも、おじいさんとおばあさんの心配は比べものにならないと思う。早く会ってあげてね」
「あぁ、分かった」
ようやく実感が湧いてきた。ニックも少しそわそわしている。きっと同じ気持ちだろう。
「リタ、……お帰りなさい」
「まぁ、お帰り……」
二人でさっきは言えなかった言葉を贈る。
リタは笑顔で応えた。
「改めて、ただいま!」
次回予告
「私にはやりたいこと、やらなきゃいけないことがあるの……!」
※完結まで固定となります
完結まで4話




