第一羽:ようこそ、レスト・パーチへ
町の人々が集う憩いの場
ーーようこそ
ここは町の軽食屋、「レスト・パーチ」
木造の二階建て、店舗と住居が一体となった造りで、私が住み込みでお世話になっているお店。
ログハウスを想わせる落ち着いた店内はお客さんにも評判が良く、常連のおじさんから仕事の合間の休憩にお茶を飲みに来る人もいたり、旅人さんもときどき立ち寄って外のお話を聞かせてくれたりと、来る人は様々です。
家主のお爺さんの煎れるコーヒーはそれだけを目当てに来る人もいるくらいで、私も頑張って煎れてみるけど、お客さんいわく「まだまだ」だそう。
でも、皆が立ち寄ってくれる理由は他にもあって……
今日は朝から冬。しばらく春と夏が続いていたので寒さが余計に堪える。お客さんも少ないので今のうちに薪をもうちょっと運んでおこうと考えていると、カランとベルが鳴りドアが開かれた。
すっかり染みついた習慣で出迎える。
「いらっしゃいませ! あ、カームさん、いらっしゃい」
カームさん。雑貨店を営んでいて、ここにもよく来てくれるお得意さまです。
「やぁ、メグルちゃん。今から隣町に仕入れに行きたいんだが、どんな感じかな?」
「今日、久しぶりに冷えるもんね。ちょっと待って下さい……」
私はカウンターに置かれたそれを確認する。鳥を形取ったランプに入れられた耀く羽。
シキミドリ
「うん、まだ変わる様子は無いみたい。吹雪くことはないと思うけど、しばらくは寒いままかなぁ」
青く輝いているシキミドリをカームさんに見せてみる。カームさんは少し残念そうに笑った。
「そうか、そうか。はは、暖かくなるんだったら出発を遅らせようと思ったんだがね」
「ごめんなさい。代わりに行ければいいんだけど……今、私しか居なくて」
「いや、気にしないでおくれよ。じゃあ、帰ったらコーヒーを頂きに来るから、じいさんによろしく言っておいておくれ」
そう言い、手を振るカームさんを見送る。このお店にはカームさんのようにシキミドリを求めて来るお客さんも少なくない。
研究や調査が進んでシキミドリの複製に成功したのがほんの数十年前。それでも量産化にはほど遠く、出回っているシキミドリの殆どは高値で取り引きされている。自然とシキミドリのある場所には人が集まるのだ。
そうこうしているとお店の奥から物音がする。ほどなく店長がお店の方へやって来た。まずお客さんに挨拶をしてこちらに向かう。
「ただいま、メグル。婆さんもじきに来るから少し休んでおいで」
「お帰りなさい。じゃあ、ちょっと部屋に戻るね。あ、今ちょうどカームさん来てたんだ。お爺……店長によろしくって。仕入れから帰ったら寄ってくれるそうだよ」
「カームが?普段なら出掛ける前にコーヒーの一杯でも飲んで行くんだけどね。急いでたのかねぇ?」
そう言えば、店長が要る時にはいつもそうだった。
「……」
「……」
沈黙がすべてを物語っている。お客さんまでクスクス笑い出す始末。
「もう……そんなにコーヒー煎れるの下手ですか?」
自分ではそこそこ上達したと思っていたのでやはりショックです……
「正直、店長のコーヒーが上手すぎるからね」
「店長と比べたらかわいそうだよ!」
むぅ、お客さんの優しさが逆につらい。頑張るもん。
店長とお客さんに挨拶を済ませて二階の自室に入り、とりあえずベッドに身を投げる。立ち仕事は足にくる。今度イスでも置かせてもらおうかな?
仰向けになり首から下げたチェーンを服の中から引き出す。その先には小瓶が付いている。中に入っているのは……
「……綺麗だなぁ」
お店の物と比べ小さいながら、耀く羽が確かに入っている。知っているのはお店のお爺さん、お婆さん、そしてあの人だけ。
私のシキミドリ。私だけのシキミドリ。
大事に、大事に、ぎゅっと握りしめた……
次回予告
「だから言ったじゃんかよ!」